14/14
エピローグ:桜の余韻
名古屋の街は、穏やかな春の陽射しに包まれていた。桜の花びらが風に舞い、まるで過ぎ去った季節の記憶をそっと語りかけるかのようだった。
桜ホームは静かに、しかし確実に再生の道を歩み始めていた。橘の姿はもうこの世にはなかったが、彼が残した記録と決断は、施設の未来を変えた。
美月は新たな名前を名乗り、過去の檻から解き放たれた者たちのために活動を始めていた。彼女の瞳には、再び花を咲かせるための強い意志が宿っていた。
そして遠く、黒衣の真柴涼子は静かに微笑んだ。彼女の胸の中には、まだ見ぬ“花”を咲かせるための種が隠されていることを、誰も知らなかった。
終わりはまた、始まりの序章に過ぎなかった。
——桜の香りが、風に乗って夜空へと消えていく。