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〈改稿版〉人間不信の俺が恋なんてできるわけがない  作者: 柚希乃愁
第四章 花火大会と海の家

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第40話 六人で過ごす楽しい時間、そして始まる二人の時間

 春陽は、海の家で悠介が話してくれた、雪愛達が啓蔵の民宿に泊まることになった経緯を思い出していた。


 今回のことは本当に偶然で、当初は悠介にも内緒の予定だったそうだ。

 悠介から話を聞いて、そんな偶然があるのかと春陽は目を大きくした。こんなサプライズ、心臓に悪いだけだ。

 内緒にする理由がどこにあるんだとか思うところはあったがそれについてはまあいい。それに同じ宿といっても、当然だが部屋は別々だし、言ってみれば客と従業員の関係だ。…ちょっと違う気もするが、大して気にする必要もないだろうと結論付ける。

 だが、その結果、雪愛達は今日は一日ここにいることになる。

 そのことの方が春陽にとっては余程大きなことだった。

 加えて、啓蔵の計らいで、今春陽は雪愛達と一緒に遊ぶことまでできている。


 春陽は思ったのだ。

 これはいい機会なのではないか、と。


 想いを伝えたいとは思っても恐怖から中々踏ん切りがつかなかった。

 そもそも、そのためだけに会う約束をするというのも何だか気が引けた。

 けれど、期せずして今こうして一緒にいる。


 想いを伝えることで、雪愛と気まずくなる可能性は当然ある。

 とういうか、その可能性は高いだろう。

 雪愛が告白を断り続けているのは有名な話だ。春陽だってそれは重々承知している。


 それでも、今を逃せばまたいつこんな機会があるかわからない。

 フェリーチェでも学校でも会う機会はこれからもたくさんある。オープンキャンパスだってある。

 けれど、その時自分に勇気があるかは別の話だ。今なら伝えられそうな気がする。偶然だが、昨日悠介に話ができたからかもしれない。

 ほぼ確実に断られることがわかっているのに、自分の想いを曝け出すのは怖くて仕方ないが、ぐずぐずと先延ばしにするのもそれはそれで辛い。

 春陽には自分が先延ばしにすればするほど何も言えなくなるだろうとわかっていた。


 春陽にとって伝える恐怖よりも、雪愛とのことで、言わず後悔することの方が避けたいことだった。


 それほどに春陽の中で、雪愛への想いは大切で、大きなものだった。

 当然だ。

 春陽が一人の女性にこんな想いを抱くのはこれが初めてのことなのだから。


 こんな考え自体が、自分の我が儘だということはわかっている。雪愛には迷惑でしかないかもしれない。友人のままでいれば少なくとも今の関係を続けることができる可能性は高い。それでいいではないか、と訴える自分もいる。


