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つまり、俺が彼女の夫でして  作者: 森都 めい
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43. 希望と共に

お話の場面は少し遡り、リルマーヤとヒューイテッドが顔を合わせたところからの、コーリヒト視点です。

一番長いお話になってしまいましたが、一気にお読みいただけると嬉しいです。



「妻が何か、粗相を致しましたか!」



俺は思わず立ち上がって声をかけた。

今、お互いの名前を呼び合ったよな。

なぜかアイツはマーヤを知っていて、なぜかマーヤもアイツを知っているってことだ。

それも、名前で呼ぶような仲!


そのあとの俺は、一応話は聞いていたが右から左に流れていくばかりで、頭に何も入ってこなかった。

騎士団の三人が帰った後、俺とフェルナンは仕事部屋へ行った。


「フェルナンも聞いただろう? あの男がマーヤの名前を言っているのを。」

「はい、聞きました。 そして、リルマーヤ様もその男性の名前を呼んでいましたね。」

「・・・二人で考えてもしょうがない、マーヤを呼ぼう。」


フェルナンは二階から、一階にいるマーヤに声をかけた。

部屋に入ってきたマーヤは、いつもとは違う俺たちの気配に気が付いたようだ。


「マーヤ、さっきの男は誰だ!」

「コーリヒト様、言葉にお気をつけください。」

「! ふぅー、すまない。

・・・声をかけていた男性は知り合いのようだったが。」

俺は気が立っているせいか、言葉がきつくなった。

フェルナンに言ってもらわなければ、あのままひどい言葉をマーヤに向けていただろう。

もっと、気持ちを落ち着かせなければ。


マーヤは、少し間を取り、何かを決心したように顔を上げて答えた。


「あの副隊長様、ヒューイテッド・スノアール伯爵様は・・・私の前の婚約者です。」


「こ・・・・」

俺は言葉が続かず、口に手を当てて絶句した。


固まっている俺に代わって、フェルナンが後をつないだ。

「伯爵様は、リルマーヤ様がここにいることをご存じなのですか?」

「多分、ご存じなかったと思います。

すごく驚いた顔をしていらっしゃいましたから。」

「伯爵様との婚約は、正式に解消されているのですか?」

「父からはそのように聞いています。

私が病で眠っていた間に取り交わされたことなので・・・そのようだ、としか言えませんが。」

「リルマーヤ様と伯爵様は、その、親しくされていたのですか?」


フェルナンは、ちらりと俺の方を見た。

俺は多分、ひどい顔をしている。


「いえ、最初の顔合わせの時と、あと一、二回ほど会いましたが、どちらも家族と一緒でした。

当時は私もまだ貴族学校に通っていて学生の身分でしたので、二人で会うことを控えたのではないでしょうか。

本人にちゃんと聞いたわけではありませんが。

ですから実は、婚約者と言っても伯爵様のことはほとんど知らないのです。」


マーヤは、今日アイツに会うまでは、本当に思い出していなかったみたいだ。

俺も思い出した、最初の顔合わせの時、子爵から婚約者がいたと聞いた気がする。

その時は誰もそのことについて気にしている様子はなかったから俺も忘れていたが、なんてことだ、そうなると、今日二人が顔を合わせてしまったことが本当に悔やまれる。


「失礼なことを申しますが、ご了承ください。

スノアール伯爵と言えば、北のフィンルーデン領を任されている力のある貴族。

コンヴィスカント子爵は、非はないけれど目立った徳もあまりない、よく言えば堅実な貴族。

その伯爵が、よく子爵家との婚約を結ぶとおっしゃいましたね。」

「確か・・・ヒューイテッド様のご希望だったと父が話していたような。

ヒューイテッド様は次男でしたので、父親の伯爵様は渋々お許しになったと言っていたかしら。」

「自分で望んだ婚約なのに、解消と決まったらあっさり受け入れてそのまま終わり。

それも何か変な気もしますが。」

「それもそうですね・・・。」


二人は変だな、といって考え込んでしまった。

もう! 何が変なんだよ、俺にもわかるように説明してくれよ!


