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つまり、俺が彼女の夫でして  作者: 森都 めい
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41. 嵐

お話が長くなってしまいました。

最後までお読みいただけると嬉しいです。


「リヒト、今日はどうしても行くの?」

「今日はどうしても行くんだよ。」

「私がこんなに頼んでも?」

「マーヤがどんなに頼んでも、明日嵐が来るから今日中に見廻りに行かないと。」

「でも今日は休みでしょ? この前もそう言って休み返上で仕事に行ったよね。」

「この前はまた別な理由で行かなくちゃいけなかったんだよ。」

「じゃあ、今日はちゃんと働いて、代休をもらうとかどう?」

「“だいきゅう”って何だよ。」

「今日の休みを働く代わりに、別の出勤日を休みにすることよ。」

「今日は突発的なことだから、別の日には休みは取れないよ。」

「そんなブラック企業、辞めれば?」

「はぁ、マーヤしつこいぞ? 休みだろうが、明日の嵐のために今日はどうしても行くんだよ、いい加減俺も怒るよ。」

「・・・リヒトなんか、過労死()()()()!」

マーヤはそう言うと二階に上がって行ってしまった。



「ケンカとは珍しいですね。やっぱり嵐が来ますね。

リルマーヤ様は、あのことはご存じないのでは?」

迎えに来てくれたフェルナンが、俺たちのやり取りを見て言った。

「え? そうか・・・でも売り言葉に買い言葉で、言う機会を逃しちゃってさ。

帰ったらちゃんと言うよ。」

「その方がいいと思いますよ。

先に言っておけば、こんなケンカにはならなかったと思いますけど。

でも少し安心しました。 ケンカもできるようになったんですね。

それではコーリヒト様、準備はいいですか?」

「ケンカぐらい・・・初めてかなぁ、いや、そんなことよりフェルナン、待たせたな、さあ行くか。」


外に出ると、生暖かい風が顔を撫で、嵐の到来を予感させる。

それでもまだ、それほど風も強くないし、雨も降ってはいない。

なるべく早めに今日の見廻りを済ませて帰ってきたいところだ。


「ところで “だいきゅう” とか、リルマーヤ様は言っておられましたが、何ですか?」

「なんでも、休みの今日は出勤にして、代わりに別の出勤日を休みにすることだそうだ。」

「なるほど・・・、そんなことが・・・。

アグラン市ではそのような制度が取り入れられているのでしょうか。

・・・私たちもこれから考慮してみましょう。」


フェルナンは別のところに興味を持ってしまったようだ。

俺は、ウェインには家の窓を外から打ち付けて閉めてもらうことを、ロッテにはマーヤと一緒に午前中に買い出しに行ってもらうことを頼んで、馬に乗って、フェルナンと嵐の前の見廻りに出かけた。




天候は西から崩れることがわかっている。

だから、西にある街と提携して大雨や嵐など、天候が悪くなる時にはアグラン市に連絡が入る。

アグラン市はその連絡が入ると、フォージアグラン領の町々に連絡を入れ対策を行うよう命令を発する。

そしてまた、提携しているフォージアグラン領より東の街に連絡をするのだ。

連絡が入ってから大体二日後に天候が悪くなるので、その前に町の人たちにそのことを伝えたり、様子を見に廻り、川の対策や町の中で危なさそうな物の撤去など、役場の職員が中心になって行う。

