30. 一世一代 コーリヒトのけじめ
マーヤも(俺も)涙が引いたところで、もう一つ違和感というか不思議に思っていることを聞いてみた。
マーヤって俺のイメージする貴族とかお嬢様って感じがしないんだよな。
「マーヤは、前にいた世界でも貴族だったのか?」
「ほえっ? あー、違うよっていうか、私が生きていた時代にはもう身分制度のようなものはなかったの。
一般的にはみんな平等という考え方だったわ。」
「そんな世界もあるのか・・・。
じゃあ、どちらかと言えば俺たちと同じような生活だった?」
「そうね、基本的には。
私も普通の会社に入って働いて、親元を離れて一人暮らしをしていて、だから掃除・洗濯・炊事とかも一応やっていたし。」
「マーヤ、働いていたのか?! てか、一人で暮らしていたのか!
そうだったのか・・・。
お嬢様にしては手際が良すぎると思ったんだ。
数か月教えてもらっただけで、こんな風にできるものなのかとちょっと不思議に思っていたんだけど、これで納得がいったよ。」
「でも料理は得意ではなくて、一通りはできる程度だからあまり期待しないでよ。
おまけに掃除もあまり好きじゃないし、洗濯は洗濯機がやってくれていたから自分で洗うってことはなかったし、やっぱりここでの生活は大変だわ。
綺麗だったリルマーヤの手も少し荒れてきてしまったし・・・。」
マーヤは自分の手を見てそう言った。
確かにお嬢様の手ではなくなってきているのかもしれない。
「これで、料理は得意じゃないの?
すごくおいしいから、何も文句はないよ。
でも、もしかして、ここでの生活をちょっと後悔しているのか?」
「えっ? あっ、ごめんなさい、そういう意味ではないの。
貴族として暮らしていたところで、私は何もすることがなかったわ。
少しくらい苦労があってもこうやってリヒトと笑っていられる方がいいと思ってるよ。」
そう言ってマーヤは微笑んだ。
そんなふうに思ってくれているんだ!
マーヤにはこれ以上の苦労は掛けないと誓おう。
「そうだな、俺もマーヤとこうやっていつまでも笑いあっていたいよ。
さて、少しは落ち着いた?
そろそろリングをつけてみたいんだけどな~。」
「うん、ありがとう。 そうね、指輪の交換をしましょう。」
「指輪の交換?」
「ええ、前の世界では、結婚式でリングをお互い嵌めあって、結婚をしている証に左手の薬指にリングを嵌めるの。
だからリングにこだわったの。
結婚したら、やっぱり左手の薬指に指輪をつけてみたいじゃない!」
すごく力説している・・・そういうものなのか。
こっちの世界とでは、リングをつける意味は少し違うけど、マーヤが嬉しそうだからいいや。
そういえば、俺、マーヤにちゃんと言ってなかったな。
俺も、人生で一度きり、男としてけじめをつけなくちゃいけないな。
今の俺の気持ちを伝えよう。
恥ずかしいけれど、ここはちゃんとしますか!
