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つまり、俺が彼女の夫でして  作者: 森都 めい
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36. マーヤのお願い

サブタイトルに“マーヤ”とありますが、いつものようにコーリヒト視点です。


「コンコン、ねえリヒト、今ちょっといいかな。

お願いがあるんだけど・・・。」



今日は午後から仕事が休みで、俺は仕事部屋で親父殿への手紙を書いていた。

部屋のドアは開いているから、マーヤが言った『コンコン』は、ノックの振りだな。

言葉で音を言うとかわいいなぁ。

それにしても・・・


つ、ついに来た~。

忘れそうになるが、マーヤは貴族のご令嬢なのだ。

いつかは来ると思っていたが、来てしまった!この日が・・・。

お嬢様と言ったらおねだりだろう。


ドレスが欲しいって?

いやいや、マーヤ、ドレスは着ていくところがないだろう。

そんなものを着ていたら、ロッテに笑われてしまうぞ。

宝石だって?

それこそ、つけていくところがないだろう。

あのウェインだって一言、言わずにいられないぞ。

ちゃんとダメだって言おう。

何か違うものをだな、えーと、何がいいのかな。

まぁその時考えればいいか。


ということを頭の中で20秒以内でまとめて、俺はいかにも区切りがついた、という風に装って顔を上げた。


「どうしたんだい?マーヤ。」

「ふふふ、忙しいところごめんね。

欲しいものがあって、えっと、リヒトなら作れそうかな、って思って。」

「ん? 作る? 何を?」


マーヤは言いながら部屋に入ってきて、俺の机のところまできた。

俺はドレスは作れないぞ。


「えーとねぇ、木の棒なんだけど、腕の手首から肘までぐらいだから、長さは30センチぐらいかな、太さはペンの太さぐらいだけど先端に向かって細くしてほしいの。

それを二本で一対。

できれば三対ぐらい欲しいな。」

「そんなもの、何に使うんだい?」

「料理に使うの。

“菜箸”って言って、料理の時の食材を混ぜたりつかんだりするの。

便利だから、あればいいなと思って。

急いでないから、リヒトが暇なときに作ってくれればいいんだけど、どうかな。」

「そんな棒でつかんだりできるのか?

刺したりするんなら想像がつくけど。」

「まぁ刺したりもできるけど、お箸ではあまりしないなぁ。」

「ふーん、まぁ聞いたところ作れそうだから、ウェインに材料をもらって作ってみるよ。」


後日、ウェインのところに行って材料となる木があるかどうか聞いてみると、クルミの木の端材があると言ったので、それを適当に切り分けておいてもらった。

長さをそろえて、一本ずつ削って太さを調整していく。

先端になるほど細く、だったよな、でもとがらせなくてもいいと。


削り終えたら、今度はやすりをかけていく。

このやすりっていうのが、やればやるほど滑らかになっていくのだ。

以前は、やすりをかけ過ぎて、穴があいてしまったことがあった。

何事もやり過ぎはよくないってことだな。


木を削って整えて作るって作業は、結構好きなのだ。

集中して無心になれるし、ただの木材がだんだん形になっていくっていう工程も楽しい。


マーヤに頼まれてから出来上がるまでに二週間ほど時間がかかってしまったが、彼女に見せると喜んでくれた。


「すごいわっ!リヒト、完璧!想像以上の出来栄え!

