28.人間の友達
「城が…」
ディランは城が空中に浮かんでいる上に、炎上している事に絶句していた。
話し合いをする為、城に行こうとティアラが空間移動したがその場にあったのは燃え盛る城と倒れる兵士だった…
「魔王…貴様がこれをやったのか?」
ディランはイリスを睨みつけながら聞く。
「城を浮かしたのは我だが、それ以外はレディオン王だ。王か他の兵士に聞いてみるがよい。」
「『増幅』水魔法アクアストリーム」
ディランは何もない空間から水を呼び出す。水は凄い流れであっという間に城を鎮火した。
「全てお前がやったならば、覚悟しておけ。」
そう言って、ディランは救助にあたっている兵士達の元に駆けつける。
「逃げなくて良いの?」
ティアラはイリスの事を案じて聞く。イリスはうなづく。
「元々は平和の為に話し合いに来たはずなんだけどね…どうしてこんな事になったんだろう?」
「とりあえず話し合いムリなら逃げる準備しとくねー。」
ティアラがイリスにコソコソと話すのを、ゴリアテはハイドラを左肩に担ぎながら聞いてないフリをしていた。
何故なら彼も迷っていたから。人間と関係ない魔族が、敵の本拠地で人助けをしていたから…
「そいやティアラちゃん、わたしの天恵は…」
「おいバカ、敵にわざわざ教えようとすんな…」
「え?でもわたしの天恵は『消滅』じゃないし…」
「それは…あの場で武器を収めてハイドラっち助ける為の嘘だよ。適当適当。」
そう言ってティアラは先程消滅したはずのディランの剣をどこからか取り出す。手品を初めて見たかの様にイリスは目をキラキラさせた。
「そっか。ティアラちゃん流石!!」
イリスは目を輝かせてティアラを見る。
「ったく、調子狂うなぁ…」
ティアラは頭をかいて照れるのを隠す。
そんなやりとりをするうちにディランが帰ってくる。
「やはり魔王、ほとんどが貴様の仕業ではないか?貴様がここに来なければこんな事にはならなかったんだ。」
「魔族の為に…それにハイドラのような平和を望む人間の為に話し合いをしようとするのは、『悪』か?」
「貴様らは存在が悪なんだ…」
「ならば王の街を燃やし、兵を使い捨てにしたのは『悪』ではないのか?」
「平和の為なら…」
「平和の為?ならば先程の子供はなんだ?大人の事情に、何も知らない人間が巻き込まれていたんだぞ?」
「それは…父上は世界を平和にしてから救おうと…」
ティアラは溜息を吐いて話に割り込む。
「バッカみたい。王は平和の為って言っても、きっとこれからも変わらない。」
「息子のアンタが止めなくてどうすんのってハナシ。マジでアンタは父親の人形じゃんよ。」
「私をバカにするな!」
「バカだから言ってんじゃん。」
次第にティアラとディランは険悪になっていく。
「幸せを…誰かの幸せを願う事は罪ですか?わたしは人間と同じ様に生きている。感情もある。」
イリスは2人の会話に入りこむ。
「ねえ…もしも…もしもなんだけど…わたし一つの命で魔族を助けて欲しいって言ったら、あなた達は魔族を認めてくれますか?」
イリスは泣きそうになりながら、ディラン達に言った。
「は?イリスっち?」
「そ…そんな事をあの残酷な魔族がするのか?口だけなら誰でも言えるんだ。」
イリスはかつてハイドラが城に来た時の事を思い出した。
『俺の命と引き換えに争いを止めてくれないか?』
こんなに勇気のいる言葉だと思わなかった。だって彼女はまだ生きたいから。
でも人間と魔族の間や人間同士で争いがそれで解決出来ればと思ってしまう。だがこれは解決法が見当たらない『逃げ』の選択ではある。
だが自分が平和を望む覚悟を見せねばならなかった。
「ハイドラがわたしの元に来た時に言われたの。俺の命と引き換えに争いを止めて欲しいって。」
