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〈改稿版〉人間不信の俺が恋なんてできるわけがない  作者: 柚希乃愁
第六章 体育祭

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第58話 体育祭前日に

 それから数日が経過したこの日。

 今日まで春陽と雪愛のことを黙って見守っていた友人達だが、そろそろ堪えきれなくなってきていた。

 二学期が始まってからずっと心配していたのだ。

 今までなら春陽と話していることの多かった雪愛が、色々な人、主に男子と話すことが増え、代わりにあまり春陽と話さなくなったように感じていたから。

 学校での二人を見ているとどうにも第三者の影響ですれ違ってしまっているように見えた。モヤモヤとした気持ちが日に日に大きくなり、もし何か困っているなら相談してほしいし、自分達で力になれることなら何でも協力したかった。これは別に春陽と雪愛を除く七人で何か話し合った訳ではない。けれど皆の想いは一致していた。

 そうして昼休みになり、いつものメンバーで集まってそれぞれ昼食をとっているとき、悠介達は春陽に、瑞穂達は雪愛に尋ねた。

「なあ、春陽、お前ら最近大丈夫か?あんま学校で話せてないだろ?」

 切り出したのは悠介だった。悠介が言うお前らが誰を指すかは皆わかっていた。

 和樹達も悠介の言葉に同意するように春陽を見る。

「ん?ああ、大丈夫だ。確かにここではあまり話せてないけど、電話とか登校するときとかちゃんと話せてるから」

「そうなのか?なんだ、心配して損したか?」

「そんな言い方は駄目だよ、蒼真君。でも仲良くしてるみたいでよかったよ」

「だな。ちょっと安心したよ」

「……心配かけて悪い。ありがとう」

 春陽の口元に小さく笑みが浮かぶ。四人の言葉が春陽には少しむず痒かったが、嬉しかった。

「けど、白月の方は大丈夫か?瑞穂達もいるからずっとって訳じゃないけど、二年になってこんなに男子から話しかけられるの初めてだろ?」

 和樹が雪愛のことも心配する。

「だな。あいつら白月に話しかけるようにはなったけど、本当のところは兎も角、あくまでクラスメイトとしてって感じは崩さないからな。白月も無碍にはできないんだろ。いい加減脈がないって気づけばいいのにな」

 悠介が見ていて感じたことを率直に言う。

「ああ、雪愛もそんなこと言ってたな。全部言っていいって話はしてるんだが、ただのクラスメイト相手に全部話したとして、だから放っておいてっていうのは憚られるみたいだ」


 彼氏がいるから異性と話せないというのは確かにやりすぎなように思える。

 実際、春陽も雪愛もそんなことを言いたい訳ではない。

 ただ、男子達の下心というか、あわよくば、といった気持ちが透けて見えるからもどかしいのだ。

 それを表面上は取り繕うから余計に。

 もっと踏み込まれれば逆に言いやすくなるのだろうが、今のところ彼らにそんな素振りはない。

 春陽の言葉を聞いて、それは確かにそうだろうな、と悠介達は雪愛の気持ちもわかり、そんな男子の相手をしなければならないことを可哀想に思った。


「春陽君はそれでいいの?」

 隆弥が気遣うような視線を向けて春陽に聞く。

「いいとは思ってない。けど、俺が割って入っても、こんな奴が、ってなるだけだろ?余計ややこしくなる。だから俺もやりようがなくてな」

 春陽は不甲斐ない自分に腹が立ち苦い顔をした。

「そんなことはないと思うけど……」

 隆弥がやんわりと否定するが、春陽は苦笑するだけだ。

 隆弥達には春陽が言うようなことになるとは思えない。

 春陽は自分のことになると評価が低すぎる。いったいどういう経験を積んでくればこんな考えをするようになるというのか、悠介以外の三人にはわからないが、それがすごくもどかしかった。

