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魔王乱心 ~勇者の嘘と飾られた世界〜  作者: シャチくま
1.夢の始まり
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5.勇者と魔王の初めての出会い

(テンションが上がって、戦争を止めに行こうと言ったは良いけれど…)

 イリスは溜息を吐いた。自身の突発的な行動を悔いていた。


(初めてのデートが戦場ってどうなの?)

 イリスとハイドラの初デートの場所は戦場だった。

 彼女達は人が5人程なら乗れる大きな飛竜に乗って戦場へと向かっている最中だった。


人間と魔族の領地の境界「コルニアス平原」

城からは一番近い戦場。


イリスは両手で頭を抑えながら過去を悔いていた。

(互いの趣味も何も知らないし……どうして朝ごはんの時に聞かなかったのだろう…)


 そんな彼女の悩みを知らずに、飛竜はどんどんと目的地まで飛んで行く。

 みるみると景色が変わっていく。普段ならばこの景色を楽しむのだが、楽しむ余裕がなかった。


 初デート場所が戦場だと、魔王イリスは戦闘狂として今後語り継がれるかもしれない事を危惧していた。


 更にはイリスを悩ますもう一つの原因…

 ハイドラは無言…強引に誘ったは良いが、ハイドラは基本的に無口だった。交渉に来た時のイメージから話が上手なイメージだったが、彼は口を開かなかった。



(気まずい…何かを話さなければ。)

「ねぇ…もしも私が極悪な魔王で、貴方との約束を守らなかったらどうしていたの?貴方を殺して、人間を滅ぼそうとしたら。」


 ハイドラは単身で城に来た。だから言質を取る人間はあの場にはいなかった。ハイドラはそのことを大丈夫だと考えていたのか疑問だった。



「お前と初めて会った時から無いと思っていた。多分平和を望んでいるんじゃないかと思った。」


「初めて会った時?」


「覚えていないか?『ダイアス荒野』で神将を2人倒した時に、お前が俺達の目の前に現れた時のことを?」


「あぁ…私が魔族を殺させない為に地面を割って人間の追撃を止めた時ね?」


「そうだ。」



 半年くらい前の話だ。

 魔王配下の10神将のうちの2体とその軍勢を勇者一行は倒した。神将を倒した後、配下を殲滅する為に勇者達は戦っていた。



「神将サマも俺達の力をもってすればひとたまりも無かったなぁ!!まぁ主に活躍したのはハイドラの野郎だったが…」

 頭身の倍くらいある巨大な斧を振り回す筋骨隆々の赤髪のいかつい大男は、逃げ惑う魔族や魔物を殺しながら話す。

 斧の衝撃波によって魔物や魔族たちは次々と切り裂かれていく。



「だからこそ、雑魚はボク達の獲物なのです!!」

 水色の髪色をしたメガネをかけた目付きの悪い細身の魔導士の男は剣を敵に向かって向ける。彼の鷹のような鋭い目は逃げる者を逃がさない為にあるようだった…


 その剣から魔法陣がいくつも出現し、逃げようとする魔族たちに様々な魔法を放つ。それはまるで一人で魔法を使っているとは思えない規模の攻撃だった。


「ヒャッハー。魔族をいくらでも殺せるとか天国かよ!!」

 ローブを着て顔を見せない男は、何本ものナイフを空中に浮かせて、踊るように敵を斬りつけて行く。その後ナイフについた血を舐める。その姿は狂戦士と呼ぶにふさわしかった。



