ドミノ倒し
今日、今現在、私史上、最も重要な局面だ。恋人になる為の愛の告白の上位互換。私は今からそれをする。
私の一世一代のプロポーズだ。
「ミチル、私と結婚してください♪」
呼び出したミチルに向かって大事な言葉を伝えた。緊張なんてしてない。いつものように失敗しても先輩がいるからとか、そういう訳でもない。私は成功を確信してるのだ。こんなにもミチルとラブラブなのだから。
それに加えて店長さんがレインボー、右打ちしてください、キュイン、額に風、ドル箱用意、プップップッ、全回転など、いろんな言葉でお墨付きんもらっている。正直、意味はわからないけど、その言葉に背中を押されたのは間違いない。
さぁ、私は伝えたよ。次はミチルが答えて。
「……………」
なかなか返事が来ない。ミチルは焦らすっていうテクニックを覚えたんだね。早く、ミチルの返事を頂戴。その返事を合図に私はキスをするつもりだ。この胸の高鳴りを抑えるの大変なんだよ。だから、早く♪ 早く♪
「ごめん」
返事が来た! これを待ってい………た。
「……へ?」
断られた? こんな大事な返事に冗談は許されない。ミチルはそんな事を言う人じゃないのは私がよく知っている。
そして、こんな大事な事に説得なんて出来るはずもない。
「……ッ!」
「待って!サキ」
その場に居る事に耐えられなくなった私は逃げ出していた。
こんな事になるなんて思ってもみなかった。先輩! 先輩の所に行こう。
先輩のアパートに着きチャイムを押すが、なかなか出てこない。帰ろうかとも思ったが、先輩のあの言葉を聞かないと恐怖に押し潰されると思い、先輩にスマホでメッセージを送った。
すると、すぐに先輩の部屋のドアが開いた。居留守を使っていたらしい。私は先輩の顔を見るなり泣きながら抱きついた。
「せんぱ~い、私、ミチルに振られた~」
「はぁ!?なんで?」
「ううぅ、うぇ」
「とにかく、中に入りなさい」
先輩の部屋に入り、いつも寛ぐテーブルの前に座る。
「何があったの?」
「私……ミチルにプロポーズしたの」
「それで振られたってわけ?」
「はい。だから、先輩……」
「ミチルはなんて言ったの?」
私はあの言葉を言って欲しかったが、私の言葉を遮り先輩は尋ねた。
「『ごめん』って」
「その一言だけ?」
「はい」
「私はあんたよりミチルとの付き合いは短いけど、遊びで恋愛するような子じゃないと思うわ。だから、ちゃんとした理由があるはずよ」
たしかにそうだ。ミチルは天然って思うくらい真面目な人だ。
「理由……どんな?」
「例えば、まともに就職もしてないから、今は結婚できないとか、日本では同性の結婚はできないとか、真面目そうなミチルなら、あり得るんじゃない?」
「でも、断られた……先輩、私を慰めて~」
先輩の言った通り、その可能性はある。だけど、今はあの言葉が欲しい。私に勇気をくれる言葉が。その言葉欲しさに駄々をこねていると
ピンポーン
誰かが来た。まさか、ミチル?
(姉ちゃーん)
なんだ、弟くんか。
「はいはい」
先輩は玄関へ。
「連絡!連絡!連絡!」
「ごめんごめん、姉ちゃ……姉ちゃんがサキさんを泣かせてる!」
涙目の私を見て弟くんが叫んだ。
「違うわよ!辛い事があったから相談に乗ってあげてたのよ」
「ふぅん、姉ちゃんが人生相談ねぇ」
「なに?あんたの恥ずかしい話、ミオちゃんに吹き込むわよ。ストックはまだまだあるんだから」
「それはやめてー!」
「ふふふ♪」
ホントに二人は仲が良いなぁ。
「何が面白いのよ?サキ」
「二人共、仲良いなぁって、つい」
「姉ちゃんの人生相談より俺の方が役に立ったみたいだね」
「あんたはー」
「イテテテッ、脇腹つねるなよー」
本当……仲が良い。こんな先輩が報われないなんて間違ってる。私はダメになっちゃったけど、今度は私が先輩の恋を成就させるね。
「弟くん、彼女さんは?」
「え?ああ、今日はミオの誕生日プレゼントを姉ちゃんに相談しに来たから俺一人だよ」
よし、邪魔者は居ない。絶好のチャンス。
「弟くん、先輩って普通に美人だよねぇ」
「え?んまぁ、そうですね」
「サキ、どうしたの?急に」
私が先輩の魅力を弟くんにたっぷり教え込むね。そうすれば、彼女が居ようが弟くんだって振り向いてくれるよ。大丈夫! 振られたけど、私は先輩を好きになった一人だから安心して。
「今はフリーだけど油断してると取られちゃうよ!」
「ん?まぁ、早く姉ちゃんにも相手が出来るなら、俺はそれで」
手強い! やっぱり姉弟ってのが厄介だよね。
「弟くん、先輩は女性としてどう思う?」
「ちょっと、サキ!なに言い出すの!」
「だって、先輩のきも……」
先輩に手で口を塞がれてしまった。
「ヨータ、今日はもう帰りなさい。この子は失恋のショックでどうかしちゃってるの」
ミチルに振られたのはショックだったけど、今の私は正気だ。純粋に先輩の恋を応援しようとしてるだけだ。
「だけど、俺の相談が」
「この後、ミオちゃんもこっちに来るのよ。サプライズしたいんでしょ?鉢合わせになったら、あの子、感づくわよ」
「わかった」
戸惑った様子で弟くんは出ていった。それを確認した先輩は私の口から手を放した。
「サキ!あんた、何しようとしたの!?」
「弟くんが先輩の魅力に気づいてくれれば、先輩の事を好きになるかなぁって」
「余計な事しないで!」
余計な事? 先輩は弟くんの事が好きなんじゃないの? もしかして、一人でなんとかしたいのかな。
「でも、先輩は弟くんのこと……」
「言い方を変えるわ。私とヨータの事に関して何もしないで」
「わ、私、先輩の恋に協力するよ」
「誰がそんなこと頼んだ!?」
先輩は声を荒らげ叫んだ。
「だって、先輩、あんなに弟くんと仲が良いから報われて欲しくて……もしかしたら、彼女さんとも別れてくれるかも」
「私はそんなこと望んでない!あの子にあんたみたいな窮屈な人生を送って欲しくないの!」
窮屈……? 私はそんな風に感じた事ないよ。先輩は私の恋愛をそんな風に思っていたの?
「そんな言い方……ひどいです」
「帰って」
今、なんて言ったの?
「帰って!」
なんでそんなこと言うんですか?
「せん……ぱい?」
「帰れ!!」
「ッ!」
気づけば私は先輩の家から飛び出し全力で走っていた。途中で誰かにぶつかった気がするが、そんなのどうだっていい。それより、怖い、怖い、先輩にあんな言葉を浴びせられるなんて想像すらした事ない。
どうしよう、どうしよう、どうしようどうしようどうしよう………私、一日で大切な人を二人も失ってしまった。それに周りの景色が暗い。絶望に色があるとすれば、こんな感じなのかな。私の視界はどんどん狭くなっていく。そして、視界がほぼ真っ暗になり気づいた。違う、これは……さん……け……………つ。
サキちゃん、振られてしまいましたね。先輩ともあのような事になりましたし……ハッピーエンドが遠ざかりました。支えの二人を失ったサキちゃん、どうなるのか……… それでは