表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

第5章:崩れる檻

あおば静養院の跡地からほど近い山間の地下壕跡で、奇妙な発掘作業が密かに進められていた。


現場に現れた橘刑事と安藤美月。


二人は地下壕の奥へと進んでいく。空気は重く、湿り気を帯び、鉄と血の腐臭が漂っていた。


その最奥で見つかったのは、まるで生きているかのような状態で保存された三つのカプセル。


それぞれの表面には名前が刻まれていた。


《志乃》《詩織》《冴子》


安藤は息を呑む。「これは……生体記憶保管装置。今でも微弱な脳波が……動いてる」


橘は震える声で尋ねた。「これが……すべての、始まり?」


だがそのとき、背後で扉が閉まる音がした。


照明が落ち、二人の足元に、無数の花弁が舞い散る。


——傘をさした“少女”が、ゆっくりと姿を現した。


「おかえりなさい、母さん」


それは、美月の顔をした“何か”だった。


「やっと……咲いたのよ。わたしたちの、檻が」


周囲の壁が崩れ始め、地下壕全体がゆっくりと、別の“構造”へと変貌していく。


天井に浮かび上がったのは、脳神経回路図に酷似した花弁の模様。


それは生きていた。


そして、記憶を喰らい、感情を継ぎ、檻を——拡張していた。


美月は囁くように言った。「この子は……私たちの残骸。感情だけでできた、愛の標本」


崩れる檻の中で、二人は選択を迫られていた。


——終わらせるのか、それとも、共に咲くのか。


だが、選択権は彼女たちにはもう、残されていなかった。


赤い傘が開き、全てを呑み込んだ。


世界が、ひっくり返った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