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魔王乱心 ~勇者の嘘と飾られた世界〜  作者: シャチくま
3.王都侵攻
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23.戦いの合図

「お父様を殺したのがハイドラ…」

 イリスの目の前は急に暗くなる。


「どうした?知らずにその男を隣に置いていたのか?滑稽滑稽」

 レディオン王は笑う。意地悪く。まるでイリスを侮辱するかのように…


「イリス…」

 ハイドラはイリスに声を掛けられなかった。言葉に詰まったからだ…何か伝える事が出来ないかのように…


「………」

 イリスは父親を殺した人間が憎かった…その怒りをぶつける先が今までなかった。

 しかしぶつける相手は目の前にいるのを知った…


(憎しみの連鎖…)

(もしそれが本当だとすれば、お父様がハイドラの街を滅ぼした事になる。それは私はあり得ないと思う。けれど嘘か真実かはわたしには分からない…)


「イリス…俺はお前の判断に従う。平和の為なら…」


「ハイドラ…あなたの本当の気持ちを聴かせて?あなたは故郷を滅ぼした魔族が憎い?今も苦しいの?」

 ハイドラがかつて言った「もう憎んでいない…」それは本心を隠していたのではないか?憎しみを抱えながら…苦しみながらハイドラは生きていたのではないか?今も苦しんでいるのではないか、聞かなければならない。


 だってイリスも父親の事を考えると苦しいから。


「ハイドラ。気持ちを正直にぶつけて欲しい。」

 自分がどうするべきか分からない。ハイドラを憎むべきか許すべきか…


「イリス…俺の答えは前と変わらない。昔は憎んでいたが、今は憎んでいないよ。」

 ハイドラの表情に嘘はなさそうだった。怒りや憎しみに満ちた表情ではなかった。


(未来の為に許す…それがあなたの答えならば…)

