45.共に未来へ
古の巨神兵の体は空中に浮いたまま変形していく。それはまるで新しい進化を求めるかのように…
山の様に大きな体は今ではお城くらいの大きさに収まった。形は宙に浮かぶ瓦礫の球体へと変わる。
「これが進化と言うモノか…命を知り、ようやくたどり着けた…」
球体は口が無いがしゃべった。
「進化?あんな巨大な体から小さくなったんだから退化だろ?」
ティアラは悪態をつく。
その瞬間、巨大な球体はウニのようなトゲトゲの球体に変化する。
そこから何百もの鉄のトゲがティアラ達に向かって発射され、空からも降り注いだ。
「|開☆門≪ヘブンズ☆ゲート≫」
攻撃はティアラによって無効化される。
『|地祇≪くにつかみ≫』
イリスはその円柱に金属が含まれることを信じて博打を打つ。磁力を操る事によりその攻撃をそっくりそのまま敵へと誘導した。
つまり敵が発射した力のまま、敵に向かって飛んで行く。全弾命中。敵の体はかなり傷つく。
(………)
ティアラはそれをしっかりと見ていた。
「ほう…この体でもまだ的になるくらい大きいか…」
球体の体は傷ついた部分を捨てて、2階建ての家くらいの大きさの球体に再び変化する。
捨てられた瓦礫は人形の様に形を作り自我を持ち地面に降り立つ。
「ゴーレム達よ…地上の人間どもを駆逐せよ。」
生憎とイリスとティアラは宙に浮いていた為攻撃範囲外だった。
しかしディカプリオとその側近は地上にいる。その人間達を襲う為に何百もの瓦礫の兵が襲い掛かろうと向かって行った。
「これで余計な邪魔者はいなくなったな。」
球体は瓦礫の体から金属の体に変化する。先程のトゲの威力では傷つかない様に適応したのだった。
「そうね…」
『天墜』
イリスは宙に右手を伸ばす。
無数の流星が地上の瓦礫の兵士と巨神兵に降り注ぐ。
地上のゴーレムは潰されて行ったが球体となった巨神兵は少し傷ついた程度だった。
「熱を持つ隕石か…力に取り入れるとしよう。」
球体は隕石の力を取り入れたように熱を帯びる。
巨神兵は攻撃の準備をする為に変形し始めた。
次はトゲを飛ばすのではなく、人間の腕の様な円柱状の塊を作り、それを伸ばしてティアラ達に殴りかかろうとする。
『開☆門』
殴り込みに合わせて、ティアラはパンチを受ける為にゲートを開いた。そのゲートに向かって飛んだパンチは、球体となった巨神兵自身を殴りつける。
「自分の攻撃なら効くだろ?」
巨神兵の体は中々再生出来ていないようだった。決定的ではないが追い詰めているのが分かる。
それを見て今が攻め時だとティアラは判断する。
「再生力は落ちているな…なら」
ティアラは様子を伺う。
『開☆門』
ティアラは広範囲の空間に穴を開ける。
そこから何十、何百もの銃や爆弾や砲台が出現する。
「使う機会はもう無いと思っていたのになぁ…」
ティアラは左手を上げて、それを下げる。発射の合図だった。
その合図とともに一斉放射が始まった。
火薬による大炎上だった。人間ならば生きていない。少なくとも瓦礫の兵を破壊しつくすつもりだった。
街一つさえ簡単に壊滅出来るほどの広範囲の攻撃だった。
最初はティアラの攻撃も巨神兵に効果はあった。しかし時間が経つにつれて攻撃は無意味になっていく。
「ふむ…人間の魔宝具が使えれば、効率よく殺せるな…
道具による攻撃はこの体では出来ない…しかしこの体は魔宝具を使うには大きいのか…困ったな…」
巨神兵の金属の体は次第に人型の様な体に変わっていく。3メートル前後の人型に変わった。
もはや巨大な人間の様だった。
「まるで人の姿だ…気分は悪いが進化として諦めるとしようか…」
巨神兵はティアラの出現させた砲台の元に瞬時に移動した。それと同時に砲台を抱える。
「地上で喚くピーピーと煩い人間を黙らせるか…」
砲台には弾は無かった。しかし自身の力で弾を作りディカプリオと側近に向かって撃ち込んだ。
結果ディカプリオを含め側近達は吹き飛ばされる。ディカプリオだけが運よく生き残った。
「先程の兵も脆かったな…新しく強く作るか…」
『|真実≪emeth≫』
地面から無数のゴーレムの兵隊が生み出される。
隕石や土や瓦礫など様々な物を媒体にしているようだった。
「キリがない…」
ティアラの顔は少しきつそうだった。渾身の一撃でもとどめを刺しきれなかったからだ。
イリスも力を消耗していた。
その為周囲に散らばった魔力を隷属化させる。人形も魔力により生成されたなら吸収が出来るかもしれないと淡い期待をしながら…
しかしゴーレムの兵士を崩すことが出来なかった。魔力で出来ていないか、先程の魔力の隷属に適応していた為に…
しかし周囲の魔力を取り込んだことにより自身の傷は回復する。
「もう無理っぽ…」
「ティアラちゃん…ちょっと試したいことがあるんだけど?」
「おぅ使え使え…あーしはちょい限界だから任せて良い?」
ティアラの表情は辛そうだった。1日中、力を使っていた為限界が近かった。
