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魔王乱心 ~勇者の嘘と飾られた世界〜  作者: シャチくま
3.王都侵攻
26/54

26.次元の魔女

「……やったのはアイツです。」

 イリスとネビリムは同時に地面に横たわっているリッパーを指さす。


「はぁ…シバいてやろうと思ったんに…」

 そう言ってティアラはその場から消える。すると急に横たわっているリッパーの前に現れる。


「召喚」

 その言葉にイリスは身構えるが、ティアラはインクとペンを取り出した。


「こいつにはとりあえず落書きしてやるか…」

 リッパーに「バーカ」や「ざーこ」など次々に落書きしていく。色々と落書きをして、最後は隠れている顔をフードから出して、彼のおでこに「肉」とまで落書きをした。


「これでヨシっと…」

 ティアラの奇想天外な行動にただただ立ちすくむ2人。


「|引きこもり≪次元の魔女≫…お前人間を裏切って魔族につくのか?」

 ネビリムはティアラを睨んだ。


「はぁ?|次元の魔女≪その呼び方≫で呼ぶなっつったよなガキ。」

 ティアラはネビリムを睨み返す。普段おちゃらけている分、威圧感が増している。


「質問に答えろ。場合によっては…」


「は?敵味方もねぇよ。せっかくのサボり日(休日)に酒買いに王都に来たら大変なことになってたから解決しただけだっつの。」


「そうか…ならばボクを手伝え。」


「少なくともこんな事態引き起こしている奴に手を貸すつもりはねぇっての。」

 ティアラはネビリムを威圧する。本気で怒っているようだ。


「そうか…ならば…」

 ネビリムは魔族を大量に操ってイリスとティアラたちに向けて特攻させる。


「アンタの下衆なシュミはほんと休日に見たくないんだよねぇ。」

 ティアラは杖で空を横に斬った。


『|開門≪ヘブンズ☆ゲート≫』

 一瞬で有象無象の魔族は消え去った。


「本当にボクがせっかく集めた人形を何となくどこかに消すの辞めてもらえない?」


「死体なんて近くにあって欲しくねんだっての。キショイから。」


「それでも必死に集めて来たコレクションなんだよ。」


「必死?ならまた自分で集めろよ。いっつもあーしらの影に隠れてた雑魚のクセに…」

「あぁごめんねぇ!『|死体遊び≪ネクロマンシー≫』のネビリムちゃんは、お人形さんが無ければ無力なんだもんねぇ?あははぁ。」

 ティアラはネビリムを煽る。


「ハァ?調子こくなよ魔女が…行け、ウィソル、グレゴリア。」

 指示されたウィソルは目にも止まらぬ速さでティアラに向かって槍を突き立てようとする。が、いつの間にか槍の先は消えていた。


「魔女呼ばわりすんなよ?」

 ティアラは再び杖で空を斬る。するとその場に大量のライフルや銃が出現した。


「|一斉放射≪ヘブンズ☆ヘル≫」

 何十、何百もの弾丸が神将やネビリムに向かって飛び続けた。


「僕を庇え、グレゴリア。」

 無情にも全ての弾丸はグレゴリアに命中する。しかしスライムの様に変形し弾丸の威力を殺していたようだった。しかし無数の弾丸の数の暴力の前では無力だった。蜂の巣になり途中で体の中にあった宝石の様な物が壊れる。

