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魔王乱心 ~勇者の嘘と飾られた世界〜  作者: シャチくま
2.儚き偽り
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17.魔王VS幼馴染

「どこを狙っているの?ヘタクソね…」

 グリフィスの氷流星がまったく別の方向に飛んでいくのを見て、エクレールは彼をバカにする。


(恐らくはハイドラが彼女に当てない為に頑張っている…)


「こうやって当てるのよ?」


 エクレールはグリフィスの技を見て、思い付いたかのようにイリスの目の前に小さなナイフを召喚する。イリスが気付くやいなや、既に何個も飛ばされていた。


(空中の敵への対策もしっかりされている。やっぱりただの町娘ではない。)

 ナイフを重力で無理やり落とそうとするが、イリスとの距離が短すぎて軌道をずらす事しか出来ない。しかし避けるならばそれで十分だった。

 飛ばされたナイフを避けるだけならば…


エクレールは飛ばしたナイフよりも素早くナイフの先に移動していた。


彼女は攻撃を外した複数個のナイフを無駄にする事はなかった。サーカスの様にナイフに乗っかり足場にしたり、掴んで再びイリスに投げつける。


ナイフはイリスを逃がさない為に様々な方向から飛ばされ、側から見ればイリスを閉じ込める檻の様になっていた。


エクレールはナイフを足場に宙を自在に動き回る。


「死ね。」

 再びイリスに向かってナイフが飛んでくる。更にはエクレールの攻撃も避けなければならない。上下左右から…


(グリフィスにも対空中の似た技があった。ならばすべきは…)

イリスは一瞬だけ引力でナイフの軌道を自分に向ける。その後、ナイフと自分やナイフとナイフ同士を反発させて一気に軌道をずらす。ナイフの軌道をずらしてエクレールの追撃を避ける為に…


 その隙にイリスは攻撃の範囲を狭める為に、ナイフを回避しながら地上に降りる。


無事地上に足をつく。エクレールもイリスを追って地上に戻る。


「チッ…逃したか…」

エクレールは悔しそうにナイフをクルクル回す。相変わらずイリスの前だと目に光は灯っていなかった。


(あんなデタラメに動いても、魔力切れの気配は無しか…)

人間を殺さずに制圧するには、人間の魔力切れを狙えば良い。しかし攻撃が魔宝具によるモノならば、魔力切れは滅多に無いが…


(つまり彼女の技は魔宝具によるもの。)


「あら…何のために空中に浮いたの?」

 心無いエクレールの言葉がイリスの心を突き刺す。彼女の言葉にも威力があった。


「はぁ」

イリスは溜息を吐く。加減して闘うのに疲れていた。ハイドラやグリフィスがいなければ、関わりたくないから真っ先に逃げる面倒な敵…

(本当にあいつ面倒な女ね…)


(魔宝具が私の能力に抵抗を与えるのか…それとも彼女自身が私の能力に抵抗があるのか…)

 イリスは必死に考えを巡らせる。最適解を見つける為に。


時間が経つに連れて段々と速く、強くなっていくエクレール。

それと比例して首元のネックレスから嫌な気配が増していた。


(やっぱりあの首元の宝石は魔宝具ね…)

「まずは首元のブネックレスを奪うとしますか…」

 まずはエクレールを弱体化させるつもりで彼女の魔道具を狙う事にする。



「やっぱりナイフはいらない。リーチが短い。」

 そう言ってエクレールはナイフを捨て、再び剣を両手に持つ。その剣はレイピアの様に細長く、軽そうだ。しかし刃は鋭い。つまりイリスが強めたこの重力場に耐えやすい武器だった。


「そろそろ殺せる。次は仕留める。」

 エクレールはレイピアに魔力を込める。それにより、刃はさらにツヤを増して光輝いた。


(あの剣は…普通の武器じゃない…)

「へぇ…魔宝具に近い剣か…それがアナタの切り札ね。」

 イリスも油断をしない様にする。


(この前のゴリアテより攻撃が読みにくい…ならば…)


「死なないでね?」

 イリスは左手にも魔力を込める。そして空間を操るように両手を動かす。重力の強い場所、弱い場所をまばらに作る事で相手の動きや攻撃のタイミングを攪乱させるために…


「ダルい空間ね…」

 エクレールは剣で空を斬った。


「えっ?」

 その瞬間にイリスの魔力操作がかき消された。空間に亀裂が入る。空間ごと魔力を斬られかき消されたようだった。


更にはハイドラの方向からも悪寒がしている。これによりイリスの心は乱れる。少しの気の緩み…


「隙だらけね?」

 一瞬の隙にエクレールはイリスと距離を詰める。そして剣で首を掻き切ろうとする。


(マズイ…)

