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魔王乱心 ~勇者の嘘と飾られた世界〜  作者: シャチくま
4.夢の果て
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37.夢の果て

「少年…ありがとう…追手が来る前に逃げなさい…」


男は息絶え絶えだった。そもそも全身に剣が刺さっている時点で、ここまで持ち堪えたのが奇跡的だった。


もはや気力で動いている状態だったのだ。


「おじさん…大丈夫?」

ハイドラは男を心配して近づいていく。


ハイドラは血塗れの男に手を伸ばそうとした時だった。


〈ブシャッ〉〈ゴト…〉

男は右首から左腰にかけて真っ二つになる。それが男の最後だった。

斬られて息耐える直前に男は少し微笑んだ。


「…リス……グ……フ…」


男を斬ったのはエクレールだった。彼女の目から光は消えていた。


「しぶといなぁ…まだ生きていたんだぁ?」

ザク…ザクっと何回も何回も男に向かって剣を刺す。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

何回も何回も何回も何回も念入りに…


「エクレール…もう死んでる。」

ハイドラは彼女を止めようとする。


「もう死んでいるのは知っている。でも街の人を殺した上にハイドラまで傷付けようとした。

だったらもう魂を地獄に落とさないと…」


「もう良いんだ。早く追手が来る前に逃げよう?王は俺達を皆殺しにするつもりなんだ。」

ハイドラはエクレールに手を伸ばす。一緒にこの街を離れる為に…

少しでも助かる可能性を上げる為に…


そしてエクレールにこれ以上戦って欲しくなかったから。


「大丈夫だよ、ハイドラ?どんな事があっても私があなたを守るから。たとえ私が変わり果てたとしても…」


血塗れのまま彼に微笑みかけるエクレールの姿…

彼女の周りには彼らの親や街の人、沢山の兵士の死体が転がっていた。


「だってアナタは弱いんだもの」


「勇者ハイドラ…報告にあったがその力は…」

ネビリムは険しい顔をしていた。


ハイドラは『禍飾』による黒い剣を左手に持ち、既に勇者のレプリカを数体戦闘不能にしている。

レディオン王の時のように魂と精神に干渉する事によって…



「何故お前は魔王ガイウスの力を使っているんだ?そして何故に時折お前だけ未来が見えないんだ?」

ネビリムの甘ったるい口調は完全に消えていた。焦っていたのだ…


不死たる存在…無敵の存在の筈だった…

人間を壊滅に追い込み、世界をオモチャにする計画が僅か3人により破綻に追い込まれようとしていた。


未来予知により、あと少し時間が経てば魔王イリスもここに駆け付けるのを知った。

それにより魔力で出来た体のネビリム達は全て終わる。


ネビリムは何としてもこの場を逃れるつもりだった。

(ティアラの攻撃は速く範囲が広いが、わらわ達は再生するので被害は無い。問題はハイドラだ…)


「心繋の宝玉で魂に傷をつけるとは…」


ネビリムはそう思いながらも何か違和感を感じる。

(おかしい…無限に再生する筈が、どんどん体が小さくなっている。この場は魔力で満ちている筈なのに…)

「まさか…」


ネビリムは焦った様子でティアラを見る。ティアラはその視線に気付く。


「あっれぇ?未来予知が出来るのに、今更気付いたん?」

ティアラは意地悪そうな笑みを浮かべる。


「魔力ごと空間を切り裂いていたのか…」


「当ったりぃ。あーしは勇者の失敗作だからぁ…

バカなフリして派手なワザで攻撃しつつサポートしてたって訳。」


ハイドラの黒いオーラに触れれば行動不能になるのを分かっているレプリカ達は、彼に攻撃しようにも近付けなかった。


ネビリムは焦る。しかし何か閃く様に頭にあるシーンが浮かぶ。

(これねぇ)

そのシーンを見てから余裕が出来る。しかしティアラ達にそれを悟らせない為に、焦ったフリを続ける。


「何故だ?お前達と同じ力を持たせた不死のレプリカ達を、何故こうも圧倒出来るのだ?」


「さぁ?生きてるからじゃね?生きてるから生きたいと思える。死ぬ気で戦える。

お前の作った勇者達は必死さがないんだよ。所詮は操り人形ってカンジ?」

ティアラは勝利を確信し、油断していた。


「説明ありがとう。おかげで転移の時間を稼げた。」

勇者のレプリカ達はティアラの意識が向かない一瞬の間に、空間を捻じ曲げていた。


ネビリムの周りの空間がグニャリと曲がる。それにより彼女とハイドラ、そして勇者のレプリカ達が吸い込まれて消えた。


「油断した…ヤバい…」



ネビリム達とハイドラは再び違う空間に飛ばされる。


(ははははは…勝ったわぁ。)

