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つまり、俺が彼女の夫でして  作者: 森都 めい
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32. 事故との遭遇 その2

前回の続きで、後編です。


警ら隊と別れた後、ロバのエルノが肉屋の前にいたので近づいていくと、肉屋のガルボと雑貨屋のセイテがやってきた。



「町長、奥方が心配で来たんですか?」

「いや、その、事故だって聞いたから荷物も大変かと思って様子を見に来ただけだ。」

ガルボは俺の顔を見ながらニヤニヤしている・・・なんで、みんなそう思うんだ・・・?


「がはは、まあそういうことにしておきましょう。

って、奥方、すごかったぞ~。」

「そうそう、あれは俺も惚れちゃいますよ。」

「な、何があった? とりあえず惚れるのはだめだ。」

「ぐふふ、冗談ですよ~。」


「事故が起きる前、この店先でロバの荷台に買ってくれた肉を積むのを手伝ってたんだよ。

そしたら、がっしゃーんって、それはもうすごい音がして、二人でびっくりしたぜ。」

「そうそう、すごい音でしたよ。

俺も店にいたけど、音がものすごくてね。

店から飛び出してみたけど、音の割には被害はあまりなかった気がしましたがね。」


「それでも馬車の荷台の積荷は散らばっているし、人も馬車から落ちているようだし、みんな『やっちまったな』とは思ったけど、どうしていいかわからなかったよな。」

「ええ、俺も外に出てみたはいいけれど、見ているだけでどうしていいかわかりませんでしたもん。」

「それから、奥方が俺の顔をキッと見たから、俺はどうしようもないなって肩をすくめたんだけどさ、そしたらな、つかつかと道の真ん中に出て行ってさ。」

「そうですよ、それから大声で『私は町長の妻のリルマーヤ・ヴォルグです。事故が起きてけが人もいるようです。皆さんのご協力が必要です。』とか言い始めて、それはもう見惚れるくらいの勇姿でしたよ。」

「俺も、そう言われて、あ、手伝わなくちゃって思ってな、奥方のそばに寄っていくとみんなも気が付いたように近づいてきて、それから奥方が、警ら隊を呼ぶ人たちとか、医者を呼んでくる人たちとかみんなに役割を言ってな。

俺たちも何をするかわからないだけで、別に手伝わないってわけじゃあないから、ああやって役割を言ってくれると動きやすいよな。」


事故について興奮冷めやらぬ様子で話すオヤジ二人にはちょっと驚いたが、マーヤがそんなことをしていたなんて、そっちも驚きだ。


「いや~、さすが町長の奥様だと思いましたね。

きれいな顔をしてるけど、決めるところはビシッと決めますわ。

これでは町長も尻に敷かれますな、ぐふふ。」

な、なんてことを言うか!というか、尻に敷かれそうなのは俺もちょっと思っているんだけどさ。



なんてことを話しているうちに事故の片づけが大方終わりになってきた。

けが人が運ばれて、別の馬車に乗せられていた。

その様子を見ていると、今度は医者が近づいてきた。


「町長、お疲れ様です。

怪我をされた方の傷口の処置は奥様がされたと聞きまして一言お礼を。

素晴らしいです!

擦り傷の傷口にあった砂が取り除かれていて、きれいになっておりました。

骨が折れているかもしれないから動かさない方がいいというご判断も全くその通りでございます。

今回けがをされた方は幸い骨は折れていないようでしたので大丈夫かと。

あの様子なら治りも早いでしょう。

私はこれで失礼いたしますが、奥様には町長からも、私がこう申していたとお伝えください。

町長はよいご縁がありましたな。」


そう言うだけ言って、医者は帰っていった。

マーヤの株も上がったが、俺の株も上がっちゃった感じだな。



医者と話しているうちに片づけが全て終わり、事故にあった馬車が走り出し、警ら隊もこれで事故処理は終わると告げて戻っていった。



「じゃあ、世話になったな。」

俺は肉屋のガルボに声をかけて、ロバのエルノの綱を引いて、片づけをしていた人たちと声を交わしていたマーヤのもとに行った。


「マーヤ、お疲れ様。 大変だったな、帰れるか?」

「リヒト、来てくれてありがとう。 うん、帰ろう。」

俺はもう片方の手を出し、マーヤの手を取って歩き出した。



帰り路、マーヤは疲れているだろうと思い、特に話もせず、とぼとぼと手を引きながら歩いた。

家までの一本道に差し掛かったところで、俺は手を引っ張られた。

マーヤが立ち止まったのだ。


「どうした、マーヤ。 どこか痛いところでもあるのか?」

うつむくマーヤに声を掛けると、マーヤは近づいてきて俺の肩に額を当てて寄りかかってきた。


「ど、どうした・・・」

「疲れた・・・怖かったよ・・・。」


あー、だめじゃん、俺!

マーヤを心配して行ったのに、全然マーヤのこと労えて無いじゃん!


『エルノ、どこかへ行くなよ』と思いながら俺はエルノの綱を離して、マーヤの背中をさすった。


「そうだよな、ただの買い物で出かけたのに、いきなり事故を目の前にして。

片づけまで手伝ってさ。

肉屋と雑貨屋のオヤジたちが褒めていたぞ。

マーヤ、率先して事故の片づけをしたって。」

「・・・私だって事故なんて目の前で見ることなんて今までなかったけど、みんな驚いてオロオロしていたからどうしようと思って。

けが人もいたし・・・。

ごめんね、町長って名前を出しちゃったけど、その方がみんな協力してくれそうだと思ったから。」

そう言うと、マーヤは俺の腰に手を回してきた。


なるほど、何もないマーヤがみんなに協力してくれと言っても『なぜこの人が?』って思われるのを気にして、わざわざ町長の妻と名乗ったんだ。

俺はマーヤをぎゅっと抱きしめた。


「そういうことならいくらでも俺の名前を使っていいさ。

マーヤ、ありがとうな、大変だったな。」

「うん、でもリヒトが分かってくれればそれでいいの。

ほっとしたらお腹がすいちゃった。」

マーヤの笑顔を見たら俺もほっとした。


「ロッテがお昼ご飯を用意してくれているよ。

さあ、帰ろう。」


エルノを探そうと思ったが、すぐそばで道端の草をむしゃむしゃ食べていた。

綱を取ると『やっと話が終わったか』みたいな顔をされた、気がした・・・なんでコイツは俺に対してこんなに偉そうなんだ?



「そういえば、うちに来た男性は何を言いに来たんだ?

マーヤは事故にあっていなかったのに・・・。」

「え? 話を聞いてないの?」

「え?! あ、事故って聞いたからさ・・・。」

「あの人には、事故の片づけをしたあとに帰るから、お昼ご飯は先に食べていてって伝言を頼んだの。

遅くなるから心配するだろうと思って。」

「そーーーだったのか・・・。」

そういえば走り出したとき、待って~とか、まだ話が~、みたいなことを言われたような気がする。

「ふふふ、リヒト、私が事故にあったと思って、走って駆け付けてくれたのね。

ありがとう。」

「いや、でもマーヤが事故にあっていなくてよかったよ。」

心底そう思ったし、そうだな、マーヤが俺のことをわかってくれていればそれでいいな。



俺はマーヤと一緒に帰れる喜びを胸に、家まであと少しの道を足取りも軽く二人と一頭で歩いた。



読んでくださり、ありがとうございます。

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