第1話:プロローグ
「結局のところ、あんた、当て馬だよな」
アントンは鼻で笑った。
「何を言うやら――」
「だってよ。こうして多勢に無勢。孤軍奮闘しても、あの女を助けるのは、地位の高い男なんだろ。当て馬じゃねーか」
「・・・」
アントンは無言で剣を振るう。
お喋りな男は危なげなくそれを受け止めた。
周囲にはお喋りな男の仲間が転がっている。立っているのは、お喋りな男を含む数人だけ。
仲間の敵討ち、とばかりにいきり立たず、冷静に対処しているからこそ、アントンの剣を捌けている。
「良いとこは地位だけの男が持っていくなんざ、当て馬と呼ばれてもしょーがねーだろ」
「・・・!」
「哀れだよな。好きな女に優しくするまともな男より、好きな女だろうがボロカスに扱う男が選ばれるなんざ」
「うるさいっ!」
図星を刺されてアントンの剣筋が乱れる。
「当て馬っつーのは、良い人すぎて選ばれねーのかもな。完璧すぎて無理って奴?」
「黙れっ!」
「性格の良い男なんざ、鬼畜外道好きのドM女の食指が動かねーんだろーな」
「黙れと言っているだろっ――!!」
剣を弾かれたアントンは大振りに剣を振り下ろす。
「――隙あり」
難なくアントンの剣を避けたお喋りな男は踏み込んでアントンの懐に入る。
チッ、と舌打ちしたアントンだったが、至近距離から繰り出された剣はバックステップで避けることも、受け止めることもできない。
「あんたの敗因は良い子ちゃんすぎたとこだ。当て馬にされた挙句、死んじまうなんて、あの女は一年もあんたのこたー、覚えちゃいねーぜ。覚えていたとしても、憎い恋敵の子どもの名前にするくれーだ。まだ庇って死んだ見知らぬ奴のほうが死を悼んでくれるんじゃね」
痛みと、自分が助からないとわかっているにもかかわらず、お喋りな男の言葉は最後まで明確にアントンの耳に届いた。