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第一章 挿話 オルトニプス 驕傲 倨傲 傲岸 -上-

「おーーーい!!みんなー!何処に行くんだよー」


「んー?何だオル坊か、みりゃわかんだろ漁だよ漁。今日もいっぺぇ釣ってきてやんからよ楽しみに待ってろい!」


入江で出航の準備をしていた漁師達は遠くから元気いっぱいに手を振りながら走ってくる青年に対し、ニカッとした表情を浮かべ親指を立てる。


「なぁ!僕も...私も連れてってくれよ...じゃなくて、くださいよ?絶対役に立ちますからさ!」


「ダメだダメだ!何度も言ってるだろ?漁師になれるのは16歳からだ。おめぇーまだ14だっぺ、幾ら『適応力』っつー優秀なオリジナルスキルがあるからって決まりは決まりだ。もうちっと待つんだな。」


「ちぇ、決まり決まりってもっと柔軟に、応変に、えーっと...やわらかく?対応してよ。じゃなくてしなさいよ。」


「まーた、訳の分からん喋り方して。おめぇーは確かに物覚えは良いけどな、喋り方変えたくれーで大人の仲間入りはできんし賢くもならんよ。」


「う、うるさい!とにかく()()を捕まえてこの()()()を治すんだ!!」


近頃、子供だけが感染する流行り病が村中で蔓延している。しかし、大人達は全く気にした素振りを見せず出航の準備の手を止めない。


「流行り病っつったって、あんなもん症状は風邪みてぇーなもんじゃねぇか。多少熱がでて、喉の痛みがあるくれーで。

へーき、へーきすぐ治るっぺ。んで、人魚だー?あんな言い伝えおめぇー信じてるっぺか?」


「だって、本に書いてあったんだ!人魚の血を飲んだ者はあっという間に怪我や病気が治り、その肉を食べた者は不老不死になれるって!年齢も好きに変えれるらしいよ!」


「はははっ!んなもんっおとぎの中だけの話だっぺ。何十年漁師やってっけどなぁ、人魚なんて一回たりとも見た事ねぇっぺ。ま、もし見掛けたら捕まえてきてやっからよ、大人しく家にけぇったけぇった!」


周りの大人達も青年の頭を豪快な手つきで撫で回すと各自漁船に乗り継ぎ1人青年を置いて出航してしまった。


「何でだよ、何でみんな聞いてくれないんだよ!村の中で僕が唯一感染してないって事は僕も大人って事だろ?みんな大した事ないって言うけど治るどころか少しずつ元気が無くなってるんだ!僕が...私がなんとかしないといけないのに!」


やるせない気持ちで砂を蹴り、1人項垂れる。


-船さえ、船さえあれば1人で探せるのに...あれ?何だろう?


遠くの岸にゆらゆらと揺らめくものが伺える。


-そんな、まさかね...


ゆっくりと近づくと憶測は確信に変わっていった。

そこには小さいながらも頑丈そうな(いかだ)が岸に繋げられていた。


「やった...やったやった!!これで海に出れる!何だよ、みんな面向きではダメなんて言っておきながらこっそり僕の為に用意してくれたんじゃないか!」


-掟は破れないから、仕方なく裏で用意してくれたのかな?


「まぁ何でもいいや!待ってろよみんな!僕が助けてやるからな!」


海に出たい少年の前に、偶然筏を見つける。

そんな偶然を全くもって不思議に思わず少年は筏に乗り込み岸に繋げられているロープを解いていく。




「気持ちいいー!波も穏やかだしこんな静かな海初めての航海にピッタリじゃないか!()()はちゃんと見てくれてるんだな!」


オールを漕ぎ、奥に進んでいく。

追い風という事もあり少年を乗せた筏は陸地からはもう豆粒のようにかなり離れた場所まで進んでいるようだ。

何の知識もない素人がここまで順調にこれるのは穏やかな波と少年を導く様な風があってこそだろう。

海とは思えない程静かである。そう、静か過ぎる程に...



「おかしいだな、静かすぎるっぺ」


「あぁオイラも思ってただ。今日はやけに魚を見かけねぇし何よりいつもより波が緩やかすぎるっぺ。」


「なげぇ事漁師やってがらこそわかる勘だけども、こりゃ嵐の前の静けさってやづじゃねぇか?」


「んだ、こりゃあはぇー事引き返した方がいいっぺ。」


「オル坊連れてこなぐで正解だったっぺな!あんなヒョロヒョロした身体じゃ風で吹っ飛ばされちまうだな!」


「ハハハ!まぢがいねぇべ!」




ピュオーーーーーー!!!

ゴォー!!!ガラガラッドカン!!


漁師達の勘通り、先程の穏やかな海とは一変し強い豪雨と風が吹き荒れる。

小さな筏なんてあっという間に埋もれてしまうが、見た目通り頑丈だったようで必死に少年はオールを漕ぎ岸へと向かう。


「何だよぉ!さっきまであんなに静かだったのが嘘のようじゃないか!このままじゃ死んじゃう!!」


オールを漕いではいるが一向に進まない。行きが追い風だった事もあり、帰りはさらに強くなった風が向かい風として立ちはだかる。そしてこの豪雨で視界が悪く進行方向があっているのかすら分からず闇雲に漕いでいるようだ。


「こんな事なら大人しく大人になるまで待ってれば良かった!海は生き物だって何度も言われてきたのに...」


大波が少年を襲い筏が転覆してしまう。


「プハッ!はぁはぁ!ま、待って!!」


そのちっぽけな身体で自然に抗えるはずもなく呆気なく波に流されていき、筏も沈没してしまった。


「誰か!!誰か助けてぇ!!!!」


その瞬間、先程よりもさらに大きい波が少年に容赦なく襲いかかり海に攫われてしまう。

パニック状態の少年は必死に泳いで海面に浮上を試みるが上下がどちらか分からなくなり、ただ溺れるのを待つしか無かった。


-あぁごめんなさい、あれ程ダメって言われてたのに忠告も聞かず勝手に1人で行った罰があたったんだね。

海がこんなにも恐ろしい場所だなんて...


力尽きた少年は流れに身を任せ死を覚悟する。そうして意識が遠のいていくと、突如暖かい温もりに包まれる。


-助かっ...ありがとう、気付いてくれて...あれ?この人なんで...


薄れゆく景色の中その人物に焦点を当てる。

長い艶やかな金髪を靡かせ、ニッコリとした可憐な美しい女性が瞳に映る。

しかし、その下半身には虹色に光る鱗を身に付けた魚の尾があったのであった。

いきなりの挿話、この少年は誰なのか...上・中・下の3部です。おとぎ話の感覚で見てくださいね。

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