「レディオン王よ。ハイドラが魔族を憎んでいない以上、わたしも彼を憎む訳にはいかない。ならば私は彼を殺すのではなく、償いをする道を選ぶ。」

 イリスは迷いが吹っ切れる。それと同時に父のした罪への償いをハイドラにするべきだと思った。魔族を代表して…生涯を掛けて…



「はぁ…余興にもならんか…ではハイドラよ?先程は憎んでいないと言ったな?」


「あぁ。」


「お前の故郷・エメリアの街を思い出せ。平和で笑顔溢れる街だったのだ…それが一夜にして廃墟と化したのだ…」

 演技じみたように悔しそうに王は言う。


「この場で魔王イリスを殺せば、我等を裏切りし罪を免除してやろう。」

「さぁ勇者よ。復讐の時は来た。今こそ魔王を…いや魔族を討ち平和な世を作ろうではないか?」

 王がハイドラに語り掛ける。彼の憎しみを煽るかの様に…


「アホらしい。」

 ハイドラは王の言葉に一切動じる事無かった。

 その言葉に王は急に彼らに飽きたようなつまらなさそうな表情に変わる。


「あぁそうか。では話はここまでだ。」

 王は彼らに背を向けて部屋を出ようとする。


「レディオン王よ…私はあなたが今は話に応じてくれなくとも必ず説得して見せる。平和な世の中を作る為に…」


「ハァ…」

「愚かな小娘よ。魔族の話を聞くに値しないと言っておるのが分からんか?先程の話の詳細を教えてやる。」


「貴様の父ガイウスが我らに停戦を持ちかけた。私が信じて停戦に応じた最中に、ガイウス王はエメリアの街を攻撃したのだ。」

「停戦中に争いを起こしたのだ。そんな魔族を信じる事は断じてない。」

 王は睨みつけながらイリスに言う。そして再びその場を去ろうとする。


 真実ではないと信じたいが、イリスは父親の行動にショックを受ける。


「王よ。最後に一つ良いか?」

 ハイドラは背を向けた王に向かって言葉を発した。

 だが王は既に聞く耳を持とうとしなかった。部屋を去ろうとドアノブに手を伸ばした。


「『|心繋≪しんけい≫の宝玉』のもう一つは見つかったか?」

 ハイドラが王に向かって言葉を発した瞬間だ…


 王は物凄い形相でハイドラの方を向いた。


「『心繋の宝玉』が両方無くなったのは、確か10年前…しかもエメリアで…だよな?」


 王はハイドラを睨みつけ、みるみる内に怖い表情に変わっていく。

「貴様…」


「『心繋の宝玉』の効果は知っているよな?宝玉を持つ者の心を繋げて操る。」


「………」

 先程まで饒舌だった王は黙る。その場に立ちすくんだ。


「俺はイリスと共に行くが、残り一つが見つかると良いな。」

 イリスは何を言っているか分からないままだった。しかしハイドラの言葉が本当だとすれば父親が誰かに操られていたという事。


「じゃあイリス…これ以上は時間の無駄だ。帰るぞ。」


「帰る…?その前に『心繋の宝玉』のありかを言って貰おうか?」


「さあな?どこにあるんだろうな?」

 ハイドラが席から立ち上がると同時にイリスの手を掴む。


「魔宝具『|煉獄≪れんごく≫』よ。」

 王は左手を掲げる。それと同時に左手の指輪から光が放たれる。


『夢幻≪むげん≫』

 その瞬間部屋で小さな爆発音が聞こえて、至る所で何かが爆発し始めた。ハイドラが回避しようとしなければ恐らく爆発に巻き込まれていただろう。


『|飾逆≪さかさかざり≫』


 ハイドラはイリスの手を引っ張る。

「逃げるぞ?」

「え?」


「どうやら俺達を最初から殺すつもりでここに招きいれたらしい…」


「全兵士よ。この2人を捕縛せよ!女は殺しても構わん。」

 王の号令が部屋中に響く。それと同時に部屋にいる兵士と、部屋の外にいる兵士が逃げ道を無くすように部屋の入り口をふさぐ。


「そうはいかない。」

 イリスは右手に魔力を込めて、何かを回す動作をする。すると話し合いの途中に空中に浮かせた城が十王無尽に回転し始める。


「ああああああぁ」

 兵士達は滑り台の様に部屋を転がり滑っていく。


 王だけは右手で剣を握り地面に突き立て、器用に部屋の回転に合わせて移動していた。

 その合間を狙いながら左手で小さなものを投げつける。


 ハイドラが王の認識を逆さまにしている為に、反対方向に飛んで行く。反対方向に飛んで行った物は爆発する。爆発し、城は少しずつ火が付き燃え始める。


「お前無茶苦茶だな…」

 ハイドラはイリスに向かって言う。

 勿論イリスとハイドラは回転に巻き込まれずにいた。城を回転させて王と兵士を攪乱している間に部屋から抜け出す。しかし燃えている物まで回転に巻き込まれて、火が逃げ道を無くしていた。


 その為近くの壁をイリスはパンチで突き破り穴を作る。城が空中に浮かんでいるので、穴が開いた瞬間に一瞬強風が城の中を吹き荒らす。それにより火は更に大きくなった。

 追手が来ない様に穴が上向きになった瞬間によじ登って城を抜け出す。



「さて…外に出たのは良いが…」

 10メートル程の上空に浮かぶ城。

 這い上がって出た彼らの斜め下には大量の兵士達がいた。


「あそこだー!!」

 城の外には何十人もの戦闘兵達が配備されていた。元から彼らを逃さない為だろう。壁が開けられた音に反応して、その方向に武器を構えていた。


「全兵隊!!撃て!!」

地上の兵たちは各々が銃を構え、魔法を唱える為に詠唱を始めていた。どうやら王に命令されていたようだ。ハイドラとイリスの姿を見た瞬間に攻撃をするようにと…


(これは…時間が…)

 ハイドラの技の発動条件は音を聞かせること。しかし姿を見せた瞬間の攻撃に対応するには時間が足りなかった。


「|黒洞≪こくとう≫」

 イリスは右掌に小さな黒い球体を生成した。掌を口元まで持ってきて、口の前の球体をフゥと綿毛を吹いて空中に飛ばす。



 イリスの掌から離れた所で黒い球体が一瞬のうちに物凄い勢いで全てを吸い込み始める。攻撃や城の瓦礫や火などもだ。攻撃を吸収するたびに黒い球体は大きくなり始めた。


「地面にしがみつかなきゃ、死ぬわよ?」

 イリスは地面の兵達にそう言った。しかし彼らは攻撃をしてすぐの無防備な状態だった。黒い球体は物凄い吸引力でイリスとハイドラ以外の全てを飲みこんでいる。


「うわあぁぁぁぁ…」

 全ての兵士は黒い球体に吸い込まれるように空中に浮かび始める。体重の軽い者程吸い込まれるのが速いようだ。


「イリス…これ…兵士は大丈夫なのか?」


「思った以上に吸い込む力が強いわね…」

 それだけ兵士達が何人も攻撃をして、予想以上に黒い球体が成長したようだった。イリスにとっても想定外だった。なのでほとんどの人間を空中に浮かせたところで黒い球体を消した。


 その瞬間に兵士達は地面に不格好に落ちる。


「人間よ。聞くが良い。我等は危害を加えられなければやり合うつもりはない。引け!!」

 地面に落とされた兵士達を見下すようにイリスは兵士達に話しかける。


 その言葉を聞き一部の兵士達はその場から逃げるが…

「おい…お前ら…逃げるな。逃げれば…」


 ドォォン

 勢いよく逃げた兵士の一部が大きく爆発する。爆発の際に兵士や瓦礫などが空中に舞う。それを器用に足場にしながら、レディオン王は地面にまで降りて来る。

 しかし最後まで安全に着地するには高くから飛びすぎたようだった。


 最後は無理やり地面を爆発させ、その爆風で自らを吹き飛ばし着地の負荷を無理やり減らす。

 王は左腕で体全体を庇うように無事着地した。


「ぐう…」

 左腕の様子を確認しながらも、再び右手に剣を持つ。そして逃げる兵士達に告げた。


「戦線から逃げるなら国賊とみなす。」

 その後爆発に巻き込まれずに逃げる兵士に近付いて行き、切り捨てた後レディオン王は再びイリス達の方を向いた。


「兵士達よ…配置につけ。」

 その言葉で兵士達の一部はその場から急いで離れる。


「さて|爆≪は≫ぜろ魔宝具『|煉獄≪れんごく≫』よ。」

 王が左指にはめた指輪に祈りを込め始めた。

 指輪から放たれる光と共に爆発音が聞こえて来た。先程までイリス達がいた城も爆発による炎に包まれる。


 更には街中のいたるところで爆発音が聞こえ始める。


「なんなんだよ…これは…」

 ハイドラは驚愕する。王が自ら街を爆破するとは思ってもいなかった。


 各地で爆発音が聞こえ、建物が火を上げて燃え始める。辺り一面が火の海となった。

「私も平和な世をはやく作りたいのだよ。」


「だから諸君…戦争の始まりだ。この街の住人は全て君達の敵となった。」

 火の海を背にレディオン王はイリス達に宣戦布告した。

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