32.占い
2024年今年もよろしくお願いします(*´∀`*)
グリフィスはスパイの手に入れた敵の情報を確認していた。
「この戦場の敵将は5名。うち2名はかつての勇者の仲間か…」
敵の配置を確認してから前線に向かい、味方に指示を出す。
「前線を維持しろ。出来る限り一般兵は討つな。将を見つけ次第俺が捕獲する。」
グリフィスは前線で指揮を取る。なるべくハイドラが戦場に行かないように…
人間を尊敬する気持ちは今まで持った事は無かった。人間は卑劣だとずっと思っていたから。
だがハイドラは違った。勇敢で優しく、魔族の為に自らがボロボロになるまで進もうとする彼に心打たれた。
だから姉のイリスと幸せになって欲しいと思った。自身以外に姉と釣り合う者はハイドラしか考えられない位に彼を認めていた。
「アイツのお陰でいずれ人間とも分かり合えるかもしれない。希望があるならば俺達はまだ頑張れる。」
そう言って自ら戦線の最先端に向かう。それまでは人間に歩み寄り、共に未来へ進もうとは思わなかった。
だが考えは変わった。今なら人間と手を取り合える気はしていた。
「さぁ人間よ。死にたくなくば我を恐れよ。その恐れが生きている証だ。」
右手を上に掲げる。大気中の魔力を集める。
「魔族に勝利を!!と、この場面では言うべきなんだがな…」
「魔王と勇者の望む世界を!!その為に俺も命を賭けよう!!」
※
エクレールは朝食のの用意をしていた。手際よくパンをトーストし、スープを作り新聞を読みながら卵を焼いていた。
「勇者ハイドラの裏切りで王都は壊滅。王都を護る為に戦ったレディオン王は寝たきり。」
「王子達は最終兵器『古の巨神兵』を戦場に導入し魔族を殲滅…だって。」
エクレールは新聞に書いてあったニュースの事をティアラに話かける。
「あっそ。」
ティアラは興味のなさそうに聞きながら、タロットカードをバラバラとテーブルに広げている。何となく未来の事を占う気になったのだ。
「ねぇティアラ?魔族との戦いに行かなくて良いの?」
エクレールは紅茶を用意しながら、一人タロット占いをしているティアラに聞く。
カードの隙間に朝食のお皿やカップを置きながら…
「え、あーし?自宅とアンタを守る。それがあーしの使命さ!」
ティアラは自身が自宅警備員である事を誇りに思っている。今はエクレールもいる。つまり大黒柱として彼女を守る責務があるのだ。
「ったく…才能の無駄遣いだよ?ティアラがいれば裏切者の勇者ハイドラだって余裕で倒せるでしょ?」
ティアラは聞かなかったフリをしてカードをめくる。
『愚者』の正位置。『塔』の逆位置。『正義』の逆位置。
「ほい。アンタの運勢。」
ティアラはカードをエクレールに見せる。
「占い?これはどんな意味なの?」
「新しい世界の夜明け。迷いもあるだろうけど、心機一転して頑張れってさ。」
その後エクレールは再びタロットカードをテーブルに広げ、占いを続ける。
「新しい世界かぁ…でも今は怖いなぁ…裏切者のハイドラが魔族と一緒に人間を滅ぼそうとしているんでしょ?」
そのエクレールの言葉にティアラの手は止まる。一瞬悲しそうな顔をする。
「ここは安全だよね?魔族も勇者も攻めて来ないよね?」
「安心しな?ここは安全だよ。それに平和の為に頑張るヤツがいる。万一はあーしがオメーを守ってやっから。」
「ティアラはそんな強いから彼氏がいつまで経っても出来ないんだよ?メイクも抑えて、か弱いフリをしなきゃ。」
エクレールは冗談のつもりで笑いながら話す。
「あーしは誰にも媚びず生きたいように生きるのさ。」
「でも彼氏か…エクレアちゃんは彼氏とはどうなん?恋バナ聴きたいなぁ?」
ティアラは悲しい気持ちを押し殺してエクレールに聞く。浮いた話があったら、相手の男をボコすつもりでもあった。