 一方でウィソルは何も出来ず蜂の巣と化した。頭が無いために指示がなければ攻撃がどこから来ているか判断できなかったようだ。


「加減して空気弾にしてやったが、本物ならばもうお前は死んでるよ?」

 ティアラはネビリムに言う。


「それにお前が防御している間に、お前の魔力を増幅させる魔宝具はあーしが取っておいた。」

 ネビリムからステッキと羽は消えていた。ティアラは意地悪く笑った。


「オメーはもう何にも出来ねぇから!!」


「返せよ。それが無いとボクは…」


「|ネビリム≪アンタ≫は天恵に恵まれた。けれど魔力には恵まれなかった。けど魔宝具を手にして満足したせいで天恵は進化できず、アンタはそこで終わった。哀しいね…」

 ティアラは憐れむ。


「ボクをバカにするな!!」

「ボクは生まれつき魔力が少なかった。だから|実験≪努力≫を重ねた。お前みたいな何でも持っている奴に追いつく為に…」

 ネビリムは激昂する。


「努力する方向が違ったんだよ…アンタは実験室に籠らずに、もっと色々と見て回るべきだった。そうすればアンタは…」

 ティアラは悲しそうな顔でネビリムに言う。


「何でなんだよ。ティアラは何でも持っているのに、どうして何もやらないんだよ…ズルいだろ…」


「あーしはもう何もする気が無いんよ。大きな力の前では無力なんだよ。アンタも…あーしも。」

 ティアラはチラリとイリスの方を見る。


「ずる…」

 ネビリムが言い切ろうとした瞬間にグレゴリアはネビリムを飲みこんだ。


「ニクイ…人間が憎い…憎い憎い憎い憎い憎い…」

 その後スライム上の体から液状の触手が伸びる。それがウィソルを飲みこむ。


「え?」

 イリスとティアラは驚く。


「は…」

 イリスは急いでリッパーの元に駆け寄る。最悪の事態を防ぐために…


「ニンゲンヲ…コロス」

「あぁそうだね。食べるとしようか…」

 グレゴリアに食べられたネビリムがスライム状になって顔を現わした。


「あぁ…すごい。やはり人間の体ではダメだったんだ…魔族の体で待機中の魔力を使えるようになれば、ボクは才能を存分に生かすことが出来るんだ。」

 ネビリムは高らかに笑う。


「『|暴食≪グラトニア≫』のグレゴリア…食べれば食べるだけ力を得られる最強の神将だった…」

 イリスは呟く。


「え…マジ?じゃあ早いうちに倒さないと倒せなくなるやつ?じゃあとりあえず…」

 ティアラは杖を振ってリッパーをどこかに消した。リッパーの力を食べられれば恐らく負けると理解したからだ。


『黒洞』

 イリスは黒い球体をグレゴリアに向かって飛ばす。ネビリムは飲みこまれ重力により、四方から潰され続けて小さく圧縮されていく。


「なんだぁ…余裕じゃん。」


「もしも最悪の場合では無ければね…」


 その後黒い球が小さくなり消えるまで待った。

「痛いなぁ…よくもやってくれたなぁ?」


 

 小さくなった彼女はバキバキと嫌な音を立てながらどんどんと元の姿に再生していく。


「だが今のボクは完全に無敵。魔力も無限にある最強の存在『|最強融合体≪キマイラ≫』となったのだぁ。」

 ネビリムは高笑いをした。


「『|太陽≪ザ・サン≫』、ウィソルの天恵は太陽が天に昇っているうちは決して死なずに瞬間再生できる。」

 イリスは困ったような深刻な顔をする。


「あぁ…そうなん?ほい。」

 ティアラが呟くと同時に彼女達は何もない孤島にいた。その場所は月が出ていた。


「え?」

 イリスは突然の空間移動に驚いた。状況が唐突過ぎて理解できなかった。


「はい。じゃあ太陽消えたし討伐しよっか?ここなら何もないからアンタも好き放題やれるよ。」

 ティアラは目配せする。それはまるで今までイリスが力を抑えていたのを分かっていたかの様に…


「ソル…ルナ…グリ…あなたを故郷まで連れて帰れずにごめんなさいね。眠りから覚ましてごめんなさいね?わたしがこれから平和な世界を作るから、これからは安心して眠ってね?」

 イリスは涙を流しながら天に祈りを込めるように両手を組んだ。


「天に召します。星々よ…仲間よ…私達の未来を見守っていて下さい。星よ…降り注げ!!」

『天墜』


 突然暗闇に満ちていた空が明るく光った。月は星々に隠されて消える。


 それは天が涙を流しているかの様だった。空を覆い尽くす程の星々が地上に落ちて来る。無念に死んでいった仲間を弔うかの様に、星が降り注ぎ地上は光で満ちていった。


 爆発音すら聞こえなかった。それは滅びの時の様に音もなく、光が消えて一面真っ白の世界となった。

 まるで天国が墜ちて来たかのように幻想的な光景が広がった。


 かつて孤島だった場所は跡形もなく消え去った。その場にはイリスだけ。足場も無く完全に空中に浮かんでいる状態だった。

「さようなら。安らかな眠りを。」

 光に包まれてなお、イリスは祈り続けた。



「はぁ…死ぬかと思った。」

 イリスの隣にティアラがいた。何故か彼女も宙に浮かんでいる。

 ティアラは別空間に逃げていた。むしろ今も別空間の中にいる。


「わかっちゃいたけど、やっぱり魔王の力も規格外なんだよなぁ…それこそ…」

 ティアラはかつて孤島だった場所を眺める。孤島が消えて、それでも物足りないかの様に深海近くまで穴が開いていた。

 どんどんと周りからその穴を埋めるように海水が入り続ける。



 ティアラも才能はある。彼女もそれを自覚している。けれども決して埋められない差があるのだ。

 どれだけ頑張ってもどれだけ魔宝具で弱点を補っても、まるで別次元にいるかのような存在。

 勇者と対を成す存在である魔王…


 加減をしなければ一瞬で世界を滅ぼしかねない力の持ち主たち…


「ティアラさんだっけ?ありがとう。」


(あれだけの大技を使っても、ケロッとしてんなぁ。)

「ティアラで良いよ?イリスっち。てか敵なんだし感謝すんなし…」

 ティアラは照れ隠しをするかの様に頭をかいてイリスから目を逸らした。


「え…敵なの?」

 イリスは悲しそうな表情をティアラに見せる。


(ったく…調子狂うなぁ…)

「いやアンタが敵っていうよりは、ハイドラが敵かな…アイツはぶん殴ってやらないと…」


 プッとイリスは少し吹いた。ハイドラを殴るで少し安心したのだ。

 彼女はもうハイドラを殴っていたから…魔族と人間と種族は違っても、考える事は同じなのだと…


「じゃあ一旦は仲良くしてくれるかな…もちろん少しの間だけれども…」

 イリスはおそるおそるティアラに言ってみる。と言うよりも、この知らない場所に飛ばされた時点ですでにイリスはティアラの助け無しには王都に戻る術がなかった。


「ん。じゃあ一旦は王都に戻りますか?」

 そう言ってティアラはイリスに手を差し出す。


「とりあえずこの事態が収まったら、パフェでも食いに行かね?ハイドラに貰った金はいくらでもあるからさ。」


「うん。美味しいお店を教えてね?」

 イリスは嬉しそうに手を取った。

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