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つまり、俺が彼女の夫でして  作者: 森都 めい
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39. 虹の向こう

前回のお話の続きです。


「ごちそうさま。 美味しかったな!」

「外で食べると、より美味しく感じちゃうよね!

お腹がいっぱいになったら、ちょっと寝ころびたくなっちゃった。」

「じゃあ、寝ころべよ。

砂地だから背中は痛くないと思うぞ。」

「じゃあ、リヒトも寝ころぶ?」

「う、うん、そうしようかな。」



マーヤは足を伸ばして、ころんと寝ころんだ。

木陰になっているから、寝ころんでもまぶしくないし、そよそよと通る風が気持ち良い。

俺も仰向けになって寝ころんだけど、初めて妻と一緒に横になって寝るのが外で、敷物の上で、とは・・・。

想像していたのと違う・・・。


手元の方で、ばたばたばた、と何か叩く音がした。

手を軽く叩かれた。

あ、握られた!

俺の手を探していたみたいだ。

マーヤの手は温かいな。

ん? この温かさは・・・マーヤ、眠いのか?

と思っているうちに横から『すーすー』という音が聞こえてきた。

早っ! もう寝たのか。 3歳児もびっくりな寝落ちの早さだ。



・・・



はっ、やべっ、俺まで寝てしまった!

またやった~。

確か、フィアンティの家に戻ってくる馬車の中でも一緒に寝ちゃったんだよな。

マーヤの寝息を聞いていると俺も眠たくなっちゃうのかな。

ん? 寝息・・・寝顔?


ね、寝顔!

これは、いまの、うちに、顔を見ておかなければ!


俺はそーっと起き上がり、でも手をつないでいるから非常に難しい態勢なのだが、そこを頑張って起き上がり、マーヤの寝顔を覗く。


ほぅ、か、かわいい・・・。


まつげが長い。かすかに開いた口はつやつやしている。

目を閉じているのにかわいいって、この生き物は何だっ!

ほっぺが少し赤みがかってきれいだ。

さっき、つねった時に思ったけど、ぷにゅぷにゅしていたんだよなぁ・・・。

マーヤが俺に時々してくれる“ほっぺにちゅっ”は、やってもいいのだろうか・・・。

どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう

と、そんなことを逡巡していたら・・・


ばちん、とマーヤの目が開いた。

しばし、マーヤと視線が重なる。


「ま、マーヤ、おはよう。」

「リヒト、何をしているの?」

「え、いや、あはははは・・・。」

笑ってごまかしていると、マーヤの視線が動いた・・・そしてまた目が合った。


「リヒト、あの雲、ヤバくない?」

「ん? 雲?」

マーヤに言われて空を見上げると、真っ黒な雲が押し寄せていた。

「がー、ヤバいヤバい、これは一雨来るぞ。

マーヤ、撤収だ!」


それからの俺たちは早かった。

起き上がって、靴下を履いて、ブーツを履いて、マーヤは敷物を片付ける。

俺はリアンにかけ寄って、バッグからポンチョを出し、リアンの綱をほどいた。

マーヤが片付けた敷物をバッグに仕舞っているところで、ぽつりぽつりと雨が降り出した。


「マーヤ、あの大きな木の下に行くぞ。」

「了解、うわー、もう降ってきたね。」

俺たちはこの辺りで一番大きそうな木の下で雨宿りをするために移動した。

その木の下はほとんど濡れていなかった。

リアンを木の枝に繋ぐ。

この雨ではリアンもどこにも行かないだろう。

俺はポンチョを広げてマーヤを呼んだ。


「マーヤ、ポンチョは一枚しかないから一緒に入ろう。」

「あ、うん。」


マーヤが赤くなっているが、気にしているところではない。

恥ずかしさより雨に濡れない方が重要だ。

木の根元がちょうどよい具合にくぼんでいる。

俺はそこに、マーヤを包み込みながら一緒に座った。

マーヤとの密着度がスゴい・・・というか抱きしめているからしょうがないか。

雨が本格的に降ってきた。


「木の下って、結構雨を遮ってくれるんだね。」

「ああ、騎士学校の時、野外活動で雨が降ると、木の下の争奪戦だったよ。

大きい木の方がより雨に濡れないから、遅れるとスカスカの木の下になってしまってずぶ濡れになったからな。」

「ふふふ、でもこんなに濡れないのなら、争奪戦もわかるわ。」

「ごめんな、今日、雨が降るとは思わなかったから。」

「リヒトのせいじゃあないし!

それに通り雨でしょ? ちょっと待てば雨も上がるよ。」


山の天気は変わりやすいから、雨もちょっとは気にしていたが、途中からすっかり忘れていた。

もう少し気が付くのが遅かったら二人とも濡れてしまったな。

でもそれほど強い雨ではないから、これなら大丈夫だろう。

少し遠くで雷が鳴ってるようだから、この辺りは雨雲の端の方かもしれない。

さっきまで穏やかだった川の音が、ごうごうと響き始めた。

それに対して、雨が木々の葉に落ちる音は優しい。

そんな中、俺は今まで気になっていたことをマーヤに聞いてみることにした。



「マーヤは、前の世界の記憶を持っているって言っただろ?

