40. ある夜の出来事
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俺は、夜も更けた頃、まだ灯りをともしていた。
なぜかと言うと、フェルナンが、今日中にやっておけっていう宿題とやらをやっているからだ!
何が悲しくて、この歳になっても宿題をやらなくちゃいけないんだ・・・。
と思っていると、シーンと静まり返る中に、物音が一つ。
かたん・・・すー・・・すー・・・すー・・・
マーヤかな?
俺は書き物の手を止めてドアに行き、開けて廊下に向かって声をかけた。
「マーヤか? どうしたんだ?・・・!!!!! わー!!!」
「え、何? 何?」
「来るなー。ダメだー。」
「えー、やだー、やめてー。」
来るなと言っているのにマーヤがこっちに向かってきた。
「ダメだー。」
「ヤダヤダ、イヤー。」
結局マーヤは俺の胸に飛び込んできたので、俺は受け止めた。
駄目だ、全然会話が成り立っていない・・・。
「ね、アレがいたのね、そうでしょ、あの “ゴ” がつく生き物がいたのね!」
「は? “ゴ” がつく生き物?・・・あー、ゴキ・・・」
「言わんでいいがな!」
マーヤは俺の口に手を当てて、言葉を遮ったが・・・。
マーヤの口から・・・がなって・・・がなって・・・なんだよぉ~!
彼女の言葉遣いが壊れていく・・・
「やっぱりアイツがいたのね。
くー、油断していたわ、実家ではほとんど見なかったしここでは三回くらい見かけたけど全部ウェインにやっつけてもらったしそれに全部一階で見かけたから二階にはいないと思っていたのに~ホンっとイヤなヤツ!
ねぇ、リヒト、やっつけて、お願いやっつけて!
アイツがいると思うと寝られないよぉ!」
す、すげー、マーヤがこんなに話すのを聞いたのは二回目だ。
“ゴ” のつく生き物がどんなに嫌いなのか、早口で訴えてきた。
マーヤがどんどん壊れていきそうだから、アイツを見たら絶対駆除しよう。
「いや、アイツはいないから大丈夫だ。 とりあえず、落ち着け?」
「え、いないの? ホント? ホントだね? それならよかったけど・・・。
って、じゃあリヒトは何に対して来るなって言ったの?」
「え?! まぁその~・・・というか、マーヤのその恰好はなんだ!」
まさか、マーヤに向かって来るな!と言っていた、とは言えず、質問を質問で返してあやふやにしてみる。
「え? これは、パジャマだよ。」
「パジャマ・・・ってなんだ!」
「あー、寝夜着よ。」
マーヤの恰好は、上着は首回りが少し大きく開いているが、リボンが付いていてその下に大きなボタンが三つ。
袖は肘上までだがフリルのようで袖が揺れる。
まぁ、上着はギリギリだけど良いか・・・問題は下だ!
下のパンツは、裾が・・・裾が、腿までしかないのだ! 腿から下は素足が見えているっ!
「寝夜着って・・・誰かに見られたらどうする!」
「寝夜着だから、誰にも見られないんでしょう!」
「は、恥ずかしくないのか?」
「だから、誰にも見られないし!
でも、私としてはこのまま外を歩いても平気だけど。」
「なっ、ダメだ! 絶対ダメだ~!」
「わかってるわよ、そのぐらい私でも。」
前の世界では、これも普通なのか? 常識の差にちょっとついていけない・・・。
「それにしてもその・・・足は・・・。」
「だって、家の中が魔石の空調で温度が保たれているとはいえ、やっぱり夏は暑いでしょ?
だからこの前レイナたちとランチに行ったときに、みんなはどんな寝夜着を着ているのかを聞いたら、買いに行こうってことになって、これを勧められたの。
涼しくていいよ~! いいお買い物だったわ。」
「だからって、その下は・・・俺のぱんつみたいじゃん・・・。」
「あ、リヒトもそう思う?
私もそう思ったんだよね、だけど履いたらぶかぶかだったから!」
え、なんとおっしゃいました?
マーヤ、俺のぱんつも考えたの? ってか試したのかい!
「マーヤー、そんなことレイナたちには言ってないよな。」
一応確認のために聞いたのだが・・・。
「え?! い、言ってないよ、私は言ってない、けど・・・。」
う、嘘だろ、今の言い方だと、マーヤは言ってないけど、ばれたって感じだな。
「は――、そういうことは言わないのっ!」
「・・・ごめんなさい、次からは気をつけます・・・。」
次なんてなくていいんだっ!