「弾け。」

 イリスは自身とエクレールを全力で反発させる。エクレールを吹き飛ばす勢いで反発させたはずだった。


 しかしイリスの首を剣がかすめる。判断が遅れれば、あと少しでイリスの首は斬り落とされていた。


「惜しいな…てか寒さのせいかな?手がかじかむわ…」

グリフィスがハイドラと戦った際に冷気でエクレールの攻撃を鈍くしていた様だった。


首元に手で触れ血が出ているのをイリスは確認する。


「ハイドラ…ごめん。」

イリスは手を抜いて戦える相手ではない事を悟る。



「ここまでするつもりはなかったけど…死なないでね?」

 イリスはもはや加減は出来ない事を悟る。心を折る、又は完全に戦闘不能にしなければ、彼女は向かって来る。


『|天墜≪てんつい≫』

 イリスは天に右手を上げる。すると物凄い速さで隕石が地上に落ちて来る。空を飾る星の多くはイリスの手の中にあるようなものだ。それを一つ引き寄せる。



 ドォン

 その音が聞こえた瞬間にハイドラとグリフィスはイリスの方を向く。

 隕石が落ちた地面は燃え上がり、巨大なクレーターになっていた。


 勿論イリスは当てるつもりはなかった。必中必殺の隕石を落とす。常人ならばその速さについていける事は無く、当たれば死ぬ。

 脅すだけのつもりだった。心を折る為に。


 土煙が立っている中、クレーターは二つ出来ていた。


「で?それがあなたの必殺技?」

 エクレールは両手で魔力溢れる一本の大剣を持っていた。その剣は熱を帯びて、真っ赤になっていた。

 彼女の周りには2つのクレーター。つまり隕石が落ちる寸前に、彼女は上空へ飛び隕石を斬っていた。


(まさか…ここまでやるなんて…)

 イリスは驚きを隠せなかった。もはや一般人とは呼べなかった。神将に匹敵する力の持ち主…


「これはマズい…」

イリスは焦る。これを難なく対応される場合、イリスは本気を出さざるを得ない。



「2人とももう争うのは止めてくれ。」

 ハイドラは2人に話しかける。グリフィスとの決着がついた様だった。


「大丈夫だよハイドラ。邪魔者は殺してあげるから。」

「大丈夫よ、ハイドラ。こんな人間私の敵じゃないから。」

 エクレールとイリスの声は見事に重なる。ある意味息がぴったりだった。


「チッ」

「チッ」


 そう言ってエクレールとイリスは互いに見合う。そして次の一瞬お互いが敵に対して攻撃を行おうとする。エクレールは剣を捨てて再び両手にレイピアを持ち、イリスは右手に魔力を込める。


「やっぱりまず煩い口ごと首を落としちゃいましょうか?」

エクレールはレイピアの刃を見てニヤリと笑った。


「まずは魔宝具…次は両手ね…」

イリスはエクレールの制圧をイメージする。


 エクレールはイリスの首を斬る為、イリスはエクレールを無力化する為にまず魔宝具であろう首のブレスレットを狙う為に…


お互いが一息ついた。決着をつける為の呼吸。お互いが次で決定打を与えるつもりだった。


 パチン…ハイドラは指を鳴らす。

『逆夢』


「え…お前…」

 グリフィスはハイドラの行動に対して驚く。

 その瞬間イリスとエクレールはハイドラに攻撃対象を変えた。


 それと同時にハイドラはイリスの力によって、彼女に引き寄せられる。


「へぇ…私から逃げるんだぁ?」

 ハイドラが急激にイリスに引き寄せられた事で、エクレールは一瞬戸惑ったようだった。


 エクレールは首を刈るために剣を…

 イリスはエクレールの首のブレスレットを奪おうと手に魔力を込める。


 ハイドラに近付く「死」の気配。

彼女達は既に認識が書き換えられた。


「……いや…これは…この違和感は違う…」

 エクレールはハイドラに猛突進しながら何か気付いたようだった。


「寒さのおかげで助かった…じゃなきゃ…」

エクレールは呟いた。


ガッ

と鈍い音がして、辺りは鎮まり返った。決着がついたのだ…


「どうして…どうしてその邪魔な女を庇おうとするの?」

 首元すれすれだった。エクレールの剣はハイドラの喉すれすれに当たっていた。


 イリスはハイドラの首を掴んでいた。イリスが首を掴む方が速かった。引力による勢いもあってか、ハイドラは気を失っていた。勿論グリフィスのクスリの効果もあるだろう…


 グリフィスがハイドラに飲ませた感度を上げる薬のお陰で、彼の生命を維持する為に、本能的に気絶出来たのだ。



「え…私は何を…」

イリスはハイドラの首を掴んでいた。ブレスレットのつもりだったのに…だ。


 イリスは初めてハイドラの能力の強力さを知った。まるで最初からハイドラが敵だったかのように、一瞬で認識が変えられる。自分が初めて実感する恐ろしすぎる力だった。


「ハイドラ…ごめんなさい…」

 イリスは自分の行いが信じられず、急いで首から手を放す。それと同時にイリスは力が抜けた様に膝から崩れ落ちた。


ハイドラは地面に倒れかかる。が、エクレールは両手の剣を捨て、ハイドラを抱き抱えた。ハイドラの首にはイリスの手の痕がくっきりと残っていた。


 ハイドラが気を失った事で彼女達は冷静になる。戦いは一旦止まった。

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