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「姉が死んだ日、私はやっと本当のことを知った」

「姉が死んだ日、私はやっと本当のことを知った」

作者: Yolu大臣
掲載日:2026/04/30

はじめまして。

今回が初投稿になります。


短めの連載作品になります。

少しずつ更新していく予定ですので、最後まで見届けていただけたら嬉しいです。


よろしくお願いします。

姉が死んだ日、私は泣かなかった。


広場には人が集まり、処刑の瞬間を見届けようとしていた。

誰もが当然の結末だと信じて疑わない空気だった。


「やっとか」「当然だろう」

そんな声があちこちから聞こえる。


私も、その中の一人だった。


姉は昔から、周囲とうまくやれない人だった。

必要以上に厳しくて、言葉はいつも刺々しい。

家の使用人ですら、彼女を恐れていたくらいだ。


優しくされた記憶は、ほとんどない。


だから、こうなることも不思議ではないと思っていた。


処刑台に立つ姉は、最後まで何も言わなかった。

弁明も、否定も、怒りすら見せない。


ただ静かに、前を見ていた。


その姿に、ほんの少しだけ違和感を覚えたのは事実だ。

けれど、その感情に名前をつける前に、すべては終わった。


刃が落ち、歓声が上がる。


それでも私は、やはり泣かなかった。


 


屋敷に戻ると、いつもより静かだった。

当たり前だ。あの人がいなくなったのだから。


「お嬢様、お疲れでしょう。お休みになりますか」


侍女が気遣うように声をかけてくる。


「……いいえ。少し、姉の部屋を見てくる」


自分でも理由は分からなかった。

ただ、あの違和感が頭から離れなかった。


 


姉の部屋は、驚くほど整っていた。


もともと几帳面な人ではあったけれど、それにしても整いすぎている。

生活の気配がほとんど感じられない。


机の上には何もなく、本棚の本もきっちり並んでいる。

まるで、最初から誰も住んでいなかったかのようだ。


「……こんな部屋だったかしら」


思わず呟く。


そのとき、机の引き出しがわずかに開いていることに気づいた。


 


中にあったのは、一冊の古びたノートだった。


特別な装丁でもない、どこにでもあるもの。

けれど、それだけがこの部屋で唯一“使われていた”痕跡に見えた。


ページをめくる。


そこにあったのは、姉の字だった。


 


『今日も、うまく話せなかった』


 


一瞬、意味が分からなかった。


あの姉が、“話せなかった”?


 


『本当はありがとうと言いたかったのに、言い方が分からない』


『強く言えば、距離を保てるから』


 


胸の奥が、ざわついた。


さらにページをめくる。


 


『あの子は今日も笑っていた』


『私を見ると少しだけ表情が変わる』


『嫌われているのは分かっている』


 


“あの子”が誰を指しているのか、考えるまでもなかった。


 


『でも、それでいい』


『巻き込まないためには、それが一番安全だから』


 


意味が分からない。


いや、分かりたくなかった。


 


ページをめくる手が止まらない。


 


『王宮の動きがきな臭い』


『標的は私でいい』


『あの子だけは関わらせない』


 


息が詰まる。


 


『証拠は作られている』


『でも、ここで否定すると広がる』


『私一人で終わらせる』


 


視界が揺れた。


 


「……どういうこと」


 


声がかすれる。


 


『あの子は、何も知らないままでいい』


『嫌われていた方が、守りやすい』


 


指先が震えた。


 


記憶が、ひとつずつ蘇る。


 


冷たくされたこと。

突き放されたこと。

目も合わせてもらえなかったこと。


 


――あれは全部、“距離を取るため”だったのか。


 


最後のページをめくる。


 


『これで終わる』


『全部、私が引き受ける』


 


そして、少しだけ間を空けて。


 


『どうか、幸せに』


 


 


ノートを閉じたとき、初めて涙が落ちた。


 


遅すぎた。


 


全部、遅すぎた。


 


 


あの人は、何も言わなかったんじゃない。


言えなかったんだ。


 


私に、届かないように。


 


 


その夜、私は王宮へ向かった。


 


「確認したいことがあります」


 


王子は、面倒そうにこちらを見た。


 


「姉の件か。今さら蒸し返す気か?」


 


「証拠は、誰が出したものですか」


 


わずかな沈黙。


 


「複数の証言と物証だ。問題はない」


 


「姉は、何か言いましたか」


 


その問いに、王子は目を細めた。


 


「……何も言わなかった」


 


やはり。


 


「否定も?」


「ああ」


 


それが答えだった。


 


 


「……あの人は、全部知っていたんです」


 


自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。


 


「何をだ」


 


「自分がどう見られているかも、何が起きているかも」


 


そして。


 


「それでも、何も言わなかった」


 


 


王子は何も返さなかった。


 


 


屋敷に戻り、私は再びノートを開いた。


 


最後のページの余白に、ペンを走らせる。


 


『ごめんなさい』


 


それしか書けなかった。


 


 


姉はもういない。


 


でも、残されたものはあった。


 


 


それを無かったことにしないために。


 


私は明日も、同じ言葉を繰り返す。


 


 


姉は、あんな人じゃなかったと。


 


 


信じてもらえなくてもいい。


 


それでも、言い続ける。


 


 


それがきっと、私にできる唯一のことだから。


 


 


(完)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


この作品は「気づいたときにはもう遅いこと」をテーマに書きました。

少しでも何か感じていただけたなら嬉しいです。


初投稿なので、感想や評価をいただけるととても励みになります。

今後も書いていく予定ですので、よければまた読みに来てください。

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