「ここで考えてもしょうがないですね。

リルマーヤ様、お時間を取らせてしまい、すみませんでした。

ありがとうございました。」

「いえ、私のことで心配かけてしまい、こちらこそすみません。

フェルナン、あの、リヒトのこと、よろしくお願いしますね。」

「はは、承知しておりますよ。」


俺は蚊帳の外で、二人で話が成り立っている。

マーヤが部屋を出て行った後、フェルナンは俺に言った。


「明日、動きがあるかもしれませんね。」




◇◆◇




次の日の朝。


「やはり届きましたね。」


いつもの時間より早く来ていたフェルナンが、封筒を一枚持って二階に上がってきた。

「コーリヒト様、中をお確かめください。」


そう言ってフェルナンは俺に封筒を渡してくれた。

封筒には、仰々しい印で封蝋してあった。

中の手紙を読んで、俺は破り捨てようかと思った。


「破いてはいけませんよ。」

フェルナンが俺を止めた。

ぐぬぬ、なんでこの男は俺のやることをわかっているんだろう。


「手紙にはなんとありますか?」

「今日の午後二の刻に、マーヤと会って話がしたいので、ここに来ると・・・。」

「やはり・・・」

「絶対ダメだろう!」

「コーリヒト様・・・手紙にはリルマーヤ様と会いたいと書いてあるのでしょう。

伯爵のご希望とあれば、私たちにそれを拒否する権限はありません。

とはいえ、リルマーヤ様に聞いてみましょう。

いいですか、リルマーヤ様のおっしゃる通りにさせてあげてください。

お願いします。」


フェルナンはなぜか、これから起こることも、話すこともわかっているみたいだった。

そして俺の返事も待たずに、マーヤを呼んで手紙が来たことと、内容を伝えた。


マーヤは、俯いて少し考えた後、こう言った。


「伯爵様とお会いします。」

「マーヤ!」

「その方がいいと思うの。」

「マーヤはそいつと会いたいのか?」

「・・・そういう意味ではなくて・・・リヒト、お願いします。」

「でも!」

「リヒト、私を信じてください。」

「コーリヒト様、私からもお願いします。」

「ぐぐ・・・わかったよ、わかりましたよ!」

「ありがとう、リヒト。」


ずるいよ、マーヤ。 そんな風に言われるともう何も言えないじゃん。


「では、伯爵様が来た時の段取りを決めておきましょう。」

フェルナンはそう言って、迎えるのは俺たち二人で、応接間に通し、その間にマーヤがお茶を用意してそのまま話をすることになった。

ウェイン達にも伝えて、少し手伝ってもらうことにした。


「フェルナンにこういうことをお願いするのは申し訳ないのですが、私と伯爵様が話をしている間、部屋の入り口にいてくれませんか?」

「そうですね、その方がいいですね。 私が入り口にいましょう。」

「ありがとうございます。」


「ねえ、俺はいなくちゃいけないのか?」

「コーリヒト様はこの家の当主ですからお迎えは必ずしてください。

・・・迎えた後は外に行っても大丈夫でしょう。

用事があるとか何か理由をつけて、送りはできないことを最初にお伝えしておけばいいでしょう。

お見送りは私とリルマーヤ様の二人でしますよ。」


「フェルナン、いろいろ悪いな。 ありがとう。」

「フェルナン、私からも、お礼を・・・ありがとうございます。

それと、やっぱり、リヒトをお願いします。」

「わかっておりますとも!」




そして、ちょうど二の刻になったころ、そいつはのこのこ現れた。


初めてちゃんと見たが、薄い金髪に青い目をした王子様のようなヤツだった。

今日は私服だろう、オシャレなシャツにジャケットをはおり、騎士団の制服とはまた少し違う印象を受ける。

そうだよ! 認めるよ、センスのいい服を着こなして、男の俺から見ても格好いいよ。

雰囲気は少し冷たい感じがするが、多分笑えばいい顔をするだろう。

そして、伯爵だって? 王都騎士団の役職付きだって?



こんなヤツ・・・絶対敵わない!



先ほどの打ち合わせでフェルナンから言われたことをそいつに伝え、応接間に通した。

俺はフェルナンに後を頼み、馬のリアンに乗って町を出た。


町の南側を占める、小麦の金色の草原のような畑の中を駆け抜ける。

顔に当たる風が少し冷たくなってきたが、頭を冷やすにはちょうど良かった。

畑の中のその先に、少し小高くなった林があるので、そこへ行った。

リアンを木に繋いで、開けた草地に仰向けに寝ころんだ。


『あーあ、一昨日まではすごく楽しかったのに・・・どうしてこうなった?』


俺は秋空に浮かぶ雲を眺めた。

のんびりと雲が流れる。

空は平和そうなのに、俺の心は大荒れだった。


マーヤは大丈夫って言ったけど、もし、アイツがやり直そうとか言っちゃったらどうするんだ?

アイツが伯爵の(めい)でマーヤは連れて行くとか言い出したらどうするんだよ。

マーヤにも抗えないことがあるかもしれないのに!


俺はごろんと横向きになった。

土の香りが漂った。

マーヤを守るよって誓ったのに、何もできないじゃん。

あーあ、俺ってこんなに弱いヤツだったのか。

気持ちも弱いし、マーヤも守れない・・・。


あーダメだ!

どんどん気持ちが沈んで這い上がれなくなる!


