ノベル20
友
まあとりあえず見てけって
~第ⅩⅩ話 勧誘~
ここ保険室でさっきから怒鳴り声が響いている。
「帰れ、飛沫っ!早く、すぐに、とっとと!!」
一通り泣き崩れたお嬢様はいきなり俺を蹴飛ばし、怒鳴り始めた。
「帰れって…俺はもう大丈夫ですけど?」
「いいから大事を取って帰れ!」
またお嬢様は怒鳴った。
「あの…お嬢様、話すときはこっちを見て話してくれませんか?なんで反対の方
を…。」
「うるさいっ、いいから早く帰れ!!」
さっきからお嬢様は俺の方を見ようとしない。
視線も床にいっている。
「…お嬢様、前を見て下さい。」
お嬢様はゆっくりと顔を上げる。
目の前にあるのは大きな鏡。
「さっきから超顔赤いですけど大丈夫ですか?絶対に熱ありそうですが。」
お嬢様が拳を握った。
「飛沫ぃ……!」
「俺、先に帰ってます!ですので先生方には宜しくお願いしますね!」
その場を逃げるように保険室から出ていった。
「はぁ…この時間から帰ってもすること無いよなぁ…。」
俺は一人帰り道を歩いている。
車は基本的にお嬢様専用なので、俺だけが乗ることは出来ない。
心の中で音楽を歌いながら歩いていたら、いつの間にか屋敷に着いていた。
恐るべし音楽…。
門の前のポストを開ける。
「あれ…手紙?」
ポストの中の封筒を取り出す。
封筒には「秘」のスタンプが押されている。
「極秘書物…か。宛て先は…飛沫時雨様…俺?」
俺なんかに誰が極秘書物を…。
ブレザーの内ポケットに封筒を入れ、暗証番号、指紋認証その他もろもろをやっ
て屋敷に入った。
まず最初に俺の部屋に入り、扉に鍵をかけた。
封筒をペーパーナイフで開け中身を取り出す。
~飛沫 時雨様へ ~
我々は「特殊環境保護軍」と申します。
さっそく結論を申し上げますが、貴方は大変危険な存在です。
貴方の左腕に表れた黒印。
それは違法魔術師の印であり、貴方の印は次第に強力なものになっていきます。
違法魔術師とは現実世界での魔法の使用をした者で、使用理由が善悪問わず印が
表れます。
普通、現実世界での魔法の使用は出来ません。
魔法の元になる特殊な原子が現実世界にはありませんからね。
ただし、貴方の場合は貴方自身がすでに「原子」のようなものなのです。
話を戻しますが、普通の印はただの違法魔術師であるという「しるし」に過ぎな
いのですが、貴方の場合は印から強力な魔力吸収を行っているのです。
そして黒印は魔力をさらに吸収し、莫大な魔力を貴方に与えます。
我々は貴方を違法魔術師、そして危険存在と見なし排除しなければなりません。
…ただ、もし貴方が「特殊環境保護軍」に入るのならば我々は味方と見なし排除
を行いません。
信じるかは貴方次第ですが、もし敵対した場合、我々は全力で貴方を排除します
。
もし味方になるのであれば午後三時半に貴方の屋敷の門に来て下さい。
車を一台用意しておきます。
あと、この封筒は持ってきて下さい。
…もし貴方が何者なのか知りたかったら来たほうが良いでしょうね。
では、貴方がどちらを選ぶのか楽しみにしてます。
「……。」
なんだ…?
俺自身が…異世界の「原子」みたいなもの?
「なんなんだよ…!」
何処から出ているか分からない苛立ちを必死にこらえていた。
味方になるか敵になるか…。
敵になったとして、俺が死んだらお嬢様はまた…。
また今日のように…。
そもそもお嬢様までも被害を食らう可能性がある。
だが、味方になるのも怪しい。
もしかしたら手紙で呼び出すのは殺すためかもしれない。
そして俺の左腕の黒印を知ってる者はアリスとあの女子生徒。
時計を見上げる。
「…あと10分しかないのか。」
答えはもちろん一つしかない。
俺はスーツに着替え、出掛ける準備をした。
- novel 20 end -
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