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魔王乱心 ~勇者の嘘と飾られた世界〜  作者: シャチくま
6.悪夢
52/54

52.終戦

更新遅くなりました…

すみません

「死ぬかと思ったが…なんとか生き延びたぞ…」

 第一皇子ディカプリオは数人の部下を引き連れて、一旦は離脱した戦場にたどり着く。


 離脱前と違っていたのは、何故か人間と魔族が協力しあい怪我人を治療していたことだった。


 倒れる無数の人間と魔族の兵士…それを助けようとする人…

 グリフィスやゴリアテなどのリーダー格が指示して、多くの者を助けられるように行動している。


 ティアラとディランは空間操作により重傷者を転送しており、軽傷者はお互いに助け合う。


 イリスやハイドラにとっては理想である光景…

 レディオン王が一番好ましくない光景だった。


 助け合う一方でハイドラを抱き抱えて泣き崩れている魔王イリスの姿…


「ははははは…一旦退却して大正解だ。勇者が死んだか。


 勇者ハイドラが死に、魔王は戦う気力を無くしている…


 これは大チャンスだ!

 あとは魔王を殺してしまえば、この戦争は我々の勝利だ!」

 ディカプリオは嬉しそうに部下に話しかける。


 そして横たわっている者に目もくれずに、その場の中央まで歩んでいき大声で叫んだ。

「さぁ…この戦争もあとはそこの魔王を殺せば終わる。


 武功をあげようとする者は武器を取り、そこの泣いている魔王を殺せ!」


 だが誰一人その言葉に耳を貸さなかった。


 先程の言葉はもちろんイリスも聞いている。

 しかしディカプリオなどを意識すること無く、ただ泣いている。


「どうした…魔王を倒す者はいないのか?


 平和は目の前なのだぞ!」

 ディカプリオの怒号が聞こえる。誰一人言うことを聞く部下がおらずに気に入らないようだった。


「この場で魔王を倒そうとしない者は裏切り者として処刑するぞ!!」


 大声で脅されるも、武器を持とうとする兵士は誰一人いなかった。


「役立たずどもが…こうなれば俺が一人で倒す。」

 ディカプリオは剣を抜き、イリスの元に歩んでいく。


 本当は安全に部下に魔王を倒させて、自分の手柄にしようとしていた。

 しかし誰も聞かなければもはや自身で魔王を殺すしか手段は無かった…


「ディカプリオ皇子…お止めください…


 そこの魔王は戦いを望んでいません…」

 部下の一人がディカプリオに近づいていき進言する。


 彼はこの場にいる皆が平和を望んでいると信じている。

 だからディカプリオも話せば理解してくれると思っていた。


「貴様…さては舞おうに絆されて裏切るつもりだな?」

 ディカプリオは自分に話しかけた兵士に向かって歩いていく。


 そしてその兵士に剣を向けた。

「貴様…ここで死ぬか…魔王を殺すかどちらが良い?」

 ディカプリオは怒りで顔に血管を浮かび上がらせて脅しかける。


「わたくしは…それでも魔王は殺せません。


 この場で争いを望む者は誰一人いないからです…


 皇子…もう地を流すのはやめにしましょう?」


 勇気をもってディカプリオに向かって発言した。


「だからおまえはダメなんだ。兵士ならば王の命令を聞け。このクズが!


 この魔王が争いを望んでいなくても、時が流れれば人間と再び争うだろう!


 それを防ぐために魔族は根絶やしにすべきなんだ!」


「それでも…」


 ディカプリオはがっかりした様子で…

「そうか…貴様は反逆分子だな!


 死ね!」

 その兵士に向けて剣を振りかぶる。


「そうやって…あんたが…あんたら王族が戦いを起こしているんだろ?


 何が平和を望んでいるだ!ふざけるなよ!」

 ディカプリオの言動に我慢の限界だった…


 それまでの言動の積み重ねもあったのだろう…ディカプリオに対して兵士は剣を抜く。

 彼を…平和を望まぬ彼を殺して自信も死ぬために…


 しかし満身創痍の兵士とディカプリオでは、兵士に勝ち目は無かった。

 ディカプリオは兵士の剣を弾き飛ばした。


 そして兵士の首を跳ねるために剣を構える。


 それを防ぐかのように、ディランが空間を操作してディカプリオと兵士の間に立つ。

 そしてディカプリオが剣を振りかぶるより速く、兄の胴体を斬った。


「は?」

 胴体を切られたディカプリオは理解ができていないようだった。


「兄上…もう止めましょう?もうこの場で争いを望むのは兄上だけだ…」

 悲しそうな表情で兄に話しかける。


「ディラン…貴様…どうなるか分かっているのか?」

 ディカプリオは憎しみに満ちた目でディランを睨み付ける。

 そしてディランを斬るために剣を構える。


「兄上…すみません…」

 ディランはディカプリオの剣を握る腕を切り落とした。


「がぁぁぁぁ…何を…何をやっている?」


 うろたえるディカプリオの胴体に剣を突き刺す。

「兄上…戦場での上官の死因の理由のひとつが部下による反逆だそうです…


 極限状態の兵士は…ブレーキが効かなくなっているんですよ…


 あなたは…それを…知らないんですね…」


「貴様…」


 ディランは剣を握っていた兵士に対して目配せをして、顎をクイッとやりこの場を離れるように合図を送る。


 そうしてディカプリオとディランが向き合う。


「次の王に逆らうのか?」

 ディカプリオは苦しそうにしながらもディランに聞く。


「ボクは…あなた達に逆らえなかった。怖かったからだ…


 でも…ボクに勇気が無かったから、たくさんの者を失った…


 でも兄上達に逆らってでも、自分の理想を叶える為に行動すべきだったんだ!」


 ディランは涙をながし始めた。それまで誰かを助けることでごまかそうとしていた気持ちが溢れてきたのだ。

 