 けれど、それは春陽が自分で気づかないと、自分で自分をもっと肯定してあげないとどうにもならないことなのだ。


 雪愛達の方でも同じような流れになり、瑞穂達からは、はっきり彼氏がいると言った方がいいと言われていた。

 そうすれば、少なくとも雪愛を狙ってる男子は離れるはずだと。

 それに対し、雪愛は曖昧な笑みを浮かべて「ありがとう」とお礼を言った。

 そんな雪愛の態度が心配で、瑞穂達は雪愛に寄り添い、優しい言葉をかける。すると彼女達に背中を押されるようにして雪愛がポツポツと自分の気持ちを話し始めた。


 雪愛自身、自分には春陽という彼氏がいるから、と声を大にして言いたい気持ちが日に日に強くなっていた。

 だからもう放っておいてほしい、と。

 けれど、クラスメイトの男子達はあくまで友人として仲良くなりたい、遊びに行きたいという体裁を崩していない。

 内心はわからないが、表面上は、ただのクラスメイトとして雪愛と話している彼らに対し、彼氏がいるからやめてください、と言うのも自意識過剰なような気がしてしまうのだ。

 彼氏がいたら話しかけることすらできない、なんてことはないのだから。

 雪愛も色々と考えすぎて、どうしたらいいのかわからなくなってきていた。


 そんな雪愛の気持ちを聞いた瑞穂達は、言葉を重ねる。

 放っておいて、まで言う必要はないのだ、と。

 ただ事実として彼氏がいることを言えばいい。

 遊びに誘われるのなら、そのタイミングで断る理由として言えば何の問題もないだろう、と。


 瑞穂に至っては、あのときは誤魔化すことが最善だと思ったが、こんなことなら、二学期初日に雪愛が出かけた相手は彼氏かと聞かれたとき、そうだと答えていた方がよかったのではないか、とそんなことまで考えてしまう。


 瑞穂達の本気で雪愛と春陽のことを思っての言葉に雪愛の気持ちもその方向で固まっていった。


 その日の夜、春陽と雪愛がいつものように電話しているときのこと。

 お互いに昼休みのときに友人達から言われたことについて話していた。皆が自分達のことを気にかけてくれていることに二人で温かい気持ちになる。

 そして、雪愛は自分の気持ちを春陽に伝えた。


 さらに日々は過ぎていき、クラスTシャツも無事に届き、体育祭の準備は着々と進んでいった。

 しかし、雪愛が決意して以降、残念ながら、と言っていいのか、男子から遊びに誘われることはなく体育祭前日を迎えた。


 放課後になり、雪愛は瑞穂達と一緒にチアの最後の練習に行こうとしていたところを一人の男子生徒に呼び止められた。

 真面目そうな爽やかな見た目の男子だ。

「白月さん。ごめん、ちょっと話したいことがあるんだ。すぐ済むから一緒に来てくれないかな?」

 雪愛は、瑞穂達に先に行っていてと一言声をかけた。

 瑞穂達には大丈夫かと心配されてしまったが、雪愛が大丈夫よと言うので、心配そうにしながらも、待ってるからねと伝えて雪愛と別れ、瑞穂達三人は先に練習に向かった。

 そして、雪愛は、その男子生徒の先導のもと、屋上へとやってきた。

 春陽はすでに下校しているため学校にはいない。


 途中、この男子生徒のクラスメイトなのだろう。

 明らかに雪愛を連れて歩いている彼に、女子生徒二人組が面白がって話しかけてきたが、彼は適当に言葉を返し、誤魔化すようにして雪愛をここまで連れてきた。

 そう、この男子生徒は雪愛のクラスメイトではないのだ。


「突然ごめん。あ、俺のこと知ってるかな?」

「いえ」

 少し自信があったのか、雪愛に知らないと首を振られ、男子生徒が明らかに狼狽える。

「そ、そっか。はは。そ、そうだ。それならまずは自己紹介から。俺は――――」

 彼はA組の生徒らしい。クラス、名前、入っている部活、好きなものと本当に自己紹介を始めた。

 勉強もスポーツも得意で、結構モテる、らしい。

 なぜそんなことまで言うのか。

 だから雪愛も自分のことを知っていると思ってた、と言いたいのかもしれない。自分に自信があるタイプの人間のようだ。


 それを雪愛は黙って聞いていた。

 クラスも名前も初めて聞いた。当然、話したこともない。

 最初は何か用事かと思ったが、ここまで来ればわかる。

 一年生の頃には何度もあったことだ。

 逆に二年になってからはなかったため、気づくのが遅れてしまった。

 さすがに雪愛にもこれから続く言葉は予想がついた。

 予想はついても一向に慣れるものではないが。

 だが、予想とは異なる言葉が続いた。

「それで、一年の頃は告白を全部断ってるって聞いてたんだけど、白月さんが最近恋に積極的っていう話を聞いて……」

 黙って聞いていた雪愛の眉がピクっと反応する。

(何それ!?なんでそんな噂が……?)

