第82話 文化祭二日目、お嬢様方がやってきた
文化祭二日目。
今日は一般公開の日だ。
昨日とは訪れる人の数が違うだろう。
朝のホームルームを終え、早速準備に取りかかる。
皆昨日でだいぶ慣れはしたが、今日こそが本番だと気合を入れなおしているようだ。
「風見君、白月さん、ちょっといい?」
そんな中、クラス委員の葵が春陽と雪愛に声をかけた。
「あのね、今日の休憩は全部衣装を着たまま取ってほしいの」
「?それはいいけどどうして?」
雪愛が不思議そうに理由を尋ねる。春陽も同じ疑問を持っていたため頷いている。
「今日も休憩は二人で回る予定だよね?二人が衣装を着て文化祭を回ってるだけですごい宣伝になるって昨日わかったからさ。校内であれだったんだから一般開放の今日はずっと宣伝効果が高いと思って」
葵の言い分に驚く春陽と雪愛。
実際昨日二人を見かけた生徒がクオリティが高そうだとたくさん店に来たようだ。
「それに、二人が登校する前に女子の先輩が一人来てね。二人はまだいないって伝えたら、お礼を伝えてほしい、って。昨日フォトスポットをしているクラスのモデルをしたんでしょ?その件だって。綺麗に撮れたからぜひ見に来てとも言ってたよ。他のクラスが宣伝にって思うくらいだもん。ウチのクラスがやらない手はないでしょ?」
だからお願い!と手を合わせる葵の前で、春陽と雪愛は思わず顔を見合わせてしまう。理由はすんなり頷けるものではなかったが、求められているのは衣装を着ているということだけのため二人は了承するのだった。
こうして始まった文化祭二日目。
コスプレ喫茶には順調に客が来ていた。
そんな中、春陽は準備のときからずっと少し落ち着かない気持ちだった。
なぜなら今日美優が来るかもしれないからだ。
雪愛を交えて話していたとき、文化祭の話になり、美優が行けたら行ってみたいと言ったのだ。
本当に来るかはわからない。
だが、だからこそ落ち着かなかった。
生徒や赤の他人ならまだいいが、この恰好をしているのを美優に見られるのは少々恥ずかしいのだ。
雪愛はそんな春陽を見て、何を気にしているのか昨日聞いているため、ちょっと困ったような表情で笑みを浮かべている。いや、申し訳なさそうな表情だろうか?
すると、開店からしばらくして、入口で客を誘導しているクラスメイトから春陽に声がかけられた。
「風見君、お姉さんが来てるわよー」
その声に春陽が入口の方を向く。
やっぱり来た、と春陽は思ったが、それは予想外の形でのものとなった。
なぜなら――――。
赤みかかった茶髪のショートヘア、キリッとした目元のスレンダーな女性、雪愛に似た顔立ちで肩まである綺麗な黒髪のスタイルのいい女性、ミルクティーベージュのミディアムヘアで、その中ではちょうど中間くらいのスタイルをした大学生くらいの女性の三人が入口から入ってきたからだ。
店内は顔立ちの整った三人の年上女性がいきなり登場したことに騒めいている。
あの中の一人が今注目を集めている春陽の姉だというのだから余計にだ。
ただその中に雪愛に似た女性がいることに疑問顔を浮かべている者も多い。
入口でテーブルを指定された三人はそこへ腰かける。
「お帰りなさいませ、お嬢様方」
春陽が三人の座ったテーブルへと行き、少し顔を引きつらせながらもなんとか平静を装いお決まりの言葉で迎える。
「ふふっ、春陽、遊びに来たよ。執事服似合っててカッコいいじゃない」
美優がそんな春陽に笑いを堪えきれない様子で言葉をかける。
「っ、…ありがとう。来るかなとは思ってたけどこの状況はさすがに予想外だよ姉さん」
美優が来たことはまだいい。確実ではなかったが予想できたことだったから。
だが現実はそれだけではなかった。