もちろん、雨や嵐の進路が少しずれると、対策を準備していてもほとんど被害がなかったりということもあるが、備えていれば安心だ。


今回は少し大きめの嵐が来ると、昨日連絡が入ったので明日、早ければ今日の夜から雨風が強くなるだろう。

俺は今日の休みを返上して急きょ仕事になったのだが、マーヤは休みがなくなってしまうのはおかしいと言い張り、それが今朝の言い合いだ。

でも、嵐も待ってはくれないので、こればかりはしょうがない。

俺だって休みたいのはやまやまだが、町長として町の安全を守ることも大事だと思っている。


嵐の前の準備といっても毎回のことだから、昨日のうちに連絡をしておいたので、今日は特に指示を出さなくてもそれぞれの担当の班が動いてくれているはずだ。

俺たちは川の増水に備えて対策をする班で、町の外れの橋に行くと、もう土嚢を積んだ馬車が着いていた。


「おはよう、遅くなってすまない。

早速取り掛かって、早めに帰るようにしよう。」


俺は土嚢を持ってきてくれた人たちと役場の職員、合わせて10名ほど集まってくれただろうか、その人たちに声をかけて作業を開始した。

みんなで川に沿って歩きながら、必要なところに土嚢を置いていく。

今までもやってきているから、そんなに大変ではないのだが、川の片側が終わったら今度は戻りながら反対側の作業をしなくてはいけないので、少々時間がかかるのだ。

昼休憩をはさみ、午後の二の刻も過ぎた頃、ようやく作業が終わった。


風も朝より強くなり、雲の動きも早く、黒い雲が押し寄せていた。

挨拶もそこそこに、作業隊は解散して、俺はフェルナンと一緒に役場に行った。

別の作業をしてくれていた班の職員は、作業が終わったら役場に終了の報告をすることになっている。

全ての班の報告を確認してから、俺たちも家路についた。


分厚い黒い雲がどんどん押し寄せてきた。

フェルナンと別れた頃に雨が降り出した。

『雨が降る前に作業が終わってよかったな』

俺はそう思いながら家に馬を走らせ、厩へ直行した。

厩の掃除や馬たちのエサは、ウェインがちゃんとやってくれてあった。


「ウェイン、助かるぜ~。

リアンも今日はありがとうな。

これから嵐がやってくる。戸締りするから真っ暗になるけどごめんな。」


俺はリアンに言いながら厩の戸を閉め、風で開かないようにかんぬきを嵌めた。

厩から走って玄関に行き、雨を払ってから中に入った。


「マーヤー、帰ったぞ・・・えっ。」


玄関で少し大きめの声で帰りを知らせたが、ホールの片隅に灯りがあると思ったら、よく見るとそこにマーヤがうずくまっていた。


「どうした、マーヤ!」

俺はマーヤのところに駆け寄り、肩を抱いた。

「ううん、大丈夫だよ。

馬の声が聞こえたから出てきたんだけど、リヒト、全然来ないから・・・。」

「ごめん、厩の戸締りをしていたから。」

「・・・ああ、そうだよね。厩がずぶ濡れになったら困るよね。」

「それより、大丈夫か? 気分でも悪いのか?」

「ある意味、気分が悪いかも・・・。

朝、ケンカしてリヒト、出て行っちゃったから、変なフラグが立ったらどうしようと思ったら、途中から心配になっちゃって・・・。」

「今、雨が降り始めたから、俺は大丈夫だよ。」


嵐対策のために窓を雨戸や木で閉じてしまったので、家の中は真っ暗だった。

この暗さと、強くなり始めた風の音で、心細くなってしまったのかもしれない。

こんなことなら買い物だけじゃなくて、ちゃんとロッテにお願いしておけばよかった。

日ごろ、結構しっかり者のマーヤだから、ちょっと油断してしまった。


「座って落ち着こう。 歩けるか?」

俺はマーヤを支えながらリビングのソファへ行き、マーヤを抱きしめながら座った。

朝の元気な様子とは打って変わって、マーヤもおとなしくされるがままだった。

マーヤは俺にピッタリと寄り添い、俺の体に腕をまわしてじっとしていた。

彼女の温かさが伝わってくるが、俺の温かさも伝わっていると思う。

人の温もりって気持ちを落ち着かせるから、しばらくの間、そのまま座っていた。


「もう大丈夫だよ。リヒトの匂いをいっぱい嗅いだから。」

「? 俺の臭い? あー、ごめん、汗臭かっただろう。

今日、土嚢を運んで積み上げる作業をしたから、汗もかいたし埃だらけだ。すまん。」

「町長さん、そんな作業をしたんだ。

そういう意味じゃないけど、それならお風呂に入ってきなよ。

ちゃんとお湯をためて、ゆっくり入ってきて。」

「マーヤ、本当に大丈夫か?」

「うん、ありがとう、もう大丈夫だよ。

