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5月1日には雨が降る

作者: gaea
掲載日:2026/01/11


いつもは異世界転生系の駄作を連載で書いています。

恋愛系初めて書いたので、暖かい目で読んでください…。







「大丈夫だ。今、ここには俺がいる」



 いつか、聞いたことのあるセリフ。


 寂しがっていた私に、私の兄がかけた言葉だ。





 それをまさか、兄ではない人間が言うとは思わなかった。




 小さい頃の思い出が沸々と蘇る。

 ずっと泣いていた私に、声をかけ続ける私の兄。


 兄は、いつの間にか遠くなってしまったけど。


 晋太郎さん。

 皆が冷たい目で通り過ぎる中、唯一人私のために立ち向かってくれた、その人。


 転校した直後に、彼に会った時。

 私は彼の中に、一際輝くように見えた、その善性を。


 私は確かに、感じたのだ。









 ☆☆☆




 おはよう、俺は特段なんの取り柄もない、()()()()モブ男子高校生C。


 強いて名乗るならば、堺 善晴(さかい よしはる)だ。


 数少ない友人からは、『ヨッシー』や『さかいちゃん』などと呼ばれている。


 あだ名で読んでくれる友達がいるのも、悪くは無いと思う今日この頃だ。


 手首を掴んですこし伸び、身体をリフレッシュして、朝の準備を始める。



 メガネは家でも着ける派だ、家では着けない人もいるらしい。俺はベッドの上にあるメガネを取って着ける、

 朝はパン派だ、米だと昼に腹が空くから、焼いた食パンにマーガリンを塗って食べる。

 風呂は朝派だ、シャワーを浴びる。

 スキンケアはしない派だが、寝癖はなおす、社会の最低限のマナーだ。

 ちょうど一年前ぐらいからだが、朝の天気予報はニュースで見る派だ。ついでに星座占いも見れるから一挙両得ってやつだと思う。


 5月1日、今日は雨予報らしい。

 窓を見てみる。快晴だった。


 実際に晴れであったとしても、雨というのは聞いただけでテンションが下がってしまう。

 あまり学校に行く気力も起きない。


 しかし、どんなにくだらない物語であっても、頻出のモブたる“モブC”は必要不可欠だ。



 さて、朝にやる支度はこの程度。


 では、元気を出して誰もいない部屋に一言。




「“行ってきます!!”」





 そう言って、俺は学校に向かった。




 ☆☆☆







 クラスは2年E組。


 俺の席は窓際の前から2番目だ。


 窓側ではあったものの、俺に主人公席たる窓際最後尾に座る資格はなかった。



 しかし、このクラスにはちょうどいいことに主人公たるイケメンとヒロインが存在する。


 イケメンの方は昌原 晋太郎(まさはら しんたろう)

 高身長に加えて驚きのルックス、流行りの髪型が似合いサッカー部エースで運動神経バツグン。


 まさに主人公も張れるし、やろうと思えば女子を取っ替え引っ替えするクズも張れる設定をしてやがる。



 ヒロインの方は國方 静奈(くにきた せいな)

 物静かだが明らかに一線を画す美少女、美少女ガチャがあればSSR越え間違いなし、孤高の美女の癖にイケメンくんとはちょっとした会話をするという、明らかにヒロイン系だ。


 他にもヒロインはいるが、今隣の席なのは彼女だし、ちょっとした痴話喧嘩のような言い合いができる雰囲気が見えるから、もはや物語(ストーリー)も地道に進んでいるところだろう。


 二人とも、学級の中でも中心人物で、生徒会長とも仲が良いので、学校の中でも有数の影響力を持つ。



 ちなみに、しっかりと窓側最後尾には晋太郎が、そしてその右隣には静奈が配置されている。


 なんというご都合配置。席替えを仕切っていた担任の先生、グッジョブです。



 現状としては、クラスの男たちはもちろんそのヒロインである國方 静奈を狙っている人が多い。きっと女子も晋太郎を狙う人が多いだろう。


 しかし、互いが隣の席になったことで、諦めているやつも少数いる。



 そんな中、俺はヒロインを狙ってる側のモブだ。


 たまにアイツらの近くにいるモブ同志の集団に混ざって、『やっぱ國方さんカワイイ……』とか、『ワンチャン狙って告白とか行ってみようかな……』『バカやめとけ!』っていうくだりをしてみたりしている。




 うん、今日もちょっとしたことで言い合い始めたな。



 俺はあそこで言い合ってる奴らに『痴話喧嘩やめろよーっ!』って言うモブ同志に合わせて笑い声を上がる役だ。



 ほら、くるぞ……。



「ったく、やっぱりお前にはまだ《スペクタクルズ2.5》の良さがわからなかったみたいだな」


「……そもそも、あんな駄作にかまけてる暇があったらもっと勉強しなさい。そもそも、2.5ってなによもっと言い方あるでしょ」


「2.5は2.5に決まってるだろ!」



 よし、今だモブB!!



B「おーい痴話喧嘩聞こえてんぞー。砂糖振りまいてくんな!夫婦かよ!!」


晋&静「「誰が夫婦だ!?」」


A,B,C「「「はははははは!」」」


 決まった……!

 やはり俺の読みは正しかったな。

 今のは完全にモブCの動きだった。



 これこそ、俺のあるべき姿!

 やはり、モブはこうであるべきだな。



 満足したところで、これからの動きに思考を働かせる。


 モブとしては、チャイムが鳴るちょい前ぐらいで空気を読んで席に戻りたいが、最近はずっとそのパターンで少しマンネリ化している。

 ならば、今回はちょっと早めに授業準備をするか。



「…あ、俺ちょっと課題ヤバいんだった。授業準備してくるわ」


A「な、なぁ!?あ、あのヨッシーが……!?」

H「明日は槍でも降るのかな?」

C「相当に失礼な奴らだな?」

F「待てよ、もうちょっと猥談してこうぜ。ほら、お前の性癖言ってみろ」


A,C,H「「「お前だけは絶対におかしい」」」

F「なんだよ!俺とお前らの仲だろうが!!」



 モブとのちょっとした会話をいなしながら、俺は席に戻る。


 ちなみに、モブAやら、モブBやらと呼称しているが、名前を知らないわけでは無い。


 Aは華原 誠也(かはら せいや)、Bは宗三 三蔵(むねみつ さんぞう)、Hは上谷 政和(かみや まさかず)、Fは………なんでもいいや、変態だし。

 まぁこのように、モブどうし仲も良いし、名前もちゃんと覚えている。

 モブ視点であれば、俺や彼らのようなモブでも、ネームドキャラクターに成り上がるのだ。


 しかし、申し訳ないがやはりこの高校で生活して行くには彼らをモブと認識しておかなければダメだ。


 モブと認識しておきたいし、モブと認識してほしい、のだが………。





「おはよ、善晴く〜ん?」


 なぜかはわからないが、彼女……。



 ピンクの長髪なんてファンタジーじみた髪色に加え、落ち着きのある声、おっとりとした表情と、マイペースな口調。


 去年のこの時期ぐらいに転校してきた、晋太郎のヒロインの内の一人である七丗 百音(ななせ ももね)が。



 何故か、ほんっと〜に何故か。

 俺に付き纏ってくるのだ。


 考えられる理由は無くも無いが、だからと言ってこんなに詰められる理由もわからない。

 彼女は主人公たる晋太郎に好意を向けなければならない女性のハズだ。


「……おはよう」

「なんかつれなくなーい?もうちょっと学校でもさぁ、パーソナルスペースっていうかぁ……ね?」

「お断りですね」

「ちぇー、じゃあ今日はまだいっか。また話そーね?」



 そういって彼女は自分の席に座る。

 俺の隣に。

 まぁ、席が隣同士なのも俺が絡まれている理由の一つだろうか。



 転校してきた当初は色んな人に興味を持たれていたが、転校生が晋太郎に話しかけた時ぐらいから、みんな晋太郎に遠慮し始め、もう彼女とまともに話す人が数人程度になってしまった。