えーと、この前観た演劇のようにやってみればいいんだよね。
先日両家族で一緒に観に行った演劇の中で、騎士が求婚していたんだよな。
その時は結婚の申し込みだったけど、俺たちはもう結婚しているから求婚は変だな、ちょっと言い方を変えてみるか・・・。
俺はソファから立ち上がって、以前披露した剣舞の時に使った剣を一本、壁から手に取った。
マーヤはそんな俺を見て気が付いたようだ。
口に手を当てて驚いている。
その演劇はマーヤも一緒に観たし、貴族なら剣を持つことの意味は分かるだろう。
俺は騎士ではないけれど、でも騎士学校に通った者としてその剣の精神は受け継いでいる。
嘘偽りのない俺の気持ちをマーヤにわかってもらいたい。
「マーヤ、立ってこの少し広いところに来て。」
テーブルと暖炉の間のところまでマーヤを誘った。
俺はマーヤと向き合い、剣を横にして柄を右手で持ち、左手は剣の刃に添えた。
「コーリヒト・ヴォルグは、この剣と共にリルマーヤ・ヴォルグを生涯守ると誓う。」
それから、しゃがんで片方の膝を床につけて立ち膝をして、左手に剣を持ち、右手をマーヤに差し出して、顔を上げてマーヤの目を見た。
「リルマーヤ・ヴォルグ様、私、コーリヒト・ヴォルグの妻になってください。」
「・・・いきなり・・・やだ、心の準備が・・・そ、そうね、ふぅー・・・・・。
よしっ。
リルマーヤ・ヴォルグは、大地と共にコーリヒト・ヴォルグを生涯支えると誓います。
こんな私ですが、いつもあなたのお側に寄り添いさせてください。」
そしてマーヤは俺の手を両手で包み込んでくれた。
おっしゃー、俺は天にも昇る気持ちだったけど、それを抑えてゆっくりと立ち上がった。
そしてリング・・・あ、テーブルに置きっぱなしだった。
詰めが甘いのはご愛嬌、テーブルのそばまでマーヤにも歩いてもらって、剣をテーブルに置き、リングの箱を取った。
箱を開けると輝くリングが二つ。
えーっと嵌めあうって言ったよね、俺は、マーヤのサイズのリングを持った。
マーヤが左手の薬指を差し出したので、俺はマーヤの手を取って指をなでた、細くてきれいな手だな。
違う違う、見とれている場合ではない。
俺はゆっくりとマーヤの指にリングを嵌めた。
「ありがとう。」
マーヤが小声で言った。
そして今度はマーヤが俺のリングを箱から取り出して。
俺はマーヤに左手の薬指を出すと、マーヤが俺の指にリングを嵌めた。
「ありがとう。」
うん、お礼を言いたくなる気持ちがよくわかるよ。
お互いの指にリングが光る。
「「あっ!」」
お互いの声が重なった。
「マーヤも今、感じたか?
何かが体の中を駆け巡るっていうか、そういう感じ!」
「うん、うん、感じた! すごいわ~。これが魔石の力?」
「そうだな、魔力が体中に行き渡ったって気がする。」
ホント、すごいや! 魔力って確かに体の中にあるんだな。
それに、魔石のアクセサリーという同じものを身に付けるというだけのことなんだけど、二人がつながった感じがした。
いや、気がするだけではなく、実際繋がっているのかも・・・。
以前よりマーヤを身近に感じる・・・。
「なんとなくっていう感じなんだけど、リヒトの存在を感じられるような・・・。」
「マーヤもそう思うんだ!
俺もなんとなくだけど、マーヤの“気”のようなものを感じるよ。」
もともと、一つの魔石だったものだ、それぞれが引き合うのかもしれない。
マーヤも同じ気持ちなのだろう。
俺たちは顔を見合わせた。
笑顔だったけど、マーヤの目にはまた涙がにじんでいた。
俺はマーヤを引き寄せて軽く抱きしめた。
「今日はよく泣きますね。」
「こういう日もあります。」
マーヤの背中をぽんぽんと軽く叩いて、涙が引くのを待った。
それからマーヤの顔を見た。
マーヤも俺の顔を見る。
・・・綺麗だ。
涙は引いたけど、マーヤの瞳が潤んでいる。
その瞳が閉じる・・・。
どうしようかと思ったけど、髪をかき上げてマーヤのきれいな額に口づけた。
俺は顔が真っ赤だ、多分。
目を開いたマーヤは一瞬眉をひそめた。
あれ? 俺、間違った?
「もう、リヒトのペースだね、しょうがないなぁ、付き合いますよ。」
とよくわからないことを言った。
「あ、ちょっと耳を貸してくれる?」
マーヤがそういうので、こんな二人しかいない家でひそひそ話?と思ったが、少しかがんで耳をマーヤの顔に近づける。
マーヤは俺の耳・・・を通り越したと思ったら、頬に柔らかいモノが押し付けられて『ちゅっ』と音がした。
それからマーヤは俺の背中に手を回してぎゅっと抱きしめてくれた。
マーヤから、頬に口づけをもらったとわかるまで三秒くらいかかった。
俺は幸せでこのまま天に召されるんじゃあないかと思った。
いや、ここでは死ねん!
俺はしばしの間、俺もマーヤをぎゅーっと抱きしめて、この幸せな気持ちの中に身を委ねた。
コーリヒトのペースはのろのろです。
この物語も30話まで来ました。
残りあと3分の1くらいとなりました。
最後までお付き合いしていただけるようよろしくお願いします。
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