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魔王乱心 ~勇者の嘘と飾られた世界〜  作者: シャチくま
4.夢の果て
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38.愛している

「さて全てを…自身さえ拒絶せよ…『惨禍の蜃気楼』」

 ガイウスは自身の天恵をネビリムの体に発現する。

 同時にネビリムの体に黒いオーラがまとわりつく。それと同時に彼女の体は潰されていく。


「人間にとってはこの技は魔力消費の燃費が悪いワザだな…だがちょうど良い。」


「ここにいる実験体達も全て破壊しないとな…」

 そう言ってネビリムの体を乗っ取ったガイウスは、ハイドラの様に勇者のレプリカに触れる。触れたレプリカ達は黒いオーラを纏うと同時に、瞬時に倒れていく。


「死体をお互いに操り続ける事で不死か…だがそれも魔力と繋がりによるものだ。

 だからその魔力を…繋がりを拒絶すれば死体を操る事は出来ない。」


 そうガイウスがレプリカ達を倒していく間に、空間を捻じ曲げてティアラがその場に現れる。


「ようやく追いついたぞ、ネビリム!!」


「ってハイドラっち…大丈夫?」

 血を吐いて倒れているハイドラに気付き、空間を操り一瞬で近付く。



「少女よ…その勇気ある少年の事を頼んだぞ?」

 ガイウスはティアラに優しく微笑む。


 黒いオーラを纏ったネビリム(ガイウス)は勇者のレプリカに触れていき、次々と魔力と繋がりを絶っていく。レプリカ達は死体に戻り地面に倒れていく。


「ネビリム…お前、おかしくなったのか?」

 ティアラはハイドラが倒れている事以外理解が出来ていない。

 先程まで敵だった人間が、いきなり味方のレプリカを倒して回っているのだから…

 

 ティアラが質問する間も無心にレプリカを破壊し続ける。残すはネビリム本体のみとなった。


「あとはこの体を消滅させるのみ…」

 ガイウスがそう呟くと、急に体が硬直する。

 その後ネビリムは左手を上に上げて、心繋の宝玉を投げ捨てようとする。


「させてたまるか…わらわの夢は終わらせぬ…」

 ネビリムの最後のあがきだった。意識を乗っ取り返したのだった。


「何が起きているんだ?」

 ティアラは訳が分からない行動をしているネビリムを理解出来なかった。敵か味方かも、この場が安全か危険化も全てが分からなくなり困惑していた。



「あの時呪ったんだ…自分の無力さを…そして魂を捧げたんだ…

 この宝玉が二度と悪用されない様に…」

 ネビリムは再び硬直する。そしてガイウスが意識を乗っ取り返した。


「ネビリムよ…ここで全てを終わりにしよう!!罪は消えないが、未来にお前を連れて行く訳にはいかない…」

 ネビリムの体は無様にも黒いオーラで押しつぶされて行く。それを魔力を使い再生する。


 ガイウスは魔力を使い切り、ネビリムを崩壊させようと企んでいた。だから今では無駄な行動でさえ、彼にとっては重要な行動だった。



「これは…援護すべきなのか?それともハイドラっちを一旦安全な場所に移動させるべきなのか?」

 ティアラは迷っていた。そこにハイドラの右手がティアラの足を引っ張る。


 全てはティアラの一手によって未来が変わる状態…下手に動けない状態…



「ティアラ…俺を立たせてくれ…」

 ハイドラの頼みに対してティアラは肩を貸す。ティアラは察した。ハイドラは自身で立てない程の状態であると。


 ハイドラはティアラの肩を借りながらも、右手をネビリムの方に差し出した。


「なぁ…アンタは…10年前の…あの時のアンタなのか?」

 ハイドラは様子のおかしいネビリムに質問する。


「少年よ…謝って済む事ではないのは知っているが、すまなかった。

 せめてもの償いに全ての元凶はここで終わらせる。」

 ガイウスは悲しそうに謝罪をした。それをハイドラはフッと笑った。


「なら10年前の様に…俺も手伝うよ…『|幽巡飾≪ゆめかざり≫』」

 ハイドラは右手をパチンと鳴らした。


 ティアラの知らないハイドラの力…しかし目の前のガイウスは知っている力だった。


「少年よ…ありがとう。最後は悔いのない未来にしてみせる。」

ガイウスは微笑んだ。10年前の死に際の様に…

 全てを悟って安心したかの様に…



 それと同時に一気に様子が変わる。


「あははは、わらわはこれから逃げるぞぉ。生きながらえて世界を滅ぼしてやろうぞぉ。

 追ってきたければ追って来るが良い!無理だろうがなぁ。」

そう言ってネビリムの体はその場から消えた。


(心繋の宝玉で今は勇者の『未来予知』の能力が使える。

それに最善の未来を選べる『夢』を少年は再びくれた…)