 悔しいことに、その数人に俺が入っているのだが。



 あー…思い出した、今日は()()の日だ。

 モブである俺にも外せない用事はある。

 しかしその用事は、自分の大切な趣味である代わりに、百音との縁が切れない原因でもある。


 今から放課後が楽しみであり憂鬱だわ……。





 ☆☆☆







 高校の授業中、モブはどうするのが基本か?


 まず前提として、「寝る」。これは論外だ。


 授業中に寝るのはNG、理由は先生から名指しされる可能性があるからだ。

 眠たい授業で、複数人寝ている場合ならばその限りでは無いが、授業中に寝るのはモブというよりラノベ主人公の方だろう。

 モブはモブらしく、ありきたりに、真面目に、授業を聞くのだ。


 あ、寝ようとしても百音がちょっかいかけてきて寝れないって理由もあるけどね。



 しかしやはり、“普遍的”、これ以上に素晴らしいことはない。


 俺はモブC、誰の目にも止まることのない、中途半端な脇役。


 たまたま名言を作り出してネットミームにされることもなく、周囲に同調して見過ごされる可哀想な奴。



 それがこの俺だ。





先「それじゃあ、この問題を……ったく、おい晋太郎、なに静奈にちょっかい出してんだ!この問題解けるのか?」


晋「ちょ、先生待ってくださいよ!静奈からやってきたんですって!!」


先「嘘つけ!静奈と晋太郎なら、晋太郎がやったに決まってるだろ!」


A,B,C「「「ギャハハハハハ!!」」」



B「晋太郎ぅお前先生からの信頼なさすぎだろ!」


D「おーいぃ!しっかり授業聞けって……ブフッ……」


晋「お前ら笑ってんじゃねえぇっ!!」


 モブB,Dは晋太郎の取り巻きだ。


 本編ではあまり触れられないが、普通のモブよりちょっと出番が多い立ち位置。



 しかし、ネームドキャラクターとして登場するほど、主人公と仲のいい友人ポジションにハマることができなかった奴らだ。


 奴らはモブの世界から飛び立ってネームドキャラクターになろうとし、諦めて、中途半端で満足してる奴ら。


 さすがに、俺があの立ち位置に行くことは避けたいな……。



 あの立ち位置は一歩間違えればネームドキャラクター行きだ。


 元モブからネームドキャラクターへ昇進する奴は、そこまで場面を掻き回さない。

 愛されキャラ的な立ち位置に収まったりすることもあるだろう。

 だが、やはり俺はまだモブでいたい。



 しかし、晋太郎と静奈の仲を良くするスパイスのような役割を果たす場合も多い。


 たとえば、他人がいるのに二人でイチャイチャして背徳感を得ている時とか、その『他人』の部分に、奴らが当てはまる時があるだろう。



 そういう点では、重要キャラと言っても過言では無いかもしれない。



「楽しそうだね?」


 百音が俺にそう言ってくる。

 授業中に話すのも目立つ。特にヒロインの一人と話すなんて、モブとしては愚の骨頂だ。

 少し雑になってでも、短めに済ませなければ。


「………まったくですよね。来年から受験だっていうのに、どうするんだろ……」

「アレ?昌原くん達の話してる?」

「え?」


 百音を見返す。



「私が楽しそうだと思ったのは、善晴の方だよ?」


 特に深い意味はないが、その言葉を聞いた時、百音の吸い寄せられるような瞳に釘付けになってしった。

 何か、全てを見通しているかのようなその眼に……。




「ったく……ほら始めるぞー」


 おっと、授業が再開するようなので、黒板に目を向ける。

 モブとして、百音の目を見続けるのもキモいだろうしな。

 別に、百音から目を外す体のいい理由を探していたわけでは………、無い。



 授業はしっかりと聞いておかなければ、クラスで勉強会イベントが発生した時、そこで頭が悪いと悪目立ちする。


 誰に教えられずとも大丈夫であり、また誰かに教えを乞われることもない程度の成績であれば、勉強会イベントでせいぜい話しかけてくるのは仲のいいモブ程度だ。


 もちろん、真面目に授業を聞きながら、主人公とヒロインの動向も見逃さないわけなのだが……。




 ん?お前、窓際前から2列目なのに、どうやって真後ろである窓際最後尾で起きてることを確認するのかって?


 ふふふ、実は、あまりモブらしい方法じゃないんだよね。

 だから、回答を控えさせていただくよ。








 ☆☆☆




 モブたるもの、休み時間だからと言って気を抜いて休んでは行けない。

 なんなら、物語(ストーリー)は休み時間にこそ進展する。


 つまり、モブは休み時間こそ仕事の時間なのだ。


 例えば、主人公がトイレに行く時、なんの関係もない教室にいきなり引き摺り込まれて女子と密会したりなど、ありがちなシチュエーションだ。


 ホラ、そんなこと言ってる間に晋太郎が視聴覚室に引き摺り込まれた!

 教室に居た生徒たちと照らし合わせて、あの腕の細さ、掌の大きさ、腕の出てくる位置と角度から考察される肩の位置、それに連動されて予測される身長、そして引き摺り込み方から察するに、あれは幼馴染枠の綾原(あやはら) (なぎ)だろう。


 ……実のところ、視聴覚室なんてなんのためにあるのか用途がまったく理解できない。

 これは世の高校生全員の意見であるだろう、多分。


 しかし、このようにラブコメのために存在しているのだとしたら、この場にあるのはまさに天命。


 こうしちゃいられない。

 こういった場面では、俺のようなモブが2〜3人で『こっから話し声聞こえね?』とかいって、その教室に入り、メインの二人組を教卓やロッカーの中に追いやるイベントがあるのだ

 それを実現するために、モブ数人を連れションに巻き込まなければならない。




 テキトーでいい、誰か!



「おい、A!F!一緒にトイレ行こうぜ!」


A,F「「……またか…………」」



C「あ?何がだよ」


F「お前のせいへ……癖でてるぞ」

C「今性癖って言おうとしただろ」



A「いや、和仁(かずひと)のスケベは置いておくとしてよ。またその人をアルファベットで呼ぶ癖が出てるんだって」


C「あ………」




 モブC、痛恨のミス!


