46.決着
「いくぜ魔斧ディザスター」
ゴリアテはゴーレム達の軍団へ先陣をきった。
大きな斧を振り。
『災禍竜招来』
大きな斧が生む魔力により作られた竜が、ゴーレム達を呑み込む様に襲い掛かる。
ゴーレムの体はバラバラになったり、爆発したり不思議な現象が発生した。
「俺の天恵『|引き受け≪ストック≫』は過程を保存して、結果を吐き出す。
つまりお前達が受けてる攻撃は、過去に保管した攻撃の結果だ!」
ゴリアテは昨日のディランたちとの戦いの際にストックした過程を一気に結果として攻撃の為に吐き出した。
その力によってゴリアテは一瞬で百体近くのゴーレムを殲滅する。綺麗に巨神兵までの一本道が出来上がった。
しかしゴーレムの兵士は再生しようと体を修復する。
完全に再生するまでの間にハイドラとイリスは巨神兵の元に進む。
ハイドラは走りながら、イリスは羽で飛びながら…
「ハイドラ…体は大丈夫なの?」
イリスはハイドラの体を心配する。
「ディランの持っていた『超越薬』を使った。少しの間だけなら大丈夫だ。」
体を動かす為ハイドラはディランから薬を貰っていた。
かつて王都でレディオン王が使った力…魂を削りながらも瞬間的に力を得る薬…
「あまり無理しないでね?」
イリスはハイドラと会話しながら、何事もなかったようにパンチやキックによる衝撃波でゴーレムを殲滅していく。
「神将たちよ!気合いが足りないぞ!
魔族が優れている事を人間に見せつけてやれ!」
グリフィスはそう言ってゴーレムを氷漬けにする。
再生するゴーレムを氷漬けにして、イリス達に襲い掛かろうとするゴーレム達の動きも鈍らせる。
「お前ら。牢屋に入ってたからって腕は鈍ってないよな?
この戦いの部下達の仇取りの時間だぁ!」
ゴリアテも鼓舞する。
共通の敵を前に人間と魔族は共闘する。
イリスとハイドラが頑張って来た、これまでの積み重ねの結果だった。
イリスとハイドラは巨神兵に向かって進んでいた。
「ディランから聞いたんだが、あの巨神兵は無限に戦える訳じゃない。
相手の能力に対応して倒せないように見えているが
相手の天恵や魔法に適応する毎に、体の一部を切り捨て代償にしているそうだ。」
「あそこまで小さくなったなら、残る力もあと少し…イリス、良く頑張ってくれた!」
ハイドラはイリスを労う。
巨神兵は2人が向かって来るのを余裕そうに眺めている。
「我の元に来るのは2人のみか…だがあの魔族の女には注意せねば!」
巨神兵は何千もの武器・大砲・銃・魔法をを空中に精製する。
更には空から隕石も落下させて、2人を迎え撃つ。
巨神兵もこの戦いで得たあらゆる力を駆使して迎え撃つ。
「イリス…
命を賭けてお前を護らせてくれ!そして共に未来へ歩もう!」
ハイドラは指をパチンと鳴らす。本来は指を鳴らす音が聞こえる距離ではない。
『超越』の天恵による、かすかな音や光の変化にも反応するという特性を利用していた…
ハイドラは『超越』の天恵には誰よりも詳しい…
だからここに来るまでに対応策は考えてあった。
『|飾逆≪さかさかざり≫』
攻撃の軌道はイリスとハイドラから外れ、左右逆さまの明後日の方向に飛んでいく。
巨神兵は少し動揺しているようだった。攻撃が思ったように当たらない事に…
「あの人間の仕業か…厄介だ…指を鳴らされる前に早急に始末せねば…」
「黒洞」「開門」
巨神兵は大きなブラックホールを何個も出現させる。更にはもう一度空中に大砲や銃を生成する。確実に敵を葬れるように…
ブラックホールの超重力に地面を含めてあらゆるものが吸い込まれていく。
「おいおい…良いのか?その方向は…」