「お行きなさいぃ…レプリカ達ぃ?」

ハイドラはティアラのいる場所から違う空間に隔離された。

つまりこの場はハイドラ1人しかいなかった。


(微かに見えた未来ぃ…あと9体のレプリカを倒した後、ハイドラはぁ、血を吐き倒れる。)


「レプリカが1匹、レプリカが2匹…」

ネビリムはカウントを始める。未来予知によるハイドラが倒れる時を…


「一気に負担をかけましょうねぇ…行きなさぃ、レプリカ達ぃ!」

レプリカは一気にハイドラに攻めかかる…


(禍飾を使い過ぎた…)

ハイドラは今までで一番苦しそうだった。体の感覚が既になくなっていた。


「すまないイリス…俺もここまでらしい…」

ハイドラは自らの死期を悟る。その間もレプリカはハイドラに触れて倒れていく。


すぅぅぅっとハイドラは覚悟を決めて一呼吸した。


「ここが俺の夢の果て…平和の為にコイツらを全て道連れにするのが俺の役目だ!」


「俺はみんなを守る為なら最後にバケモノとして死のうが構わない。」

覚悟を決める。二度と使わないと誓った力を使う為に。


「だから最後に勇気を…力を貸して下さい。」

勇気が欲しかった。

『心繋の宝玉』の中にいるエメリアの魂に語りかける。


まるで最後の時と言わんばかりに…

ハイドラは左手に持つ「心繋の宝玉」に祈りを込める。


禍飾(マガツカザリ)終点・悪夢』


その瞬間にハイドラを纏う黒いオーラは黒いカーテンとなり、ネビリムと勇者のレプリカを囲い始めた。


だがネビリムは余裕そうだった。

「レプリカが8匹、ラストぉぉぉぉ」

ネビリムは歓喜の笑みを浮かべる。最後のレプリカがハイドラに触れて倒れる。



「ゴホッ」

ハイドラは口から大量の血を吐き倒れた。その瞬間に黒いカーテンは消える。



「あらまぁ、残念だったねぇ…勇者ハイドラァァァ?」

ねっとりと甘ったるい声がハイドラの耳に響いた。


カツカツとネビリムはゆっくりハイドラに近づいていく。彼が起き上がれないのを知っていたから…


「さぁて、勇者も倒れたし『心繋の宝玉』を回収して、魔王達から逃げるとしましょうかぁ。」

そう言ってハイドラにゆっくり近づいていく。彼の左手から宝玉を奪う。


「魔王イリスが寿命尽きるまで、ディカプリオ皇子に成り変わり隠れ潜むとしましょうかぁ…

この世代では魔王の力はわらわと相性悪いしぃ…」

ネビリムはウキウキとした様子で、宝玉にキスをする。


「そうだわぁ…勇者ハイドラを魔王イリスと戦わせる、悲劇的な最後にしましょうかぁ。

ちょうど『心繋の宝玉』もある事だしぃ、魔王ガイウスの様に操りましょうねぇ。」


「『心繋の宝玉』よ。対の宝玉を持つ者の精神を蝕みなさぃ?」

ネビリムはウキウキで宝玉を使おうとした。ハイドラがもう一つの宝玉を持っていると勘違いしていたから…

だから反応はなかった。



「この時をずっと待っていた…あの時宝玉に魂を捧げていて良かった。」

宝玉はネビリムに語り掛ける。


「誰?」


「俺を忘れたのか?全ての元凶よ?」


「何百年も生きているわらわが有象無象なぞ覚える筈が無かろう?」


「そうか…でもなネビリムよ?その有象無象に今から身体を奪われて、貴様は死ぬんだ。」


「何を…ざ」

その途端にネビリムの意識は途絶えた。


ネビリムは一瞬動きを止めた。その後ゆっくりとハイドラを優しい目で見つめる。


「ありがとう!あの時の少年よ。

君のお陰であの時の無念を晴らす事が出来る。」

ネビリムの口調は変わった。意識が乗っ取られた様に…


「お前は…?」

だがネビリム本人も必死に抵抗する。


「最後に名乗っておいてやろう。俺の名はガイウス…

先代の魔王にして愚かにも貴様に操られ惨劇を生み出した者。」


「さぁネビリム。お前の今まで犯してきた罪の精算の時だ。

今生きる者達を未来へ進ませる為に!」

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