麻理が一緒にいるのを見て春陽は本気で驚いた。まさか麻理が来るなんて思ってもみなかったのだ。
「ハル、すごくよく似合ってる。髪型も、うん。すごくいいと思うわ」
麻理が優しい笑みを浮かべてそんな感想を言う。
昨日はバイトがなかったので春陽が髪を切った姿を麻理は今初めて見た。
「…ありがとうございます。麻理さん、お店休んでしまってよかったんですか?」
麻理の言葉がなんだかくすぐったい。だからそれをごまかすようにして尋ねた。
「そんなの気にしなくていいのよ。私が来てみたかったんだもの」
だが、春陽の言葉は麻理に笑って流されてしまった。
実は、春陽が髪を切りに行った後、美優そして雪愛と話して麻理も一緒に文化祭に行けたら行こうという話になったのだ。
このとき、春陽と雪愛がいつなら執事とメイドとしてコスプレ喫茶にいるかも雪愛に確認を取っていた。
だからこうして二人がいるタイミングで来れたのだ。
それでも麻理は店があるし、このときはまだ確定という訳ではなかった。
そして、確定じゃないから伝えて春陽に気負わせても悪いと言われれば雪愛も春陽には何も言えなかった。
ただそんな話があったということは知っていた雪愛。
雪愛のちょっと困った表情は、もし来るなら、美優だけでなく麻理も来るかもしれない、というのを知っていたからだった。
さらに春陽にとって一番一緒にいるのが理解できない人が続く。
「春陽君、久しぶりね。花火大会の日以来かしら。素敵ね。執事様って感じがするわ」
「……お久しぶりです、沙織さん」
なんとかそれだけを返す春陽。
執事様って何だ?とか考える余裕もなかった。
沙織の登場に春陽は驚きというよりも困惑が大きかった。
美優と麻理が一緒に来た流れは何となく予想がつく。
フェリーチェで話したときに文化祭の話も出たし、自分がいなくなった後にでもそういう話になったのだろう。
だが、そこに雪愛の母である沙織まで一緒にいるのはどういうことなのだろうか。
そんな疑問とは別に、三人から衣装姿を褒められ、春陽の顔は少し赤らんでいた。
今の春陽は、麻理の言葉も素直に受け取ることができる。だからこそ照れくさいやら恥ずかしいやらで心が大変なことになっているのだが。
一方、雪愛も美優、麻理と一緒に沙織が入ってきたのを見て目を大きくした。
ついこの間、麻理と沙織が知り合いだと知ったばかりだが、まさか一緒に文化祭に来るなんて、と。
春陽が三人のテーブルに行き、話し始めたのを見て、走らないように、けれど気持ちばかり急いで自分もそこに向かい、合流した。
「どうして母さんが美優さんや麻理さんと一緒にいるの!?」
テーブルまで来て、開口一番雪愛が沙織に問う。
雪愛が母さんと言ったことでそれが聞こえたクラスメイトが目を大きくする。沙織は、姉と言われた方が納得できるほど若々しいからだ。
「あら?春陽君は素敵な執事様なのにメイドさんは恰好だけなのかしら?」
沙織はニヤリという表現が適切に感じるような笑みを浮かべている。どうやら悪ノリしているようだ。
だが綺麗なお姉さんといった感じの沙織がすると実に様になっている。
「っ……、お帰りなさいませお嬢様方」
「ふふっ、麻理さん達とは一緒に遊びに来ただけよ?」
「遊びに来ただけって……」
雪愛はジト目になり沙織を見ている。
昨日も今朝も家でそんな話が出なかった雪愛は、はぐらかされたと感じ少しお怒りのようだ。
そんな二人の様子を見ていた麻理が間に入る。
沙織が雪愛に何も伝えていなかったことが今のやり取りでわかったのだ。
「まあまあ。雪愛ちゃんごめんね?びっくりしたわよね?昨日沙織さんがフェリーチェに来て、また色々話してたら二人の文化祭の話で盛り上がっちゃって。それなら一緒に行こうってことになってね」