 それでも――――。

 そんな風に春陽の心の中は二つの異なる考えでかなり面倒なことになっていたが、徐々に一方に傾きつつあった。


 今、春陽は海の中でシャチフロートを支えている。

「ねえ、未来。やっぱりこれ二人はちょっと無理じゃないかしら?」

 その上には雪愛が乗っており、さらに未来が乗ろうとしているところだ。

「えー?サイズ的には二人でもいけそうだよー?」

 言いながら乗ろうとするのを止めない未来。未来が力を入れる度にシャチフロートは頼りなさげに揺れる。

「春陽くん、離さないでね?」

 海が怖い訳ではないが、ひっくり返って海に落ちるのは若干怖い。

 そんな思いから春陽に離さないよう頼む雪愛。

「ああ、わかってる」

 春陽は微笑ましいものを見るような目で雪愛に返事をした。


 近くには瑞穂が浮輪の真ん中の穴にお尻を入れて、ぷかぷかと波に揺られて浮きながら雪愛達のことを笑いながら見ている。


 一方、香奈はあまり水深があるのは苦手らしく、ビーチパラソルのところで荷物番を買って出た。

 悠介はそれに付き合うと言って同じく荷物番をしていたのだが、なぜか今は顔以外が砂に埋まっている。

 当然やったのは香奈だ。

 今は、お約束とでもいうように、悠介の胸の辺りに砂で大きなおっぱいを作成中だ。

 悠介はわからないが、香奈は楽しそうだ。

 真夏の砂浜に埋まっている悠介は水分補給をしっかりした方がいいだろう。


「ゆあち、やったよー!乗れたー!」

 なんとかシャチフロートに未来が乗った。

 後ろから雪愛の腰に腕を回している。

 だが、非常に危ういバランスだ。正直春陽が手を放した瞬間にひっくり返りそうだ。

 そこに、いつの間にか浮輪の穴に普通に体を入れてニヤニヤと笑いながら近づいてきていた瑞穂がシャチフロートの横から浮輪で体当たりした。

「それー!」

 さらに運悪く、高めの波が雪愛達を襲う。

 するとどうなるか。

「「きゃっ!!?」」

 雪愛と未来の悲鳴が重なった。

 いくら春陽が支えていても安定させるのは不可能だった。

 ダブルの衝撃で見事にシャチフロートはひっくり返り、雪愛と未来は頭から海に落ちた。


 すぐに海から頭を出した雪愛と未来は開口一番瑞穂に文句を言った。

「もうっ、瑞穂!吃驚するじゃない!」

「みずっちー、この恨みは大きいぞー!」

「はははっ、ごめんごめん。見てたらついやりたくなっちゃってさ」

 瑞穂の表情からこれっぽっちも悪いと思っていないことがわかる。

「ふっ、くくくっ」

 そんなやり取りを見ていた春陽が堪えきれないというように笑った。

「春陽くん?」

「風見っちー?」

「悪い。けど…くくっ」

 堪えようとしても笑ってしまう春陽。だが、それは雪愛と未来の矛先が春陽にも向けられる結果を招いた。

 二人は視線を交わし、頷き合う。

「えいっ」「えーいっ」

「きゃっ!?」「うおっ!?」

 雪愛と未来は瑞穂と春陽の顔に向けて思い切りバシャバシャと手で海水をかける。結果、四人とも頭から海水に濡れることとなったが、四人とも楽しそうに笑っていた。


 その後、ちょっと休憩してくると言って、未来はビーチパラソルのところへと戻り、香奈がやっているのを見て、面白そうと一緒に悠介に砂をかけ始めた。

 二人がかりになったからか、すでに、悠介は砂のビキニを着たような形になっている。

 今は全身が女性のボディラインになるように砂を削っているところだ。

 二人ともニコニコと笑顔ではあるが、集中している様子で、細部まで拘りがすごい。

 余程楽しいようだ。

 悠介のそろそろ出たいんだが?という言葉は笑顔の二人に却下されていた。

 一応、言えば水分は貰えているようで、悠介はなるようになれと目を瞑り無の境地のようになっており、疲れもあったのだろう、少し寝落ちしていた。

 起きたときにどうなっているか実に楽しみである。


 そこに、瑞穂が浮輪を持ってやってきた。

「こっちはこっちで面白いことしてるね」

「みずっちいらっしゃーい」

「瑞穂ちゃん、もういいの?」

「だって、ねぇ?見てよあの二人。完全に二人の世界なんだもん。寂しくなっちゃって」

 言いながら、泣き真似をする瑞穂だが、実際は、単に、二人の邪魔をしたくないというだけだ。

 瑞穂の言う方を見れば、雪愛が先ほどの瑞穂のように浮輪の真ん中の穴にお尻を入れ、ぷかぷかと浮き、春陽が浮輪の縁に肘から先を乗せていた。

 二人とも笑顔で何か話している。

 どこからどう見てもただのカップルだった。

 確かにあの周囲にハートが幻視できそうな空間に一緒には居づらいだろう。


 そうして瑞穂も加わり、悠介の砂の体は見事に完成した。クオリティーがすごい。

 完成間近に春陽と雪愛も戻ってきて、春陽にしては珍しく声に出して笑い、雪愛も可笑しそうに笑っていた。

 そこで、悠介も起きたが、砂が重く、自力で脱出することができない。砂を除けてくれと訴えるが、誰も聞いてくれなかった。それどころか未来がスマホで写真を撮り始めた。

 結果、悠介以外の全員のスマホで撮影されたのは言うまでもない。春陽まで撮り始めたことに悠介は文句を言うが、それはあまり意味のないことだ。この後、どうせ全員の写真はアプリのグループで共有されてしまうのだから。