 まさか、現実の方でアルファベット呼びするとは……。

 確か前もやらかしたよな。



C「ごめんごめん誠也、F。名前覚えてないわけじゃ無いんだよ」


A「普段何考えてたらそんな名前の間違いするんだって言いたくなるけどな…」


F「おい?俺は?西片 和仁(にしかた かずひと)って立派な名前があるんですが?」





C「………あー、ごめんごめん、かず……さ、いや。かずひ、と……さん?」


F「ガチで覚えてない感じ出すのやめて?悲しくなる」




 モブはモブなりに、お互いのことを認知し合っている。


 俺だけがわざと晋太郎たちに突っかかるようなことをしてることは、バレてないけどね。



 やはり今回のように、少々の疑問を持ちながらも、結局は俺に付き合ってくれるモブ友達も、なかなか捨てたものではないと感じる。


 そうこうしている間に、晋太郎密会中の視聴覚室の前に到着だ。


 到着もしたし、そろそろ、かな?



A「ん?ヨッシーどうした?」

C「いや、なんか視聴覚室から声が聞こえた気がしたからさ」

F「誰か密会でもしてんのかな?見てみよーぜ!」


 ガタガタガタ!



 ナイスだF!


 中の晋太郎たち、しっかり動揺して急いで隠れてやがる。



 こうすることで、密会での波乱イベントが起き、晋太郎とヒロインの接触を助けるわけだ。



 いやぁ、やはりモブとはこうでなくては!



 ……言っておくけど、別に晋太郎の邪魔をしたいと思っているわけじゃないぞ?


 ただ俺は、クラスの中心人物である晋太郎から、『何かしら特別なものがある人間』だと認知されたくないだけだ。

 その役割を担うのは、ネームドキャラだけで十分なのだから…。







 ☆☆☆





 今日はかなりモブとして働いたが、帰り道はさすがにモブ働きはしない。


 俺がモブの働きをしなくても、他の誰かがやる。



 主人公たる晋太郎は、そういう星のもとに生まれてきているので、必然的にそうなるさ。




 今日は雨予報だったのにも関わらず、帰りは太陽がギラッギラだ。

 つまり、せっかく用意してきた“相合傘で帰ってる最中に主人公がヒロインを車の水飛沫から守る”シチュエーションの、水飛沫を出すための自転車を使わなくなったのだ。


 別に、そのことで苛立っているからモブ働きをしてないわけじゃ無い。





 そう、なぜなら、今日は俺のモブのバイブルである、『モブリアン』のコミック14巻の発売日だからだ。



 ファンたる者、こういったものは発売日に買うべし。


 なんなら、お金が貯まり次第何冊も買い、原作者や漫画家、出版社に貢ぐべし。



 いや、さすがに布教相手がいないから3冊ぐらいしか買わないが。




 それにこう言ったものを買い、家に並べておくだけで、モブの部屋を演出することも可能だ。


 まぁ、それは意外な副産物だったのだが。




 ちなみに、俺のモブ趣味はA,F,Hにのみ話している。

 その3人はモブに熱意があるわけじゃ無いから『モブリアン』は“ちょっと知っている”程度だ。

 まぁ、モブ趣味に関してはワンチャン百音も気づいていそうだが……。



 かんかん照りの中、苛立ちを込めて自転車を漕ぎ、書店に行って漫画を買う。




 いやぁ、毎日忙しいラブコメ主人公には到底できないような時間の過ごし方だ。



 こういう時、自分のためにゆっくり時間を使えるから、モブっていいなぁ、と心から思う。






 ………しかし、“俺”という存在も、いつまでもモブでいられないのかもしれない。



 大きな原因は、百音の存在。




 俺はモブとして生きなければならない。

 ラノベ主人公のような窓側最後尾を取れる自称陰キャでもなければ、恋愛感情に無自覚であるのもいけないし、『親友が実は女子だった〜』とかいうイレギュラーな展開もいらない。



 俺が演じる、俺が主人公になってしまう物語は、つまらない物で十分だ。

 モブがモブらしく行動するだけ、それだけの物語の、何が面白いだろうか。

 特に面白くも無い日常譚を聞かされる身にもなれというものだ。


 普通の高校生であれば、転校生ヒロインである、あの百音と仲良くできることをありがたく思うのかもしれない。


 だが、俺にとっては、悪く言うと平穏を邪魔する障害だ。

 早めに縁を切りたいところだが………。



 そう物思いにふけっている間に、俺は書店に着いた。

 きっと今回も()()んだろうなぁ……。


 書店のガラス扉を開けると、そこには例の彼女……。


「あ、善晴くんやっときたよぉ〜。待ってたんだゾ☆」

「今回もこの書店か、もも………七丗さん」

「百音たん、って呼んでもいいっていつも言ってるのに」

「何度言われてもお断りだ」



 彼女もまた、『モブリアン』の読者だ。


 俺に『何読んでるの〜っ?』って聞いてきて、しょうがなく答えた時から、何故かこの書店で俺を待ち伏せするようになった。


 ちなみに、俺がお勧めするより前に彼女は読んでいた。

 もし俺がモブで無ければ、『モブリアン』関連で仲良くなっていただろう。


「ささ、早く『モブ戦記』を買おうじゃないかぁ」



 『モブ戦記』は、主にSNSで愛用されている『モブリアン』の略だ。

 俺はそんな略し方だと敬意が足りないと感じるからフルネーム呼びだが。


「わかった買う、買うから。で、今日もやっぱり…?」

「もちろん、一緒に私の家(ウチ)で読も?感想交流会だよ!」

「……わかった」



 気がついているかもしれないが、学校とは言葉遣いは変えている。


 ……実はコイツ、すんごく心が弱いから、少しでも拒むような態度を取ると半泣きになるのだ…。


 学校では許されているが、個人でこのように会ってしまった場合は「普通の友達」として接さなければ、それだけで拗ねる。


 ちょっと厳しく拒否したら半泣きになる。

 泣かれると、俺が『モブキャラ』から『ヒロインを泣かせた男』へとジョブチェンジする……。


 そんな立場になるよりかは、まだ百音と仲良くしてた方がマシだ。


 それに、モブとしてでは無いけど、親近感あるし。



 百音に連れられて会計を済ませる。

「……ねぇ、マジで俺行かないとダメ?」

「どうせ暇なんでしょ〜?部活も入ってないんだし。別にいいじゃん」

「………わかったよ」


 こうやって俺は、漫画の新刊が出るたびに百音の家へと連行されていくのだ……。






 ☆☆☆




 ヒロインの家に行くモブ。

 それは果たしてモブと呼べるのだろうか?


