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魔王乱心 ~勇者の嘘と飾られた世界〜  作者: シャチくま
6.悪夢
49/54

49.悪夢

 イリスはハイドラの元に歩んでいく。

ひたすら真っ黒の世界を…

より闇の深い場所に向かって…


きっとそこにハイドラがいると確信していたから…


辺り一面が闇に覆われて光は無かった…


(ここがあなたの心なら、どうして光が無いの?


あなたが語った世界の平和が近いのに、どうして闇に包まれたままなの?)


世界の平和は近い…

けれど光が無い…それは最初から彼の歩む道に希望が無いことの様に…


闇を進む…剣の力により多少の闇は浄化されているが、それでも重々しく感じた。

決して先の見えない暗闇…


闇を進んだ先にハイドラはいた。

ただぽつんと1人立っていた。ただただ孤独…


 姿はいつもと違っていた。

真っ白の仮面を被り、それ以外全身が真っ黒なハイドラ。


 仮面は道化師の仮面のようだった。目と口元は笑っている表情が見えない空虚な仮面。


 真っ黒な世界に取り残された孤独な人間…

無理をして…心を偽っているのを表しているようだった。

 孤独な世界で笑い続ける道化…


泣いてしまいそうなくらい哀しい…


『偽飾』という天恵…それはハイドラが心を偽った末に進化した天恵…

 イリスはハイドラの天恵について考え始める。


「正直に生きられなかった…


いえ…何かを隠さなければならないが故にあなたの力が生まれたのね…」


(誰かを…自信を守り続けるために、彼は笑い続けた…

 自身を偽り続けるうちに彼は闇に覆われてしまった。

 そして本当の気持ちすら分からなくなってしまった。)


 イリスは真っ白な刃の神剣を構えた。

 それを待ち受けるようにハイドラは真っ黒な刃の剣を宝玉から出現させた。


「必ずあなたを救ってみせる。」

 イリスはハイドラに突っ込む。天恵の能力を使おうと思ったが、この空間では使えないようだった。


 が、イリスはハイドラと真逆の方向を向いていた。


<パチン>

 ハイドラが指を鳴らす。それと同時に何人ものハイドラが出現する。

 そのハイドラは喜・怒・哀・楽の様々な表情の仮面をしていた。


(今まで感情をも偽っていたの?)

 イリスはハイドラを斬る。が、手応えがなく分身は消える。


 一体…一体とただ終わりを迎えたいの彼の心を示すかのように…


「ハイドラ…ふざけていないでわたしと向き合って!」

イリスがそういった瞬間にハイドラに後ろから黒い剣で突き刺される。


 その瞬間に流れ出す哀しい記憶…


 イリスの父・ガイウスに町を滅ぼされた時の事…

 ガイウスに助けられた事…

 そしてエクレールがガイウスを真っ二つに斬った事…それでも笑っていた男の姿…


 そこから彼自身が苦しみ続ける事になった事。


 イリスは自身を突き刺す黒い刃を左手で掴む。それと同時にとてつもなく痛く、苦しみで押し潰されそうな気持ちが彼女を襲う。


(痛い…けれどこの痛みを彼はずっと耐えて来たのかもしれない)

イリスは彼の気持ちを理解しなければならない使命感があった。

理解した上で彼を受け止めなければならないと思ったから…


「捕まえた…」

 イリスは左手で剣を握り、右手でハイドラになんとか斬りかかろうとする。


 その瞬間黒い刃は消えた。ハイドラの姿も消える。


「届いて!」

イリスは半回転しながら、ハイドラに刃が届くのを祈りながら剣に意図せずも魔力を込めて振るう。


すると剣から光が放たれ。闇の中に姿を消した筈のハイドラが姿を現す。

ハイドラは咄嗟に黒い剣で攻撃を防ごうとする。


白の剣と黒の剣が刃を交えた。その瞬間、黒い世界に白い光が混じり込む。

少しだけ白い空間が生まれた。


その瞬間、モヤが晴れた様に真っ黒の空間に映画のワンシーンの様にハイドラの記憶が浮かび上がる。



「はやく帰って来てね?」

エクレールは微笑む。


「あぁ…魔王を倒して…おま…いや争いが無い世界を作るさ。」


「いってらっしゃい」

エクレールは笑顔で手をふる。


彼女の笑顔を見て、すぐに目を逸らした。

そして旅立つ。


(もうきっと会えない。けれどアイツが幸せなら…)


記憶はすぐに消えた。


「エクレール…」

急に頭を抱えて苦しみだす。


「助けて…」


ハイドラが呟くと、10年前の少女だった頃のエクレールが出現する。

しかし彼女の顔にはモヤが掛かった様に見えなかった。


ハイドラの作り出した幻…

その幻は剣をどこからともなく出現させた。


「ハイドラを苦しめるヤツは…殺す!」


〈シュッ〉

イリスの横を一陣の風が通る。

エクレールはいつの間にかイリスの後ろにいた。


その瞬間にイリスの脇腹に剣で真っ二つに斬られた様な激痛が走った。


「ああ…」

痛みの余り、イリスは声が出る。しかし剣で斬られたが、痛みだけで傷はなかった。


(『蝕夢』による痛み?あの子もハイドラの作った夢?)