「あら。麻理さんが全部言っちゃった。ま、そういうことよ」
もう少し雪愛を揶揄いたかったのに残念、とでも言いたげだ。
「私も昨日麻理さんからお店を休むことにしたから文化祭行こうって連絡もらって、待ち合わせ場所に行ったら沙織さんが一緒でびっくりしちゃった」
美優は楽しそうだ。雪愛の母である沙織とも知り合えて嬉しいのかもしれない。
「……そうですか……」
雪愛は大きなため息を吐いた。
そのため息にはどうしてそれを自分に言わないのだという沙織に対する不満が多分に込められていた。
「……沙織さんはフェリーチェにいらっしゃっていたんですか?」
だが、今のやり取りで春陽の知らない事実が判明した。
驚きの表情で沙織と麻理を見ている。
「ハルが知らないのも無理はないわ。沙織さんが来てたのはハルのバイトの時間と少しずれてたから。実は何度か来てくれてるのよ」
春陽の疑問に麻理が答える。
どうやら麻理と親しくなるくらいには来店しているらしい。
「ええ。フェリーチェは私のお気に入りのお店でね。通ってるうちに麻理さんとお話するようになって、親しくさせてもらってるの」
「そうだったんですね……」
世間は広いようで狭いという言葉があるが正にそれを実感するような状況だった。
するとそこで、春陽の疑問が解消されたとみて、美優が雪愛の和風メイド姿に注目した。
「それにしても雪愛ちゃんもすっごく似合ってるね。可愛いっ。普通のメイド服も可愛いと思うけど雪愛ちゃんはその和風の方がぴったりって感じ」
「ふふっ、本当ね。すごく可愛いわよ、雪愛ちゃん」
「雪愛、よく似合ってるわ。そうして春陽君と並んでると特に、ね」
美優、麻理、沙織の順に雪愛の衣装姿を褒める。
沙織だけウインク付きで、雪愛を少し揶揄っている感じもするが。
「あ、ありがとうございます……」
それらの言葉に雪愛は頬を染めて照れるのだった。
その後、注文を聞いて、一度テーブルを離れる春陽と雪愛。
「ちょっと予想外過ぎた……」
「ごめんね、春陽くん。美優さんが麻理さんと一緒に来るかもしれないってことはわかってたんだけど確定じゃなかったから……。母さんのことは私もびっくりしてて……」
「いや、それは別にいいんだ。店を休んでまで麻理さんが来るなんて思ってもいなかったから驚いたけど。雪愛はお母さんが麻理さんと仲がいいこと知ってたのか?」
「私もついこの間知ったばかりなんだけどね。フェリーチェに行ってはよく麻理さんとお喋りしてるみたい」
麻理と沙織の繋がりには、本当は春陽が関わっているがそのことは雪愛の口からは言えない。
そして、美優達が注文した品を持っていく春陽と雪愛。
セリフはちゃんと執事、メイドになりきっている。
テーブルに注文された品を並べていく春陽に美優が声をかけた。
「春陽。後でいいからさ、一緒に写真撮ろうよ」
美優は軽く言っているように聞こえるかもしれないが、それは見せかけだ。実際はそうではない。
幼い頃も一緒に出掛けることが少なかった春陽と美優が一緒の写真は驚くほど少ない。そもそも春陽の写真が全然ないのだ。
美優の手元にあるもの、となれば片手で数えられるほどしかない。
それも幼い頃のものだけ。
だから今の春陽と一緒の写真、家族写真が欲しいと美優は思った。
「あら、いいわね」
「写真はここで撮ってもいいのかしら?」
麻理と沙織も美優の言葉に同意を示す。
「……この中は一応撮影禁止にさせてもらっているので……」
禁止事項を伝えながらも春陽はどうするかと考えていた。
美優の希望なら叶えたい、そう思ったから。
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