「だからわたしは応えた。平和の為に。それと同時にわたしは願った。平和の為に命を投げようとするハイドラには幸せになって欲しいと…」
イリスはこれまでのハイドラとの事を話した。彼がなぜ味方になったかを話す為に…
「やっぱりそうかよ…」
ゴリアテはどこか納得した顔をした。
「わたしの今の願いは、世界を平和にして人間の友達を作る事です。それと大好きなハイドラを幸せにしたい。」
イリスの心から込み上げるモノを正直に伝える。
ティアラとゴリアテはやれやれと言った顔で微笑む。
「信じない。私は絶対に信じないぞ。魔族を滅ぼさなきゃ平和はこないと父上が…」
そう言ってディランはどこかに逃げるように去って行った。
「ならあーしはもう魔族とは戦えねぇな…しばらくは引きこもるか…」
ティアラがどこかスッキリした顔をする。
そうしている間にハイドラは目を覚ました。
「ん?ここは?」
「おう…ハイドラ…目を覚ましたか?」
ゴリアテが声をかける。だが反応がない。
「おぅ、ハイドラっち?テメーが目を覚ましたらやろうと思ってたんだ。」
そう言ってティアラは右手で拳を握り、無防備なハイドラの右の頬を殴る。それによりハイドラはゴリアテの背から離れ吹き飛ぶ。
「ああ、スッキリした。爆発しろ、この女タラシが…」
「………」
彼は何をされたか理解していないようだった。
「ふふふ…」
イリスも涙目のまま笑う。心配は…しなかった。ティアラはなんだかんだで色々と考えていると分かっている様だったからだ…
ゴリアテは完全に警戒を解いていた。ハイドラを背負わなくて良くなったので、イリスの元に近づいていく。
「まぁディランもそのうち変わっていくさ。アイツは頑固だから、すぐにはうまくいかないだろうが…」
ゴリアテは頭をぽりぽりかきながら、恥ずかしそうに話す。
「うん。」
「魔族ってのも酒を呑むんだよな?」
「はい。うちは果実の蒸留酒とかをよくみんな飲みます。」
「じゃあよ…いつか魔族とも一緒に飲んでみてえな…その際はよろしくな?」
ゴリアテはイリスに右手を差し出す。それはイリスは右手で返して握手する。
イリスとゴリアテの様子をハイドラはただボーっと見ていた。
「ハイドラ…オメーのおかげだよ。これからは魔族とも争わない平和な世界が来るかもしんねぇな。」
ティアラは左側から近付いて行き、ハイドラの背中をバンバンと叩く。
「だからよ…もうオメー1人で悩まなくても良いんだよ。あーしらをもっと頼れよ?あの事もな…」
「あの事か…それだけはきっと…」
「まぁいつか話せる日が来れば良いな?」
談話しているうちにハイドラの元に兵士が数人駆けつけて来る。
「私達を…あと逃げ遅れた人間を助けて頂きありがとうございました。手加減して頂き、皆無事でした。この場でみんなを代表してお礼を言います。」
そう言って直ぐに去って行った。
「まぁ王都が落ち着いたらまた来いや。俺たちみたいにすぐ受け入れられねぇ奴もいるからな。」
ゴリアテはイリス達に向かって笑顔で言った。
「じゃあハイドラ…帰りましょうか?」
ハイドラの右側にいたイリスは、彼にに呼びかける。
「………」
ハイドラから返事がなかった。
「おい、ハイドラ…もう問題はある程度片付いた。イリスっちが言う通り帰る準備は大丈夫か?」
「……イリスが?帰るのか?」
「いや…オメーも帰るんだよ。オメーはまだ指名手配されてるからな…」
「………あぁ…。そうだな。」
ハイドラは左手をグーパーした。その後、左手を見つめる。
「じゃあハイドラ…帰りましょう。」
イリスはハイドラの右手を握る。だがハイドラが握り返す事は無かった。
イリス達はティアラによって、飛竜が待機していた安全な場所に無事戻った。
そして何も変わっていない様に帰路につく。