33. トリスタン・ヴォルグ その1
今回のお話は、コーリヒトのすぐ上の兄、トリスタン視点です。
(コーリヒトは男3人兄弟です。トリスタンは次男になります。)
「この町に来るのもちょっと久しぶりだなぁ。」
今日は弟のコーリの様子を見に、俺は愛馬とともにフィアンティの町へとやって来た。
仕事のことで時々フェルナンに呼ばれてこの町には来ていたが、今回はというと、親父殿に泣きつかれたからだ。
親父殿曰く、お嬢様のことをコーリに丸投げしてしまったから様子を見てこい、とのことだった。
まったくよ~、そんなに心配なら自分で行けばいいのに。
そう言ったら、『俺は仕事があるから・・・』とか言っちゃって。
俺も仕事はあるっつーの。
ま、俺もコーリのことは心配だったから近々見に行こうとは思っていたからいいんだけど。
とりあえず、フェルナンからもウェイン達からも何もないってことは、うまくやっているんだろう。
だからこうやって、暢気に町でもぶらぶらした後でコーリのところに行く予定だ。
俺は町の中心地に向かい、馬預り所に寄った。
「こんちわ~、ハント、ひっさしぶり~。」
「これは、トリスタン様。 お元気そうで何よりです。
いつもごひいきにありがとうございます。」
「うん、ハントも元気そうだね、よかったよ。
また、いつものように馬をお願いね。
三時間ぐらいかな、町を見てくるからよろしく~。」
「かしこまりました。 お気をつけていってらっしゃいませ。」
町の様子を見るには、歩く速度が合っている。
馬の早さでは見逃すことも、歩けばいろいろなことに気が付くのだ。
町も活気があっていいね。
でも・・・前から歩いてくるご夫婦かな、手をつないでいる。
まぁ、ちょっとお年だから、気を付けて。
手をつなぐこともあるよね。
あれ、この店、新しくできたのかな。
紅茶を売っていて、うーん、中でも飲むことができるのか。
この町もちょっとずつ、オシャレになってきているじゃないか!
おお、このカップルも手をつないでいる。
俺の勘違い?前は全然気にならなかったことが、今日はやたらと目につくな。
俺は町や人々の様子を伺いながら、のんびりと歩いた。
んん、通りに看板が出ている・・・石加工のプロセットさんのお店だな。
俺は近づいて看板を見た・・・何々・・・
『あなたも魔石のアクセサリーはリングにしませんか!フィアンティの町長ご夫妻監修、当店オリジナルリングであなたの魔力も魅力も上がります!』
す、すげー看板だな。
プロセットさん、オシオシの文句だぜ。
っていうか“町長ご夫妻監修”ってコーリ達、何やってるんだ?
俺は気になって、店に入った。
「こんにちは~、プロセットさんはいますか?」
「はい~、今すぐ。
おぉ、これはトリスタン様ではありませんか、いらっしゃいませ。
今日は町のご視察ですか? ご息災のようで何よりですな。」
「プロセットさんもお元気そうで。」
「あぁ! あの看板をご覧になりましたね。
コーリヒトご夫妻には当店で魔石のアクセサリーを作っていただきました。」
「そのようだね。」
「もうコーリヒト様には会われましたか?」
「いや、先ほど着いたばかりで、町の様子を見てからコーリヒトの家には行こうと思っているから、まだ会っていないんだ。」
「それならぜひ、コーリヒト様に会われましたらリングを見せてもらってください。
本当に素晴らしいですから!
こちらが当店オリジナルのリングになりますが・・・」
と言って話し出したら止まらない。
商品説明やら、どれほどプロセットさんがこのリングに惚れ込んだかなど、延々と話を聞かされた。
「じゃ、じゃあ、また寄らせてもらうよ・・・。」
「次はトリスタン様の、魔石のアクセサリーですかな。
皆様によろしくお伝えください~。」
やっとプロセットさんから解放された・・・。
忘れていた・・・彼の商人魂は燃え滾っていることを!
