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魔王乱心 ~勇者の嘘と飾られた世界〜  作者: シャチくま
3.王都侵攻
22/54

22.2人の王

カチャ

優雅にティーカップを置き、マフィンを口に入れる。

「このお店美味しいね!」


イリスは満面の笑みでハイドラに微笑みかける。

「そうだろ?お気に入りのお店だったんだ。」


彼女達は王都セレスティアの人気のカフェテラスでお茶を楽しんでいた。


「他にも美味しいお店に色々と巡ってみたいなぁ…」


「あっ、店員さん紅茶のおかわりお願いします。」


店員は怯えながらも注文を受ける。

彼女の周りの席に座ろうとする者はいなかった。


そのうち店主らしき髭を伸ばして少しぽっちゃりした男性が彼女達のテーブルの前に来る。

「その…当店は30分制でして…お代は結構ですので…」


「あら…そうなんだ。ごめんなさいね?」

イリスは少し悲しそうな顔をしてテーブルにお茶代の倍以上の金額を置いた。


「お客様…こんなには…」

店主は困惑している。


「チップよ。美味しかったわ。ご馳走様。」


「さて迎えも来た事だし、お城に向かうとしましょうか?」

イリスの言葉にハイドラはうなづいた。こうして優雅に朝食を終えて2人はセレスティア城に向かう。つもりだ…


 迎えの人間達は歓迎と言うよりは拒否しているようだった。ひたすら嫌そうに馬車を用意している。

更には皆が武器を持ち、険しい顔をしている。ざっと50人近くいるだろうか?


それを見てか一般人は警戒している。



 さて…何故イリスとハイドラが王都の中で堂々とお茶をしていたかだが、警備がザルだったからではない。

 話は2時間ほど前にさかのぼる。


 セレスティアは20メートル程の高さの城門に都市は囲まれている。城門の周りには堀で囲まれており、城塞都市としても有名だった。


 ここに入るには東西南北のいずれかの大門から入らねばならない。飛竜は恐らく撃退される。その為入口の大門にイリスは来ていた。


 イリスのブラフによって無事にセレスティアの街に入る事が出来たのだ。更には王が対話に応じるように脅しまでかける。

 なんやかんやあって交渉(脅し)は成立。王の準備が整い、迎えが出るまでイリス達はセレスティアの街を見学していた。


馬車に乗り、揺られながらハイドラはイリスに聞く。

「なぁイリス…お前の力って…」


「教えない。昨日わたしが話そうとした時に止めたハイドラが悪いんだもん。」

ハイドラをからかうように舌を出してあっかんべーをした。


*

 城に着き会議室のような場所に案内される。ハイドラとイリスは万が一の事があってもいいようにしっかりと来た道を覚えておく。


 広い部屋に入り円卓のテーブルにつき、荘厳な部屋の中でイリスと共に王を待つ。周りには彼らを警戒しての兵士が部屋の中と外にしっかりと配置されていた。


「待たせたな…魔王イリス……そして裏切りの勇者ハイドラよ…私がこの国の王レディオンだ。」


「約束も無く面会を希望するとは、まぁなんと不躾な…」

 白髪の初老の男性が現れる。高価な服の下側は筋肉だと分かる程の体格だった。とても目つきが悪く貴族らしい服装を着ていなければゴロツキにも見える。


「さて……全ての予定をキャンセルし君達の為に時間を作ったのだが、その価値のある話かね?」

 魔王と勇者の2人を前にしても、彼は怯えることが無かった。王としての貫禄をしっかりと備えていた。


「レディオン王よ…我等は…いやわたし達は争いを止める為にここに来ました。」

 イリスはきちんと姿勢を正し、王に向かって言う。


「そうか…では今日の話はこれで終わりだ。悪いが帰ってくれ。」

 話を聞くつもりはなかった。


「は?」

 あまりに不遜な態度にハイドラは席を立ちあがる。


「言わないと分からんか?我が国にメリットがない。」

 そう言ってイリス達に背を向けて早々に部屋を出ようとする。


「立場がお分かりで?」

 イリスはパチンとハイドラの様に指を鳴らした。すると同時に城が揺れ始めた。

 窓の外を見ると景色が変わっている。まるで城が動いているかの様に…


「……城が浮いている…」

 兵士が窓の外を眺めて気付いたのだ。城が浮いている事に。高さにしておよそ10メートル程だろうか?


「ハァ…思い通りにいかないからと脅しにかかるとは…」

 面倒くさそうに王はテーブルについた。


「仮に争いを止めるとして、魔族は我らに何を差し出す。」

 イリスを睨みつける。


「レディオン王よ…争いを止めれば今生きている人は死なずに済むのですよ?」


「だから何だ?死んだなら新しく生ませればよい。人間なぞいくらでもいる。」


「……」

 王としての考えの違いをイリスは知る。民あっての王だとイリスは思っていた。


 しかしこの王の考えは王あっての民なのだ。考えが全く違っていた。


レディオンはハイドラを睨みつける。

「勇者ハイドラよ…情けなくもよくもまぁ魔族についたものよな?」

 イリスを打ち負かした王は、ハイドラに話しかける。


「少なくとも俺はあんたよりイリスの方が平和を考えていると思ったからな。」


「ブフォ。はっはっはよくそんな言葉が吐けたものよな。」

 王はハイドラをバカにするかのようにあざ笑う。


「ハイドラを笑うな!!」

 イリスは激昂した。怒りを王に向ける。


 しかしそれでも王は彼をバカにした笑いを続ける。

「魔王イリスも貴様の隣にいる人間が何をしたか知っているのか?」


「何をって…勇者がわたしの仲間を殺したのはもう知っている。」


「おうおうおう…可哀想な娘よな。アー八ッハッハッハ。」

レディオンは手を叩き高笑いする。


「王よ…あなたは我らと話し合いをするつもりなどなかったのですね。」


「貴様ら魔族が今ある資源と土地を譲り渡すくらいしか、話し合いに応じるつもりなぞ無いわ。」


 イリスは今なら分かった。ハイドラがこの王を殺すとまで言っていた意味を…

 彼の頭には魔族の事は全くなかったのだ。人間の…いや自分の事しか考えていない王。



「まぁでもな…魔王よ。我も考えがあるのだ。そこの裏切りの勇者ハイドラを殺せば話し合いを続けても良いぞ?」


「何をバカなことを…」

イリスは侮蔑の表情を向けた。


「あぁ…なんと哀れな……勇者ハイドラよ…この娘には話していないのだな?」


「………」

 ハイドラは下を向いて黙っていた。


 イリスはハイドラの方を向く。彼女も何か嫌な予感がしていた。

「ハイ…ドラ……?」


「本当に真実とは残酷よな?魔王イリスよ、心して聴くが良い。」

「そこの勇者ハイドラは貴様の父、先代の魔王・ガイウスを殺した張本人ぞ?」

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