第一章7話 ???? 生贄
「け、けけ……結婚式!?」
思わず声が裏返った。
その一言に群れのガリルたちはきょとんとした顔をする。
「王よ、何を今さら。数日前に姫が戦場から戻られたばかり。その凱旋を祝し、急ぎご用意したのが本日の婚礼でございます。姫は屈強な戦士を好まれる。お相手はあなた様しかおりません」
(……戦場? “姫”なのに戦場に出てたの? やっぱりバトルジャンキー種族すぎるだろ。まぁ強き者を好むのは自然の摂理かもしれないけど……)
「ささ、姫がお待ちです! まだ正式なご挨拶を交わしておられぬでしょう」
群れに囲まれるようにして歩き出す。
洞窟の奥へと案内される足音が、ざわざわと耳にまとわりついた。
(……大変なことに巻き込まれてる。よりによって結婚式だなんて……)
(でも、この数を相手に暴れるなんて無謀すぎる。キングガリルの力を借りていても限度がある……今は大人しく流れに乗って様子を見た方がいい)
そんな決意を胸の奥で固めたところに、長杖を携えた一体が一歩前へ出る。
「申し遅れました、私は姫の側近を務める者。幸運にも“ガリルメイジ”へ進化できましたので、魔法にて王の居場所を探らせていただいたのです。まだ未熟ゆえ正確な位置までは割り出せませんでしたが……」
「……進化、か」
「ええ。進化先は思考や憧れに大きく左右されます。王直属の部下は力に特化した戦士型が多く、対して姫直属の我らは魔法や戦術を得意とする。役割は異なれど、いずれも王と姫のために尽くす兵ぞろいでございます」
(……同じガリルでも進化先によってここまで違うのか。脳筋集団と知略集団、今は協力関係でもそのうち火種になりそうだな)
そのとき、ガリルメイジが眉をひそめて周囲を見回した。
「……む? 今、妙な気配が」
(っ……! 後ろに忍ばせておいた分身か!?)
「気のせいだろう。緊張しているのではないか?」
「……そ、そうですな。王がそう仰るなら」
(ふぅ……危なかった。『後ろから付いてこい』と命じておいたし、余計な疑いをかけられるわけにはいかない)
どうやら誤魔化せたらしい。
そんなやり取りを経て、足取りは洞窟の奥へ進んでいく。
やがて、横穴の入口に粗末な木の扉が取り付けられた部屋にたどり着いた。
「王よ、こちらが姫のお部屋にございます。私はここで控えておりますゆえ、ごゆるりと……」
(……仕方ない。ここまで来た以上、腹を括るしかないか)
コンコン、と軽く扉を叩く。
「……我だ。入るぞ」
きぃ、と軋む音を立てて扉を開けた。
その瞬間――
「ウホッ♡ いい男〜!」
ガチャ。
反射的に扉を閉じてしまった。
(な、なんだ今の……あれが姫? ブ、ブスすぎ……)
ガチャッ!
言いかけたところで、内側から勢いよく扉が開いた。
「何をしているのダーリン♡ 待ちくたびれたわ!」
「す、すまぬ……何でもない。我が姫よ」
「もう〜何言ってるの?全く、照れ屋さんなんだからぁ♡」
(キツいよぉ……そのウインクは人を殺せる……!
あのメイジ、確か“姫と対面してすぐに王は逃げ出した”って言ってたよな……? 絶対この姫から逃げたんだろ!!)
「さぁダーリン♡こっちにいらしてぇ!」
ウインクを避けながら、しぶしぶ中へと足を踏み入れる。
「ふふっ、さっきは驚いたわ。急に飛び出して行くんだもの。私の美貌に衝撃を受けちゃったのかしら?可愛いんだからぁ」
「え、えぇ……。美しすぎて思わず……走り出してしまったのだ」
「あらやだ!ダーリンったら♡」
バシンッ!
ゴリラの腕が肩を軽く叩く。だがその“軽さ”は人間で言えば致命打だった。
「ぐふっ……!」
(痛ぇ!!今の一撃でHP削れたぞ!?骨折れててもおかしくないだろ!)
「私ね、あなたとの結婚式のためにプレゼントを用意したの♡ 道中でちょっと“壊れちゃった”けど」
「そ、それは……ありがたいことだ。何を頂けるのだ?」
「ふふ、欲しがりさんねぇ。ちょうど持って来させてるところよ」
パチンと姫が手を叩く。
扉が再び開き、ガリルメイジが縄を引いて入ってきた。
「姫、お持ちいたしました」
縄の先にいたのは――全身にあざを負った、若い人間の少女だった。
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