第37話 海にはとある目的の男女がたくさんいた
「ん~、着いたー!」
照りつける太陽の下、瑞穂は大きく伸びをした。
瑞穂達は今、海水浴場のある駅の出口を出たところだ。
「絶好の海日和だねー」
「まずは宿に荷物を置くんだよね?」
可愛らしい麦わら帽子を被った香奈が確認するように言う。
四人とも一泊とはいえ、泊まりのため、大きめのバッグを持っている。
今回は海で遊ぶことだし、女の子には準備するものが色々とあるのだ。
春陽や悠介とは違う。
「そうだね。それじゃあ行ってみようか!」
民宿までの道は、右手に海が広がっており、そんな風景の中、話しながら歩いていれば、すぐに到着した。
「ここだね」
「すっごくいい場所だねー」
「すごい。こんな海が目の前のところだったなんて」
絶好の立地に立っている民宿に、皆目を大きくしている。
瑞穂が扉を開け、すみませーんと言うと、奥から成海が出てきた。
「はーい、お待たせいたしました。ご予約の方かしら?」
四人の荷物などを見て、成海がそう問いかける。
「はい。四名で予約している芝田です」
「四名様でご予約の芝田様ですね。……芝田様、白月様、綾瀬様、遠野様でお間違いないですか?」
「はい」
「お待ちしておりました。お部屋までご案内しますね。どうぞこちらへ」
案内された部屋は二階の角部屋で、窓からは海が一望できた。
成海は四人が室内に入ると簡単に館内について、そして食事などの時間、海の家の利用方法についての説明をした。
「それではごゆっくりどうぞ」
四人はそれぞれ成海にお礼を言い、成海は部屋から去っていった。
「海がよく見えるよー」
「オーシャンビューってやつだね!」
「すごくいい部屋だね」
未来、瑞穂、香奈は部屋を見回し、感想を言い合っている。
そんな中、雪愛だけが何も言わない。
というか、行きの道中でもあまり喋っていなかった。
三人とも雪愛の様子には気づいていたし、瑞穂にはその理由もわかっていた。昨日雪愛から相談をされて抱えている想いを聴いたから。
「ほら、雪愛。折角来たんだから楽しまないと。ね?」
だから今は余計なことは言わない。頑張れ、雪愛、と心の中だけで瑞穂は応援した。
「え?ええ。そうね」
瑞穂に声をかけられ、はっとした雪愛は、気を取り直すように笑って答えた。
「それじゃあ、早速着替えて海に行こっか」
先ほど成海からの説明で、ここの脱衣所で水着に着替えて、脱ぎやすい服を着て行けば、海の家の更衣室でそれを脱ぐだけで済むと聞いたのだ。
海の家で受付すれば、誰でも使える更衣室らしく、すぐにロッカーはいっぱいになってしまうのだが、宿泊客分は確保しているため、行き帰りの服が汚れなくて済むからおすすめだと言っていた。
これがロッカーの鍵です、とその時に鍵も渡されている。
四人は、早速脱衣所で着替え、それぞれ、上にTシャツやキャミソールなどを着、下にショートパンツやスカートなどを穿いて、タオルなどの入った小さな手提げを持って海の家へと向かった。
もちろん、全身日焼け止めを塗って準備万端だ。
手の届かないところはお互いに塗り合った。
どうでもいいことだが、着替え中、未来が我慢できないというように、えいっと雪愛の胸を揉み、雪愛に怒られ謝っていた。
それを見た瑞穂は笑って、やってみたいのはわかると言うように、うんうんと頷いており、香奈はそんな未来達に苦笑を浮かべるだけで、自分も触ってみたい、と思ったかどうかは誰にもわからない。
ちなみにだが、大きい順に、雪愛、瑞穂、未来、香奈といった感じだ。
雪愛は胸以外もスタイルがいいため、カップ数以上に大きく見え、同じ女性でも触ってみたくなるようだ。
閑話休題。
聞いていた名前の海の家に着くと、矢印付で『更衣室・ロッカー・シャワー(女性用)』と書かれた看板が出ていた。
海の家を挟んで両脇に一か所ずつあり、もう一つには男性用と書かれた看板が出ている。
四人は、更衣室へと入っていき、水着の上に着ていたものを脱ぎ、タオルなどの荷物とともにロッカーへと入れた。
瑞穂は、黒色のクロスデザインのビキニに、フリルのスカートが付いた大人可愛い水着。
香奈は、ピンク色に花柄のフリルトップビキニと同じ柄のスカートが付いた可愛い水着。
未来は、ライトブルーのハイネックビキニで大人っぽい水着。
雪愛は、白色のトップスもボトムスも紐で結ぶデザインの三角ビキニで大人っぽさと可愛さが両立したような水着。
