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魔王乱心 ~勇者の嘘と飾られた世界〜  作者: シャチくま
1.夢の始まり
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8.戦友ゴリアテ

「2週間ぶりじゃねえか。元気だったかよ?」

 巨大な斧をハイドラに向けてゴリアテは話しかける。

 かつての仲間といえ、警戒態勢を解いていないようだった。


「あぁ。」

 ハイドラはうなづく。


「ここにいるって事は用事は済んだのかよ?」

ゴリアテのあふれ出す殺気は熱を帯びて周りの人間の皮膚をヒリつかせた。


「ああ。」

ハイドラはうなづく。


「この手紙のとおり世界を平和にしてくるんじゃなかったのかよ?」


ゴリアテはそう言っては左手でポケットからくしゃくしゃの手紙をハイドラ突きつける。


----------------------------------------------

ゴリアテへ


 人間と魔族が争う世界が嫌になりました。

 一刻も早く争いを止めようと思います。

 争いのない平和な世界の為に命をかけて

 魔王と話し合いをしてきます。


 俺がいなくなった後の世界はよろしく頼む。

 お前の力で世界を守ってくれ


 ハイドラ

----------------------------------------------


「お前が魔王の元で戦っているって事は…」

 ゴリアテはその手紙を投げ捨てた。


「平和の為に、魔王と…いや魔族達と共に歩む事にした。」


その言葉でゴリアテは巨大な斧を地面に振りかざす。地面はまるで豆腐のように、簡単に真っ二つに地割れが起きた。


 ゴリアテは顔を真っ赤にして激昂した。


「テメェが気に入らねえ事は何回もあった。これまでで一番ムカツイているよ。」


 ゴリアテは大きく息を吸って一呼吸置く。


「それはお前が魔王の手下になった事じゃねえ。」

「俺が今一番ムカついてるのは、お前が命を賭けて戦場に来た人間に対して敬意が無い事だ。」


 ゴリアテは振り下ろした斧を再び構える。


「なんだよ?ポケットに手を入れたまま兵士を倒すとか…人の心まで無くしちまったのかよ?」

 ゴリアテは戦士だ。戦士としての矜持がある。だからこそ命を賭ける者の気持ちが踏みにじられる事が許せなかった。

 かつての仲間が魔族についた事よりも…


「人の心か…」

ハイドラはポケットから左手を出し、左手を見つめる。彼の綺麗な右手とは対照的にボロボロの左手だった。


「ねぇねぇ、ハイドラっちもゴリりんも争いを止めよう?ね?今の敵は魔王軍だし…」

 ティアラはハイドラとゴリアテの只ならぬ空気を察して、間を取り持とうとする。


「ティアラ…後ろに下がってろ。あとは他の兵士に俺達の周りから離れるように言いな。」


「ゴリりん…それって…」


「あいつの手足をもぎ取ってでも、あのバカを連れて帰る。」

 ゴリアテはハイドラを諦めずにいた。彼の気の迷いだと信じたかったのだ。魔王に洗脳されたのだと信じたかった。


「ねぇハイドラっち…それで良いの?ゴリりんと戦ったら…」

 ティアラは悲しそうな表情だった。



「ゴリアテが俺を諦めるなら、それで構わない。」

 そう言ってゴリアテの方に向かっていく。


「|漢≪おとこ≫らしいじゃねえか。」

 ゴリアテも斧を肩に担ぎ直し、ハイドラに向かって歩いていく。


 こうしてハイドラとゴリアテの両者は向かい合う。周りの兵士は巻き込まれない様に彼らの周囲から遠ざかる。



「その勇気に免じて10秒の時間をくれてやる。この10秒でしっかりと後悔しとけ。」

 ゴリアテは巨大な斧を向けながら、ハイドラに進言する。


「イリス…ゴリアテ達が動きにくくなってるのを戻してやってくれ。」


 ハイドラが言った事…敵の動きの制限の緩和だった。

 敵への敬意なのか、相手として不足という意味かは本人しか分からない。


「いいの?それで?」

 イリスは上空から2人の様子を眺めていた。


「あぁ…あいつが全力でぶつかれなきゃ…諦めないだろうから。」


 イリスはその場の重力を元通りにする。かつての仲間と全力でぶつかる事…彼女にとって想定外だった。


 かつての戦友と戦うことほど悲しい事はない。

 彼女はこの戦場にハイドラを連れてきたことを後悔していた。



 そんなイリスの姿を見てティアラは睨みつけながら呟く。

「魔王イリス…」

 ライフルを構えるべきか迷った。しかし今回は状況を悪化させたくなかった。優先なのはハイドラの奪還。

 ならば冷静になるべきだとティアラは考え、いつでもサポート出来るようにする。



「おいハイドラ…その腰の剣は|飾≪かざ≫りか?剣を…いや武器を構えなくても良いのか?」

 ゴリアテは睨みつけながら言った。その場の空気が彼のあふれ出る魔力によって乾く。


「飾り…ね。俺はこの剣が嫌いなんだよ。それにこの剣は|来≪きた≫るべき時が来なければ使えない。」

 ハイドラは表情一つ変える事無く淡々とゴリアテに向かって言った。

武器を構えるつもりは無いようだった。



「だからそれが死を覚悟して戦場に向かう人間に対して、敬意が無いって言っているんだよぉぉぉぉ!!」

 ゴリアテは斧を振り上げてハイドラに向かって猛突進した。


「まだ10秒経ってないよ?」

ハイドラは少し悲しそうな顔をする。


夢幻(むげん)