これで料理がもっと楽しくなるよ。ありがとう。」

お褒めの言葉と満面の笑みを頂いた。


どうやって使うのか聞いてみると、夕ご飯の時に使い方を見せてくれた。

二本の棒は“おはし”というらしいが、それを使って上手に食べ物をつかんだり、炒めるときに使ったりしていた。

俺も使い方を練習してみた。

最初は手がおかしくなりそうだった。

変な方向へ指がねじれるんじゃあないかと思ったほどだ。

力の入れ過ぎで親指の付け根が痛くなってしまったが、すぐに慣れた。

慣れると、なるほど、これ一つでいろいろできるから便利かもしれない。


そのうちロッテもお箸に興味を示し、俺はもう三対、作らされることになった。



◇◆◇



「ねえリヒト、お願いがあるんだけど、今いいかな。」



やっぱり来た~。

お箸じゃあ物足りなかったですよね。

今度こそドレスですか、マーヤさん。

でも、ちゃんとノーと言おう。

俺はノーと言える旦那なのだ。


休みの日に、仕事部屋の棚を片付けていた俺は、マーヤに声をかけられて振り向いた。

内心焦っているとは思われないように・・・。


「何のお願いかな。」

「ふふふ、えーとねぇ、今度はちょっと大きいものだから紙に書いてきたんだけど、こういうものを作って欲しくて。」


なぜ、毎回少し笑われるのかな?・・・覚られてる?・・・いやいや思い過ごしだ。

そして今回もまた作るものか、よかった~。

大きいものって何だろう。


マーヤが仕事机のところまで歩いてきたので、俺もそこまで行きマーヤと対面する。

マーヤは書いてきたという紙を見せながら説明してくれた。


「こういうものなんだけど、縦が30センチくらい、横が50センチくらいの枠で、縦の枠と平行に大体10センチ間隔で四本くらい棒が渡してあって。

この枠をつるせるようにひもを付けて、そのひもの先にはひっかけられるようにフックを付けてくれるとありがたいんだけど。」

「何に使うものなの?また料理?」

「これは料理じゃなくて。

この棒のところに洗濯ばさみをたくさん付けて、洗濯ものをつるすのよ。

風に吹かれるように、ひもは細い綱のようなものの方がいいかな。

ちょっと強さがあるひもを付けて欲しいな。」


「どんなものを干すの?」

「えーと、リヒトのパンツとか、それからリヒトのパンツとか、やっぱりリヒトのパンツとか?」

「俺のパンツしかないんかい!」

「あはは、ごめん、いいつっこみだよ!上手くなってきたね!!

えーと、靴下とか、ハンカチとか、リヒトのパンツとか?」

「やっぱり俺のパンツなの?」


マーヤは楽しそうに笑っている。

最近、こうやって俺をからかうことが多くなってきた、気がする。

・・・おかしい。

俺の方が年上なんだけどっ!


「了解。今度はちょっと大変そうだから時間がかかるぞ。」

「うん、急いでないから大丈夫。出来上がりを楽しみに待ってるよ。

お願いしま~す。」



またウェインに相談したら、材料になる木を見繕ってくれた。

マーヤが書いた紙を見せながら、どうやって作ろうかウェインと話していたら、多分またロッテも欲しがるだろうからと、ウェインも一緒に同じものを作ることにした。

ウェインと一緒に何かを作るって今まであまりなかったな。

二人で相談しながら作っていくのは楽しかった。

マーヤに頼まれてから一か月後ぐらいに出来上がった。


マーヤに見せると手を叩いて、それは喜んでくれた。

作った方も嬉しくなるぜ。


「ちょっと、リヒト。」


マーヤが言うので、何か良くないところでもあったのかと思い「何?なんか不具合?」と言いながらマーヤに顔を近づけた。


『ちゅっ』


マーヤが俺の頬に口づけをくれた。

あー、顔が火照る~。

マーヤを見ると、マーヤも赤くなって笑っていた。


「いつもありがとうね!」


こういうご褒美は、大、大歓迎です!



◇◆◇



仕事部屋の窓から外を眺めていた。


先日作った、洗濯物を干す木枠が風にゆらゆらと吹かれている。

俺のパンツも干してあるけど、マーヤのパンツも干してあるじゃん。

そんなことを思いながら、休日の朝にまったりとしていたらマーヤがやってきた。



「ねえリヒト、お願いがあるんだけど、いいかな。」



またお願いか。

今度は大丈夫。

わかってるよ、マーヤ!


「いいよ、次は何を作って欲しいんだい?」

「え?! いいの? リヒト、洋服も作れるの?」

「え? 洋服って何?」

「あのね、今度レイナたちとランチに行くから、その時着ていく服を欲しいな~なんて思って。

でもいいのね? 言質取ったよ、やった!」


あれ? 何が起こった?


最初に『いいよ』って言っちゃったから、いいのか?

マーヤに服を買ってあげるのはいいんだけど、何か、だまされた感があるんだけど・・・。


いや、別に誰もだましていない。

むむ? それともマーヤの策略か?


いやいや、多分俺の早とちりか・・・。



俺は、その日の午後、マーヤの服を買いに一緒に出掛けたのであった。

まぁ、マーヤが喜んでくれればいいかな。


俺も甘いな・・・。



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