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魔王乱心 ~勇者の嘘と飾られた世界〜  作者: シャチくま
5.終焉へと進む
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42.『偽飾』の勇者

「ねぇ…ここまで来たけどやっぱ帰って良い?」

戦場に似つかわしくない少女エベレスが聞いた。


「どうした?ゴリアテさんを前にビビったのか?」

カイゼルは(え?今更?)と内心動揺しながら、必死に余裕ぶっていた。


「違う…向こうのアイツよ…」


「裏切りの勇者か?何だよ?お前10年前から勇者に憧れてたんじゃなかったのかよ?」


「あたしが憧れた勇者とは空気が違いすぎるの…

それに魔力も…何か歪んでいて気持ちが悪い」

エベレスは具合が悪い顔だった。


「それでも手負いの勇者ならディラン様が勝…」


「勝てない!あれは勝つ負けるの類いじゃない。

見たら逃げなきゃいけないバケモノの類いなの!」


「『共感覚』持ちのお前がここまでとは…ならエベレスは逃げろ!

俺はディラン様なら勝てると信じている…だからゴリアテさんと闘う。」

そう言ってエベレスを庇うようにして前に立つ。エベレスはそのまま後退して消えて行った。



 ハイドラは指を鳴らすために左腕をディランたちに向けていた。しかしディランはそれを防ごうとする。


「ライトニング…」

「連弾ファイアボール」

 ディランは無数の雷と大量の火の玉をハイドラに向けて放つ。

 天恵の『増幅』により、威力が初級や中級魔法とは思えないくらいに上がっている。


「ボクはずっとお前に憧れていた。

だから何年もの間、お前の力をずっと研究していた。

お前への対策は万全だ!」


 ハイドラは無表情のままディランに近付いて行く。

 だが右足を引きずっている為か、走ろうとする素振りも無くゆっくりとだった。


<ドォン…ドォン>

 無数の雷が地面に落ちる。無数の火の玉がハイドラに向かって飛んで行く。それと同時に土煙が立ち、ハイドラの姿は消える。


「まだここからが本番だ!アイス・スコール」

 土煙の中でハイドラが指を鳴らさない様に、氷の雨を降らせる。


「ディラン様…俺達も殺す気か…?」

「おいディラン、俺たちも巻き込むな!」

 氷の雨は敵味方関係なく降り注いでいた。


「ハイドラ…その怪我でボクに勝てると思うのか?」


「俺はお前に勝つさ!俺の居場所を守る為に…」

 ハイドラはディランが見ていた方向と違う場所にいた。一瞬で移動したようだった。



「『夢幻』か…いつの間に使ったんだ?」

 ディランは焦る。ハイドラは指を鳴らす動作を見せていなかった。

 彼の鳴らす音を聞いていないのに、力を使われていた。


「ファイアボール」

 ディランは効かないと知りつつも無数の火の玉を四方八方容赦なく飛ばし続ける。


 大魔法を使う時間を稼ぐために…


 ディランは右手で剣を握りながら左手で魔法陣を描き複数の魔法を使う為の詠唱をする。

「ならばお前に攻撃が当たるように、全てを攻撃すれば良い事だ。」


「炎魔法奥義・ヘルフレア」「氷魔法奥義・フリージア」「雷魔法奥義・デスサンダー」

「風魔法奥義・ウインドブレイカー」「光魔法奥義・ジャッジメントライト」「闇魔法奥義・メンタルブレイク」


 虹色の色鮮やかな魔法陣が空中に描かれる。そこから放たれる魔法がハイドラに向かっていく。


<パチン>

 どこかで指を鳴らす音が聞こえた。それと同時に魔法陣が消え去る。


「え…」


「ディラン…そんな魔法で俺が倒せると思うのか?」

 ハイドラは余裕そうにディランに声を掛ける。


「俺は…満身創痍のお前にすら勝てないのか…」

 ディランはポケットから丸いタブレットを出す。


「『超越薬』父上がくださった勇者に等しい力を得る薬…」

 ディランはそれを眺める。使うかどうか迷っているようだ。


 だが首を振ってポケットにその薬をしまった。

「いや…自身の力で…ハイドラに勝てなきゃならないんだ!後悔しない為に…」


 ディランは自身の周りに魔法陣を出す。


「ディラン…それを使わなきゃ負けるぞ?」


ディランは首をふる。

「ボクの力で勝てなきゃ意味が無いんだ!

この力でお前に勝つ。例えお前がどんな力を使おうと、ボクの全力の力でねじ伏せる。」

ディランは真剣だった。今ある魔力を全て使ってもハイドラに勝つつもりだった。


宙には無数の魔法陣が星の様に浮かび、地上は攻撃魔法で埋め尽くされていた。


今歩いて見えるハイドラは恐らくそこにいないと分かっていたから…

別の場所から近づいていると分かっていたから、広範囲の攻撃をしなければならなかった。


無数の魔法が地上を…宙を埋め尽くす。

それでもハイドラはゆっくりと歩みを進める。


「喰らえ!」

魔法の一斉攻撃…絶対絶命にも関わらず彼は前に進む。


〈パチン〉

再びどこかで指が鳴る音が聞こえた。それと同時に魔法は消える。


「魔法の無効化なのか?ボクが見た事ない力…どうして…

ハイドラ…どうしてお前はこの力を平和の為に使わない?」


「ディラン…お前にとっての平和って何だ?」


「俺にとっての平和とは人間が平和に暮らせる世界だ!」


「その平和の為に俺の故郷は滅ぼされたのか?

