4. コーリヒトの嫁対策会議
誤字の訂正と行間の修正をしました。
俺はこの町、フィアンティの町長を務めている。
町の規模は人口4千人位で、村かな?と思えるほどの小さな町だ。
町人たちは、のんびりしていて、犯罪なんてほとんどなくて、町の半分位の人たちが農業に関わっているような田舎町だけど、俺はこの町の人たちも町自体も誇りに思っている。
こんな若造が町長?と思う人もいるだろうし、親父殿が作ってくれたレールに乗っかっているのはわかっている。
親父殿の息子だからこそ就ける職、地位。
俺は親父殿を尊敬しているし、認めてもらえるよう頑張っている・・・つもりだ。
この町の町長になって3年ほどたつが、まだまだ一人前の仕事はできない。
だから、フェルナンディアスという補佐兼秘書のような存在の男がついていてくれる。
俺より15歳ほど年上だが、頭の切れる頼りがいのある男だ。
信頼しているが容赦もないので、彼には敵わない。
あと、俺は今は一人暮らしだが、家のことをしてくれる使用人の夫婦が敷地内の別棟に住んでいる。
一人暮らしにはかなりでかいこの家のことも、俺の食事も、畑も馬もほとんどすべて、この夫婦に頼り切っているという俺にはありがたい人たちだ。
夫のウェインは無口だが、仕事ができる。
こっちが何も言わなくてもいろいろと察してくれて、とても助かっている。
妻のロッテは肝っ玉母さんという言葉をそのまま体現したような人で、ウェインの分までしゃべっている。
二人は、まぁよく見かけるおしどり夫婦そのものだ。
この3人には今回の件について先に話をしておいた方がいいと思い、伝えることにした。
町長といっても、役所に行くのは週に2日であとは家で仕事をするので、昼食を4人でとっているときに話題にした。
「先日、親父殿に呼ばれて行ってきたときのことなんだけど・・・。」
「ついに、結婚の話でも出ました?」
「え、フェルナン、親父殿から聞いたのか?」
「いえ、考えてみただけです。
ヴォルグ様から急な呼び出しがあっても、私は行かなくてよいとのことでしたので仕事の話ではない、そして帰ってきてからのコーリヒト様の様子から推測してみました。」
「そんなに、俺はわかりやすい様子だったかな?」
「あはは、帰ってきた次の日のご様子は傍から見ている分にはとても面白かったですよ。
机に座っても仕事はせず、ため息を連発したかと思えばいきなりニヤニヤして鼻の下をのばして、かと思えば眉間にしわを寄せ考えこみ、そして突然机に突っ伏してみたり。
これは、コーリヒト様の考えをはるかに超える何かを言われたのだと思いまして、そのような結論に至ったわけですが、当たりましたか。」
えー、俺、そんなことしていたの!
恥ずかしい・・・無自覚だ。
「うぐっ。お察しのとおりです・・・。」
「まあー、おめでとうございます!」
ロッテの明るい声が部屋に響いた。
「もちろん、コーリヒト様はその話、受けるんでしょ?
これからその女性と親交を深めていくんだね。
あー、いいんですよ、私たちに気を使わなくても!
今後の休日はその方と一緒に楽しく過ごしてくださいな。
先に言ってくれれば、夕ご飯は用意しないから。
良い方だといいですねぇ。
ねぇウェイン、あなたもそう思うでしょ?」
「うむ。」
「相手の方は、どの町の方ですか?
商家のお嬢様ですか?それとも農家の元締めのお嬢様とか?」
フェルナンが探りを入れてくる。
「そうだねぇ、農家の出なら畑を手伝ってくれるのに説明もいらないから即戦力になるし、そのほうが私はいいわねぇ。」
話がどんどん膨らんでいってるんだけど・・・。
すごく、すごーく言い出しづらいんだけど・・・。
俺はみんなの顔を見るのが怖くて、顔を両手で隠しながら答えた。
「あのー、相手の女性は、コンヴィスカント子爵のご令嬢だそうで・・・。」
「「「はー???」」」
そうだよね、そういう反応だよね。
指の隙間から3人の様子を覗き見る。
っていうか、ウェインも反応しているのにはびっくりした。
何事にも動じない男だと思っていたのに。
やっぱりウェインも驚くほどのことだよね。
「どういうことだい!
