第一章11話 ???? 決闘式②
何が起こっているのか、何故キングガリルの部下は姫達に襲い掛かったのか、種明かしをするとこうだ。
結婚式の前にガリルメイジに部下達に余興の準備をさせると言い、姫達には楽しみにして欲しい為知られたくないと人払いをした。
その後キングガリルの部下だけを集結させこう言ったのである。
「この式の真の目的はキングと姫、どちらの軍団が真の至強なのかを決める『決闘式』である!!キングガリルの名に泥を塗るような真似はしてくれるな!開戦とともに完膚なきまで叩きのめせ!!」
最初こそ動揺していたものの部下達は徐々に興奮しだし、歓声をあげたのであった。
何故部下達は何も疑問に思わずに、キングガリルの言葉を鵜呑みにしたのか。今一度ガリルの特徴を思い出して欲しい。
ガリル種はとにかく戦いに重きを置いている種族である。何せ知能が高い上位種に進化した姫達ですら好き好んで戦場に赴くバトルジャンキーである。
ましてやこの部下達の身体は戦場で戦う為に鍛え抜かれている。相当戦場慣れしており、何より戦う事が大好きなのである。
さらに決め手は、キングガリルの部下はその武力とは対照的に知能がとても低いのである。
何人かはガリルファイターやガリルナイトに進化した者もいるが、ガリルメイジと比べると知能は数段劣る。下等種に至っては「結婚式」というものが何なのか分かっていないものもいる。
これだけ条件が揃えば後は王自ら戦う理由さえ与えてあげれば、忠誠心の高いキングガリルの部下は信じるしかないのである。
これにより姫の部下とキングの部下との同士討ちに成功したのである。
但し、これには一つ問題点がある。
-この作戦は部下達の信用を得る為にも絶対的な王者である「キングガリル」が発言し、王自ら戦場の先頭にたつ必要があるんだよね。だから『完全顕現』を解いて戦う事はできないんだよ。
そう、つまり「キングガリル」での勝利が条件である。完全顕現を解けば、キングガリルの部下達は偽の王に騙された事に気付きたちまちこちらへ牙を向けるだろう。
(((我らがキングに勝利を!!!)))
先程の開戦の合図でキングガリルの部下が一斉に姫の部下達に襲い掛かり蹴散らしていく。
状況に追い付けず臨戦態勢も何も出来ていない姫の部下達は何も出来ずその数を減らしていく。
いつの間にか数的不利は覆った所でようやく姫側も反撃しだした。
(な、な、な何をしているのですか王よ!!結婚式は?!何故我々が戦う必要があるのですか!!)
ガリルメイジが慌てふためいている。
「何って?...気に食わないからだよ、お前らの存在全てがな!大体あんなブスと誰が結婚するか!」
(な!そんな...)
ガラガラッ
(誰が、誰がブスですって?!...)
先程吹き飛ばした姫が瓦礫を退けながらゆっくり立ち上がった。
(この超絶美少女に向かってブスなんて...コロス...コロスコロスコロスゥ!!)
全身の毛を逆立てぶつぶつと詠唱をし始めた。
(お前は魔法に滅法弱いって事は知ってるのよ!消し炭になりなさい!)
怒りながら掌をこちらにかかげると直径5メートル程の火球を飛ばしてきた。
-流石、この軍団を束ねているだけあって強いね...でも
目の前まで迫ってきた火球に対して一歩も怯まず、重心を落とす。そして、拳を引き「衝撃波」を使いながら正面から殴りつける。
すると先程まであった火球は霧散し、辺りには火花が散った。
「まだまだだね。」
-火球が僕に届く前に衝撃波を壁にすれば魔法だって怖くない。
姫は得意の魔法を掻き消され、思考が停止しているようだ。
「なにアホ面かましてんの?」
「猪突猛進」で姫の元に一気に詰め寄り膝蹴りを顔面に喰らわせる。
(グハァッ!)
怯んだ所を見逃さずラッシュをかける。腹、肩、顔、所構わず殴りつける。
(姫から離れろ!)
姫の側近が黙って見ている訳もなく、キングガリルに威嚇射撃の魔法を放ってきた。
側近といえども、魔法は脅威である為姫から距離を空ける。
(ハァッハァッなに、こいつ...ムカつくムカつく!!メイジ!私に力を貸しなさい!)
(ハッ!)
ガリルメイジが姫に対して詠唱しバフのようなものをかける。
「僕が黙って見過ごす訳!...あぶな!」
バフをかけているガリルメイジに詰め寄ると、周りの側近が近寄らせまいと魔法や矢を放つ。
(近付けさせるな!遠距離から魔法と矢を放て!奴は接近戦しかできぬ!)
