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魔王乱心 ~勇者の嘘と飾られた世界〜  作者: シャチくま
4.夢の果て
35/54

35.アンタを護らせて

その日まで活気で満ち、笑顔で溢れていたエメリアの街は破壊されつくし、火に包まれていた。

 住民は皆地面に倒れていた。殆どの人間が既に息絶えた後だった。


「逃げてくれ…」

銀髪の人間でない男は涙を流していた。顔を含めた体中に無数の剣を刺され、生きているのが不思議な状態だった。


 恐る恐るだが男に近付く人間がいた。少年の頃のハイドラだ。この頃は顔に脂肪がつき、標準的な体型の少年だった。


「おじさんはどうして泣いてるの?」


「頼む、逃げてくれ」

男は右手をハイドラに向ける。すぐにでも彼を殺す為に…魔力が収束し黒色の球体が生まれる。


「僕もおじさんを助けられない?」


「頼む、生きてくれ…それだけが救いだ…」

先程まで住民を虐殺していた男は、人が変わった様に生きる様に言う。


「悪い人だと思っていたけど、本当は優しいんだね…」

ハイドラは男が本当は自分達を傷付けるつもりではなかった事を知る。


「エクレール、今までありがとう。うまく出来るか分からないけど僕は君を守らなきゃ…」


ハイドラは死を覚悟した。唯一生き残っているエクレールを護る為に…

攻撃を躊躇(ためら)う男を救う為に…


「例え僕がここで終わろうとも、あなたの想いは誰にも踏み躙らせない。」


幽巡飾(ゆめかざり)