10年前、お前達王族と貴族がエメリアの街を滅ぼした事を俺は決して忘れない。」


「お前の故郷は先代の魔王ガイウスに滅ぼされたんじゃなかったのか?」


「断じて違う!」

ハイドラは否定する。


ディランの父から聴いていた事と食い違っていた。それでも間違いを聞けずハイドラと向き合うしかなかった。


「|開門≪ゲート・オープン≫」

 それと同時に無数の剣を空中に召喚する。


「その力は…ティアラの」


「あぁ…ボクはお前の様に強くなりたかった。勇者の様に強くなりたかった。だから…仲間の力を使う!」


 ディランはハイドラに向けて腕を前に出す。

<パチン>

「夢幻」


 ディランは無数の分身体を作り出す。幻影でハイドラを惑わせる為に…


「お前…それは俺の…」


夢幻の憧れ(イミテーション)

ディランの分身は先程の剣を持つ。実在する剣と虚像の分身。


その分身は次々と魔法を唱えて無数の魔法陣が宙に浮かぶ。幻影の魔法と実在する魔法で再び宙は埋め尽くされる。


〈パチン〉

それと同時に魔法陣が…ディランの分身さえ消える。


「どうしてだ…これはボクの最強のワザなのに…」


「|開門≪ゲート・オープン≫」

ディランの右手に真っ黒の銃が出現した。


「『災禍の銃』…ネビリムが開発し先代の魔王の力を宿した銃だ。これを…」


それを聞いた瞬間ハイドラの表情は険しくなった。

故郷を…魔王ガイウスの最後を思い出して…


「お前に撃てるのか?」

ハイドラの周りに殺気が立ち込める。


「当たり前だ!」

ディランは銃のトリガーを弾こうとする。しかし弾けなかった。


「どうしてだ?どうして?クソ…違う魔宝具を…」

ディランは焦る。


「|開門≪ゲート・オープン≫」

ディランは時空に穴を開けようとした。しかし何も起きなかった。


「不思議そうな顔をしてるな?ディラン。」

カツカツと足音がディランに近づいていく。


「何故ボクの力が使えない?いつの間にお前は力を使ったんだ?完全に警戒をしていた筈なんだ!」



「ディラン…お前はいつから俺が力を使っていないと思ったんだ?」

ハイドラはそう言って指を鳴らす為に左手を伸ばし、ディランの方に向ける。


「使わせてたまるか。」

ディランは炎の玉をハイドラに飛ばす。しかし玉はハイドラに当たることはなかった。

彼の姿が消えたから…


「これは…夢幻?なのか?」

ディランは呟く。


「ああ…そうだ。」

ハイドラの姿がそこにはなかった。しかしどこかからハイドラの声が聞こえていた。


「お前の力は『音』を相手に聞かせて発動する筈だ!」


「ああ…そうだな。」


ディランはヤケになりあらゆる方向に魔法を放つ。

しかし何故か魔法は発動する事なく消失した。


「ボクはお前が天恵(ギフト)を発動させない様に警戒していた筈だ!

なのに何故だ?何故なんだ?」


「お前は俺が指を鳴らす『音』で天恵を発動させていると勘違いしていないか?」


「勘違い…?………まさか……?」

ディランは額に冷や汗をかく。信じられないかのような驚愕の表情を浮かべて…


「お前の思う通りだよ。」


「お前は最初からボク達を騙し続けていたのか?」


「俺は『音』を聴かせて発動すると教えたぞ?勘違いしていたのはお前達だ。」


「何の為に?」


「それはお前達が…いつか敵になるだろうと思っていたから。」


「ボク達を…信じていなかったのか?」

ディランは生唾をゴクリと呑み込む。



「ディラン…ずっとお前達には言えなかったんだ。

俺は全てを憎んでいた…

故郷を失って、俺はお前達を…いやこの世界の全てを…

無力な自分さえも憎くて憎くて仕方なかった。」


「全てを失った人間の気持ちがお前には分かるか?

憎んでいる相手が目の前にいるのに手が出せない。

『勇者』であり続けなければならず、憎しみを隠し抱え続けた日々が分かるか?」


「いつからか笑うことも出来なくなり、偽りの笑顔でい続ける苦しみが分かるか?」


「ハイドラはずっと苦しんでいたのか?」

ディランは初めて知る。

勇者として自分達を率いていたハイドラの心の闇を…


「だから俺は魔王に懇願しに行ったんだ。命と引き換えに争いを止めるように…

自分はこれ以上憎しみを抱えて生きていたらバケモノになってしまうから。」


「だから平和と引き換えに死のうとしたんだ!

本当は自分が助かりたかった。人間のまま死にたかった。

心を失っていく…穢れたバケモノの俺はもうエクレールには近付けないから…」


「せめて平和な世界でエクレールには笑って生きていて欲しかった…」


ハイドラは憎しみを…悲しみを…これまで抱えてきたモノをディランに話す。

だがその表情は無表情だった。ただ淡々と話す。


「ボク達は…お前が苦しんでいるなんて…」


〈カツカツ〉

いつの間にかディランの後ろにハイドラは立っていた。



「けれど魔王…イリスは俺を助けようとしてくれたんだ。

生きる理由を見失った俺に居場所をくれた。希望をくれた。」


ハイドラは左手に心繋の宝玉を持ち、ディランの首元に当てる。


「もうこれ以上、俺から居場所を奪わないでくれよ…」

ハイドラは微笑んだ。それは彼にとって偽りの笑みだが…


「だからディラン…もう全てを終わりにしよう?」


「断罪の時だ…俺は居場所を奪おうとするお前達を許さない…」

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