「もう何も恐れるモノは無い。」


 最後にガイウスはネビリムとして死ぬ事を選ぶ。それが最善と分かったから。

 ネビリムを生かしていたら、遠い未来で再び自分のような悲劇を生む者が現れるかもしれないから。


 今自分達と相まみえている人間はネビリムの計画を終わらせる事が出来る人間達と理解した。

 だから10年前の様に全てを自分一人で背負うのではなく、若き者達に未来を託すことを選ぶ。



ネビリムの移動した先にはイリスがいた。

「あはははは。魔王イリスがちょうど良いところにいたわぁ。この宝玉に当たり死ぬが良い。」

そう言ってイリスに心繋の宝玉を投げる。勿論宝玉に人を殺す力はない。

 完全なブラフだが、未来にネビリムの意識を乗っ取る為に必要な動作だった。


「うわ…何で急に現れるの?」

 イリスは戦闘態勢に入る前に、目の前にネビリムが現れた事に驚いた。

 イリスのいる場所に空間移動する。本来場所を知らねば出来ない事だが、未来を見たガイウスには可能となっていた。



心繋の宝玉がネビリムの体から離れる。それによりガイウスの意識は消えてネビリムに意識が戻る。


「はぁ…ようやく意識が戻ったわ…ガイウスめ…久しぶりに焦ったわ…」



「この宝玉が…何?でも当てたら死ぬかもしれないなら、返すに決まっているわ。」

イリスは投げられた宝玉を触れる事なく跳ね返す。それを反射的にネビリムはキャッチする。



 ネビリムの油断した内に、ガイウスは再び意識を乗っ取る。


「これが少年が掴ませてくれた未来…あとは…」



「ネビリム…てめぇ覚悟しろ!」

ティアラがその場に現れて、空間を切断する。それによりネビリムの体をバラバラにする。


 だが再びネビリムの体は再生する。

 全ては魔力を使い切る為に、空間を移動し、ワザと攻撃を受け余分な力を使って再生をする。ガイウスはネビリムの体を世界から葬り去る為に、全力を出す。


「イリスっち。こいつをここで仕留めるぞ!」

ティアラはイリスに話かける。


 ガイウスは優しい目をしながら、イリスを見る。そして彼女と親し気に自身を倒そうとするティアラを見て、未来が明るい事を確信した。


(あぁ…イリス…大きくなったなぁ。

人間と共に歩んでくれる未来を選んでくれてありがとう。)


「はははははは。わらわは無敵。ここを逃れて必ずや世界をめちゃくちゃにしてやるぞぉ!」

ガイウスは下手な演技をしながら、攻撃しようとするそぶりだけする。


ネビリムの存在をここで葬る為に…

(闇に蠢き世界を破壊する者もこれで終わり。後は未来を…)


「魔力よ…我に隷属せよ。」

 イリスはその場の魔力を右手に集めていく。


 魔力をガイウスの手によって使いきられていたネビリムの体は崩壊していく。

ネビリムの体は再生する事なくボロボロと崩れていく。


(なんだかんだで俺には勿体ないくらいの結末だ。成長した娘の顔も最後に見れた。)


「少女よ…少年よ…そしてイリス…素晴らしい未来を見せてくれてありがとう。」

ネビリムの体は下半身から消滅し始め、上半身に崩壊がせまる。

 ネビリムは自身が倒されるというのに、満足そうな表情をしていた。


「その少年をもう戦わせないでやってくれないか?

 俺の『拒絶』する力を使い既に限界なんだ。」

 最後にティアラとイリスに頼み込む。恩人に無理をさせない為に…未来を生きて欲しいから…


「お前?本当に誰なんだ?」

ティアラは首をかしげる。ハイドラがヤバい以外はよく分かっていなかった。


ネビリムの体も残すは顔だけになる。

「イリス…ごめんな?情けない父だったが、お前達を愛しているぞ?」

そう言ってネビリムは消滅した。最後は泣きながら…

そして笑いながら。


「え…」

 イリスがその言葉を理解できないまま、ガイウスは消えていった。未来に自身の跡を残さない為に…


 こうして突発的に始まった戦いは幕を閉じた。


 先代の魔王の夢は繋がれた。彼の夢の果ては最悪な悪夢から、満足の出来る未来に繋がった。


 一方でハイドラは眠りに就いていた。力の使い過ぎにより体が限界を迎えた事によって…


 ティアラとイリスはハイドラを安全な場所に移動させた後に再び研究所の中を散策する。

 勇者のレプリカを含めて、世界を蝕む研究の全てを破壊する為に。


 こうして闇に蠢き世界をおもちゃにするネビリムの野望は潰えた。


 ……ように見えた。

*

「レディオン王よ…古の巨神兵の準備があと2週間ほどで完了するという事です。」

 ベッドから動けない王の元に、第一皇子のディカプリオが話しかける。


「そうか…では戦闘準備を整えておくのだぞ?世界の夜明けも近いな…」


「父上に必ずや平和な世界を見せてみせましょうぞ!」


「頼んだぞ?ディカプリオよ。帰って来た暁にはお前をセレスティアの王にしてやろう。」


「は。ありがたき幸せ。民の為に、必ずや勝利します。」

 そう言ってディカプリオは部屋から去っていく。


 ベッドに寝たままのレディオン王は呟く。

「動けぬ体なぞに用はないわぁ。若い体にはやく引っ越ししたいモノよのぉ…」


「その為にはディカプリオ皇子には死んでもらわなくちゃねぇ?

 まぁ古の巨神兵が起動すれば世界なんて終わっちゃうんだけどねぇ…」

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