幼いハイドラは男にある夢を見せた。

そこから全ては始まった。長い間目覚める事のない夢が…


「お父さん…わたし…イリスだよ?」

 イリスは悲しそうな表情をしながらガイウスに歩み寄りながら話しかける。それをハイドラは左手で静止する。


「イリス…アイツはネビリムが操る死体だ…心はもうここにはない…」

 ハイドラは左手から赤い色の宝石を取り出す。


 ハイドラはガイウスの元に近付いて行きながら呟く。

「俺はあの時から強くなれたのかな…」


『禍…』

イリスはハイドラの左手を掴み、彼が魔宝具を使用するのを止めた。


「ハイドラ…ここはわたしだけで大丈夫だから…」

イリスは禍々しい力を使う事でハイドラの命を縮めたくはなかった。


「でも…お前が辛いだろ?」

「ううん…あなたが傷つく方が今のわたしには辛いの…」


「あれまぁ。『|心繋≪しんけい≫の宝玉』。勇者サマが持っていたんやねぇ。10年前に無くしてからずっと探したのよぉ。」

 ネビリムは扇子を取り出して、ハイドラの方を見る。彼に攻撃しようとする。


「アンタの相手はあーしだよ?」

 ティアラは何もない空間から、無数の銃やライフルが出現させる。それから弾丸を一斉に放出する。


『|開門≪ヘブンズ☆ゲート≫』

『|開門≪ヘヴンズゲート≫』


 ティアラが放った弾丸はネビリムに当たる事無く、全てが次元の裂け目に消えていく。


 ネビリムとティアラはお互いに同じタイミングで空間に裂け目を作る。

 イリスとハイドラの前にも次元の裂け目が現れる。


「飛び込んで!こんな狭い場所では戦えないから…」

 ティアラの助言通りにハイドラとイリスの2人は次元の裂け目に飛び込んだ。


「ティアラ?相変わらず愚かやねぇ?」

 別の液体で満ちた水槽の中にハイドラの姿があった。呼吸が出来ず苦しそうにしている。


「ハイドラっち?」


「『未来予知』を使っているって分かってなかったのぉ?アンタの出す空間に合わせて、空間に穴を開ければ良いだけよぉ?」


「イリスっちは?」

 その場にいないイリスの無事を確認したかった。ガイウスの姿も見えない為に彼らは一緒にどこかにいる事を祈るしかなかった。


「さっさとアンタも水槽に戻して研究を続けないとねぇ?」

 甘ったるい声でティアラに語りかける。


『|開門≪ヘブンズ☆ゲート≫』

ティアラは一帯に銃やライフル・大砲を出現させてハイドラを助ける為に一斉放射した。


『|開門≪ヘヴンズゲート≫』

ネビリムも空間に穴を開け銃弾を防ぐ。


〈バリン〉

銃弾が放たれた方向から別の方向から弾丸が飛ばされて、ハイドラを閉じ込める水槽は割れた。そこからハイドラは地面に倒れ込む。


「ゴホッ」


「『|魔弾《デス&バレット》』。弾丸を別空間を経由させて飛ばす。」

ティアラは杖をネビリムに向ける。


「恐らくアンタは同時に複数のギフトは使用出来ない。『未来予知』『空間操作』を併用は出来ないカンジ?」


「あなたの想像通りよぉ。失敗作のクセに良く出来ましたぁ。」

 パチパチと余裕そうにティアラに向かって手を叩く。彼女をバカにするように…


「ハイドラ!」

ネビリムに話をさせる隙に、ハイドラを救出する。彼の右手を取ろうとしたが、彼は気付いていないようだった。

「ティアラか?そこにいるんだな?」


「え?」

目の前にいるのに、彼女は認識されていなかった。


「ハイドラ…アンタ…」

何か嫌な予感はしていた。

予感であって欲しいからティアラは今ここにいるのだ。


何かを失わない為に…ふいに頭にタロットの『塔』のカードが浮かび上がる。だが予知は悪い方にどんどんと近付いているような気がしていた。



「あーしは…アンタを必ず…」

 エクレールの姿が思い浮かぶ…彼女の為にと…

ティアラは涙目を袖で拭き、杖を力強く握った。


「ハイドラっちはそこで休んでいてよ!マジでここはあーし1人で十分だからさ…」


「でも相手は…」


「アンタを護らせてよ?10年前の恩返しにさ…」

ティアラはハイドラに微笑みかける。


「アンタが抱えてる秘密も含めて」

 ハイドラが聞こえない小さな声で彼女は呟いた。


「で?戦闘を再開しても良いかしらぁ?」

ネビリムは開いていた扇子の扇をパチンとしまう。それと同時に実験体たちはハイドラ達に向かって走り出す。


「オッケー!」

ティアラがその言葉を言った瞬間だった。急に真剣な表情になる。


ノーモーションだったが、何十もの実験体の首が一瞬で落とされた。空間ごと斬った様に真っすぐな一太刀だった。



「『勇者計画』って何の為にあるかずっと考えてたんよ。世界を平和にするにしても勇者が何人もとか、戦力は過剰過ぎるしさぁ。

 難なく国や世界を壊滅させる勇者と魔王が全力で戦えば世界は滅んじゃうだろうし…」


 ティアラはネビリムを力強く睨みつける。

「ネビリムさぁ…人間が魔族を滅ぼした後、人間ごと世界を滅ぼすつもりだったんだろ?世界征服…それがお前の目的だな?」


「世界征服?そんなのもう達成してるわよぉ。ワタシがしたいのはアンタら人形を使った暇つぶしなのぉ。」



「もう世界征服をしている?よく分かんねえな…」


「200年前平和だった世界に戦争を引き起こした犯人は誰だと思うぅ?」


「200年前?お前生きていないだろ?」


「そもそもわらわはもう生きていない。死にながらにして存在している『不死者』よぉ。

 人間は生きているから老いていく。でも女性である以上、美しいままありたいじゃない?

 だから私は死体になり自らを他の死体で操る事にした。」


「死んだままの状態を維持し続ければ、それは不老不死であり永遠の美たる存在だからぁ。」

 ネビリムは恍惚の表情で死んでいる事の良さを語る。


「狂ってやがるな…」


「でもねぇ…刺激が無いと肌の張りも無くなるし飽きちゃうのぉ。だから刺激を求める為に世界を乱して遊んでいるのぉ。|アンタ達≪人形達≫を使ってねぇ。」


「その暇つぶしもあーしが終わらせてやるよ。」


「出来るぅ?」

 先程ティアラが首を落とした実験体達の体が溶ける。その後再び体が再生する。スライム状の体は勝手に服の様にもなり、武器さえも生成する。


「不死にして全ての攻撃が通じないスライムの体よぉ。それぞれの天恵を共有しているから弱点は無いのぉ。」


「そう?みじん切りにしてやんよ?」

 そう言うとティアラは空間を切り裂き、実験体をみじん切りにする。


「攻撃当たらないねぇ?悔しいねぇ?」

 ネビリムはティアラをバカにする。


「ティアラ!!」

 ハイドラがティアラに声を掛ける。


「わりぃ、前言撤回で。あーし1人じゃ無理そうだわ。」

「絶対にアイツを倒すぞ。アイツは…いてはならない存在だ…」


 ハイドラの左目がいつも以上に険しい事にティアラは気付く。憎しみの籠った恐ろしい目だ。


「ごめんね…あーしが巻き込んじゃって…」

「いや…俺の力があるうちに来ることが出来て良かった。」

 ハイドラは左手に『心繋の宝玉』を手にする。


「ごめんな…イリス…『|禍飾≪マガツカザリ≫』」

 ハイドラの体を黒いオーラが覆う。それと同時にティアラの背筋を寒気が覆う。


「『心繋の宝玉』ねぇ…1つで近くの生物の魂に干渉する…2対あるならば…」

 ネビリムはハイドラの持つ宝玉を睨みつける。


「本来は魔王イリスが倒れてから悲劇を始めるつもりだったんだけどねぇ…

 まぁこの代での物語は全て終わらせて、次の物語を始めましょうかぁ?」

 ネビリムは余裕そうに呟いた。

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