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つまり、俺が彼女の夫でして  作者: 森都 めい
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8. 俺で大丈夫ですか?

場面は顔合わせの子爵邸で、子爵の話の続きになりますが、視点はコーリヒトになります。


文字と行間の修正をしました。


子爵様の話を聞いていたのに、突然俺の名前が呼ばれたからびっくりした。

なぜそこで俺の名前が出てきますか!


「ははは、すまない。

すごくびっくりした顔をしているね。

コーリヒト君、君とは2年間の見習い期間に、ここに来てくれた時にしか会っていないけれど、父親のランスロットに付いて一生懸命勉強している様子は、こちらが笑ってしまうほど真面目で、わからないことはすぐに聞いてくるし、見ていて気持ちがよかったよ。」


う~ん、あの頃は必死だったから、実はあまり周りが見えていないんだよね。

俺の何かが、子爵様に刺さるものがあったのだろう、と思う。

「そう評価していただけるのはうれしいですが、それで私をお嬢様の結婚相手に選ばれるのは・・・大丈夫ですか?」

思わず本音が出てしまった。


「ははは、まぁいろいろ考えてのことだがね。

とりあえずは、自分の直感を信じようと思ったのは確かだ。」

「それは、ありがとうございます・・・。」

俺はなんて返事をしていいかわからなかった。

子爵様の目に留まるなんて本当は光栄なことかもしれないが、やっぱりまだ素直に喜べない自分がいる。


「息子のコーリヒトを選んでいただいたのは、誇りに思います。

しかし、子爵家が大変な時に全く気が付かなくて、何もお力になることもできず誠に申し訳ありませんでした。」

親父殿が詫びる。

ご令嬢が病気だったなんて話は、親父殿でさえ今回初めて聞いたことなのだろう。


「いや、関係のある、ごく少数の人たちにしか伝えていなかったことだから、それはいいのだ。

君たち家族には、過去のことより、これからのことをお願いしたい。

まずは今回の婚姻のお願いについてのいきさつをわかっていただけただろうか。

そろそろいい時間だ。

食事を用意しているので、そちらへ行こう。」


子爵様の言葉を合図に、執事のセバスさんが部屋のドアを開けた。

俺たちは部屋を移動して、昼食会となった。


子爵様のお話は、驚くような話だった。

人間、人生にはいろいろなことが起こるものなんだな。

今の俺もそうだけど。

今まで想像もしていなかった・・・、貴族のお嬢様を嫁にもらうなんて。

でもそのお嬢様は、子爵様のお話の間ずっと唇をぎゅっと結び、何か覚悟をしているような感じだったな。

本当なら、病気さえしなければ今頃は、どこかの貴族の息子と夫婦になって何も不自由のない生活をしていたかもしれないんだ。

それなのに、いきなり庶民の中で生活することになるなんて。

ほんと、人生はわからないよな。

まぁ、わからないこそ面白いともいうんだけど・・・。


父親たちの会話を中心に、和やかに食事が進む。

子爵様とて、貴族といえど一人の父親だ。

父親として祝福してくれていることがわかる。

このご夫婦が望むのは、娘の幸せだけだ。

それは、俺にとってはプレッシャーとなって重くのしかかるわけだが・・・。

ただ、その娘の本意がよくわからないなぁ。

彼女も食事の間は、話を振られれば笑顔で答えていたが、俺の顔はあまり見てもらえていないような気がするのは、俺が気にしすぎ?


食事も終わり、一息ついたところで、子爵様が言った。

「あとは、我々だけで詳細を決めておくから、リルマーヤ、コーリヒト君に庭を案内してあげて。」

「わかりました、お父様。

では、あとはよろしくお願いいたします。」

リルマーヤ様は段取りを伝えられていたのか、そう言うと俺の方へ向いた。

「コーリヒト様、こちらへ。

ここから庭に出られます。」

なんか、自然な流れで二人になれるようだ・・・ってどうするんだ!俺!!


庭に通じるドアをセバスさんが開けてくれ、リルマーヤ様をエスコートしている。

さすがだ、セバスさん。

俺にも、エスコート・・・しないよね・・・。

ドアを出ると、セバスさんが俺に上着を着せてくれた。

その時に小声で伝えてきた。

「お庭でお嬢様をエスコートしてあげてください。

腕を出せばよろしいので。」

おお、アドバイスありがとうございます!