イリスは空中ではあるが武術家のように構える。
〈シュッ〉
その瞬間巨神兵の体が地面に向かって吹き飛んだ。
「え?」
ティアラは驚く。なぜならイリスがその場から動いていない。
〈シュッ〉〈バシュッ〉
巨神兵の体は2回衝撃を受けて傷がついた。
「イリスっち?何をしたん?」
「ただのパンチとキック。」
「それちょっと地上の敵達にやってみて?」
するとイリスは目にも止まらぬ速さでパンチとキックを繰り出し続ける。
速すぎて残像が生まれる。滑稽な事に速すぎるあまりその残像は静止して見える程だった。
「あははは。やっぱり本物の魔王は力のケタが段違いだわ。
ギャグ漫画みたいなめちゃくちゃな力だわ。」
ティアラは笑う。緊張感が一気に消えた様だった。
力を抜いたせいでティアラは地上に落ちていく。
「ティアラちゃん?」
イリスはティアラを助ける為にティアラに向かって急速落下した。
攻撃が止んだ事を巨神兵は見逃さなかった。
「貴様ら魔族のパンチが大気を圧縮し空気弾を生み出す程危険な力だったとは…
覚えておこう。だがその人間を見捨てれば勝てていたものを…」
巨神兵は魔族の基準を誤認し続ける。彼女以外は殆ど無理な芸当である。
何千もの金属の槍が空中に生成される。全てはイリスとティアラ2人の為に…
確実に彼女達を仕留めるために…
巨神兵は槍を発射する合図をする。
「イリスっち?あんただけでも逃げろ!」
ティアラは強がっていたが、限界だった。せめてイリスだけでも無傷でいて欲しかった。
「嫌よ!だってティアラちゃんはわたしの友達だもの…」
そういってイリスはティアラを抱きしめる。槍から庇うように…
ティアラの落下は防げた。しかし余裕は既に無い程、全方位槍に囲まれていた。
「終わりだ!」
巨神兵は発射合図をする。
〈パチン〉
指がなる音がした。
「ディラン…音は『増幅』されてるよな?」
「大丈夫!安心しろ!」
『逆夢』
巨神兵が発射した無数の槍は、自らが作ったゴーレムの兵士を貫き一掃してしまった。
「誰だ?」
巨神兵は不快という感情を覚える。これまで感じた事のない感情だった。
イリスとティアラは目を瞑っていた。しかし攻撃は一向に来なかったために目を開けた。
地上には粉々に砕け散ったゴーレム…
圧倒的に不利な状況を覆す。イリス達はこれまでそれを沢山見て来た。
だから遠くにいるのが誰か分かった。
「ハイドラ…ありがとう。」
イリスはティアラを抱きしめながら宙に浮かび涙を流した。
辛かった戦いに希望が見えた。
ハイドラは口をパクパクさせて呟いているようだった。イリス達には聞こえない筈の距離…それでも
「待たせたな!イリス、ティアラ」
と不思議と声が聞こえた気がした。
「開門」
ディランは後方から空間に巨大な穴を開ける。
その穴からゴリアテをはじめとした人間の将達、グリフィスをはじめとした魔族の神将達が姿を現した。
「小癪な者が何人現れようと我には勝てん!」
そう言って巨神兵は再び地面に何千ものゴーレムを生成する。
「お前ら、勇者ハイドラと魔王イリスを目の前の雑魚どもから護るぞ!」
ゴリアテの掛け声とともに将達は大きく声を上げる。
「神将達よ…夜明けは近い。これから来る新しい未来を必ず見るぞ!」
グリフィスの掛け声と共に神将達は大きく声を上げる。
イリスはティアラを抱きかかえながら、ハイドラとディランの元に近付いて行く。
イリスに抱きかかえられたティアラは苦しそうにしながらも、ニヤリと笑った。
「おうメガネ…いや…ディラン…良い顔になったじゃん。」
「お前がそんなに頑張る姿を初めて見た…ティアラ…本当にありがとう!」
ディランはティアラの嫌味には応えなかった。しかし深々と頭を下げて感謝の言葉を述べる。
皇子が頭を下げる…それは彼なりの最大限の感謝だった。
「ディラン…ティアラは任せて良いか?」
ハイドラはディランに声を掛ける。
「勿論だ。」
そう言ってディランはその場から消える。
「ハイドラ…この場に来てくれたのは嬉しいんだけど…」
イリスは迷っている。満身創痍であるハイドラを戦わせるかどうかを…
「イリス…お前の気持ちは分かる…それでも世界の為に戦わせてくれないか?」
ハイドラは強い瞳でイリスをまっすぐ見た。
目が合った瞬間にイリスは恥ずかしくて少し目を逸らした。
(ダメだ…カッコよすぎて直視が出来ない…)
物語の様な理想の現れ方にイリスは心臓のドキドキが止まらない。
「わたしがハイドラを護る。だから一緒に戦ってくれる?」
イリスはハイドラに向かって微笑んだ。そして左手を伸ばす。
「じゃあ俺がイリスを護る。だから共に行こう。」
ハイドラもイリスの左手を掴む。イリスは右手をその上に重ねる。
そしてイリスとハイドラは沢山のゴーレムの先にいる巨神兵を見る。
「俺はこれまで色々な人に支えられてきた。だからもう誰の想いも踏み躙らせない!
みんなで世界を守り、新しい未来を歩もう!!」