「わたしに彼氏なんていないよぉ。好きな人もいないし…」
「ずっと?」
ティアラは真剣な目をして聴く。
「え?ずっとだよ。あれ?でも好きな人いた気がするんだけどなぁ…好きと言うよりもっと大切な人がいたような?うーん?何でだろうね?」
エクレールは首を傾げる。
「その気持ちを大切にしな?アンタを護りたい人の願いが込められているんだから。」
ハイドラを思いながら、彼の未来を占う。
カードをシャッフルする際に願いを込めて。
(占いは本当なら無心でやるべきなんだけどな…アイツには報われて欲しいから…)
「良いカード来い!」
カードをめくる。
『塔』の正位置。『審判』の逆位置。『死神』の正位置。
それを見てティアラは愕然とした。そのティアラの驚いたような表情を見て、エクレールはテーブルを覗く。
「これは?どういう意味なの?」
「一言で言ったら最悪。むしろ救いが無いくらい酷い…」
「これティアラちゃんの運勢?」
「いんや…あーしらの大切な人のだよ?」
ティアラはそう言って立ち上がる。
「どうしたの?」
「いや…休日返上で頑張る場面かなぁって…」
「あれ?占いを信じるタイプ?」
「あーしの占いさ…良く当たるんだよ。こういう悪いのは当たって欲しくないなぁ…」
ティアラは用意された朝食を口に入れる。
「え、それは大変だ。ちなみに私には良いことあるのかなぁ?」
エクレールは冗談を話すかのように笑顔のままだった。運勢の悪い相手がハイドラの事だと、察する様子も無く…
「アンタは今も幸せだよ。色々な人に想われてさ。」
朝食を食べながらティアラはエクレールの頭を軽く撫でる。彼女には笑顔でいて欲しいと思いながらも、その笑顔が悲しかった。
「へへへ」
頭を撫でる手とは逆の手で、器用にカップを持ち紅茶で口に詰めた朝食を流し込む。
「エクレール…この先の未来がどうなろうと決して目を逸らさないで?今の選択が間違いだったとしても、そこには色々な人の気持ちや願いが込められているんだから。」
ティアラは部屋に立てかけられた杖を持つ。そしてそれを持ち家の扉の前に立つ。
「今日は本当にどうしたの?いつもなら朝食は冷めるまで食べないのに…」
「マジでやる事が出来たんでね。じゃあ行って来ます。」
そう言ってティアラはドアを閉めた。
家を出てから彼女は深刻な表情をしていた。それこそハイドラ達と旅をして来た時は全くしなかった顔を…
10年前にセレスティアを滅ぼそうとした時の表情だった。
「ハイドラ…アンタの夢を…願いを終わらせない。」
ティアラはセレスティアを滅ぼそうとした事を思い出す…
王都ごと別空間に飛ばして地上から消滅させようとしたのだ。
それを防ぐために勇者と敵対することになり戦った。お互いがまだ小さい頃だった。それでも多くの大人達では彼女達に敵わなかった。
彼女は勇者に負けた。王都を滅ぼそうとした罪を咎められる事は無かった。エクレール達が必死に庇ったからだ。
そして初めての友達が出来た。その後孤児院で共に育つ。シスターたちの手によって愛を知った。
幸せが身近にある事を知ったのだ。彼女にとってはそれだけで十分だった。
共に新しい道を探してくれた。共に歩んでくれた。それだけで良かった。
けれど今は全てが変わってしまった。3人で仲良く歩んで来た道は分かれ、それぞれ別の道を歩む事になった。
違う道を歩むだけなら良かった。けれど1人は引き返せない破滅の道に向かっている。
それが彼の選択だとしても、受け入れたくはない。だから彼女は未来へ進む。
彼を…彼らを助ける為に…
ハイドラが進んだ道を辿り、魔族と共に手を取り、彼を助ける為に手を差し伸べる為に…
「エクレール…アンタの大切な人はあーしが守ってやるよ。」
エクレールはそう呟いて空間を切り裂いた。