風呂だ! こういう時は風呂だ、風呂に行こう。

俺は気持ちを奮い立たせ、起き上がってリアンのところに行き、さっき来た道をゆっくりと戻り、町の公衆浴場へ向かった。




風呂の湯につかると、みんなの笑い声が聞こえてくる。


『いーなー、みんなは。 楽しそうで・・・』


俺は世界一不幸な男に思えた。

妻を前の婚約者に取られるなんて、お笑い者だぜ。


お湯で顔をぬぐう。

手をじっと見る・・・しわしわだ。

左の指に光るリングが目に入った。

マーヤがいるってことはわかるんだけどな。

マーヤがどんな気持ちなのかまではわからないんだよな。


『そんなこと、ちゃんと本人に聞けよ』 と、言われたような気がした。


リングの表側を見ると緑の魔石。

緑の魔石の言葉は “希望”・・・大地からの贈り物。


そうだ、俺たちは希望を与えられた。

身分が違っても、時空を超えても、二人で一緒にやっていこうという希望がある!


「そう・・・」

やばっ、また大声で叫ぶところだった!

ここは心の中だけで誓って・・・そうだ、ちゃんと話をしよう。




家に着くと、やっぱりいい香りが漂ってきた。

いつもはホッとするこの香りも、今日は心に痛みを感じる。

とりあえず、マーヤは家にいるようだ。

マーヤに声をかけようかと思ったが、アイツの顔も浮かんできて何も言えなくなり、壁越しに帰ったことだけを伝えた。


夕食は、ここに一緒に住み始めてから初めての、重苦しい雰囲気だった。

マーヤは、俺の様子を感じ取ってか、話しかけてこなかった。

時々目が合うと微笑んでくれるけれど、俺がすぐに目をそらしてしまうから話もできない。


「今日がリヒトとの最後の夕ご飯だよ。ごめんね!」


そう言われたら、俺は暴れてマーヤを連れてどこか遠くへ逃げる自信がある。

何も言われないように、目をそらし続けた。

お風呂の中で誓った俺の覚悟は、すっかり行方不明になってしまった。


『ちゃんと声に出して誓っておけばよかった・・・やっぱり俺、弱いな』


マーヤの美味しいだろうご飯も、あまり味がしなかった。

夕食をとった後は、リアンのところへ逃げ込んだ。

マーヤの顔をちゃんと見られない・・・。


リアンにブラシをかけていく。 入念にかける。

ブラシをかけ終わっても、しばらくその場にいた。


マーヤから、サヨナラなんて言葉は聞きたくないよ!


でも逃げ続けることもできないよな・・・。

そんなことをうじうじと思っていたら、リアンが鼻で俺を押した。

『早くちゃんと話をしてこいよ』って言っているみたいだ。


リアンの鼻先が上を向く。

俺もつられて上を向いた。


「あっ。」


そこには月の女神がいた。

月の光を浴びて、きらきらと輝く女神だった。

俺の声が聞こえたのか、マーヤがこちらを向いたが、逆光で表情まではわからなかった。

どうやらワインを飲んでいるようで、グラスを掲げた。

この機会を失ったら二度とマーヤと話ができないような気がした。

俺はその誘いに乗ることにして、二階のバルコニーへ行った。


「マーヤ、飲んでいるのか?」

「そうよ、リヒトも一緒に飲もうよ。」

「じゃあ、一杯もらおうかな。」


話すきっかけをもらった俺は、マーヤからグラスを渡される。

マーヤがグラスを掲げたので、カチンと当てた。


「今日は月がきれいだね。 明日か明後日ぐらいが満月かな。

月が明るくて、周りの星が見えないね。」


俺は、マーヤがまぶし過ぎて周りが見えなくなっているみたいだ。


「今日は、ありがとう。 伯爵様と話をする時間を許してくれて。」

「いや、話はまとまったのか?」

「え? まとまったのかな? ちゃんと話はできたと思うよ。」


「マーヤは・・・この家を出ていくのか。」


「は?・・・あー、リヒト、全く違うこと考えているでしょ。

勝手に私を追い出さないでよ!」

「え? 伯爵はマーヤを迎えに来たんじゃないのか?」

「そんなことないよ!

伯爵様は、私の今の様子を聞いてきただけよ。

それに、たとえそうだったとしても私はどこにも行かないわ。」

「そうなのか・・・ ははは、そうなんだ、俺はてっきり・・・。」


マーヤが俺の腰に両手を回した。


「リヒト、ごめんなさい。 辛い思いをさせちゃったね。」

「いや、いいんだ・・・マーヤが俺の横にいてくれればそれでいい。」


俺はマーヤを抱きしめた。

あぁ、俺のマーヤ! 月の女神はどこへも行かないらしい。

彼女が隣にいれば俺は強くなれる。


マーヤの頬を両手に包み込みキスをした。

微笑むマーヤは本当にきれいだ。

前髪をかき上げて、マーヤの額にもキスを落とした。


「夜風はもう冷たい。 部屋に入ろう。」

俺が手を出すと、マーヤはぽふっと手を乗せてきた。

マーヤの指に光る緑色の魔石のリング。

大地から俺たちに送られた言葉は “希望”。


希望を手に包み込んで、二人で歩んで行く。




これは、結婚してから妻に恋をした男の話。

これからも俺はマーヤの言葉に一喜一憂しながら彼女を守っていくだろう。

なぜなら、それはつまり、俺が彼女の夫なのだから。



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