指揮官らしき姫の側近が周りに指示する。
「もー邪魔だなぁ...それに僕がいつ遠距離攻撃できないって言った?」
「王者の覇気」を使い相手を恐慌状態にさせる。怯んだものに小石を拾い指で弾いた。
すると、小石は弾丸の様に凄まじい速さで飛んでいきあたった側近の頭が吹き飛ぶ。
それをみた周りの側近達は震え上がり、再度「王者の覇気」を使用すると恐慌状態に陥り逃げ去っていく。
(き、貴様ら!背を向けるとは情けないぞ!姫をお守りしろ!)
バフを掛けていたガリルメイジが怒号をあげている。
(あいつらは後で処刑決定ね、でも準備は整ったわ。)
姫に目線を向けると全身岩の鎧で覆われており、見るからに頑丈そうな装甲である。
(この鎧はね魔法で出来ているの。魔法能力の低い貴方にはこの鎧を壊す事は不可能よ、それにね。)
「グフッ...」
姫の身体がぶれ、消えたかと思うと後ろから衝撃があった。
(速度能力があがる魔法も使っているから見た目と違って速いのよ。)
後ろを振り向く頃にはそこにはおらず、今度は横から衝撃を受けた。
(ふふ、こっちよ。)
消えたかと思えば背後から殴られ、また消え、殴られる。
(遅い、遅い、このまま嬲り殺してあげる。私の速さについてこれるかしら?)
右から、左から、後ろから一方的に殴られ続ける。
(私の容姿を侮辱した罪は重いのよ!これで!死になさい!)
正面から拳が迫ってくる。
-避ける事はできない...なら!
「グォォォォー!!!」
雄叫びをあげながら足を思い切り地面に叩きつける。
すると地面が割れ、一瞬だが姫が体勢を崩しその場に立ち止まる。
その隙を見逃さず「猪突猛進」で一気に距離を詰める。
(ハハッ!無理無理!何度も手合わせした事があるもの、貴方の技能は全て知ってるわよ。ステータスが高い割に雑魚みたいな能力しか持ってないってね!その「猪突猛進」は直線距離に対してしか速度能力の恩恵を得られないのよ!だからこうして横にずれれば...なに?!)
姫が避けた方向に直角に曲がり再度「猪突猛進」を使う。
(小賢しい!でも、これも横に避ければ...何で?!)
姫が右や左に避ける度ジグザグと直角に曲がり追尾する。やがて姫との距離は徐々に縮まっていった。
「確かに、「猪突猛進」の弱点は一度発動すると小回りが効かないこと。でも直線距離の距離の制限は掛けられていない!例え数メートル、数センチでも直線は直線。だから曲がる度に何度も発動し、直線を走り続ければ速度能力の恩恵を切らせずに追いつく事ができるんだよ!」
-燃費は悪いけどね!
ようやく姫を捉え分厚い装甲に「衝撃波」を乗せ殴りかかる。
(そんな!...でも追いつかれた所でこの装甲には傷一つ...なんで?!ダメージはないはずよ!なんで身体が動かないの?!!)
殴られた場所から姫は動けずにいた。
「もう一ついい事教えてあげる。確かにその鎧は僕では壊せない」
喋りながら姫の背後に周り腕と一緒に胴体をホールドする。
「でもね、「衝撃波」は物理攻撃に衝撃波を乗せ、一定確率で相手を怯ませる事ができるんだ。この怯む確率にダメージ量は関係ないんだよ。だってダメージに比例して怯む確率があがるなんて書いてないでしょ?」
(そ、そんなのずるよ!)
「ずるじゃない、「猪突猛進」も「衝撃波」も能力の限界を勝手に決めつけたのは君だろ?」
ホールドした腕の力を強め、逃げられないようにする。
(わ、分かったわ私が悪かった。このまま殴りあってもお互い決着がつかないのは目に見えてるでしょ?だから、ね。その手を離して?)
「確かにこのままだと埒が開かないね。」
脚に力を込め膝を曲げる。
「あ、そういえばまだ言ってない事あったね。「猪突猛進」は別に走る為だけの能力じゃないんだよ。直線距離っていうのはね」
脚に力を込めると床がギシギシと軋む音が聴こえる。
「真上にも有効なんだよ!」
溜め込んだ力を解放するように真上に思いっきり飛び上がる。ホールドされていた姫も一緒に飛び上がり天井スレスレまで昇っていきやがて加速が止まる。
そして重心を後ろに倒す事により頭を下に向け、重力に従うようにみるみる地面に向かって加速していく。
(いやぁぁぁぁぁ!!!)
姫が涙を浮かべながら泣き叫ぶ。
そして地面に衝突する瞬間思いっきり姫を叩きつけ、離脱する。
ドッカーーーーン!!!
地面は盛大にひび割れ、その中心には姫が頭から突き刺さっているのであった。