「強い…」

初めてエクレールと出会った時より何倍も今の彼女が強い気がした。

魔力が使えないのもあるかもしれないが…


再びエクレールの姿は消える。次の瞬間イリスの体に何本も剣が突き刺さっていた。

痛みのあまり気を失いそうになる。


(痛い…回復しなきゃ…魔力がここで使えたら…)

イリスが両手に魔力を込めた瞬間だった。


イリスの魔力を受け取り、彼女を守るかの様に神剣が輝かしい光を放つ。


その光は今にもイリスの首を切り落とそうとするエクレールの体を燃やす様に蝕む。


「いやぁぁぁぁぁあ…」

光に蝕まれエクレールは苦しみ出す。


その瞬間、ハイドラはエクレールの体を庇い、護るかの様にイリスの前に立ち塞がる。


「俺が…エクレールを守るんだ…

アイツがもう戦わなくて良い様に…」

そう言ってハイドラはイリスに黒い剣で斬り掛かった。


仮面で表情は見えない…

けれどイリスにはハイドラの苦しみを理解し始める。


(あぁ…ハイドラ…あなたは…)


白い剣と黒い剣が再び交わる。

そうして再び黒い世界に白い光が差し込む。


「人間…いや勇者よ…何故キサマらは争いを求める?」

神将ウィソルはヴァルナを庇いながらもハイドラに聴く。


「争いを無くして世界を平和にする為だ!」

ハイドラは淡々と答える。


「あなた達が攻め込んで来なければ、私達は人間とは争わないわ…

もうこんな無益な戦いは終わりにしましょう?」

傷を負いながらもヴァルナは必死にハイドラに訴えかける。


『悪夢』

ハイドラは2人の神将の心を…脳を破壊しようとした。


「いやぁぁぁぁあ」


酷い断末魔だった。

それによりヴァルナは両目から血の涙を流して生き絶えた。


「ヴァルナ!」

悪夢の中でもウィソルは意識があった。強靭な意志により悪夢に耐えているようだった。


「許せない…よくもヴァルナを…

あんなに平和を望む妹をよくも…」


しかしウィソルの強靭な意志でも耐えきれない様だった。

彼も次第に両目から血の涙を流し始める。


「貴様らに呪いあれ!人間…いやお前ら悪魔共に永劫の苦しみを!」

苦痛に歪みながらも、憎々し気にハイドラを睨みつける。


『儚却』

ハイドラは指を鳴らす。


「せめて…痛みも全て忘れて…」

ハイドラがウィソルに話かけている時だった。

ウィソルはモノ凄い力でハイドラの首を掴む。


「この憎しみだけは…俺達は貴様ら悪魔を決して許さない…」


ハイドラは彼の意志に恐怖した。

そして正しい事をしているはずなのに、悪魔と呼ばれる違和感も感じた。



『儚却』

ハイドラが再びウィソルの記憶…力の込め方を忘れさせる…


その瞬間にハイドラは解放されて、ウィソルはただただ立ち尽くした。

その後ハイドラの悪夢により耐えきれなくなったのか、地面に倒れた。


「俺は…負けたんだな…」

ウィソルはヴァルナの方を見る。


「あぁ…ヴァルナ…情けない兄ちゃんでごめんなぁ…

お前を守って…幸せにしてやりたかっただけなのに…」

ウィソルはヴァルナの亡骸に向かって這いずっていく。


「ただ平和に暮らしたいだけなのに…

どうしてこうもうまくいかないんだろうなぁ?」

ウィソルは妹に語るように独り言を呟く。


「イリス様…グリフィス様…みんな…

先に逝きます…幸せになって下さい。」

そう言って、ウィソルも生き絶えた。


「俺は正しい事をしたんだよな?平和に近づいたんだよな?」

ハイドラは頭を抱えて苦しみ始める。


「俺たちは…平和を望む彼らの幸せを奪っていたのか?」

ハイドラは亡骸を前にただ立ち尽くした。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ」

この日ハイドラは後悔した。幸せを望む彼らの尊厳を破壊して殺した事を…

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