四人ともそれぞれよく似合っている。しかしよく考えてみなくても、雪愛の水着は男性嫌いな本人の性格からすると少々露出が多いような気がする。それを雪愛自身、民宿で着替えたときから感じており、とうとう言葉となって出てきてしまった。
「ねえ、やっぱりこの水着ちょっと派手過ぎないかしら?」
恥ずかしいのか、両腕で自分を抱きしめるようにしている。そのせいで、余計に胸が強調されてしまっているが……。
「今更何言ってるの、雪愛。買ったとき気に入ってるって自分でも言ってたじゃん」
瑞穂は、いや、雪愛以外の三人はヤバい、と思った。ここに来て雪愛が冷静に今の水着を評価できるようになってしまったようだ、と。先日、雪愛と香奈の浴衣、雪愛と瑞穂の水着を買うために、四人で買い物に行ったのだが、実はそのとき雪愛があまりにも地味な水着を買おうとしたため、三人が連携してこの水着を選ばせたといっても過言ではないのだ。つまり雪愛が好んで着るような水着ではないわけで……。
「それはそうなんだけど……。なんかいざこれで外に出るって考えたら……」
雪愛が躊躇するのも仕方がないことだった。だが、三人からすればここで諦める訳にはいかない。嫌がらせでも何でもなくこの水着が似合っていることは間違いないのだから。
「ゆあちーよく似合ってるよー。今のゆあちのこと絶対風見っちも見たいと思うんだけどなー」
だから未来は雪愛に絶対効くだろう人の名前を出す。
「っ!?そ、そうかしら?」
そしてそれは実際効果覿面だった。三人はこの流れだと確信する。
「きっと風見君も見惚れちゃうんじゃないかな?」
「そうだよ、雪愛。雪愛だってどうせなら風見に可愛い水着姿見てほしいでしょ?それに他の男なんてみんなかぼちゃかじゃがいもだとでも思えばいいんだよ!」
「そーそー。無視だよー」
「そう、よね。ごめんなさい、変なこと言って。折角の海、みんなで楽しみましょう」
三人がこんな土壇場で面倒なことを言い出した自分を励ましてくれているとわかった雪愛はそのことを嬉しく思うとともに、覚悟を決めるのだった。
更衣室から出た四人は、後のお楽しみに、と店内を覗くことはせず、まずはめいっぱい遊ぶことにした。波打ち際で遊んだり、瑞穂が持ってきたビーチボールで遊んだり、砂浜で遊んだり、と皆で海を楽しんだ。
が、これはもうお約束と言っていいかもしれない。
この遊んでる間だけで女子高生四人のグループには三組も男性が声をかけてきた。
ここで、活躍したのが瑞穂だった。バッサリと男性からの誘いを断ったのだ。
だが、その中の一組、諦めが悪くしつこい男性グループがいたため、瑞穂が機転を利かせ、春陽達の働いている海の家を指し、あそこに彼氏がいるから無理、と言ったところなぜか効果抜群だった。
げっ、あの店の関係者かよ、と悪態をつきながら離れていったのだ。
この海の常連は、あの海の家のオーナーがどういう人物かを知っている。
彼氏という部分ではなく、あの店の関係者というところで引き下がった意味がわからず、瑞穂は首を傾げたが、結果良しである。
ただ、そうした邪魔が入りつつも、皆で楽しく遊んでいる中、雪愛は、気づけば物思いに耽っていた。ここに来るまでと同じだ。楽しんでいることは間違いないが、何か気がかりなことでもあるような、そんな感じだった。
そんな雪愛を気遣ったのか、お昼ご飯には少し早い時間だが、香奈が提案した。
「そろそろ、海の家行ってみる?」
「そうだねー。混む前に行った方がいいかもー?」
「だね。雪愛も、いい?」
「ええ。もちろんよ」
こうして、雪愛達は春陽と悠介の働く海の家へと向かうのだった。
雪愛達が向かってきていることに入口付近にいた悠介がいち早く気づいた。
四人が入口前までたどり着いたところで、悠介から声をかける。
「いらっしゃい」
四人も途中から悠介に気づいており、それぞれ挨拶を返す。
「本当に来たんだな」
「そりゃそうよ。何のために佐伯にまで協力してもらったと思ってるの」
「まあ、そうだわな。それじゃあ席に案内するよ」
瑞穂の言葉に悠介は苦笑を浮かべた。
席に着くと、瑞穂が早速悠介に聞いた。
「風見が考えた料理ってどれなの?」
「ああ、あの限定三十食ってなってるカレーだよ。すっげー売れてるんだぜ。今ならまだ注文できるぞ」
「そうなんだ。じゃあ早めに来て正解だったね」
「本当すごいねー、風見っち。それは絶対食べたいけどー、私、焼きとうもろこしも食べたいなー」
「ふふっ、すごくいい匂いしてるもんね。でも風見君が考えた料理が本当に売られてるんだからすごいことだよね」
それは同級生の彼女達だからこそ余計に驚きが大きいことだった。
