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〈改稿版〉人間不信の俺が恋なんてできるわけがない  作者: 柚希乃愁
第五章 過去との再会

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第50話 お見舞い、それは初めてのお宅訪問

 その日の深夜。

 春陽は一度目を覚ました。

 ひどく汗を掻いたようで気持ち悪い。

 嫌な夢を見ていた気もする。

 実際、春陽は寝ている間かなりの時間(うな)されていた。

 やはり突然美優に再会したことが大きな精神的負担になっていたようだ。

 春陽は覚えていないが、もしかすると昔の夢を見ていたのかもしれない。


 熱はまだ下がっておらず、春陽は起き上がるのもきつい状態だった。

 それでも何とか体を起こし、スマホで時間を確認すると、しばしぼんやりとベッドの上に座っていた。

 スマホには何件かメッセージが届いていたが、そこまで目がいかず、春陽が気づくことはなかった。

 定まらない思考で、体のきつさと汗で気持ち悪いのを天秤に掛けていた春陽は、徐に立ち上がり、体を引きずるようにしてシャワーを浴びにいった。

 どうやら気持ち悪さを何とかしたい気持ちが勝ったようだ。


 やっとの思いでシャワーを浴びた春陽は、冷蔵庫を開け、ペットボトルの水をゴクゴクと飲んだ。

 本当ならスポーツドリンクなどの方がいいのだろうが、生憎と春陽の家にそんなものはない。

 飲食できるものは、冷蔵庫の中の水と常備しているカップ麺くらいだ。

 冷たい水を飲んだからか少し落ち着いて一息吐く春陽。けれどその息はまだ熱い。


 もし明日の朝になっても熱が下がらない場合は、バイトを休まなければならないため、麻理に連絡する必要がある。

 それが頭に思い浮かぶくらいには思考できるようになった。ただ、熱が下がっただけでは客にうつしてしまうかもしれないため、麻理がバイトを認める訳がない、ということまでは頭が回っていないようだ。


 ここ数年、こんなに熱が出たことは一度もない。

 麻理の家に住んでる時もなかった。だからこそあまりに久しぶり過ぎて余計に辛く感じてしまうのかもしれない。

 どうしてこんなことになったのかと、無意味だとわかっていてもつい考えてしまう。今日のオープンキャンパスを休めと身体が訴えていたのかと変な考えが浮かび、春陽は思わず苦笑した。


 熱が下がることを祈りながら、春陽は再びベッドに入り、眠りに就くのだった。


 実際のところは誰にもわからないが、麻理の家に住んでいる時も熱が出たことなどないとなると、こう考えた方が自然ではないだろうか。雪愛のせいという言い方にもなってしまいかねないその考えを、春陽は考えもしなかったが、今回の発熱は、ずっと気を張り続けて頑張ってきた春陽が雪愛という心許せる恋人ができたことで、その気を緩めることができた結果だと。もしそうなら確かに身体は辛いかもしれないが、春陽にとってはいい兆候と言えるのかもしれない。