 否、と言う他ないだろう。



 ヒロインというのは、主人公(好きな人)がいる、格別に可愛い美少女の名だ。


 そこには甘酸っぱいストーリーと、それをさせるに足る読者の人気がなくてはならない。



 実際、仮の読者としてうちのクラスのモブを使うと、元々地味目の文学女子以外のヒロインはモブからの人気が高い。




 転校生ヒロイン百音、孤高のお姫様系ヒロイン静奈。


 他、ツンデレ系幼馴染ヒロイン綾原 凪(あやはら なぎ)、箱入りお嬢様系一目惚れヒロイン北条(ほうじょう) 紀見華(きみか)、文学系庇護欲ヒロイン四ノ宮(しのみや) 宜春(きはる)



 晋太郎周りはそんなもんだろう、今学年の女子はレベル高いって男子は口を揃えて言っている。



 そいつらが、何故“ヒロイン”足りえるのか。



 理由は、晋太郎と特段仲がいいのは前提として、性格、容姿、人気、そしてシチュエーション。


 それらが用意されているから、彼女たちはヒロイン足り得る。




 言ってしまえば、ラブコメはエンターテイメント。

 ほとんど、特定の人(晋太郎)への恋のみが許されたアイドルと遜色ない。


 


 そんな百音(ヒロイン)が、あろうことか晋太郎(主人公)以外を家に上げた。




 これは立派な裏切り行為であると共に、ヒロインの権利の剥奪にも繋がる。


 今からでも、俺はこの集会を終わらせなければいけないと、心からそう感じているが……。



「どうぞ?」

「…失礼します……っ」



 くっそ…、その上目遣いを使う相手は晋太郎だろうが!


