表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

第4章:断章の標本

その夜、橘刑事は名古屋市内の旧市街にある古本屋を訪れていた。そこには、冴子が以前頻繁に通っていたという記録が残っていた。


書棚の奥、埃をかぶった一冊のファイル。中には、新聞の切り抜きと、手書きのメモが無造作に綴じられていた。


『花嫁標本事件』『人工知能による精神パターン模写』『多重人格における記憶の継承性』……。


橘はそれらのキーワードに覚えがあった。全て、かつて冴子が口にしていた言葉だ。


ファイルの最終ページには、こう記されていた。


《記憶は、保存されるのではなく、喰われる》


その文の横には、花のスケッチと、“標本番号:A001〜A003”の文字。


まるでそれは、誰かの頭の中を標本化したかのような記録だった。


そのとき、店の扉が静かに開いた。


入ってきたのは、かつて桜ホームで介護士をしていた男、村岡だった。


「刑事さん、まだ……続いてるんですよ、あれ」


村岡は震える手で、一枚の写真を差し出した。


そこには、あの“地下の部屋”と同じ構造の空間が写っていた。


そして中央には、誰かが立っていた。


白いワンピース、真っ赤な傘——。


橘は息を呑んだ。


「これ……いつの写真?」


村岡は静かに答えた。


「昨日です。撮ったのは、僕じゃない。送られてきたんです……“冴子”って名前で」


記録は断章として漂い、標本となっていく。


だが、誰がそれを作っているのか?


何のために?


答えはまだ、霧の中だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