前の世界とこの世界のことについて、どう受け止めているんだ?」


俺は、マーヤから聞いただけだから『そういうものがあるのか』ぐらいにしか思ってなくて、あまり真剣に考えたことはないが、それが当事者だったらどう解釈しているのか、マーヤはどう考えているのか、聞いてみたいと思っていた。


「そうね・・・。

リヒトは“パラレルワールド”ってわかる?」

「ぱられど・・・? 何だ?それは。 わからない。」

「えーと、これは実際にそうだということではなくて、想像の、考え方の問題なんだけど、私たちのいる世界は、時空を超えていろいろな世界が存在していて、そしてそれらの世界は同じ時を流れているって考えなんだけど。」

「うーん、難しいな。

そんなこと考えたことがないよ。」

「何となくわかってくれればいいよ。

その中で、私は向こうの世界からこっちの世界へ魂だけ飛ばされた、と私は思っているの。」


この世界だけがすべてではなく、いろんな世界があるのか・・・。

でも、そう思わなければマーヤが言う前の世界の存在がなくなってしまう。

マーヤがすごいのか、マーヤのいた世界の人たちがすごいのか、想像力が逞しいな。


「マーヤがいた前の世界っていうのは、どんなところだったんだ?」

「私がいたところは、魔法も魔石も魔法陣も、不思議なことは何もない、本当に普通の世界だったよ。

だからかな、人々が便利に暮らせるようにしようと、いろんな人たちがいろんな不思議を実現しようと考え、現実にしていったわ。

馬車よりも早く走る乗り物とか、鉄の塊が空を飛んで人や物を運ぶとか。」

「うーん、あまり想像できないけど、マーヤもそれに乗ったことがあるのか?」

「馬車よりも早く走るのは自動車って言うんだけど、私がいた国ではそれはほとんどの人たちが乗ったことがあるんじゃあないかな。

空を飛ぶ鉄の塊は飛行機って言うんだけど、それもお金を払えば誰でも乗れるし、私も旅行の時に乗ったことがあるよ。

なぜこんなものが空を飛ぶのか全然わからなかったけどね、ふふふ。」

「空を飛ぶものに、誰でも乗れるのか?

それはすごいな。」


なんか、想像が追い付かなくて受け答えがうまくできない。

とりあえずスゴい、ということしかわからないぞ。


「でも、前の世界も今のこの世界も、同じココにあると思うの。

だって、太陽だって月だって同じように一つずつあるし、星はきれいだし、木も山も大地も人も動物もみんな同じなんだもん。」

握っていたマーヤの手がきゅっと強く握られた。

「ごめん、なんか、いろいろ思い出させちゃったな。」

「ううん、大丈夫。 今はリヒトがそばにいてくれるから。」


マーヤ・・・。


「あぁ、そうだよ、俺はマーヤとずっと一緒にいるから。

俺がお前をちゃんと見ているから、安心しろ。」


マーヤから二つの世界のことを聞かされたとき、さらっと言っていたようだったけど、やっぱりいろんなことを考えていたんだな。

自分を納得させるためには、正解かどうかよりも自分の存在を確かめる何かが必要なんだ。

それを自分の中でこなしていたんだな、マーヤは!



雲の切れ間から太陽の光が差してきた。

雨が上がっていく。

空を見ると、黒い雲が遠ざかり、青空が見え始めていた。



「雨が上がったかな。 ぼちぼち帰るか。」

「そうだね。 もう一回、川の方を見てきてもいい?」

「ああ、いいよ、川の水が増しているから気を付けて。」


マーヤが川の方へ歩いて行った。

俺はポンチョを片付けて、リオンの様子をうかがっていた。


「リヒトー、来て来てー、すごいよー。」

マーヤがはしゃいでいる。

大声で叫んでいるから、俺も川の方へ歩いて行った。


「どうした? 何かあったのか?」

「ほら、きれいだよー。

見て、虹が出てる!」

言われてマーヤがさした方向を見ると大きな虹がかかっていた。


「おお、虹かぁ、久しぶりに見たな。」

「ねぇ、虹の向こう側には何があると思う?」

「え? 虹の、向こう側?」

「そうよ。 いつか一緒に見に行きたいね! リヒト!」


俺は、少し前を歩くマーヤの手を取り、引き寄せて抱きしめた。

「ど、どうしたの? リヒト?」


虹の向こう側に何かがあるなんて考えるのは、この世界ではマーヤしかいないよ!

向こう側も同じ景色があるんじゃあないのか?

でもマーヤがそう言うのなら、虹の向こう側には違う景色があるのかもしれない。


「俺もマーヤと一緒に向こう側の世界を見てみたい。」


俺は抱きしめていたマーヤから少し体を放し、彼女の顔を見た。

マーヤの橙黄色の瞳に俺が映っている。

その頬に手を添える。


「マーヤ、好きだよ。」


橙黄色の瞳が閉じていく。

俺は、マーヤの唇に重ねた。

背中に何かが走った気がした。

マーヤを抱きしめる。

彼女も俺を抱きしめた。


マーヤを愛おしいという気持ちが俺の体中から湧き出て、あふれ出ていく・・・。


俺はもう一度マーヤの顔を見る。

視線が重なり合う。

瞳が潤んで、すごくきれいだ。

マーヤの唇を指でなぞる。


その唇が動いた・・・

「リヒト、好きだよ。」



それが合図のように、俺はもう一度マーヤとキスをした。


そう、虹の色が空に溶けて見えなくなるまで・・・。



やっと、二人の気持ちを伝えあいました。



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