凄かったな・・・これからは絶対!彼には気を付けよう。
俺はそう誓って、そろそろお昼に近い頃だと思い、エヴァンの店に向かった。
「こんにちは~、食べに来たよ~。」
「あら~、トリスタン様、これは珍しいですね、いらっしゃいませ。
お久しぶりですね、今日はこちらでお仕事ですか。
いつものカウンターでよろしいですか? それと、いつものシチューですね。」
このお店は夫のエヴァンと妻のサラの夫婦が営んでいる。
以前からの馴染のお店で、ここのシチューが今まで食べたどのシチューより一番だ。
多分コーリもそう思っているだろう。
この町に来ると必ずと言っていいほどこのお店に寄るから、サラは俺の好みをよく知っている。
「ああ、カウンターがいいな、今日もいろいろ話を聞きたい。
この町に来たら、この店のシチューを食べないと始まらないよ!
あと、レモン水もお願いするよ。
仕事っていうか、ほら、コーリ、結婚したけどどうかなって様子見だよ。」
まだお昼前なので、お客さんはほとんどいなかった。
今日は平日だから、きっとお昼の後が混むのだろう。
でも、あのプロセットさんの話が5分の1ぐらいで済めばもっと早く来れたのにな。
「コーリヒト様のご結婚、おめでとうございます。
多分、町のみんな、嬉しいですわ。
コーリヒト様ご夫婦もこちらに足を運んでいただいたんですけど、とても可愛らしい奥様で、お二人仲が良くて!」
「ふーん、じゃあ俺が心配することもないんだな。
二人に会うのが楽しみだよ。 この後、コーリ達に会うんだ。」
サラが、フォーク・スプーンと、頼んだレモン水を持ってきてくれた。
一口、レモン水を飲んでから、俺は気になっていたことを聞いてみた。
「この町を歩いてきたんだけど、手をつないでいる人がちらほら見えて、俺の勘違いかもしれないけど・・・多くない? 手をつないで歩いている人たち。」
「ああ、それはコーリヒト様ご夫婦の影響ですかね。」
「コーリ達の??」
「ええ、あのお二人、出かけるときは必ずと言っていいほど手をつないでいらっしゃいますから、おほほ。」
「えーーーーー。」
がたんと、椅子が大きな音を立てた。
俺は驚いて、思わず立ち上がってしまったのだ。
今、人生で一番驚いた瞬間かもしれない・・・。
「ごめん、ごめん、大きな音を立てて。 かなりびっくりしたから。
あの、コーリが、女性と手をつないで歩く?
あり得ない!」
そんな・・・そんなの俺の知っているコーリじゃない!
コーリは女性と話すことすらできなさそうな、かわいい弟なんだ。
女性と手をつなぐなんて・・・俺のコーリはどこへ行ってしまったんだ~!
「手をつないで歩くお姿は不思議と自然で、そのお二人のご様子がほんとに微笑ましくて。
皆さんもそう思うから、自然と手をつないで歩くようになってるんじゃあないかしらねぇ。」
そうなんだ・・・。
さっきまで、コーリに会うのが楽しみだったのに、今はちょっと怖い。
どうしよう、俺の知らないコーリになっていたら!
お兄ちゃんは生きていけない・・・。
「あら、トリスタン様、お顔がへこんでいらっしゃいますよ。
何か、考え違いをしておりませんかねぇ。
ほら、シチューができましたよ。 どうぞお召し上がりください。」
俺はシチューを頂いて、落ち込んだ気分を上げた。
美味しいシチューの味が心にしみた。
サラに心配されながら店を後にした。
さっきまでのテンションがだだ下がりだ。
のそのそと馬預り所に行き、そこからは馬に乗ってコーリの家に行ったがすぐ着いてしまった。
歩いても行ける距離だから、そりゃすぐに着くだろう。
敷地に入ると、ウェインが出迎えてくれた。
「トリスタン様、お久しぶりでございます。
お変わりないようで何よりです。 道中お疲れ様でした。」
「ウェイン、君も元気そうだね。 みんなはいるかい?」
「はい、トリスタン様をお待ちかねでございます。
馬をお預かりいたします。」
馬をウェインにお願いして、俺は玄関に向かった。
ドアを開けると、話し声が聞こえてきたが、声をかける前に一呼吸したい。
コーリに会うのにこんなに緊張するとは・・・おかしい・・・。
玄関ホールの片隅に、一輪の黄色い花と額が置かれている小さなテーブルにふと気が付いた。
よく見ると額の中には絵が飾られていて、コーリとリルちゃんの二人の顔を描いたものだった。
そこには、ちょっと照れた感じの笑顔の二人がいた。
コーリ、いつの間にこんな絵を描いてもらったんだ?!