師匠と呼ばせていただきたいぐらいだ。

貴族のマナーなんて、全くと言っていいほどわからないからな。

俺は、ありがとうと告げ、先に庭に出て寒くないよう身支度を整えたリルマーヤ様の横で腕を出すと、彼女は俺の腕をとった。

う~、上着の上からとはいえ、手の感触に超緊張するぜ。


庭へ歩きだすと、家の中からではあまりよくわからなかったが、とても綺麗にしてある。

もうすぐ冬も本番だというのに、花も多い。

「これはまた、見事なお庭ですね。

寒くなってきているのに、花も多いように思いますが。」

「ここは、自慢のお庭です。

私がほとんど家から出られず、庭が唯一の屋外になってしまったので、庭師のヨハンが庭づくりに励んでくれたのです。

おかげで、毎日庭を散策するのが日課になり、楽しみも増えました。

時々、庭づくりのお手伝いもします。

まぁ、本当に簡単なことだけですけど。」


ふふふ、と笑う彼女からは、庭を気に入っている感じがわかる。

んん?さっきと少し雰囲気が違うような気がするが・・・。

ちゃんと俺と話をしてくれるんだ。

『はい』とか『いいえ』だけの会話だったらどうしようと思ったけど、その心配はないようだ。

そう思うと、俺は聞きたがりの知りたがりだから、『この花は?』『これも植えたもの?雑草みたい』とか、いろいろ聞いてしまったが、彼女は丁寧に答えてくれる。


「これはまた、見事なお花ですね。」

と、俺は少し腰を折りながら言って横を向いた。

リルマーヤ様は女性にしては背が高いので、ちょうど向いたところに彼女の顔があった。


『近い!ヤバい!綺麗すぎる!』


俺は慌てて顔を上げたが、彼女は気が付かなかったのか、この花は・・・と説明してくれている。

俺はドキドキで、話なんて全く聞いてなかった。

彼女も腰を折って花の香りを楽しんでいる。

「ええ、いい香りだわ。

今の季節、この花が一番香るかしら?」

そう言うあなたからも、お花の香りがします・・・。


しばらく歩くと、ガゼボが見えてきた。

「あそこでちょっと休みましょう。」

ガゼボに入って中のベンチに向かい合って座る。

「あれ、温かい・・・」

「椅子に魔石を置いて、温かくしてあるのです。

これも庭師のヨハンが、寒い時でも座れるようにと考えてくれました。

とても気に入っているんです。」

リルマーヤ様は嬉しそうに話してくれた。

その間に、侍女たちがリルマーヤ様の足にひざ掛けを置き、折り畳みのテーブルを置き、お茶を用意してくれた。

手際が良すぎますね。

こんなに至れり尽くせりだけど、このお嬢様は市井でやっていけるのだろうか?

ロッテなんて、絶対ひざ掛けなんてかけてくれないよ。

まぁ、ロッテは侍女じゃあないんだけど。


リルマーヤ様の「ありがとう」という言葉で、侍女たちがガゼボから出て行った。

お茶を飲むと、温かさにほっとする。

改めて二人になると、何を話していいのか・・・話題話題話題・・・焦る。

リルマーヤ様が沈黙を破った。


「この度は、お話を受けていただきありがとうございます。

父上が強引に話を進めたような気もしますが・・・。」

「いえ、それより、リルマーヤ様は俺なんかでいいんですか?」

「え、そんな風に言われると、今日初めてお会いしましたからコーリヒト様のことはまだ何も知らないし・・・、でもここで嫌ですとは言えないでしょう?」

リルマーヤ様はふふふ、と笑って俺を見る。

実はちょっと意地悪な人かもしれない。

「そりゃそうですけど・・・」

「ごめんなさい、ちょっと揶揄ってしまいました。

私は父上を信じていますし、その父上が選んだコーリヒト様も信じたいと思っています。

コーリヒト様も私のことはまだ知らないし、それはお互い様ですね。」

二人とも、今日初めて会ったわけだし、焦らなくてもいいってことかな。


「私、人前に出るのがまだ少し怖くて。

知っている方には、この髪の色が好奇の目で見られることが多いのです。

髪の毛も、寝込んでいる間にかなり痛んでしまったので、バッサリ切ってしまいました。

そのせいもあって、別人にみられることも多くていろんなことが耳に入ってきました。

だから、先ほど父上が言った、私を知らないところで生きてみたいというのは本心です。

コーリヒト様には頼りっぱなしになってしまいますが、私も早くなじめるよう努めるつもりです。」


あー、この人なりにいろいろ悩んできたんだな。

今の状態も、これからのことも不安がいっぱいなんだ。


「俺、ちゃんとあなたを守りますから。

よろしくお願いします。」


俺がそういうと、彼女は目をぱちくりと大きく見開いた。

「ふふふ、嬉しいです。

こちらこそよろしくお願いします。

さて、少し寒くなってきたので、戻りましょうか。」


勢いで守りますとか言っちゃったけど、大丈夫かな、俺。

フェルナンから言われた『守ってあげなくては!』っていう言葉が俺の心に結構効いているみたいだ。

でも、彼女に会ってちょっとしか話はしてないけど、そう思えたんだ。


戻ると、親たちもちょうど話が終わったところのようだった。

そして子爵様から伝えられた。


「君たちの結婚式は来年3月に決まったよ。」



読んでくださり、ありがとうございます。

ブクマ、評価をありがとうございます。

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