 しかし、この感想交流会が開かれるたびに、どうしても迷ってしまう…。


 ここで拒否して『ヒロインを泣かせた男』にジョブチェンジするか、それとも、このままこの状況を受け入れて『主人公より先にヒロインの部屋に入った男』を続けるか……。


 どちらもモブとしての立場を捨てている時点で、俺はもう終わりな気がするのだが。



 しかし、その『立場』というのは『人からの見られ方』だ。

 つまり、モブとしてヒロインの部屋に入ったと誰にもバレなければ、俺はまだモブとしての活躍を続けることができるわけだ。


 それに、『モブリアン』を読んでいる人間が身近に少ないという理由から、この感想交流会は自分でも少しだけ楽しみにしている部分があるのだ。


 どのシーンは最高、どのシーンは共感できる、どのシーンは作画が最高、どのシーンはキャラが立ってる。

 そんな話ができるのが、寂しいことに百音以外に居ないのだ。


 僕が百音の家を訪ねる時、両親は必ず不在だ。

 曰く、忙しすぎて百音に家事全般を任せていて、両親は朝から晩までずっと仕事だそうだ。


 だからまぁ、親に遭遇することはないと言えるだろう。



「私の家に来るのももう慣れたもんだね」

「慣れたくないもんだけどな」

「ちょっと嬉しいくせに」


 百音に揶揄われながら部屋に着く。

 何回か見たことはあるが、人形がいくつか置いてあったりなど、如何にも女子の部屋という感じだ。


 そんな部屋を眺めるなどの行為には脇目も触れず、俺は一目散に地べたに座って、付近にあったテーブルに買ってきたものを置いてから早速漫画を読み始めた。


 そうでもしなければ、ヒロインとの接点が少しずつ増えてしまう。



「…ふーん」


 今日も、俺がすぐに漫画を読み始めたら百音が少し拗ねた気がするが、そう感じた時には最早、『モブリアン』の世界にのめり込んでいった…。






 ☆☆☆







 『モブリアン』を読んでいる最中、過去話のシーンの引用の場面を読んで、ふと思い出したことがあった。


 別に、そのシーンにまつわる話じゃない。

 厳密に言うならば、その引用したシーンが入っている過去話を掲載している漫画を買った時の話だ。



 それはちょうど一年ほど前…。

 高校に慣れてきたぐらいの頃の話だ。




 ☆☆☆



 俺はいつもの書店で『モブリアン』の新刊や、その他諸々の面白そうな本をチョイスして、蔵書が増えたことに胸を躍らせて自転車を漕いでいた。


 しかし、最近はあまり陰キャすぎるとラノベ主人公方面に行ってしまう。

 そのため、学校ではなるべくラノベを読まないようにしている。

 陰キャを主人公にしようとした作家を俺は許さないぞ、モブの範囲を狭めやがって。


 でも、家で読むのは別だ。陰キャに定義されない。

 学校でラノベを読むのはぼっちの現れだが、家でラノベを読むのは暇つぶし。



 いやはや、好きなタイミングで本を読めること、なんと素晴らしきことか。



 ネームドキャラであれば、イベントに引っ張りダコで忙しい週末を過ごしているだろう。

 しかし、モブというのはそういった行事は訪れない。


 比較的自由に、俺は休日を満喫できると言うわけだ。




 るんるんで帰り道を自転車で走っていると、視界の端に一瞬だけ、あまり気持ちの良く無いものが入って、そのまま俺の自転車は通り過ぎた。



 一瞬だけだが、見たところ、女子に絡む不良男3人と、それを振り解こうとする長いピンク髪の弱気な女子の構図だ。


 どうやら、女子の不注意で肩同士がぶつかり合った、という筋書き(いいわけ)のようだ。




 足元に落ちた不良男のスマホや溢れた飲みかけのジュースが、わざとらしいほどに『オレはぶつからました』という主張をしていてわかりやすい。


 それに対して女子の方は、自分に自信がなく、心が弱く、この場面でも「自分が悪いのかもしれない」という不安に駆られている。



 このままでは、あの気弱女子は不良男たちに言われるがまま、金を巻き上げられたり、性的暴行を受ける可能性もある。






 ………俺はモブだ。


 必要以上にストーリーを妨害するようなことはせず、ストーリーを円滑に進めるために相槌や合いの手を入れていく。

 俺はそんな存在だったはずだ。


 俺は、『晋太郎』という主人公に対しての、モブだ。

 そう、『晋太郎』視点のゲームであれば、俺は何度話しても同じ内容しか喋らない、ただの不要な存在。


 それに準じれば、彼女に手を差し延べるのは筋違い。


 それは、主人公がやることだ。

 あぁ、主人公がやるべきだ。

 今にも、晋太郎が出てきて、すぐにこの不祥事を解決してくれるはずだ……。




































 しかし、この場に『晋太郎』が出てくる確証なんて、ない。


 彼女がヒロイン足り得なければ、神も晋太郎を遣わせることもない。




 俺は学校の中で圧倒的主人公ポジションにいる『晋太郎』からの目線を重視して行動する。


 しかし、先ほども言ったように、モブAである誠也や、モブHである政和から見れば、俺はネームドキャラクター『堺 善晴』だ。


 そうだろ?俺はクラスで目立ちたくないから、クラスの重要人物達から『モブ』と認定されるように立ち振る舞ってきた。


 だから、あの場に『晋太郎』や、『晋太郎』に関わる何かが無いのであれば。





 俺は、モブであり続ける必要は、ない。



 なら、俺はこの場限りでは、モブからジョブチェンジしなければならない。


 一度通り過ぎたその道路をすぐにUターンし、すぐに自転車を止める。



 頭を軽く抑えて、俺は脳内で自身の役割(ロール)を書き換える。






【堺 善晴】

 対象、“か弱い女子”視点の役職。

 役職(ロール):《モブ》→《お助けキャラ》に、変更


 それに基づき、俺の言動、立ち振る舞いを改善。






 キャラには、そのキャラらしい立ち居振る舞いがある。

 モブ程度では、あんな不良の相手にならない。

 ならば、それらしいキャラでやってやろうじゃないか。


 学ランは少し着崩しておこう。

 メガネは外そう、どうせ伊達メガネだし。

 髪は手櫛ですこし整えようか、一応晋太郎風だ。



 準備ができた俺は止めた自転車を漕いで、不良男達の背後に止まる。


 そして、どこかで聞いたセリフを、語気を強めて発した。


「おい、その女に何しやがる。それ以上は黙っちゃいねぇぞ」




 ☆☆☆





 ……やってしまった。


 私のようなヲタク女子は、やっぱり家から出ずにネットで漫画を買えばよかったんだ。

 でも、店舗特典……。


 私の推しである、『モブリアン』の主人公、『キョショウ』様のポストカードが店舗で買わないと貰えないんだから、仕方ないのに……………。


 興奮しすぎて前を見なかったせいで、私みたいな人が一番関わっちゃいけないであろう、不良くさい男の人に絡まれるなんて……。




「おいおいおい、アンタよおぉ。俺が飲んでたジュース落としたスマホにかかっちゃったんだけどぉ?どーしてくれんのかなぁ!?」


「あーあマジギレwwあの子死ぬんじゃないの?ホテルでwwww」

「え、マジ?弘正(ひろまさ)陰キャイケる感じ?うっわぁ〜相入れねぇ〜」

「だぁーってろてめぇら、ガチで!スマホ水没してたらどーすんだよぉ!?」



 な、なんかすごい危険なこと後ろで言われてる気がする……。


 え、ふ、不良にお持ち帰……えっ?わたし、転校直前にこんな目に合うの……?




 周囲の人は……ダメだ、誰も見てない。


 と思った瞬間、自転車になった青年が、チラリとこっちを見た。


『た、助けて……っ!』


 声にならない、視線だけの悲鳴。

 視線だけであっても、必死に助けを求めているのは伝わったはずだ。





 しかし、その念は届かず、自転車に乗った青年は過ぎ去っていってしまった。

『……あぁ、誰も、私を……助けようとなんてしてくれなかった……。きっと、あの時みたいに………』




「おぉ〜い?さっきから何黙ってんの?責任取れって言ってんの!!」

「ひっ、ひぅ……」


 私は恐怖のあまり、脚の力が抜けてへたりこむ。

 「これが腰が抜けるってことなのかな」、なんて現実逃避もし始めた。



「うわぁ〜、弘正女子泣かしたぁ〜」

「この調子じゃ、ベッドの上だとギャン泣きじゃない?」

「ギャハハ、違いねぇ」

「おら、こっち来いよ。責任の取り方ってのを教えてやだからよぉ!」

「ま、まさかの野外プレイ!?」

「弘正パイセンさっすがぁ〜、ヒュ〜ヒュ〜!!」



「お兄ちゃぁん…、だっ、誰かぁ………」




 なんで、私がこんな扱いされなきゃいけないの?

 肩がぶつかっただけで?相手が悪かった?


 そう、これは相手と、自分が悪かったのだ。

 しょうがない、しょうがない、けど……。

 そうなんだけど、なんで、私が、こんな目に、合わなきゃ行けないの……。



 お兄ちゃん……、キョショウ様…、いや、誰でも、誰でもいい。

 誰か……私を救って……、こんなところで私……。


「助けて……」





「おい、その女に何しやがる」


 その言葉は、『モブ戦記』のコミックオリジナル回の第18話、7ページ目、上から2個目一番右のコマのセリフそのまんまで………。



「それ以上は黙っちゃいねぇぞ」


 私の心が、全てから救われた瞬間だった。






 ☆☆☆




 俺は自転車から降りて、真正面から不良男に相対する。


「あぁ?誰だぁてめぇ……誰に向かって指図してんだよぉ!!」



 女子にぶつかったリーダー格の不良は、その大柄な体を張って威圧してくる。

 そのような相手には、逆に喧嘩腰に突っかかっていく。

 でなければ、この男は図に乗るだろう。


「聞こえなかったのか?それ以上は黙っちゃいねぇっつったんだ」



「おいおいおぉ〜い。これから弘正クン、あの子とお楽しみの時間なんだよぉ、野外でww」

「空気読めよな、お前。ちょっとカッコつけちゃった感じか?かわいそ〜なやつ」



 さっきから怒ってた奴とは違い、取り巻き二人が前へと出てくる。


「俺を怒らす前にとっとと帰ったらぁ?今だったら見逃してやるからさぁ〜」

「俺らが白ける前に帰ってくんね?迷惑だからさ」



 不良たちは指の関節をゴキゴキ鳴らして近づいてくる。

 体格的にはほぼ一緒……な訳がない。


 さっきまでモブを演じてた身体だ、こっちの方が細いに決まってる。




 どうするべきか……女子が見てる前だから、暴力で解決はあまりよくないな。

 なら、取れる選択肢は多分一つ、『理責め』だ。



「アンタら、分かってんのか?ここは人目につくし、俺はいつでも警察に通報する準備ができてる」


「うっせぇ……なぁ!!」


 大柄男の腰の入った拳が頬にめり込む。

 ……もしかして、顔腫れるかなぁ。


 まぁでも、学校が始まる前に治ればいいか。



 にしても、その程度の拳じゃ俺は退かない。今はモブじゃなくてお助けキャラなんだから。




「先に殴ったな?これで俺は通報する理由が成立するぞ?どうだ?まだ続けるか?」



「………チッ、俺たちだって好きでこんなことやってるわけじゃねぇんだわ」


 そう言いながら不良は引き下がる。

 ここでメリットになるかわからない喧嘩をすることと、警察に補導されることのどちらのデメリットが大きいかが冷静にわかったようだ。



「スマホ、壊れてたら弁償してもらうからな」


「あっ、それは……はい、すみません………」


 主犯格の不良男が後ろでへたりこんでいる女子を睨みつけながら言うものだから、女子は萎縮してしまう。

 可哀想なので、片腕で女子を守るような仕草で制止する。




「……チッ」

「弘正、行くの?」

「あの女殴るのが予定な訳ねぇーだろ。本来の予定はもう済んでるから帰るだけだ」



 そういいながら、主犯格不良男が振り返って帰っていく。

 リザルト、顔面一発か。

 まぁ、あんなガタイのいい不良相手にしては、軽い方だろう。



「……はっ、ひっ、ぐう…助かっ…たぁ……」


 女子は、安堵のあまり泣き出してしまった。

 今の俺はお助けキャラだ。ちょっと声をかけて安心させなければ。



「…大丈夫だ。今、ここには俺がいる」

「……ぇ?」



 その言葉を聞くなり、その女子は驚いたようにこちらを見た。


「だから、今は俺に任せて、泣いていてもいい」


 涙をポロポロと流してしまっている女子を宥めながら、俺は背中をさする。


「……でも、あなたも…殴られ…っ、顔、殴られて…」

「大丈夫だ、あの程度、どうってことないよ」



 落ち着いてきて相手の心配をできる余裕ができたのか、俺の顔のことまで心配してくれた。

 まぁ、普通の人ならかなり鼻血とか出そうだからね。


 いつかの時のために秘密の特訓をしといてよかった。



「あの、お礼を言いたいので、名前を……」


「あぁ、俺はさk────」

「…?」



 待て、ここで馬鹿正直に名前でも言ってみろ。

 巡り巡って、これが噂になってしまったら、モブの立場が脅かされるのではないか?