俺はどっと疲れが出て、のどが渇いてしまった。
「ちょっと、水を飲んでくる・・・。」
「あーそうだ! 私ものどが渇いたからお水を飲みに行こうと思っていたんだ。
すっかり忘れていた!」
「・・・じゃあ、一緒に行くか・・・。」
俺たちは階下へ降りて、台所で水を汲み、リビングで座りながら飲んだ。
く、苦しい・・・あ、暑い・・・。
そう思って気が付くとリビングにいた・・・。
あれ、なんで・・・あーそうだ、水をマーヤと飲んでいて・・・って!
が――!
苦しいと思ったら、マーヤが俺を敷布団代わりにして俺の上で寝ていた・・・。
二人で寝ちゃったんだ・・・確かに水だったよな・・・うん、水だった。
とりあえず、ギューッとしておくか!
俺はこんな状況はそうそうないと思い、マーヤをぎゅっとした。
うーん、程よい抱き心地・・・いかんいかん。
それにしても、いつも思うがマーヤって寝つきがいいよな。
今も全然起きないし!
・・・しょうがない、ベッドまで運ぶか。
俺は起きないマーヤを抱いて、二階のベッドまで運ぶことにした。
彼女を抱くと両手がふさがってしまうから、灯りは消した。
勝手知ったる我が家だし、幸い今日は月明りもある。
暗闇に目が慣れたので、マーヤを抱こうと膝裏に腕を当てたが・・・!
もー、だから素足は出すなって言ったのに。
寝ているマーヤを横抱きにすると、俺の腕を膝裏に当てなくてはいけないが、素肌同士が触れ合ってしまう。
がんばれ! 俺の理性!
俺はなるべく考えないようにしながら、暗闇の階段に集中した。
階段を上がっている間もマーヤは全然起きる気配がしなかった。
『全く、この状況なのにしっかり寝てるよな。 安心しきってるし・・・』
マーヤの部屋に入ってベッドを見ると、掛け布団がめくれていた。
寝ていたところを起きだして、水を飲みに行こうと思ったんだな、ちょうどいい。
ベッドにマーヤを寝かせて、布団をかけた。
ふぅー、なんか、違うことに疲れた・・・。
ふわぁーあ、欠伸が出た、俺も早く寝ようっと。
◇◆◇
目を開けると、明るかった。
俺は仰向けになって伸びをした。
うーん、なんか、気持ちの良い夢だったな・・・柔らかいものに包まれたような、いや包んだような・・・?
あれ、俺の部屋、天井はこんなだったかな・・・。
はっ、人の気配がする!
そう思って横を向くと、そこには、肩ひじを立てて頭を支えて横たわっている、いかにも作り笑いをしたマーヤがいた・・・。
「あれ? ど、どうしてマーヤがここに・・・?」
「おはよう、コーリヒト君、それは私のセリフ、ここは私のベッドですけど。」
「えっ、あれ? その、あの、この、どの・・・?」
「どの?・・・ぷぅーっ、リヒト、動揺しすぎ!
あははは。
私も昨日の夜のことはリビングから記憶がなくて、大方、リビングで寝ちゃった私をここまで運んできてくれたけど、リヒトもここで力尽きたって、察しは付くよ!」
そ、そうか。
早くベッドで寝ようと思ったけど、そのままこのベッドに入っちゃったんだ!
ということは、俺、マーヤと一緒に寝たの? 一つの布団で?
あ――、俺としたことがっ! めっちゃもったいないことしたっ!
「俺、何もしなかった・・・か?」
「え? 覚えてないの?」
「え?! ごめん、お、覚えていなくて・・・。」
「ふふふ、何もなかったわよ、抱きしめられたこと以外は!」
ぐぬぬ、やっぱり抱きしめたのか・・・だからあんな夢を見たんだ。
俺は、抱きしめた恥ずかしさと、何もなかったという自分のヘタレさにいたたまれなくなり、布団を頭からかぶった。
「ごめん、マーヤ・・・。
俺、朝のランニングに行ってくる・・・。」
そのままマーヤの方を見ずにベッドから抜け出して部屋を出ようとした。
「リヒト、待って!」
呼び止めるマーヤを見ると、マーヤは起きてベッドの上に座っていた。
そして指で唇をトントンと触れた。
マーヤたん、それは!
俺はマーヤのところに戻って、マーヤの唇に軽くキスをした。
「行ってらっしゃい!」
マーヤの送りの言葉を背に受けて歩き出したが、俺は多分、10センチほど空を歩いているだろう。
『今なら、太陽までだって走れるよ!』
そんな気分で家を出た。
ん?・・・なんか忘れている気もするが、いいか!
コーリヒトが忘れていたものは・・・フェルナンディアスからの宿題でした!
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