その言葉で巨神兵は違和感に気付く。
「我は何故、ゴーレムがいる場所に奴らがいると錯覚してたのだ?」
気付いても遅い。
ブラックホールに吸い込まれたのはゴーレムだけ。
イリス達のいる場所の認識を変えられた事で、攻撃は全く違う方向に向けて飛ばされていた。
「『夢幻』。まさか走って向かっていると思っていた俺達が、最初から幻覚だと思っていなかったみたいだな…
気付けない事は『超越』で適応は出来ない!」
ハイドラは一番最初に指を鳴らした時点で、自身のいる場所を錯覚させていた。
こうしてイリスとハイドラは巨神兵まで残り僅かな所まで辿り着く。
「奴らは…もうそこか!」
巨神兵自身も錯覚していた。ハイドラの能力が指を鳴らす事で発動するモノだと。
だから指を鳴らさなければ安心だと思い込んでいた。
「イリス…必ず良い未来を掴んでくれ!」
ハイドラはイリスに声を掛ける。そして指をパチンと鳴らす。
『幽巡飾』
「何をした?先程と変わったか?何を誤認させられているのだ?」
巨神兵は焦っていた。認識をかき乱される事まで予期していなかった。何が本当なのか嘘なのか判断がつかなくなっていた。
人間1人変わるだけで戦い方が大きく変わり、追い詰められるとは夢にも思っていなかった。
「イリス、俺がこの神剣『|咎≪とがめ≫』で奴にトドメを刺す。
だからお前も奴に全力の攻撃を叩き混んでくれ!」
ハイドラは右手に神剣を握る。
その話は当然巨神兵にも聞こえていた。
「させるか」
巨神兵は身体中を硬化しトゲや武器を生やして再びウニのような球体に変化する。
2人に直接攻撃させない為に…防御態勢に入る。
「フッ。想像通りの姿だ!俺たちの勝利だイリス!」
ハイドラはイリスに向かって大声で勝利宣言をした。
そして神剣を頭上の空に向かって投げる。
「決着の時だ!神剣『咎』封印開放!」
ハイドラは右手を天に伸ばし力強く宣言した。
イリスはそれを聞いてつい口元が緩んだ。
「………」
巨神兵はイリスの口元の緩みを観測した。
ハイドラが持つ武器がティアラの使った魔宝具と同等かそれ以上に危険だと認識していた。
(予想通り・封印解放・女の余裕な笑み…)
瞬時の判断でハイドラがこの戦局を大きく変える力を使うのだと判断した。
巨神兵は守るべきではなく攻めるべきだと考えを改める。
一瞬にして巨神兵は体を覆っていた守りを、全て攻撃の為に注ぎ込んだ。
攻撃対象を神剣『咎』に変更、攻撃を集中させハイドラごと神剣を吹き飛ばそうと試みる。
一瞬のうちに大量の攻撃がハイドラと剣に攻撃が向かう。
攻撃は空中の剣に当たる。オレンジ色の爆発が何回も剣に当たり続け、神剣は大きく吹き飛ばされる。
『|禍飾≪マガツカザリ≫』
ハイドラの体の周りを黒いオーラが覆う。それによりハイドラへの攻撃は防がれた。
「クソ…奴を倒す為の唯一の力が…」
ハイドラは悔しそうに言った。
巨神兵は吹き飛ばされた剣を見て、武器が破壊できているか確認する。
「剣は破壊出来てないか…だが我への対抗策は失われた…」
ハイドラの方を見て、一瞬イリスは絶望した表情をする。
急いで吹き飛ばされた神剣を取り戻そうと向きを変えようとする。
「イリス…剣は俺が取りに行く!お前は奴の視界を塞いで、持てる力を全て注ぎ込んで攻撃してくれ。
あの剣の封印を解けば俺達の勝利だ!」
ハイドラの言葉でイリスは再び巨神兵に向かう。
(今なお勝利宣言か…不快だ…
だがあの人間の移動速度は速くない…あの剣を使わせる前に男を殺せば我の勝ちだ!最悪逃げれば良い。)
巨神兵は勝利を確信する。そして空間に大量の魔宝陣や銃などの武器を出現させる。