 あっぶない!なんてブービートラップ!名前は本名じゃない方がいい!


 この場合は……、そうだな。

 噂になるなら、コイツの方がいい。





「俺は、昌原 晋太郎。見たところ同年代だろ?普通に、晋太郎でいいよ」


「あ、ありがとう。晋太郎さん」

「大丈夫そうだね、よかった」


 傷の有無や、持ち物の不備が無いかを確認した。

 そうしていたら、次第に頬に冷たい感触が伝わってきた。



「………雨だ」


 あー、雨ガッパなんて持ってきてないぞ。

 明日から天気予報を見るのは習慣化しなくちゃだな。



「大丈夫そうなので、俺はこれで。失礼します」


 そう言いながら俺は足早に自転車へと戻って行った。



「あっ、ちょっ、ごめっ、いや、ありがとうございましたっ!あと、私の名前は───」

「それじゃあ!」



 逃げ出すようにして自転車を漕ぎ始めてしまった。


 …ま、これから接点もないだろう。

 ここで名前を聞いてしまった時、本物の晋太郎に会った時…。


『晋太郎さん!私のこと覚えてますか?○○ですっ!』

『えーっと、ごめん。誰?』


 なんてことが起きたら、女子が可哀想でならない。俺も罪悪感に押し潰されて死にそうだ。


 …まぁ、なら偽名を使うなって話なんだけどね。



 俺は、自転車で雨に打たれながら、そのまま振り返らずに帰った。








「名前、言いそびれちゃった……。『モブ戦記』仲間かと思ったのに……」






 ☆☆☆





 と、このように。


 この引用したシーンを収録した巻を買った時の帰りにモブらしからぬことをしてしまったことを思い出したのだ。


 別にこの時の行動を後悔しているわけではないが、少し思い出しただけだ。



 あれから、俺はあの気弱な女子と会うことはなかった…はずだ。

 わからないのも無理はない。なんてったって名前を知らないんだもの。

 顔も明確に思い出せるほどじっくり見たわけでもなかったから、あそこで名前を聞かなかったのはまずかった。

 それに、人の容姿は覚えていたとしても変わるものだ。

 いつの間にか会っていたとしても、名前が分からなければ、俺が会ったどうかも分からない。


 まぁ、相手も俺の顔を見ても分からないだろうし、名前で判別していったら、イケメンの晋太郎に行き着く。


 なら、もしかしたらヒロイン5人の中にあの時の気弱女子が混じっていたりしてね。




 そんな回想をしている間に、『モブリアン』の最後のページをめくった。

 余計な思考が入ったせいで、内容も曖昧だな。感想交流会が終わったら家に帰って読み直そう。



「読み終わった〜?」


 百音は先に読み終わっていたらしく、俺が読み終わるのをベッドに座って待っていた。



「あぁ、感想をどうぞ」

「おっけ〜私から〜」


 百音の感想を聞けば少しは曖昧な記憶がはっきりになるだろうと考えながら、百音の感想を聞く。



「いやぁ〜10巻の懐かしいシーンをオマージュしてくるの天才だなぁ〜って感じ。小説で展開は知ってたけど、絵がつくことでここまで感動的になるかって感覚でさ〜」


「それは俺もわかr──」


「おかげで10巻買った時にあったトラブルのこと思い出しちゃったよ」


「……そうか」


 ………ちょっと待て。



 まさか本当に、ヒロインの中に居るっていうのか?

 確かに、百音が転校してきた時期ともぴったり会うが、そんな偶然あり得るか!?

 待て待て待て待て!そんなことになったら今までの俺のモブ人生が終わりを告げるじゃないか!!



 でも、今まで執拗に絡んできたのも、俺があの時の男に似ていたからという理由で探りを入れてきていたのであれば、合点は行く……。



 まずい!!!

 『モブが実は、転校前に転校生ヒロインとの接点があった!』なんて、非常に良くない!

 そこは主人公であれよ!




「気になる?話してほしい?そのトラブルについて」

「………俺はっ、人のトラウマを、無闇に掘る人間じゃ、ない…………」

「別にトラウマじゃないよ?晋太郎くんにも話したことあるし」



 いよいよまずい事になった!

 もしこれが、あの時のトラブルの話だった場合、晋太郎にも話されているのであれば、俺が偽名を使ったことがバレている!?



 百音は、静かにベッドから立ち上がって歩み寄ってくる。


「…何が言いたいんだ、七丗さん」


「気づいてるんじゃなあい?だって、そのトラブルから助けてくれた晋太郎くん本人はなにも知らなくて………偽名を使われたっていうのはすぐにわかった」



 まずい


 百音は一歩ずつ近づいてくる。

 真相にも、物理的にも、静かに、一歩ずつ近づいてきている。



「七丗さん。俺はその、トラブルっていうものに、なにも心当たりが…」


「晋太郎くんの名前を知っていて、『モブ戦記』の漫画のセリフをオマージュできるほど読み込んでいる人も、君ぐらいしかいない………」



 まずいまずいまずいまずい!!


 くっそ、もう少し念を押して周りの奴らに『モブリアン』を勧めておけば!



「今日の自転車の車種も一緒、顔の形も変わらない、メガネを外せば───」




 もう触れ合える距離まで近づき、俺の横顔に手を添えて、するりとメガネを外された。



「…久しぶり、わたしの晋太郎くん?貴方も今回の『モブ戦記』を読んで、あのことを思い出してくれた?」



 俺の横顔に添えられた手が、すこし頬を湿らす。


「……誤解だっ、トラブルに関わっていたのは晋太郎で、俺はそのトラブルを知らない!それで終わりだ!」


「……あくまでもシラを切り通すってこと?ムダムダ。もう、私は全部知ってるもんね」


「なら、俺から説明する義理もない!もうかえ、る……」



 少々焦りながらも、百音の手から逃れて立ち上がり、振り向いて扉に向かって歩き出す。

 その時、今一番聞こえてほしくない音が聞こえた。





 ゴロゴロゴロゴロゴロ……。


「今日自転車だもんね?残念ながら、雨は雨でも、今日は雷雨なんだって。天気予報、当たっちゃったね?」



 なんで都合の悪いタイミングだ。完全に、逃げ道を塞がれたじゃないか。


「洗いざらい喋ってもらうよ……善晴の行動の癖も、理由も、私が納得するまでね?」




 百音の目はもう感想交流会なんてことを忘れているような目だ。



 もうここまでバレてしまったなら抵抗は無駄か?

