[最終話]追放されたはずの私が、選んだ場所
最終話となります。
朝の光が、静かに差し込んでいた。
辺境の朝は、相変わらず音が少ない。
遠くで鳥が鳴き、風が木々を揺らす。それだけだ。
リリアは窓辺に立ち、外を眺めていた。
昨夜の出来事が、まだ胸の奥に残っている。
――君の居場所は、ここだ。私の隣だ。
思い出すたびに、心臓が少し早く打つ。
だが、不安はなかった。
逃げなかった。
受け取ることを、選んだ。
それだけで、世界の見え方が少し変わった気がする。
「……考えすぎですね」
小さく呟き、部屋を出る。
食堂へ向かう途中、足音が重なった。
振り返ると、カイエルが立っている。
「早いな」
「そちらこそ」
短いやり取り。
だが、昨日までとは空気が違う。
どこか、互いに踏み込む距離を探っているような、
それでいて、もう一歩引くつもりはないような。
「朝食を」
「ええ」
並んで歩く。
肩が触れそうで触れない距離。
それだけで、胸が落ち着いた。
食堂には、いつも通りの朝食が用意されていた。
特別なものはない。
だが、今のリリアには、それが何より心地よい。
席に着いたとき、カイエルが口を開いた。
「王都から、正式な返書が来るだろう」
「……はい」
「圧は、続く」
淡々とした声。
「それでも、ここにいるか」
問いは、試すものではなかった。
確認だ。
リリアは、迷わず頷いた。
「います」
短く、はっきりと。
「私は、ここを選びました」
彼は、少しだけ目を細めた。
「ならば、私は守る」
「……ありがとうございます」
「礼は要らない」
昨夜と同じ言葉。
だが、今は違う意味を持っている。
守られるだけではない。
共に立つ、という意味だ。
朝食の後、二人は庭へ出た。
陽は高く、空は澄んでいる。
「これからのことだが」
カイエルが言う。
「君を、客人として扱うつもりはない」
胸が、少し跳ねた。
「正式な地位を用意する。
私の補佐として、領地運営に関わってほしい」
「……それは」
「拒否もできる」
彼は、きっぱりと言った。
「君の選択を、尊重する」
リリアは、一度立ち止まった。
――選ぶ。
王都では、選ばされてきた。
役割を。立場を。期待を。
だが今は違う。
「……引き受けます」
ゆっくりと、だが確かな声で答えた。
「私は、この地で生きると決めました。
なら、責任も引き受けます」
カイエルは、何も言わなかった。
ただ、深く頷いた。
それが、何よりの承認だった。
その日の午後、王都からの返書が届いた。
名誉回復を餌にした、最後の打診。
リリアは、それを静かに閉じた。
「……もう、戻る場所はありません」
「違う」
カイエルが言う。
「戻る必要がないだけだ」
その言葉に、胸がすっと軽くなる。
夕暮れ、屋敷の廊下を歩く。
窓の外、辺境の地に灯りがともり始める。
ここで暮らす人々の、確かな生活の光。
「……私、幸せです」
不意に、そう口にしていた。
カイエルが足を止める。
「そうか」
短い言葉。
だが、その声は柔らかい。
「私は、あなたに幸せにしてもらうつもりはありません」
リリアは続けた。
「でも――」
一歩、近づく。
「あなたと一緒に、幸せでいようと思います」
沈黙。
それから、彼はほんのわずかに笑った。
「……難しい提案だ」
「はい」
「だが、悪くない」
差し出された手を、リリアは取った。
強くもなく、弱くもない。
だが、離すつもりのない温度。
かつて、追放されたと思っていた。
すべてを失ったと思っていた。
けれど、違った。
選ばれなかった場所を去り、
選ばれる場所を“自分で選んだ”。
それだけのことだった。
夜が、静かに降りてくる。
辺境の空の下、
追放されたはずの令嬢は、確かな居場所に立っていた。
そしてこれからも――
誰かに決められるのではなく、
自分で選び続けていく。
その隣には、
氷の公爵と呼ばれた男が、当たり前のように立っていた。
物語は、ここで終わる。
けれど、二人の未来は、
まだ始まったばかりだった。
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