「じゃあさ、ご飯系はシェアすることにして、どっちも頼もうよ。私かき氷も食べたいんだよね」
瑞穂の提案に未来と香奈も同意する。
「そういうことなら、焼きとうもろこしも半分に切って出そうか?」
「サンキュー、佐伯。雪愛?雪愛もそれでいい?」
「っ、ええ」
今までずっと黙っていた雪愛だが、名前を呼ばれたことで、はっとして返事をする。
雪愛は海の家に入ってから誰かを探すようにずっときょろきょろと周囲を見ていた。
誰を探しているかは明白だ。
「春陽なら今料理作ってるところだよ。こっちにも料理運んだりするときに出てくるから」
「そ、そうなんだ……」
何も言っていないのに、悠介から春陽のことを説明されてしまい、雪愛の頬が少し熱をもつ。
こうして、瑞穂達は、それぞれ飲み物と限定カレーを二つ、焼きとうもろこしを二つ、食後にかき氷を注文した。
料理を待っている間。
「海って本当にナンパが多いんだね。正直ここまでとは思ってなかったよ」
しみじみと瑞穂がそんなことを言った。
四人とも海に来たのは久しぶりだった。当然高校生になってからは初めてだ。
「本当だねー。男女関係なく、だもんねー」
「びっくりだよね」
未来も香奈も乾いた笑いが出てしまう。
瑞穂達の前では、すでに一度悠介が女性から声をかけられていた。
悠介に彩花さんと呼ばれていた女性もだ。
そんな時だ。
春陽が料理を持って、厨房から出てきた。
(あ、春陽くん!)
春陽を見つけて、今日一番いい表情になる雪愛。
雪愛はすぐに春陽に気づいたが、春陽は方向的に気づかず、注文されたテーブルに料理を運んでいく。
テーブル席には女性二人が座っており、春陽が料理を持っていくと、何やら春陽に話しかけているようだった。
雪愛からは春陽の顔は見えず、背中しか見えないが、女性二人の方は楽しげに話しかけているのがよく見える。
二人の女性客は少し年上のようで、余裕のある雰囲気をしている。さらには、雪愛達四人の誰よりも大きな胸をしており、それを存分にアピールするようなセクシーな水着を着ていた。
その様子に、雪愛の表情が曇り、胸の辺りにモヤモヤとしたものが広がっていく。
「風見っちも声かけられてるねー」
「ちょっ、未来!?」
「未来ちゃん!?」
あんなセクシー系の年上お姉さんに声をかけられ、雪愛の前で春陽が乗り気にでもなったらと気が気じゃない瑞穂と香奈。
だが、未来はそんな二人になんてことないように言う。
「いやー、風見っちは大丈夫でしょー」
一時期フェリーチェに通っていた未来にはわかる。
女性客から視線を送られても、話しかけられても、我関せずというか、むしろ居心地悪そうにしていた春陽を何度も見たことがあるからだ。
すると、春陽がテーブルに背を向けた。
女性客二人は残念そうにしている。
どうやら本当に大丈夫だったようだと瑞穂と香奈がほっと安堵するのも束の間、春陽の顔が右斜めに向けられた。
そう、瑞穂達が座るテーブルの方へと。
それは本当に何気ない視線の動きだった。
女性客二人への対応を終え、精神的な疲れを覚えながらも厨房に戻ろうとしたところで、ふと顔を向けた先に、雪愛達がいたのだ。
雪愛達、正確には雪愛を見つけて目を大きくする春陽。
こんなところにいるとはこれっぽっちも思っていなかった相手が目の前にいる。
それは如何ばかりの衝撃か。
「雪愛?」
春陽は視線の先にいる女の子の名前を呟くことしかできなかった。
悠介は、呆然と立ち尽くす春陽が目に留まり、その視線の先にいる人物を理解して苦笑いだ。
(そりゃ驚くよな)
昨日春陽の内心を聞いているからか、余計にそう思う。
そんな春陽を放っておく訳にもいかず、悠介は春陽を回収しに向かった。
一方、瑞穂達の方も春陽が自分達を見たことがわかった。
雪愛以外の三人は春陽に向かって、ちょこんと手を上げて応えたり、手を振ったりしている。
驚きすぎなくらい驚く春陽に、悪いと思いながらも笑いが堪えられない。サプライズは大成功だ。
雪愛はというと、春陽と視線が合うやいなや、一瞬固まり、見つかってはいけないのに見つかってしまったとでもいうように、下を向いてしまった。
近くにいる瑞穂達には耳まで赤くなっているのが見て取れた。
お読みくださりありがとうございます。
面白い、続きが気になるなど思ってくださった方、画面下の☆から【ポイント】評価★を入れて応援していただけると嬉しいです!
【ブックマーク】や《感想》、《イチオシレビュー》もとても嬉しいです!
何卒よろしくお願い致します!!




