7. リルマーヤ・コンヴィスカント その2
リルマーヤ視点のお話です。
前話の子爵のお話より、時間が遡っています。
誤字の訂正をしました。
暇だ、暇だ、ひまだ~。
リルマーヤとして第二の人生を歩もうと意気込んでいたのに、もう挫折しそう。
貴族って、特にリルマーヤの今の状態は、ほとんどすることがない。
お茶会や夜会は、私の噂で持ち切りだから、とても参加することはできなさそう。
噂好きな貴族たちの格好の餌食になっているらしい。
いつも来ていた商人が、髪が真っ白になってしまった私を見てものすごく驚いた顔をしていた。
その少しあとぐらいかな、コンヴィスカント家の娘は老婆になる奇病にかかっているという噂が流れだしたのは・・・。
失礼しちゃうわよね、髪の色が変わっただけで、お肌はしわしわではなくって、ぷりぷりなのに。
髪の毛は、私が寝ている間に栄養が行き届かなくなり、ぱさぱさになって色まで変わってしまったようだ。
でも、今の姿が私にとってのリルマーヤの姿だから、髪の色が変わったと聞いてもこういう色としか思えない。
黒髪だった前と比べれば、この色は見慣れないけれど、別に変じゃないと思うわ。
侍女のジゼルが髪の手入れをしてくれたけれど、潤いがなくなってしまった髪は全然ダメで、枝毛もひどかったから、思い切って肩まで髪を短く切ってもらった。
お兄様ぐらいの短さまで切ってほしかったけど、ジゼルに止められた。
ジゼルは本気で怒っていたと思う。
乗馬の練習でお兄様に習っていた時、手紙の配達人に会って「えっ?!」と言われた。
その時はなぜそんなに驚いたのかわからなかったけど、そのうち、お父様に隠し子がいたという噂が流れだした。
髪の色は違うが、きれいな顔立ちでお兄様に似ていたし、一緒にいたから子爵家にもどうやら認められているようだ、という噂だった。
確かに、その時の私は馬に乗っていたから背丈があまりわからなかったかもしれない。
乗馬だから、パンツスタイルだったし。
だからって、女性と男性の顔を間違える?
まぁ百歩譲って、髪を切ってしまったから、遠目に見たら男の子?なんて思ってしまうかもね。
そんなことに、尾ひれ背びれに、胸びれまで付いて、あることないことを言われてしまっているらしい。
だから、お母様がお茶会に行っただけでもあれこれ聞かれ、ぐったりして帰ってきて2,3日寝込んでしまった。
当人である私なんかが行ったら、どうなることか・・・。
ということで、ほとんど屋敷の敷地内から出ずに過ごしている。
料理や掃除をしたいと言ったら、不思議な目で見られ、お嬢様はそんなことはしなくていいのです、と言われた。
街へ行ってみたいと言ったら、病み上がりで人ごみには行かせられません、と言われた。
まだ体力もあまり戻っていないから、確かに休んでばかりしてしまいそう。
とりあえず、この暇な時間を何とかしようと、午前中は足腰を鍛えつつ庭を散歩。
アパート暮らしだった私にはとっても広い庭だけど、貴族としては少し小さめらしい。
でも、庭師のヨハンがすっごく頑張って手入れをしてくれるし、花の名前やどんな特徴があるのかなど、いろいろ教えてくれるから、私にとってはお気に入りの場所になった。
ヨハンは、近所のおじいちゃんのような感じがして、とても話しやすい。
私と同じ白髪で、もういいお年だと思うんだけど髪はまだふっさふさで、指は太いのに器用に草花を扱うの。
庭の花の手入れも少しずつ内緒で教えてくれるようになった。
お嬢様が土いじりなんて、あまり感心されないのよね。
でも、手が土だらけになってしまうから、すっかりばれてしまっている。
午後は、お屋敷にある本を読んだり、刺繍をしたり、編み物をしたり、昼寝をするからと言って侍女さんたちを部屋から出してこっそりストレッチしたり。