そんな貴族のご令嬢がここにお嫁に来たってしょうがないじゃあないか。
私は認めないよ!」
いや~、ロッテが認めなくてもほぼ確定事項のようなんだけど。
俺は怒られてはいないんだけど、なんかそんな気持ちになってしまい、両手を膝の上に置き下を向いた。
そんなに言わないでくれよぉ、俺だってまだ頭がついていかない状態なんだから。
「コーリヒト様はそのご令嬢と会ったことはあるのですか?」
「え? 多分ないと思うけど・・・。」
フェルナンの質問に、項垂れた頭を上げてフェルナンの方を向いて答えた。
「では、コーリヒト様に一目惚れして、この人と結婚したい~、ってことでもないんですね。」
「それはあり得ない!
ないない! 絶対ないよ! 会ったことがあるとしても俺に一目惚れなんて・・・、トリス兄様ならわかるけど、俺にはないよ。」
「そんなに言わなくても。
コーリヒト様もぱっと見、カッコいいんですから、自信をもってください。」
フェルナン、一言多いんだよ、褒めているのかそうじゃないのかわからないぜ。
そう言いながらもあーでもない、こーでもないとフェルナンはいろいろ考えてくれているが、こればっかりは考えてもわからない。
「今月末に顔合わせの場を持ってくれるようなんだけど、その時にお話してくれるって子爵様から言われたらしいからちゃんと聞いてくるよ。」
「ということは、そのご令嬢がコーリヒト様の奥様になるということで、お話が進んでいるのですね。」
「そうだね。親父殿には、俺達には拒否権はないって言われたよ。」
「「「あー・・・」」」
「ご愁傷様です。」
3人の声が重なり、フェルナンが代表して3人の気持ちを言葉にした。
いけにえになった気持ち・・・。
「もう食べ終えたかね。
片づけるよ。」
ロッテはまだ納得がいっていない様子だ。
声のトーンが怖い・・・。
負担をかけるのはロッテだから、本当は一番わかってもらいたいんだけど。
「これからみんなには、いろいろ迷惑かけたりお願いしたりすることが多くなるけど、よろしく頼みます。」
俺は申し訳ない気持ちになり、3人に言葉をかけた。
「コーリヒト様、本来はおめでたいお祝い事なんですから、そんなこと心配なさらなくてもいいんですよ。
養う方が増えるのですから、張り切って仕事、仕事!」
フェルナンは、苦笑いしながらも優しい言葉をかけてくれたが、内容は現実的なんだよな・・・。
ウェインがお皿を片付けながら俺に言ってきた。
「コーリヒト様、ロッテはあんな風に言っていますが、あいつも思うところがあるようでして。
今はちょっと想像と違って混乱してるだけですから。」
「ウェイン、ありがとうな。
ロッテの性格はわかっているから。
ただ、一番世話になると思うから機嫌は直して欲しいかな。」
「・・・奥様になるご令嬢次第だと思いますが。」
だよね~。ウェイン、正論をありがとう。
そういうところ、好きだぜ。
ウェイン夫婦には息子が二人いるけど、今は二人とも別の町でそれぞれ家庭をもって生活しているから、俺が一番近い息子っぽい存在になっているようで。
そんな俺の嫁と、仲良く嫁、姑の関係を築くのが願いだったらしい。
そのように思ってくれるのは俺もすごく嬉しいから、期待に添いたいなと思ってしまう。
ウェイン夫婦が部屋から出て行った後、フェルナンが俺に声をかけてきた。
「コーリヒト様、やはり貴族から庶民に下るのは生半可な気持ちでは来ないと思いますよ。
ましてやあのコンヴィスカント子爵がお許しになったのですから、それ相当の事情があるのでしょう。
コーリヒト様がそのご令嬢をお守りしなくてはいけませんよ。」
「えっ、俺が、彼女を、守る・・・。」
フェルナンに言われるまで気がつかなかった。
面倒なことに巻き込まれるのはなぜこの俺なんだと、被害者になった気持ちだった。
そうだよな、(多分)相当の覚悟で俺の嫁に来るんだ。
俺が守ってやらなくて、誰が守るんだってことだよ。
「フェルナン、ありがとう。
俺、自分のことしか考えていなかった。
彼女を守れるように、いい男になるよ!」
「あ、そこは『男』ではなく『夫』ですね。」
うっ、決め台詞を添削された。
まぁ、そんな3人だけど、話をしてよかった。
この俺に結婚の話なんて、どーすればいいのか頭が爆発しそうだったけど、みんなそれぞれだけど考えて?くれているようで。
今は、みんなの気持ちがうれしいぜ。
とりあえず、顔合わせは乗り切れそう・・・かな。
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