 ちょっと不憫な悠介だった。


 三時を過ぎ、啓蔵に言われた通り、海の家に行くと、スイカに木刀、小さめのブルーシートを渡された。

 木刀が海の家にあることは驚きだが、それは完全にスイカ割りセットだった。

 海といえばやっぱりこれでしょ、とは啓蔵の言葉だ。

 テレビなどで見たことはあっても実際にやったことのない六人は、早速海の家にほど近い砂浜でやってみることにした。

 目隠しには未来がタオルを提供した。


 これが意外と難しく、全員挑戦したが、一周目は誰も割れなかった。

 それでも二周目。見事スイカを割ったのは香奈だった。

 周囲には春陽達以外にも幾人か見物している人がおり、割った時の歓声に香奈は身体をビクッとさせていた。

 割った本人が一番驚いているようで、タオルを外した香奈は目をパチパチとさせていた。


 割ったスイカは、春陽が海の家から包丁を借りてカットし、啓蔵と彩花の分を皿に取って、啓蔵達に一声かけてからそれを海の家の冷蔵庫に入れて、残りを六人で食べた。

 甘くて美味しいスイカだったようで、皆笑みがこぼれていた。


 スイカを食べ終えた六人は、啓蔵にお礼を言って、砂浜に設置されているビーチバレーのコートに行った。もちろん対戦するためだ。

 女子四人の中で運動神経のいい瑞穂と未来がペアを組み、悠介と香奈、春陽と雪愛がペアを組んだ。

 そして男子はアタック禁止のルールで試合が行われた。やるからには真剣にやった方が楽しいというものだ。

 三ペアの総当たり戦を行い、各ペア、楽しみながらも中々白熱した試合を展開したが、即席ペアとは思えないほどの抜群のコンビネーションで春陽、雪愛ペアが見事二連勝を飾った。


 こうして、存分に海を満喫した一行は、汗をたくさん掻いたし、体中砂だらけということで、今は啓蔵の海の家でシャワーを浴びている。ちなみに春陽と悠介が合流してからは、雪愛達も春陽達もナンパされることはなかった。


 もう黄昏時ということで、この後は水平線に沈む夕日を皆で見ようということになっている。


「なあ、悠介。お前にちょっと頼みがあるんだが」

「どうした?」

「この後、雪愛と少し話してくる。海に入ってる時に二人で話したいことがあるって言われてな。俺も話したいことがあったから」

「そうか。それで?頼みってのはなんだ?」

「ああ、これから俺は―――――」

 春陽が話し終えると悠介は目を大きくした。

「マジか……」

「ああ。だから後のフォロー頼んでいいか?」

「わかった。後のことは任せとけ」

「ありがとう。…悪いな」

「謝る必要なんかねえよ。頑張ってこい!」

 悠介は笑顔で春陽を送り出すのだった。



 シャワーを終えた春陽は今、水着に、ビーチサンダル、袖を捲ってパーカーを羽織っているといった出で立ちで浜辺を歩いていた。


 もうじき日暮れということもあり、海水浴客は疎らになってきている。

 昼間の賑わいが嘘のように波の音がよく聴こえる。

 雪愛とは昼間ビーチパラソルを立てていた辺りで待ち合わせることになっている。

 春陽はぼんやりと海を眺め、波の音を聴きながら、雪愛が来るのを待った。

 この時間でもまだまだ暑く、待ち合わせ場所に着いた頃には、濡れていた水着ももうほとんど乾いていた。


 もうすぐ雪愛が来る。

 そうしたら自分は――――と考え、思わず苦笑が浮かぶ。

 右手に目を遣り、手を閉じたり開いたりを繰り返す。

 自分の緊張感が高まっているのを自覚したからだ。

 今からこれでは先が思いやられる。


 春陽は一度深呼吸すると、再び海を眺めるのだった。


 時間にすればそれほど経っていない。

 だが、辺りがオレンジ色に包まれてきた頃、ついに雪愛がやってきた。


「待たせちゃってごめんなさい、春陽くん」

「いや、俺もさっき来たところだから……」

 春陽は雪愛の方を向いて立ち上がる。


 雪愛は水着の上から白のキャミソールワンピースを着ており、風に靡く長い黒髪を右手で押さえていた。


 春陽の目には、オレンジ色に輝く世界で、雪愛の姿が幻想的でとても美しく映り、暫し見惚れてしまった。


「春陽くん?」

 そんな春陽の様子に雪愛が首を傾げる。

「あ、いや……、悪い」

 雪愛の呼びかけでハッとした春陽は、バツが悪そうに謝った。

「ふふっ。……夕日綺麗だね」

 雪愛はそんな春陽の態度に笑みを浮かべると、視線を水平線の方へと移した。

「そうだな」

 雪愛の言葉に春陽も水平線へ目を向ける。


 しばらくの間、二人は並んで夕日を眺めていた。

 それは波の音だけが聴こえる、静かで穏やかな二人だけの時間だった。



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