 翌日。

 雪愛はフェリーチェに向かっていた。

 春陽が心配で昨日メッセージを送ったが、既読も付かず、もちろん返信もなかった。

 今日になっても状況が変わらなかったため、開店と同時に来たのだ。

 予定通りなら今日もバイトのはずだし、ここに来れば春陽に会えるだろうと考えて。


 フェリーチェに着くと、そこには悠介がいたが、他に客はいなかった。

 悠介は開店前から来ていたようで、麻理と話をしていた。


「あら、雪愛ちゃん。いらっしゃい」

 雪愛が入ってきたことにいち早く麻理が気づき、悠介との話をやめて雪愛に声をかける。

「おっす、白月」

「こんにちは、麻理さん、佐伯君。あの、春陽くんは……?」

 雪愛は挨拶を返しながらも店内を見回したが、春陽が見当たらない。不安な気持ちが強くなる。


 そんな雪愛の心情を察したのか、麻理は気持ちはよくわかると思いながらも、大したことではないと伝えるように優しく言った。

「ハルね、昨日熱が出たみたいで。今朝、熱が下がらないから今日はバイト休ませてほしいって連絡があったわ」

 春陽は今朝、麻理に電話していたようだ。

 春陽の声は弱弱しく、長電話はよくないと判断した麻理は端的に状況を聞いていた。

「熱?春陽くん体調崩してるんですか!?」

「昨日ずっと体調が悪かったらしいわ。家に帰って熱を測ったら高熱だったみたい」

 困った子よね、とでも言うように麻理は肩を竦める。

「俺もちょっと心配だったからさ。麻理さんと今その話してたんだよ」

 どうやら悠介も雪愛と同じ理由でここに来ていたようだ。

 春陽が高熱を出している。

 その事実に雪愛の表情が曇る。

 そして、居ても立っても居られないといった様子で、話し始める。

「……あの、私春陽くんのお見舞いに、……行きたいんですけど、…お家の場所教えていただけませんか?」

 行きます、と言いたかった雪愛は、自分が春陽の家の場所を知らないことに途中で気づき、しゅんとなりながら麻理にお願いした。

 自分の家には何度も送ってもらった雪愛だが、春陽の家には行ったことがなかった。

 今まで気にしていなかったが、今はそれがもどかしく感じてしまう。

「ええ。もちろんよ。家に何もないみたいでね。私か、無理そうなら悠介に頼んで何か持っていくって言っちゃったし」

 雪愛の言葉に麻理は柔らかい笑みを浮かべる。

 店を一時的に閉めてでも麻理は春陽のところへ行こうと思っていた。

 けれどそこに、悠介が話したいことがあると麻理にメッセージを送ってきたのだ。悠介の話とは昨日のオープンキャンパスであったことについて。それに対し、ちょうどよかったと、麻理から無理そうなら大丈夫という前提で、春陽のお見舞いの話があり、そういうことなら自分が行くと悠介が即決して、すぐにフェリーチェに来た。朝からそんなやり取りがあったため、開店前から悠介がいたのだった。


「じゃあ、これから俺と白月で行くか?案内もできるしさ」

「ええ。ありがとう、佐伯君」

 悠介が元々したかった麻理との話はもう終わったようで、悠介は雪愛を誘った。

「はい、これハルの家の合鍵ね。寝てて出られないといけないから。ハルには渡していいって言われてるから安心して。お見舞いが終わったら返しに来てちょうだい」

 麻理から春陽の家の合鍵を預かる雪愛。一度それをぎゅっと握ると決意のこもった目を麻理に向けた。

「はい!ありがとうございます!」

 そして、お礼を言って頭を下げた。

 麻理からは、それとこれ、と言ってお金も預かった。これで何か買っていってあげて、と。

 こうして、雪愛と悠介の二人は早速、春陽の家へと向かうのだった。


 途中駅前のドラッグストアで薬や食料などの見舞い品を買って、もうすぐ春陽の家に着くという頃。

 雪愛は初めて春陽の家に行くということで、内心ドキドキしていた。フェリーチェにいた時には、しっかりお見舞いするぞと意気込んでいたというのに、一歩一歩確実に春陽の家に近づいているということを意識してしまい、段々緊張してきたのだ。

「春陽の部屋さ、入っても驚かないでやってくれな」

 すると、悠介が突然そんなことを言った。急に話しかけられて雪愛は少しだけびっくりしてしまった。

「え?…散らかってるってこと?それなら春陽くんさえよければ私が片付けるけど」

「いや、そういうことじゃないんだ。まあ実際に見てみなきゃわかんないよな」

 そう言って苦笑を浮かべる悠介。

 雪愛は、そんな悠介に疑問顔を浮かべた。


「着いた。ここの二階だ」

 春陽の家は駅を挟んで雪愛の家と反対方向にしばらく歩いたところにあった。

 そこは三階建てのアパートで、階段を昇っていく悠介の後ろを雪愛もついていく。

 二階の角部屋が春陽の部屋だった。

 悠介がチャイムを鳴らすが中からの反応はない。

 どうやら寝ているようだ。

 悠介は雪愛から鍵を受け取り、そっと扉を開いた。


 初めて入る春陽の部屋に雪愛の心臓が高鳴る。

 思えば、春陽も雪愛の家の前までで部屋には上がっていない。

(うぅ…緊張する…)


 鍵を閉め、キッチンを通り、部屋の扉を開ける。

 悠介に続いて雪愛が春陽の部屋へと入り、中を見た瞬間、緊張はどこかにいき、思わず目を大きくしてしまった。


 普通、部屋というものはその人の色が出るものだ。

 雪愛の部屋のぬいぐるみや悠介の部屋の漫画や雑誌など趣味のものがあったり、そうでなくても、テレビやパソコン、本棚などその部屋で過ごす上での、その人の生活感というものがあるはずだ。