(まずはあの剣を更に遠ざける。魔族の攻撃に耐えたら、剣に意識が向いている男を殺す。)
『黒洞・封』
重力による大きな真っ黒のカーテンが巨神兵の視界を塞ぐ。少しでも攻撃を命中させない為に…
その後イリスは巨神兵と自身を超重力の巨大な球体のブラックホールに閉じ込める。
「その力は適応済みだ!」
そう言って巨神兵は自身を黒の重力体に変化させる。
重力に適応している為、イリスの作った自分達を閉じ込める空間から逃げる事も容易い。
「我の勝利だ!」
「いえ…これはこれから放つワザで地上を壊さない為の空間よ?あなたを閉じ込める為じゃないわ…」
『天地開闢』
一瞬にして全てを白い光で埋め尽くす。
消滅の光は巨神兵を滅ぼす為に輝き続ける。
あらゆる『力』によって巨神兵の体は何回も消滅と再生を繰り返す。
しかしイリスの力に適応していた為、かろうじて完全消滅を逃れる。
巨神兵は既に人間の子供くらいの大きさだった。残り僅かな力…
それは逃げる為にあるような姿だった…
「我の勝ちだ!」
巨神兵は攻撃を耐え、真っ黒の空間を抜ける。
〈スッ〉
空間を抜けた先・
ハイドラが左手に持っていた黒い剣の刃が小さくなった巨神兵の胴を貫いた。
「貴様…何故ここに…?あの魔宝具を取りに…」
ハイドラが剣を取りに行っていない状況を理解出来なかった。
「あの魔宝具はお前に意識を向けさせる為の囮だ!」
「我を一撃で葬れる武器を囮に使うだと?」
「あれは全部嘘だ…それに俺はあの剣を使えない…」
ハイドラはあの局面で堂々と嘘を吐いていた。巨神兵とイリスの両方を騙す為…
「ならば何の為に貴様はあの剣を持っていた?訳が分からない。」
「あの剣は勇者の証だからな。俺が勇者として在る為の…」
『儚却』
「お前は自身の力の使い方、思考や上下左右あらゆる事を忘れ去る。
今ある魂も『心繋の宝玉』に封印する。」
「……思考が……」
「全てを終わらせよう…」
『敗北』
巨神兵は更なる進化を求める。適応を求める。
しかしそれが出来ない絶望・怒り・憎しみという負の感情が巨神兵を最後まで世界に留める。
「このまま人間如きに負けてなるものか…」
「諦めろ。終わりを受け入れろ!」
「まだ終わらん。我は魂となってでもこの世界に存在し続ける。」
「何を言っているんだ?」
ハイドラは焦る。何かとんでもなくよくない事が起きている気がしたからだ。
「貴様が我の心・魂に触れていると言うことは、
我も貴様の心と魂に触れていると言う事なのだ!」
ハイドラの耳元に囁くように…まとわりつくように声が聞こえる。
古の巨神兵が自身の体を無くしてでも最後に『超越』により適応したモノ…
『心繋の宝玉』を通した、魂の通行…
「貴様はこれまで憎しみを必死に誤魔化してここまで来た。限界を超えながらも…」
「………」
ハイドラは物凄く嫌な予感がしていた。心の奥底に眠る感情がほじくり返されるように不快感が彼を襲い始める。
「抱え込んだ憎しみが、心に一気に押し寄せたらどうなるかな?
さぁ…その憎しみに満ちた魂を解放するのだ!」
古の巨神兵の体は次第にボロボロと崩れていった。
「終わったの…?」
イリスはハイドラに近寄っていく。勝利を確信して。
ハイドラはただ呆然と立ち尽くしていた。それはまるでまだ戦いが終わらないかの様に…
「そうだ…俺は…」
イリスはハイドラの様子がおかしい事に気付く。
「ハイドラ…大丈夫なの?」
イリスがハイドラの顔を見る。
「………っ」
一瞬で絶句した。言葉が出せなかった。
そこには両目から真っ赤な血の涙を流すハイドラの姿があった。
「思い出した…俺はこの世の全てを憎んでいた…」
「ここで全てを終わりにしよう…」