 抵抗して帰ったとしても明日には有る事無い事言いふらされてモブはおしまいだ。


 それか、そのトラブルについてもう少し言い訳するか……。





 いや、しょうがない。

 大変心苦しいが、百音にはヒロインから降りてもらう。

 百音も、晋太郎とお近づきになりたいモブが女子のうちの一人だと認識しよう。


 そうすれば、俺が物語(ストーリー)に関連することもなくなる。


 俺は少し目を瞑り、自分の頭の中につけている設定を少しだけ変える。



【七丗 百音】

 対象、メタ(読者)視点の役職。

 役職(ロール):《転校生ヒロイン》→《女子P》に、変更


 それに基づき、俺から彼女への接触方法を改善。



「わかったわかった。全部話す。くれぐれも引いてくれるなよ?」


 その言葉に、彼女は大きく頷いた。

 これほど改まってモブ生活の話をするのはいつ以来だろうか。


 俺は記憶を辿りながら、その経緯を話した。






 ☆☆☆



 とある日のことであった。


 いや、具体的な瞬間は無かった。この表現は間違いだ。

 厳密には、「とある日々のこと」と言ってしかるべきだろう。



 特段、変わったことのない。穏やかな一日だった。


 小学校低学年だったか幼稚園だったか、物心ついた時にはアニメや小説などの物語(ストーリー)に触れている機会が多かった。



 それでもまだ、普通の範囲での触れ方だったと思う。


 異様なまでに読書に取り憑かれているということもなく、ただただ、『こういう展開面白いなぁ』なんて感想を漠然と抱きながら小説を読んだり、アニメを見ていたりしていたはずだ。



 だが、俺も前述したように、モブに訪れるありきたりな日々を、寸分の狂いなく描写するような物語に、面白味などあるわけがない。


 そういった物語(ストーリー)には必ず、主人公の心境の変化や、それ至るまでの、いつもとは異なる日々、異なる日常などが描写されているはずだ。


 俺は、そういった物語(ストーリー)に触れていく度、わかっていってしまったのだ。




 幼少期の頃に憧れる、『特撮のヒーローになりたい』などの夢は、現実にはあり得ないし、あり得たとしても数億人に一人だ。


 テレビで取り上げられるような、人生一発逆転物語なんかも、ごく一部、一握りの人間にしか降りかかることのない幸運だ。


 勝負に勝ちと負けがあるように、人の人生においても、特大の幸運と特大の不幸があり、それが降りかかる確率など、平々凡々な我々には、在って無いようなものなのだ。





 そう考えたら、さまざまな物語(ストーリー)で、最も憧れるのに「現実的」なものは、端役である「モブ」と呼ばれる、彼ら彼女らなのだ。


 俺たち(モブ)という平均的な物差しによって、どれほど主人公が『特別たりえるか』を表現するための、言わば比較対象。



 俺はきっと、いつかどこかで『主人公』のような幸運に恵まれた者を見る時に、普通とはどれほど違うのかの物差しとして使われる。


 ならば、俺はそういった幸運な人間になれないとしても、『一級品の物差し』として、その物語(ストーリー)に居れれば良い、と。

 ただ、そう思ったから、「モブ」を目指しただけだ。





 あぁ、そうだ。

 俺は、早くから『主人公』を諦めていただけの人間なんだ。


 ただ他人より、弁えるのが早過ぎただけの。

 考えが変わる以前は、『主人公』という存在に憧れていた。


 俺が演じるまでもなく、正真正銘の「モブ」だったんだ。



 昔は憧れていたのに、いまや「モブ」として生きることに固執して、『ヒロイン』だか『主人公』だかって、頑固なほどに近づくことを拒絶して……。






 ☆☆☆





「俺は、「端役」でありたかっただけだ。だから、幸運に恵まれていそうな晋太郎から目を付けられない、適切な立場で、幸運を補助するような役割に回ってたんだ」




 百音の性格なら、もう少し高頻度で説明を求めてくるかと思ったが、案外静かに聞いていた。


 そうなると、こんなことを喋っているこっちが恥ずかしくなってくる…。



「へぇ〜、高校生でそんなこと考えてたんだ」


 ぐっ……厨二っぽいってか………。


「もうちょっと早く自覚しろってか。悪かったな、いつまでも思想強めで」


「あぁ〜、悪い意味で言ったんじゃ無いよ?ただ、高校生って、まだ中学生から上がって1〜2年なんだし、もっと幼稚な考えでもいいと思うんだよぉ」




 これは、本心か。それとも必死のフォローか。

 いや、どっちもか。




「私はちっちゃい頃から難しいこと考えられる頭してなかったからさ。そんな事に気がつく前に「主役」と「脇役」が別れてるような物語に触れる時期が終わっちゃった。ちっちゃい頃からそんな難しいこと考えて生きてるなんて、すごいなって思っただけだよ?」


「それが普通だ。俺の頭がイカれてただけなんだ」




 諦観したような俺の発言を聞いて、百音はムッとした。


「そんなことない。今すぐ訂正して」

「…何がそんなに気に障ったんだよ?」



 つまらなさそうに俺は聞いたが、百音はハッキリとこう言った。



「自分が今までやってきたことを否定してる風に言うのがイヤ。それが私の言葉で自覚したように言われるのもイヤ。それに────」


 百音は……目の前の彼女は、自分なりの言葉を見つけて、こう言い切った。




「私のことを助けてくれた人を、私のことを助けてくれるその性格を、善晴自身で嫌っているのが、イヤ」



 ……驚いた。

 単純に、ただただ驚いた。


 俺にまだ、そう言ってくれる人がいることに。




 現代日本人っていうのは、大概自分以外に興味がない。


 良くも悪くも、相手のことを全肯定するロボットと遜色ない人間の方が多いように感じる。


 俺の周りは、そんな人間の方が多かった。

 なんと言っても、俺の周りはモブだから。

 必然的に、多数派の意見しか集まらない。




 だから、俺の卑屈なその発言を、否定しきってくれる人が、あまりにも少なかった。


 新鮮だ、自分が肯定されているような感覚だ、不思議な高揚感だ。



 いや、違う。

 俺は今、肯定されたんだ。


 俺は、俺のままでも大丈夫だって言ってくれたんだ。



 あまりにも嬉しくて、百音の顔を見る。


 その瞳は相変わらず、吸い込まれそうで、目が離せない。



























































































 …………どうしよう。

 「モブ」らしい感情のはずなのに、「モブ」らしくない感情が湧き上がってくる……。


 百音は、誰が見ても綺麗で可愛い、女子だ。

 「モブ」としては、こうなるのは間違いじゃない。

 けどこの感情は、今まで俺が演じてきた「モブ」が絶対に持ち得なかった感情だ。

 今まで、こんな感情感じたことなかったのに……。






 ………百音を見たら、心臓の鼓動が鳴り止まない。


 全身の血が巡るのが早くなっていくのがわかる。心臓が痛いほど動いている。身体が暖かくなっている。耳が赤いかもしれない。それどころか、顔も赤いかもしれない。



 耐えきれずに、俺は顔を背けた。


「え?どうしたの?善晴?」

「な、何でもない……ちょっと、トイレに行ってくる。百音は、少し待ってて──」


 その言葉を聞いて、百音は顔をパアァッと明るくした。

 俺は合点がいかなかったが、次に言われる言葉を聞いて、すぐに顔が赤くなった。………と思う。



「今、私のこと百音って言ったぁ!」



 っ!!

 今まで晋太郎のヒロインとして下の名前で呼んでたのがダメだった!


 今まで、こんな可愛い子を、頭の中では下の名前で呼んでいたのか、俺は!!