「だからボクはこれからボクが理想とする行動を最後に取るよ。


 そしてその理想の元にあなたがここで生き残れるかは…この場にいるものが決める。」

 ディランは決意を決めた。


 自身の最後の仕事を果たすために…


「お前…そこまでして王になりたいのか?」


 ディカプリオの問いに対して、ディランは彼から既に顔を背けていた。

 明確な否定の意を示すために…


 そしてディランは戦場にいる者達の方を向いた。涙を拭いて勇気を出した。

 ハイドラに恥じぬ生き方をするために…


「この場にいる者達に次ぐ。


 ボクはこの場で時期王であるディカプリオに対して…セレスティア王国に対して反旗を翻した。


 この場でディカプリオの敵を取るために、反逆者のボクを撃ち取れば君たちは英雄だ!

 

 これからは君たちが全てを決めていくべきだ!

 さぁ…望むがままに行動するが良い!」

 ディランは武器を捨てて声高々に宣言する。


 先程の反逆の意を示した兵士を護るために自信が反逆者となることを決めた。

 平和を望む者の意思を繋ぐために…


「ディラン…これは…?」

 ディカプリオは理解出来なかった…弟が何をしようとしているのかを…


「兄上…


 民の意思を聴き、その意に沿って行動を起こす。

 これが民主主義というものです。


 ボクが理想とする王国の姿…今の絶対王政では無く、民に…多くの者が輝ける国にするために…


 ボクも兄上も…この場で生きられるかどうかは、この場にいる者が決めるのです。


 この戦いの結末も…この場にいるものに決めてもらうのです…」


 ディランは今の絶対王政は終わらせなければならないと考えていた。

 民が生きられても…生存権を王が握るやり方は間違っていると思っていたから…


 ディランは魔王イリスと…彼女に抱き抱えられるハイドラを見る。

(ハイドラ…これで…良いのかな?)


 ディランはハイドラの故郷が、レディオン王によって滅ぼされた事を感づいていた。


 理由はハイドラが王の召集を断ったから。


 父がいなければ彼は勇者として争いの場に出ることはなかった。不幸になることは無かった…


 だから王政を終わらせるのが自身の役目だと思っていた。

 ハイドラを少しでも助けたいと思っていたから…


 けれど行動するのが遅すぎた…



 兵士達はディランの元に集っていく。


「ディラン皇子…私達はあなたについていきます。あなたの指示に従います。


 あなたこそが我らの王だ!

 これからもあなたに着いていきます。


 あなたこそが我らを導いて下さい。」

 兵士達はディランに進言する。


 それでもディランは首を横に振った。


 もう彼は王族であることを捨てる決意をしていたから…

 これからも王になるつもりは無かったから…




「ハイドラの元に行くのを許して欲しい…」

 ディランは優しそうに…しかし悲しみを抑えながら兵士達に言う。


 ディランはただ一人ハイドラとイリスの元に歩んでいく。

 彼の後ろに負傷しながらも、動ける兵士達は自らの意思で付き従っていく。


 ディランが先頭を歩き、その後ろに自身の意思で従う従者…

 ディカプリオは弟のその後ろ姿を見て、自身は彼に敵わないことを悟った…


 ディランがイリスに近づくも、彼女は意にも介さなかった。

 悲しみで全てを放棄していたから…


 そんなディランに対してグリフィスが近づいていき、しばらくそっとするように合図を送る。


「魔族にも感情がある…こうして生きている…


 けれど僕たちはそれを分かろうとしなかったんだな…」

 イリスの涙を見てディラン達は魔族も同じように生きているのだと実感する。


 ディランの瞳から涙が溢れ出してくる。

「ハイドラ…ごめんな…


 ボクが…ボクがもっと…」

 後悔の言葉を出した。けれどもうそれには意味をなさない。


 後悔の念がディランの心を押し潰す…けれど前に進まなければならない。

 時間が止まることはないのだから…


(ボクたちは…これからは間違えないように歩んでいかないといけない。

 だからこそボクはまだやらなければならない…


 ハイドラ…見ていてくれ…)


 ディランは背筋を伸ばし右手を額に持っていきハイドラとイリスに対して敬礼をした。


 それに付き従い兵士達もハイドラ達に対して敬礼を行う。


 一人の勇気ある者への最大限の礼賛のために…


 魔族も人間たちが敬礼しているのを倣い、ハイドラ達に向かって敬礼をする。


「ボクたちは何かを失いながらも歩いていかなきゃならない。


 前を向いて歩まなければならない。犠牲になった者達に恥じぬ為に!」


 ディランは涙をこらえて口を開いた。

「この場で終戦を宣言する。


 国を護る礎と成った者達に…勇気ある者達に…そして我が友ハイドラに…


 一同、敬礼!」

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