第一章9話 ???? 花笑み
「おい...何してる?」
ガリルメイジの腕を掴み、思わず睨み付ける。
(なにって、姫が道中拾ってきたニンゲンの獲物ですよ。特に育ちきっていないニンゲンの若い女は絶品とききます、貴方様との結婚の為にわざわざ生かして連れてきたんですから)
(えぇ、折角の結婚式。ご馳走様がなきゃいけないでしょ?珍しい匂いがしたから探してみればいくつかいるじゃないの。幸運だったわ、今日の結婚式は神に祝福されてるのよきっと!まぁ幾つか遊んでたら脆すぎて壊れちゃったけど。あはは、あの顔思い出したら笑えてきちゃった。)
(こいつなんか、泣きながら喚いてましたな!頭を必死に下げてみっともない)
ガリルメイジがもう片方の腕に持っていった物を掲げる。それは顔がグチャガチャに歪んだ人の頭だった。
姫とメイジが一緒にその顔をみてケタケタと醜悪な笑みを浮かべる。
-吐気がする、言葉が交わせるからといって油断してた。こいつらは魔物だ。生きる為ではなく、遊び感覚で平気で人を殺すんだな。
頭に血がのぼり思わず殴りかかりそうになったが女の子をみて思い留まる。
その子はまだ子供だった。中学生くらいだろうか目の前で仲間を殺され自分だけ生き延びて...普通なら怖いはずだ、いつ自分も殺されるか分からないとういのに、なのにその目は決して諦めていなかった。
-この子...駄目だな感情に任せて早まるつもりだった。ここで暴れても勝算がなければこの子を助けられない。
相手はここにいる2人だけじゃなく、外には何百人の兵士がいる。例えこの場をやり過ごせても囲まれて嬲り殺されるのがオチだろう。
-冷静になれ、この子を助けられるのは僕だけなんだ。
「ははは、それはそれはこのプレゼント有難く頂戴致しますぞ。人間というのは我は初めてみますな、一度頂く前に私の部屋で観察しても宜しいか?」
(えぇ!喜んで頂けたようで何よりよ!確かに、この辺りにはなかなかいませんからね。お好きなようにどうぞ。あぁ式の前に殺しては駄目よダーリン♡)
「感謝致しますぞ。そなた私の部屋まで案内してくれるか、そやつは我が運ぼう」
(随分気に入られたみたいで。勿論で御座います、新たに王の部屋を用意致しましたので此方までどうぞ)
彼女に近付くとびくりと身体を震わせ怖がっていたが、優しく手を握ると不思議な顔をしながらこちらを覗き込んでくる。
(ここで御座います、式の準備が出来ましたらまたお呼び致しますのでそれまでごゆっくり下さい。)
扉が閉められ2人だけの空間になる。
顔は強がってはいるが、内心怖いものは怖いのだろう。身体が震えている。
-そりゃ怖いよな、相手からはキングガリルに見えてんだから。人の身体に模倣して安心させてやりたい所だけど、MPの都合上。それは出来ないな今は害が無いって事だけでも伝えなきゃ
ゆっくりと近付きその縄を解く、道の途中洞窟に生えていたピンク色の花を渡してやると。驚きつつも女の子は恐る恐るその花を受け取った。
「なんで...貴方はさっきのやつらの仲間なんじゃないの?」
声が震えながらも初めて口を開いてくれた、
女の子の目を見てゆっくり首を振る。
「え!私の言葉がわかるの?!」
今度は笑みを浮かべながら頷く。
「えぇ!ガリル種は確かに知能が高いと聞くけど、人間の言葉が分かるなんて...そんなの聞いた事ない!」
興奮で声が大きくなったので、慌てて口元に人差し指をあてる。
「あ、ごめんなさい。私よく魔物図鑑みてて...そういうの好きで...」
しゅんと分かりやすく落ち込んでいるのでゆっくりと優しく頭を撫でてあげる。
女の子は驚きつつもその手を受け入れてくれた。
「貴方は優しい魔物なのね、私ね『サクラ』って言うの!この花の色とお揃いね!ふふっよろしくね!」
初めて女の子の笑顔を見た、その笑顔は愛嬌に溢れ、まるでその名の通り桜が咲いた様に可憐で穢れ等一つも知らない様なとても、それはとても素敵な笑顔だった。
その後も女の子の話す事に対して身振り手振りで会話していくと、女の子は疲れが溜まりようやく安心できたのか眠ってしまった。
-この子を助ける作戦をたてないとね...
状況を整理するべく、思考の波に耽る。
相手は姫とその側近、それとキングガリルの部下。その数は数百体。
-最初はキングガリルのステータスでゴリ押しをしようと思ったけど、側近が魔法を使う以上魔法抵抗力の低いキングガリルでは大きい的だ。
それにあの姫、キングガリルと同等、もしくはそれ以上の威圧感があった。
それに側近が魔法を使うんだ、姫も魔法を使えると思った方がいい。
あんな強敵を相手にしながら数百体同時に襲ってこられたらたまったもんじゃないなぁ...
-かと言って模倣を解いて戦ったとしても姫だけならともかく、多勢に無勢で襲われたら僕の紙装甲じゃ矢が掠っただけでお陀仏だよ。
-この子を連れて逃げる...無理だ、姫は匂いを辿って見つけたって言ってた。それに側近の探知魔法もある。
詰んでいる...勝てる未来がみえない...
-そもそも僕は魔物だ。幾ら前世が人間だったからと言って助ける義理はあるのだろうか、しかも今しがた会ったばかりの赤の他人に命を賭けてまで助ける理由なんて...
「でも、みちゃったんだ...この子の笑顔を、また見たいって思ったんだ。」
「理由なんてそれだけで良いじゃないか、僕の人生何の為に転生したのか全く覚えてもないけど。初めて感じたこの気持ち...命をかけるには十分な理由じゃないか!」
-考え直せ。何か、何か糸口があるはずだ。
今一度思考の波に耽る...
考える、何が1番の脅威なのか
・未知数の姫の力?
違う、1対1なら僕は負けない。
・魔法による脅威?
これも違う、模倣を解除すれば『天邪鬼』でどうとでもなる。
・敵の数?
そう、これだ。1対1なら負ける事はないが、面で襲い掛かられたら対処できず矢が一本掠っただけで死んでしまう...
「どうすれば.......いや、待てよ前提が違うんじゃないか?」
-別に全員相手にする必要なんてないじゃないか。
「そうか、何を勘違いしてたんだ。僕は今、ナニカじゃない。」
ここは重要な分岐点だったので、1日考え込んでしまい昨日は投稿できませんでした泣