 ダメだ、今の俺、自分がすげぇキモい人間に見えてくる。



 俺は気恥ずかしさが限界まできて、すぐにトイレに走って逃げた。






 ☆☆☆




【七丗 百音】

 対象、堺 善晴(じぶん)視点の役職。

 役職(ロール):《気になる女子》→《女子P》に変更

 それに基づき、俺から彼女への接触方法を改善。


【七丗 百音】

 対象、堺 善晴(じぶん)視点の役職。

 役職(ロール):《気になる女子》→《女子P》に変更

 それに基づき、俺から彼女への接触方法を改善。


【七丗 百音】

 対象、堺 善晴(じぶん)視点の役職。

 役職(ロール):《気になる女子》→《女子P》に変更

 それに基づき、俺から彼女への接触方法を改善。






 落ち着け、落ち着け、深呼吸、リラックス……。




「ふぅ〜…………………っ!」


【七丗 百音】ぇ!

 対象、堺 善晴(じぶん)視点の役職!!

 役職(ロール):《気になる女子》→《女子P》に変更!!

 《気になる女子》→《女子P》に変更!!!

 《気になる女子》→《女子P》に変更!!!!

 それに基づき、俺から彼女への接触方法を改善!!

 改善!!改善!!改善!!改善!!改善!!




 ダメだダメだダメだダメだ!!

 少しでも気を抜くとまた百音について考えてしまう!


 くっそ、俺今どんな顔してるんだ!?

 洗面台の鏡を勢いよく見上げる。

 うわぁ〜無愛想!よくその顔で百音と話してたもんだクソッ!!


 それに俺、自分語りをした相手に、卑下したことを否定されただけだぞ!

 なんでこんな情緒になってるんだ!?もしかして俺はチョロいのか!?




 トイレは済み、百音の家の洗面台で、俺は何度も顔に水かけて頭を冷やしていた。

 もちろん、百音の生活スペースだから、あまり散らかさないようにはするが……。


 一旦落ち着いて、顔を洗うのをやめる。

 自前のハンカチで顔を拭いていたら、そのハンカチの横から歯ブラシの立てかけられたコップが見えた。


『……ここで、百音は、歯を磨いて、口を濯いで。そして──』


 目線がズレて、洗濯機、タオルラック、そして……風呂場へと目線が向けられる。


『…つまり百音は、こっ、ここここここで。服を脱いで、風呂に入って、そして………』


















 ダメだああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!


 俺はまた、顔を洗い始めた。






 後に百音に言われたことであったが、顔を洗い終えたのは、トイレに行ってくると言った30分後であったという……。






 ☆☆☆




 俺が洗面台でそうこうしてから戻った時、雨は少し小降りになっていて、今日の感想交流会(?)は終了となった。



「送ってかなくていい?」

「うん大丈夫忘れ物あったら明日渡してくれたら嬉しいそれじゃあまた明日」



 顔もまともに見れないまま、俺は早口でそう捲し立てて自転車に乗った。


 何か言いたそうな雰囲気ではあったが、それよりも早く、俺は逃げるように自転車を漕ぎ出した。



 小降りとは言え、雨はまだ降っている。

 雷雨のタイミングは最悪であったが、今は雨が少しだけ助かっている。


 まだ少し上気している顔を冷やしてくれているからだ。




 明日はどうしようか。

 もしかすると、今までで一番酷い態度を取ってしまうかもしれない。



 俺は、この感情──、きっと、この“恋”と呼ばれる、この感情と、向き合っていけるのだろうか。


 今まで『好きなラノベが一緒だった』という接点しか持たない「その他大勢(モブ)」である俺が、あんな可愛い『ヒロイン』なんかに相手にされるのだろうか。



 ……この気持ちに向き合えるのか、不安だ。

 こんな感情持たなければ、俺はまた「モブ」として百音に冷たい態度を取って、目立たない生活を送ることができたのに…。


 もし今、百音に話しかけられてしまったら、多分俺はどうにかなってしまう。




 ……たしか、俺は百音の連絡先を持ってたっけ。


「……家に帰ったら、まず、百音に、彼氏か、好きな人か、気になる人がいるかどうか。それだけ確認しよう」


 雨に濡れた制服が少し重いと感じながらも、俺は自転車を漕ぎ続けた。


「向き合う向き合わないは、それから決めよう。うん、それがいい……」




 この時、彼まだ気づいていなかった。

 自分が気になる人の連絡先を持っていることが、「常に気になる人と意思疎通ができるようになる」ことを意味していることを……。


 この時、彼はまだ知らなかった。

 自分が気になる人の意中の相手を聞くのには、相当な覚悟が必要なことを…………。


 この時、彼はまだ悟っていなかった。

 今まで平穏に生きていられたのが、「自分が百音に対して冷淡に接しているから」であって、意識し始めた瞬間から、百音に好意を寄せている男たちから殺意を向けられるようになることを………………。
















 ☆☆☆






 時は、一年後へと進む。


 5月1日であった。




 今は、天気予報はスマホ派になった。

 理由は単純、家でテレビを使ってまで見る時間がもったいなく思い始めたからだ。


 通学路を歩きながら、天気予報を見る。




 天気予報は、雨。


 空を見上げる。快晴であった。



 そして、隣を見て、こう言う。


「今日は雨だってさ」

「えぇ〜嘘ぉ。雲ひとつない晴天だけどぉ?」


 隣の女子は驚いたようにそう言った。


「まぁ、去年もそうだったよ。よく覚えてる」

「私も覚えてるよ〜。だって、あの雷雨にはちょっと助けられたし」



 俺は、隣の女子と懐かしむように空を見上げた。

 思えば、俺と気弱な女子が出会った時も、快晴の後に雨が降っていた。



 じゃあ、きっとその日も、5月1日だったのだろう。





 二人で空を見上げながら歩いていたら、いつの間にか学校に着いていた。


 二人揃って生徒玄関に入り、教室への階段を登る。いつも通りの日常の光景だ。

 でも、こうやって、その光景を隣に居る人と共有できるというのは、それだけで幸せだ。



「じゃあ、また今日の放課後ね。今日は()()の日だから、生徒玄関にいてね。絶対だよ」

「何があっても待ってるし、何があってもいるから安心して」



 そう言って手を振り合い、教室の手前で離れる。


 いまだに、3年生になって俺と彼女のクラスが離れたことが死ぬほど悲しい。



 だが、今日は()()の日だ。

 そう思うだけで、今日一日が楽しみになる。



 それに、まだ告げられていない想いがあるのだ。

 かなり進展しているはずなのに、告白という大事なステップを、まだ踏めずにいる。


 この一年で、もう彼女からも好意が向けられるほどには、俺も頑張ってきたと自負している。


 それでも、「□き」という言葉を言うのが、これほど重い一歩だとは思わなかった。



 だからこそ、今日、あの書店で。

 毎朝の登校も、昼に食べる弁当も、帰るべき家も、そして、好きなラノベも。

 すべて同じ彼女に。

 …自分の想いを、告げたいと思っているのだから。



「………学校早く終わらないかなー」





 おそらく、さっき彼女と去年の話をしたせいだろう。


 前までは「モブ」として生活するために望んでいた学校生活が、いつの間にか自分の中では「百音に会えない寂しい時間」に変わっていることに、今ごろ気づいた。



 その、自分のちっぽけな成長を少し嬉しく思いながら、俺は百音のいない教室へと入っていった。









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