 ゴリアテがハイドラを真っ二つにしたかの様に見えた。が、そのハイドラは実体ではなかった。

 幻影の如く、ゴリアテが突進した方向とハイドラは別の位置にいた。


「クソがっ」


 パチンとハイドラは右手で指を鳴らす。

『逆夢』


「ちぃ」

 ゴリアテは何回も斧を振りハイドラに攻撃するが斧は空を切ってばかりだった。彼の振るう斧の風圧と魔力によって、遠くから戦いを見ている兵士を吹き飛ばす事もあった。



「やっぱりダメか…」

 ゴリアテは一旦斧を地面に突き刺し、大きく呼吸をする。その後斧を手に取り再び構える。


「俺達が何年一緒に旅をしてきたと思っている。平和になった世界で、いつかお前と戦う日の事をずっと考えて来た。」


「最強のお前を倒す策を必死に今まで考えて来た!!正々堂々と戦いたかった!!」

 いつか思い描いていた未来を思う。永遠に来ることが無くなった未来を…


「お前と戦うのがどうしてこんな戦場なんだよ!!」

どこにもぶつける事のない怒り…無力感…

 描いた未来さえ来ることが無くなった失望感…


 それを感じつつもゴリアテはハイドラを再び人間側に戻すために、斧に全力の魔力を籠める。



「お前の良く使っていた『逆夢』と『夢幻』。相手の認識そのものを変える技だ!!」

 一息置いた。精神を落ち着けているようだった。


「認識が変わるから攻撃が当たらなくなる。ならば認識関係なく全てをぶち壊してしまえばいいんだ!!」


 ゴリアテは頭の上でクルクルと大きな斧を両手で回す。斧は風と魔力を纏い、次第に竜巻を発生させる。

 その竜巻は斧にまとわりつき竜が鳴くかのように〈ゴォォ〉と大気を震わせる。



「災禍をまき散らせ『|魔斧≪まそう≫ディザスター』よ。戦友(とも)の目を覚ます為に!!」


斧は嵐を纏い、更に禍々しく凶悪な形の斧に変化した。

 ゴリアテは回していた斧を右手に構える。構える際に振り下ろした際に風圧による真空刃が発生した。


 ゴリアテの斧を振り下ろした方向にいた遠くの兵士が何人か吹き飛んだ。軽く振り下ろしただけで衝撃波を生んでいたのだ。鎧がなければ恐らく重症だっただろう。


「吹き飛ばされたくなければしゃがんでいな!!もう加減は出来ないからな!!」

 ゴリアテは目を瞑りながらも兵士達を気遣う。


「おいコラ。ゴリりん、あーしに当てんなよ。」

 ティアラはゴリアテを怒る。

 その言葉で兵士は地面にしゃがみ、衝撃波に当たらない様にする。



 ゴリアテは斧を横方向に薙ぎ払う。魔族の兵士達がいる方向に…


「させぬよ。」

 先ほどの威力を見ていた為か、イリスは軽々とその攻撃を無力化した。


 だがそれをゴリアテは全く気に留めていなかった。攻撃の一部でしかなかったからだ。