ここにリヒトがいるってわかっているから。」


マーヤがそう言ってくれたので、俺は先にお風呂に入ることにした。

汗と土で、ちょっと気持ちが悪かったからありがたい。

今日の疲れもあったので、ゆっくりと風呂に入らせてもらった。

風呂から出ると、マーヤが夕食の支度をしていた。


「ロッテが、こういう嵐の日は、切って盛り付けるだけのご飯でいい、って言ったから簡単な物しかないけど、夕ご飯にしましょう。」

「俺一人の時は、パンとハムをかじっていたぐらいだから、簡単でも気にしないよ。」


マーヤはそう言いながらも、昼間に作っておいてくれたのだろうか、ジャガイモとキノコのスープもよそってくれた。

まだ寒い時期じゃあないけど、温かいものは嬉しい。

夜とはまた違った暗さの中、強くなってきた雨風の音を聞きながら夕ご飯を食べた。

マーヤが洗い物をしている間、俺はリビングに行ってくつろいでいた。




「リヒト、寝るんだったらお布団で寝なよ。今日は疲れたでしょ。」

マーヤの声で起きた。いつの間にかソファで寝てしまったようだ。

「あ・・・ごめん、寝ちゃったね。」


いつもは少し見下ろす感じで話をするマーヤが、今は俺の顔を上から見下ろしている。

いつもと違う体勢と寝ぼけて夢うつつな気分で、俺は思っていることをそのまま言葉にしていた。


「マーヤ、今日はごめんな。 寂しい思いをさせたな。」

マーヤの顔にかかる髪を、耳にかけてあげた。

髪が少し濡れている。

マーヤもお風呂に入ったみたいだから、俺はしばらく眠っていたようだ。


「こういう日は、本当はマーヤと一緒にいたいけど、でも町長としての仕事も大事なんだ。

だからこれからも俺はマーヤと一緒にいられない時があると思う。

でもいつもお前のことを思っているから安心しろ。」


ソファが沈んだ。

マーヤが膝を乗せてきたのだ。

俺の上に覆いかぶさる。

さっき耳にかけた髪が、はらりと落ちた。

マーヤは泣きそうな顔をした。

泣いちゃうんじゃないか、と思った時、ふっと口元が緩んで微笑んだ。

と思ったら、いきなりキスをしてきた。


『ま、マーヤ、俺、そんなことをされたら・・・

だって、俺はマーヤのことが大好きだから!』


俺はマーヤを離して抱きしめた。

「俺、マーヤが欲しい。」

自分でも驚くぐらい、無意識に言っていた。


マーヤは俺の腕の中で、きゅっと体をこわばらせたが、少し間があった後で小さな声が聞こえた。

「私もリヒトが欲しい。」



俺はマーヤを抱いたまま、がばっと起き上がり、マーヤを立たせて手を取り、灯りを持って部屋を出て無言で階段を上がった。

マーヤの俺の手を握る力が気持ちを逸らせたが、気を落ち着かせて足元を照らしながらゆっくり上がる。


俺の部屋に入り、ベッドにマーヤを座らせる。

灯りをテーブルに置いた。


どこからか流れてくる風に、炎が揺らぐ。

それに合わせてマーヤの影も揺らいだ。


外は壁に風が打ち付け、激しくなってきた雨がごうごうと響いている。

俺の胸の高鳴りも響いていた。

マーヤにも聞こえるんじゃないかと思うぐらいドキドキしていたが、不思議と頭は冷静だった。


マーヤに近づいて、その頬に手を添えた。

それからはあまり覚えていない。



夢見心地な中、マーヤの温もりが愛おしかった。




◇◆◇




次の日の朝。

隣でもぞもぞとしていたマーヤが突然飛び起きた。


「リヒト、真っ暗いけど今は朝?」

「真っ暗いけど多分朝だと思うよ。」

「仕事、遅れちゃうよ。ごめん、寝過ごしたみたい。」

「大丈夫だよ。」

「あれ、今日は家で仕事をする日だっけ?

じゃあ、フェルナンが来ちゃうよ。」

「大丈夫だよ、今日は休みだから。」


「・・・え――! 休みなの?」


「嵐の日とそのあとは休みって決まってるだろ。」

「・・・そんなの初耳だよ・・・。」

「やっぱりマーヤは知らなかったのか。

多分どの町も休みだと思うぞ。」

「・・・え、じゃあ、昨日の私の心配は・・・何?」


「うーん、マーヤの、優しさ?」


「・・・リヒト、口がうまくなったわね。」

「そんなことより・・・マーヤ、体大丈夫?」

「え、う、うん、なんとか大丈夫よ。」

「ごめん・・・ほら、まだ雨も降っているみたいだし、今日はゆっくりしよ!」

「・・・そう、ね。」


そう言ってマーヤは布団の中に潜り込んできた。

俺は “幸せ” を胸に抱いて、二度寝するために目を閉じた。




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