第一章3話 ???? 初戦闘
「グギャァァァァァ!!!」
狭い洞窟を揺るがす咆哮。
全長三メートルを超える巨猿――その一振りの腕で人間など粉砕できるであろう化物が、真っ赤に光る瞳でこちらを睨みつける。
(やばい……! こんなの、どうやって戦えっていうんだ!)
咄嗟に踵を返し、通路を駆け出す。
けれど背後では、巨体が壁を削りながら迫ってきていた。
ドン、ドン、と足音が響くたび、肺が潰れそうになる。
《推奨:交戦回避。退避ルートを確保してください》
「分かってるって! 勝てるわけないだろあんなの!」
必死に走るも、通路の先は崩落した岩で塞がれていた。
――袋小路。
(終わった……!)
巨猿の咆哮が響き渡り、拳ほどもある岩を掴み上げる。
迷いなく振りかぶり、こちらへと投げ放つ。
轟音。迫る岩塊。直撃すれば即死。
(……くそ。やるしかないのか……)
(おかしいな、さっきまで震えてたのに……今は心臓が高鳴ってる。楽しんでる……?)
(ならいい。どうせ逃げ場はない。今できる全部を――ぶつけてやろう!)
「『天邪鬼―反転』!!」
岩が目前で止まり、空気を裂くように反転する。
数倍の速度を乗せ、巨猿の顔面へ。
「グギャッ!?」
衝撃に巨体がよろめき、壁を抉って倒れ込む。
粉塵が視界を覆う。
(効いた……! でも、まだ……!)
立ち上がる影。赤い瞳はなおぎらつき、殺意を失っていない。
(正面からは無理だ……撹乱しろ、時間を稼げ!)
黒い靄の身体を震わせ、スキルを重ねる。
「『模倣』……! 『嘘偽り―偽り』!!」
影から分身を生み出し、それを本物だと信じ込ませる。
巨猿は獲物を二つ見たかのように視線を泳がせ――迷いなく分身へと腕を振り下ろした。
轟音。だが、その手応えは虚ろ。
「グギャ……!?」
困惑に目を見開いた巨猿。その背後に回り込む影。
(今だ……! この一撃に全部を賭ける!)
模倣で腕を巨猿と同じ形に変える。
だがそれは見せかけ――ステータスは「1」に過ぎない。
(張りぼての腕……でも、反転すれば……!)
「『天邪鬼―能力反転』ッ!!」
黒い腕が巨腕と激突する。
本来なら瞬時に粉砕されるはずの一撃が――反転した。
弱きは強きに。強きは弱きに。
轟音。巨体が壁ごと吹き飛び、洞窟を揺らす。
瓦礫が崩れ落ち、粉塵が辺りを覆った。
《新たな派生スキルを確認しました》
《unique skill『天邪鬼―能力反転』を獲得しました》
粉塵の奥を睨みながら、無言で拳を握りしめていた。
ご一読頂き有難うございます。
面白いスキル・能力等あれば参考にさせていただきます!