体に肉が戻り始めると、寝て食べてばかりしているから、つかなくて良いところに付きだして、体型が崩れてきそうでヤバいのよ。
中身はどうあれ、外見はご令嬢なんですから、多少の努力はしないとね。
そんな毎日を過ごし、体力も戻りつつあり、その中でも乗馬はお気に入り。
リルマーヤの記憶の中に乗馬もあったからお兄様にお願いしてみたの。
実際の私は乗馬もやったことがなければ、馬だって動物園でしか見たことがなくて、どうなるかわからなかったけれど、多分体が覚えている!と思い、挑戦したよ。
お兄様には、前に乗馬した時から少し時間が経ってしまったので・・・、と言い訳して、一からまた教えてもらった。
馬に乗れるようになると、遠出ができた。
行くところは人がいない森だから誰かに会う心配もないし(でも出かける前に他人に会っちゃったけど)、気分転換にもなるし、乗馬は楽しみの一つになったわ。
そんなことをしつつ一年ぐらいが経ったある日、両親から今後についての話があった。
「リルマーヤ、お前はこれからどうしたいかな。
私としては、ここにずっといてくれてもいいし、いい縁があればお嫁にいってもいいし。
とりあえず、希望を聞いておきたい。
私たちも、どう手助けしてあげればいいか、考えなければいけないからね。」
「正直に話していいのよ。
あなたの思うことを聞かせてほしいの。」
優しい人たちだ。
二人がどんなにリルマーヤを愛しているか、すごくわかるよ。
嫁ぎ先を決めてきたからここに行け、と言える立場なのに。
私の気持ちを大事にしてくれている。
ここにずっといてもいいなんて、甘えたくなっちゃう。
でも、何不自由のないここに、ずっといていい訳ないよね。
それは私にもわかるよ。
それに、ここにいては友達もできないし、会う人も限られた人たちだけだ。
せっかくの第二の人生、狭い世界になってしまう。
まず、働けない。
やっぱり、前の世界では働いていたこともあり、働かざる者食うべからず、なのだ。
それと、私はリルマーヤなんだけど、今までのリルマーヤとは何か違うってばれちゃいそう。
両親は、自分の子供のことだからもう気が付いているのかもしれない。
病気をする前のリルマーヤと性格が少し違うような気がすると、疑われてしまうかも。
でもまさか魂が入れ替わっているなんて思いもよらないだろうから、不思議だとしか思えないだろうけれど。
他の侍従さんたちにも、人が変わったようだと思われるのは時間の問題のような気がする。
「私は、良いご縁があれば嫁ぎたいと思っています。」
両親にそう伝えると、わかったと言ってくれて、私の嫁ぎ先を探してくれた。
今までの私からすると、親に結婚相手を探してもらうなんてとんでもない!と思っていた。
お見合いだって、あまり考えたことはなかったのに。
でも、ここにいると出会いなんて皆無なのよね。
外に働きにも行けないし、合コンもない。
ましてやドラマのように、街で通りすがりに出会って恋に落ちる、とか、絶対あり得ない。
夜会はあるから、他のご令嬢たちはそういうところで顔を売り込むみたいだけど、今の私では偏見が先に立って、いい相手なんて来てくれそうもない。
実際、いろんな噂が立っている娘なんて、嫁にもらってくれるところはないみたい。
嫁に欲しいと言ってくれる方は、一癖も二癖もあるような人たちで・・・。
だんだん、両親の顔に疲れが見えてきたころ、私は以前から思っていた、貴族ではなく市井に行ってみたいと伝えた。
そう、リルマーヤの記憶があるとはいえ、私自身はやっぱり庶民の考え方なのよね。
初めは取り合ってくれなかったけど、あまりにも良縁がないことや、私の気持ちもわかってくれて、お父様が一人の男性を決めた。
「リルマーヤ、お前の嫁ぎ先はヴォルグ家の三男のコーリヒト君に決めたよ。」
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