斧を地面と水平方向に持ち、竜巻の如く彼はその場で回転していた。360°全てを攻撃する為に。

その反動をつける為に薙ぎ払ったに過ぎなかった。


「認識を変えられない為には視覚を封じれば良い。つまりお前が言ったように目を瞑れば良い。」

ゴリアテは目を瞑り斧を振り回す。全てを迷いなく攻撃する為に。


 ゴリアテが回転するたびに斧の刃が向いた方向に衝撃波や真空刃が飛び交う。


「ハイドラ、最終通告だ。死にたくなければ降参しな?」

 ゴリアテはハイドラに聞く。だが返事はなかった。


回転速度は次第に速くなっていく。


 一撃で兵士を吹き飛ばす真空刃は何回も何回も敵味方関係なく攻撃し続ける。兵士は既に戦いを見ずに、盾により攻撃を防ぐことに集中し始める。

 敵味方関係なく絶え間ない災厄が兵士達を襲い続ける。それはまるで嵐の様に…


「うっ…ぐうぅぅぅ」

 衝撃波の一つがハイドラに当たると、彼は痛みをこらえる動作をした。


「見たかハイドラ。これが俺がお前と戦う為に編み出した、全方位への無差別の攻撃だ!!これなら認識に関係なく攻撃は当たる。」

 そして声の方向からハイドラの位置を把握したゴリアテは、衝撃波をハイドラの方向に何回も飛ばしていく。


「があぁぁぁぁぁ…」

 衝撃波が次々とハイドラに当たり続ける。あっという間に彼は血塗れになった。


「|ハイドラ≪我が友≫よ。次の攻撃で終わりにしてやるよ!!」

 ゴリアテは回転を止めると巨大な斧に更に竜巻を纏わせ始める。竜巻は小さく小さく圧縮されて行き、次第に小さな竜の様な形に変わっていく。


「お前との旅楽しかったぜ。」

 ゴリアテはハイドラに向かって言った。


 上空から魔王イリスが心配そうな表情で眺めていた。


災禍竜招来さいかりゅうしょうらい

 ゴリアテは竜の様に変質した斧をハイドラに向かって投げつける。斧は竜の如く地面を這いながら、地面を削りながらハイドラの元に向かう。


「ふっ…強くなったじゃないか。」

 ハイドラはニッコリと微笑みながらゴリアテに言った。


(ハイドラに認められた。これが味方の時ならどれだけ嬉しかったことか…)

 ゴリアテは口元を緩めた。


 だが竜巻を纏った斧はハイドラへ当たる直前に上空へと進行方向を変える。

「俺の狙いは最初から魔王イリス、お前だ!!」


 ゴリアテは目を開けイリスの方を見る。


 その螺旋竜は地面の石や土も巻き込み、物凄い勢いで魔王イリスへと向かう。

「俺は魔王であるお前を倒し、ハイドラの洗脳を解いてやる!!」


「いつか前に、お前に宣言しただろ?それが今だ。」

 螺旋竜は魔王イリスを丸々飲みこんだ。

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