「ここにいる子はみんなお人形さんにしてあげるね!!」

 艶めく白髪に青いドレスを着たお嬢様だった。息絶え絶えの者や死体に近付いて行く。

彼女の周りにはまるで生きてるような人形が沢山動いており、まだ息のある魔族や魔獣にとどめを刺していた。


「らっくしょーじゃぁん。あーしちょっとサボろっと。」

 ライフルの様な長身の銃を持っているも、完全に場違いな若者だ。金髪のツインテールをして、ミニスカートの派手な格好に少し濃い目の化粧。ゴテゴテの指輪をはめたギャル。


 そのパーティーは男が戦闘タイプ、女子が補助の役割のメンバーで構成されているようだった。

 彼らはパッと見軽い旅仲間のようだった。

 しかし戦闘力が高く魔族を一人残らず殲滅するつもりだった。



<ドオン>

誰もいない地上に隕石が振り降りた。

 隕石により軽いひび割れが起きた。それは魔族と人間を分断するかのようだった…


上空からイリスが右手を地面にむけていた。


 彼女の出現で空気は…いや彼らの体がいきなり重々しくなった。今いる人間の動きを止めるかのようにプレッシャーではない何かが人間にのしかかる。


 空中からイリスがゆっくりと地上に近付いて来る。人間達は警戒する。


「え~。仕事サボろうと思ったんに…」

 金髪のギャルはライフルを構え、スコープ越しにイリスを狙う。


<バン>

 弾丸はイリスへ当たる事は無かった。軌道を大きく外し、途中で地面に落下した。

 彼女は銃撃に失敗したのだ。ライフルは彼女の腕から落ちていた。まるでライフルが重くなって持てなくなったようだった。



「去れ。もう戦いは済んだのだろう?」

 魔族とそれを追う彼らの前にイリスが立ちはだかる。



「いやいや…まだ魔物達を殲滅するまでは、戦いは終わらねえよ。」

 斧を地面に降ろして、赤髪の男は魔王に向かって言った。


「ですねぇ。我が国の民の多くはあなた達に殺されましたし。」

 水色の髪の人間はメガネ越しに鋭い目付きでイリスを睨む。剣は魔王に向け、魔法陣も空中に浮かんでいた。



「ヒャッハー。俺様が一番ノリ。」

 フードを被った狂戦士は、ナイフを両手に持ち目の前の魔王に攻撃を仕掛けようとする。


「仕方ないか…」

 イリスは右の拳に魔力を込めた。それを地面に叩き込む。



 一瞬で地面が割れた。人間達の周辺に地割れは広がり、狂戦士はそのクレバスの中に落ちて行った。



「今いる魔物を見逃せ!!さもなくば貴様らを殺す!!」

 魔王イリスは強大な殺気を勇者一行に向ける。


 ぐらつく地面に辛うじて立ちながら、斧を持つ赤髪の男は口を開いた。

「お前は神将か?名前は?」


「我を知らぬとは…我は魔王イリス。貴様らが倒そうとする魔族の王なるぞ!!」

 殺気を放ちながらイリスは問いに答えた。


「彼女が魔王…」

 

「どおりでボク達を前にしても余裕な訳だ。」


「えぇ…ちょっとぉ。あーしのライフル汚れちゃったじゃん。」


 初めて対面する魔王を前に彼らは強がりつつも畏怖を隠しきれずに少し震えていた。



「まあいい。今日の所は見逃してやる。」

 赤髪の男は周りの様子を見てか、溜息を吐いてイリスの提案を飲む事にする。

 その後巨大な斧の切っ先を魔王に向ける。


「だが覚えていろ!!この俺ゴリアテ様が…いや俺達が必ずお前達を殲滅してやるからな!!」

 斧を持つ男の発言で、勇者メンバーたちは武器を魔王に向けた。


「カッカッカ。楽しみに待っておるぞ、人間どもよ!!」

 そう言ってイリスは逃げる魔族の殿(しんがり)を務め、その場を去って行った。



(懐かしいなぁ…あれがハイドラとの最初の出会いだったのかぁ…)

 イリスは懐かしそうに過去を振り返った。


「ん?」

 イリスは何かに気付いたようだった。


「ねぇ…ハイドラ?」


「どうした?」


「私達が初めて出会った時って、貴方はどこにいたの?」


「あれ…?いなかった?俺?」


 いなかったかと言われるとイリスは覚えがない…それ以上に他のメンバーの印象が強すぎたのかもしれない。

特に赤髪の大男がリーダーっぽかったし、当時は彼が勇者だと勘違いしていた。


 影が薄いレベルではなかった。勇者一行に出会った時の記憶にハイドラは存在していなかったのだ。


(いや違う…上空から見た時、ひとりの人間は2人の神将とその配下たちの亡骸の傍に立っていた。祈る様に…)

 彼は空気が変わったのを察してこちらを遠くから見ていた…

急いで彼らの元には来なかったが…


「まぁその時だよ。イリスはあの場で俺達を殺そうとすれば出来た。けどそれをしなかっただろ?」


「まぁ…そうね。」

 当時は2人の神将が最後まで生き抜いた証を消したくはなかった。どんなに不名誉であっても、人間が生きて帰る事で神将が戦って死んだ事が記録される。それが彼らの生きた証の記録だからと彼女は思っていたのだ。


(彼らの強さや素晴らしさは自分達魔族が知っている。哀しくはあったが、人間の勝った事も認め、記録という形で勝者を称えるべきだと思った。)



「だからイリス達魔族は話せば分かってくれるかもしれない。争いは望んでいないかもしれないって思ったんだ。」


(あぁ…あの時の選択が…ソルとルナの死は無駄じゃなかった…)

2神将は勝負に負けたが、結果として大局の勝利のきっかけになる。彼らのお陰で勇者が仲間になった。


「私はそうだった。けれど争いを望むモノもいるし、分かり合えるとは限らない。これからは分かり合える前提で無茶なマネはしないでね?」


ハイドラはその言葉にキョトンとした様だった。

「まぁ善処するよ。」


こうして彼女達は目的地の平原まで少しの間、無言のままだった。



「あぁ、見えてきた。魔族700に対して人間3000くらいの戦いねぇ」

イリスは呑気に呟く。


ふとハイドラの方を見る。

「え?」


イリスは少し驚いた。かすかにハイドラの手は震えていた。


「怖いの?」

心配してイリスはハイドラに聞いた。


「怖くないって言ったら嘘になるかな…これから俺が止めに行くのは魔族ではなく人間だ…」


それは先程50の兵士を無傷で倒した勇者の発言とは思わなかった。


「大丈夫だよ。貴方は私が守るから。」

そう言ってイリスはハイドラの震えた手を握る。彼の手に触れて少し彼女は驚く。まるで勇者とは思えない、剣を握る事で出来るマメすらなかった。


「ありがとう。」

勇者は味方である人間達と敵対するのが不安で不安で仕方がないのだろう。


イリスは自分の強さを見せようとする為に、最初のデート場所を戦場にした事を後悔した。そう思って少し暗い顔をした。


(失敗かなぁ…)


「イリスも怖いのか?安心しなよ、お前は俺が守るから。」

 ハイドラはイリスを安心させようと無理に微笑む。


「ねぇ…私は最強の魔王よ?上司は部下を守るためにいるの。私を護るために傷つくくらいならば、私を見捨てなさい!!」


「ありがとう。」

 ハイドラは再び微笑んだ。大分安らいだ表情だった。


「じゃあ行きますか!!」


 イリスはハイドラの手を握って飛竜から飛び降りる。

 初めてのデート先・・・戦場へ向かって

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[良い点] 初めてのデート先が戦場。 普通ならアウトだが、イリスならギリギリOKなのか? 徐々にイリスとハイドラの仲が深まっている感じが良いです。
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