でも、たったこれだけのことだけど、この家の温かみが感じられる。
さっきまでコーリに会うのが怖かったのに、今は早く会いたい気持ちになった。
俺も現金だな。
「こんにちは~、着いたよ~、トリスタンだ~。」
声を張り上げて着いたことを知らせると、『あー』という声とドタドタという音がして、リビングからコーリとフェルナンが出てきた。
「兄様、いらっしゃい!お待ちしていました!
先日の祝いの宴ではありがとうございました。」
「コーリ、久しぶり!今日は厄介になるよ。
みんな、元気そうでよかった。」
「トリスタン様もお変わりなさそうで。 良くお越しいただきました。」
「フェルナンは久しぶりだな。
今回は仕事の話というよりは、コーリの様子を見に来ただけだ。
でも、あとでいろいろ話をしよう。」
二人と挨拶を交わしていると、今度はリルちゃんとロッテがリビングから出てきた。
「トリスタンお兄様、お待ちしていました。
先日はありがとうございました。
今日はゆっくりなさってくださいね。」
「トリスタン様、お久しゅうございます。」
「二人とも相変わらず綺麗だね! 今日はよろしく頼むよ。」
「トリスタン様、褒めてもいつものものしか出てきませんからね。」
ロッテは今日も絶好調だな。
ここに来るといつも思うけど、ほっとする。
そして今日は、リルちゃんもいるせいか、いつもより輪をかけて家庭的な雰囲気がするな。
「兄様、挨拶もこのぐらいにして、さぁ入ってください。
二階に上がってもらってもいいですか? 後でまた移動するのも面倒なんで。
マーヤ、二階にお茶を頼むよ。」
「すぐに持っていくわね。」
俺たち三人は、二階の仕事部屋へ上がった。
へ~、コーリ、『お茶を頼むよ』なんて主人らしいこと言ってるじゃん!
二人の仲もよさそうで、ひとまず安心かな。
仕事部屋のソファに座って雑談していると、リルちゃんがお茶を持ってきてくれた。
手際よくお茶を出してくれる。
お茶なんて、やってもらう立場だっただろうに、相当練習したのだろうか。
「リルちゃん、こっちの生活には慣れてきた?」
「はい、皆さんとてもよくしてくださるので、不自由なく過ごさせていただいています。」
「コーリはどう? いじめられてない?」
「兄様!」
リルちゃんは、ちらりとコーリを見て、笑顔で答えた。
「いろいろと助けていただいています。
リヒト様は、頼れる旦那様です。」
おぉ、惚気られちゃったよ。
コーリはすでに顔、真っ赤だし。
「それはよかった。 親父殿にもそう伝えておくよ。」
「ふふふ、ではごゆっくり。
台所にいますから、何かあれば呼んでください。」
リルちゃんはそう言って、階段を下りて行った。
コーリよりリルちゃんの方が一枚上手だな。
早くも尻に敷かれていそうだよ。
コーリ、頑張れよ! お兄ちゃんは、応援しているぞ。
それからは、三人で結局仕事の話をした。(俺たちって真面目だなぁ)
そしていつものように、コーリと二人で公衆浴場へ行った。
危惧することなんて何もなかったな。
コーリは前と同じ、俺の弟のコーリだ!
次回もトリスタンのお話になります。
よろしくお願いします。
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