 それは、雪愛のことを良く思っていない女子が流したものだった。

 と言っても、未来のときのように直接的なものではない。

 彼女達の根底にあるのは妬みや僻みで、雪愛が美人でモテることを承知した上で、付き合おうと思ったら男を選びたい放題でいいよね、というようなことを陰で言われていた。

 この男子生徒はそれをオブラートに包んで言っているようだ。

 彼は、意を決して言葉を続ける。

「白月さん、好きです。俺と付き合ってください」

 彼はその噂を真に受けて、雪愛に告白したようだが、所詮噂は噂だ。

 しかも、その話を直接雪愛にするのはどうなんだろうか。まるで今なら自分にもチャンスがあると思って、と言っているように聞こえる。

 実際、彼はそう思って今日告白することを決めていた。

 けれど、何を言われても、雪愛の返答は変わらない。

「ごめんなさい。お付き合いできません」

 はっきりと断る雪愛。

「っ、それは好きな人ができたってことなのかな?」


 雪愛としては、恋に積極的だなんて、そんな噂をそのままにしておきたくはない。

 今知ることができてよかったとすら思う。

 自分は春陽のことが好きで、春陽との恋を大切にしたいだけなのだ。

 だから。

 彼はクラスメイトではないが、雪愛は決断した。

「……ええ。私には今付き合ってる人がいるから」

「そうだったの!?けど……」

「何かしら?」

「あ、いや、最近男子と積極的に話すようになったって。その中の誰かと付き合い始めたってこと?もう遅かったってことかな?」

「……遅いも何も……。そもそも、積極的に話すようになったつもりはないわ。クラスメイトとは話くらいするわよ」

 まるで、雪愛が品定めをして、一人を選んだかのような言い方に雪愛はムッとしてしまう。

「え?でも恋人探ししてたんじゃないの?」

 雪愛の言い方が自分の知っていることと違って、男子生徒がさらに問いを重ねる。

 なぜ話したこともない人にこうも言われなければならないのか。

 失礼な言い様に、雪愛は話すのが嫌になってきていた。

「そんなこと、した覚えはないわね。というか、好きな人がいるのにそんなこと誰もしないでしょう?」

「そう、だね」

 雪愛の表情が無くなって、冷たい印象を受けたのか、男子生徒の言葉が若干詰まる。

「だからごめんなさい」

 話はこれで終わりだと、そう言って頭を下げる雪愛。

「あ、いや、え、っと…こっちこそごめん。知らなくて。今言ったことは忘れて」

 慌てたように言葉を続ける男子生徒。

 そのまま、彼は本当ごめん、と言って先に屋上から去っていった。


(とうとう付き合ってるって言っちゃった)

 言ってしまった、という感覚よりも今はすっきりした思いの方が強い。

(でも、あんな噂が広がってるなんて……。春陽くんに変な誤解をされないようにしないと。……帰ったら春陽くんに今日あったことを話そう。告白されたなんて本当は言いたくないけど、隠し事なんてもっとしたくないから……)

 雪愛にとっては、春陽とのことが最優先だ。

(……結局彼氏が春陽くんだってことまでは言えなかった)

 彼の物言いに、そこまで言う気が失せたというのが正しいかもしれない。

(今日のこともそのうち広まるのかな。今度は誰と付き合ってるんだとか聞かれて色々詮索されるの?。…そういうのは嫌だな。どうして放っておいてくれないんだろう……)


 雪愛は、しばらく屋上から風景を眺め、気持ちを落ち着かせると、瑞穂達が待つ最後のチアの練習に向かった。

 そこで、心配してくれていた瑞穂達に事の次第を伝えるのだった。


 実はこのとき、雪愛も件の男子生徒も気づかなかったが、途中で会った女子生徒二人が、雪愛達の後をつけていて、屋上でのやり取りを盗み見ていた。



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