 だが、春陽の部屋にはそれがなかった。

 実際の広さ以上に広く見えるほど、空っぽの室内には簡素なベッドとローテーブルがあるだけだった。

 学校の鞄と積まれた教科書が異質に見えるほどで、服なども小さなクローゼットに全部収まっているのだろう、室内にはなかった。

 そのあまりにも生活感のない光景は、まるで自分がいつ消えてもいいようにしているようで……。

 そんな感想を抱いてしまった自分に怖くなり雪愛の身体が少し震えた。


「春陽は寝てるみたいだな」

 悠介の言葉にハッとする雪愛。

 ベッドを見れば、春陽が眠っていた。

 だが、その表情はどこか苦しそうに見える。

 やはりまだ身体が辛いのだろうか。

「何にもない部屋でびっくりしただろ?俺も初めて来た時は驚いたからな。本人は生活に必要ないものを置いてないだけだって言うんだけど」

「っ、え、ええ」

「けど、何もない訳じゃないみたいだな」

 悠介の口元には笑みが浮かんでいた。

「えっ?」

「ほら、あれ」

「…あっ」

 悠介が指で示したのはテーブルの上。

 雪愛がそこに目を遣ると、財布、その隣には、ペンギンのキーホルダーが付いた鍵、そしてその上には、雪愛がプレゼントした髪留めと雪愛と撮ったプリントシールが置かれていた。

 この部屋の中で、そのテーブルの一角だけ、確かに生活感が、春陽の色があった。

 それを見て雪愛の口元が綻ぶ。


「買ってきた飲み物とか冷蔵庫に入れておくわ」

「ああ、頼む」

 雪愛はスポーツドリンクやゼリーなどを持ってキッチン横の冷蔵庫を開けた。

 中にはペットボトルの水だけが入っており、後は空っぽだった。

 それを見た雪愛の表情が僅かに歪む。


 雪愛が部屋へと戻ると微かに春陽の声が聞こえた。

 自分達が来たことで起こしてしまったのだろうか。

 そう思った雪愛だったが、そうではなかった。

「み……ゆ……。ごめ………ごめん……」

 春陽の声は寝言だった。

 悠介は複雑そうな顔をしている。

「春陽くん……」

 美優の夢を見ていて、だから苦しそうな表情をしていたのか。美優との間に何があったのか知らない雪愛は思わずといった様子で春陽の名を呼んだ。

 すると、その声が聞こえた訳ではないだろうが、春陽の目がゆっくりと開いていく。

 目を開けた春陽は、首を僅かに動かし、悠介、そして雪愛を視界に捉えると目を大きくし、一つ息を吐いた。

「……来てたのか」

「おう、鍵は麻理さんから借りたぜ?」

「ああ、わかってる。雪愛も来てくれたんだな。ありがとう。けどうつるといけないから二人とも―――」

「ううん。それより熱は?薬は飲んだ?何か欲しいものはある?」

 先ほどの寝言もあって、雪愛は眉尻を下げている。

「白月、そんな一気に―――」

「大丈夫。熱は昨日よりマシだと思う。薬は飲んでないな。家にないし。欲しいものは―――何か買ってきてくれたのか?」

 春陽が二人に風邪がうつらないよう早く帰った方がいい、と言おうとしたのを雪愛が遮り、悠介が雪愛に一気に聞き過ぎだろうと止めようとしたが、そんな悠介を春陽が止め、雪愛の問いに順番に答えていった。

 随分と寝たためか、頭は昨日よりもはっきりしているようだ。

 欲しいものと言われても、この家には水くらいしかない。と、そこで朝の麻理とのやり取りから何か持ってきてくれたのだろうかと思い至り、逆に聞いた。

 雪愛が買ってきたものを春陽に伝える。

「じゃあ、スポドリ貰ってもいいか?」

「もちろん。待ってて」

 雪愛がスポーツドリンクを取りに行くと、春陽は体を起こし、ベッドの縁に座った。

「薬も買ってきたから、何か口に入れてそれも飲んどけ」

「ああ、悪いな」

 すぐに雪愛がスポーツドリンクを持って戻ってきた。

 それをお礼を言って受け取り、一口飲む春陽。

 そこで、喉が渇いているのを自覚したのか、ゴクゴクと飲み始めた。

 その後、食欲は全く無かった春陽だが、何とかゼリーを一つ食べ、薬を飲んだ。



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