29. リルマーヤの秘密
前回の続きのお話です。
考えながらもマーヤが話し始めたことは、まず以前にコンヴィスカント子爵が話してくれた、マーヤの病気の時の話だった。
子爵が話してくれたことが周りから見たマーヤの様子だったのに対し、彼女自身に起こったことの話のようだけど、その内容は俺の想像をはるかに超える話だった。
マーヤはこことは違う別の世界に生きていたこと、そして多分死んでしまったこと、それからなぜかこの世界へ飛ばされリルマーヤ令嬢の体に入ったこと。
それぞれの記憶を見たから、言葉も理解できるしリルマーヤ令嬢のことも記憶がはっきりしている年齢、四歳ごろからはわかるから生活には何も問題はないこと・・・。
そんな話をしてくれたが、信じるか信じないかと言えばとても信じられるような話ではなかった。
でも真面目に、記憶をたどりながら話しているようなマーヤを見ると、彼女に起きた本当のことなのではないか、と思ってしまう。
今は二人の意識が存在しているのかと聞くと、リルマーヤ令嬢は消えてしまったという。
それはつまり、そういうことであり、それは子爵ご夫妻には伝えたのかと聞くと、そんなことは言えないとマーヤは言った。
「リルマーヤ様の記憶もあるし、彼女の体だからしみついた彼女の性格もあるんだけど、でも私の意識も強いから性格も少し変わってしまっていると思う。
自分の子供のことだから、両親は何か違うと感づいているかもしれないけれど、今までと同じように私に接してくれているしすごく愛情を感じるわ。
私は、二人のリルマーヤでありたいと思っています。」
マーヤの話は、突拍子もない話だし、にわかには信じがたいことだけど、何となく今までのマーヤを思い出すとしっくりする感じがした。
「じゃあ、もしかしてマーヤが作ってくれた料理で、俺が貴族の料理だと思っていたものは別の世界の料理もあったのか?」
「あー、それは・・・、そうだね~。」
俺を見ていたマーヤの目が、逸らされる。
「え?! その半分くらいは向こうの料理なの?」
「貴族の料理と言っていたもののうち、五割?六割?・・・七割くらいは別の世界の料理かな~あはは。」
マーヤさん! そうだよな~、おかしいと思っていたんだ。
貴族と庶民の違いはあっても、あんなにおいしい料理ならもっと広まっていいと思うんだよ。
マヨネーズとケチャップは絶対別の世界の食べ物だな。
美味しいからいいんだけどさ・・・何か、だまされた感がぬぐえない・・・。
あ、じゃああの時のこともそうかな。
「この前、リビングで箒に向かって早口で歌いながら踊っていたのも、向こうの歌と踊りなのか?」
「え?! な、なんで踊っていたのを知っているの?」
慌て始めたマーヤの顔がちょっと険しくなった。
「え? だってマーヤが・・・」
「あの時は確か・・・そう、フェルナンと一緒に話しながら厩の方に行ったじゃない。
それから誰も見なかったし、ロッテ達もその日は他に用事があるからっていなかったから私一人だと思っていたのに・・・なんでリヒトが家にいたのよっ!」
「えー、そう言われても・・・あー、あの日は急に役場に行かなくちゃならなくて、でもフェルナン一人でできるからって役場の方の仕事はお願いしたんだ。
だけど俺は話したいことがあったし、フェルナンは早く行きたいし、って、ぎりぎりまで話をしながらフェルナンを見送ったんだな。
そー言えば、二階の部屋に戻るときマーヤを見かけなかったな。」
「・・・あの時は、えーと、私は二人を見送った後、地下の冷蔵室に行ったような・・・。」
「じゃあ、その間に俺は部屋に戻って、おとなしく仕事をしていたんだ。
で、そのあとのどが渇いたからお茶でも貰おうと思って降りてきたら、リビングから声がするから覗いてみたら、その、ははは、マーヤが箒に向かって歌っていて・・・。」
「あー、もう見られていたなんて、不覚だわっ。
そういう時は声を掛けてよ、ってとても声を掛けられる状態じゃないか・・・。
前の世界の人たちの名誉にかけて言っておくけど、みんな箒に向かって歌ってるわけじゃあないのよ。
その~、箒を持ったらなんかこうマイクに似ていたしこっちに来てからカラオケなんてないし最近歌なんて歌ってないなって思ったし押しのアイドルの歌を思い出したところに掃除はあまり好きじゃないからちょっと面倒になってきて誰もいないよな~って思ったら歌いたくなっちゃったのよ!
もう、誰にも言わないでおいてねっ!!」
早口で喋りまくるマーヤの説明は、半分以上はわからなかったが、とりあえずうなずいておいた。
その時のマーヤが踊っていた様子は、スカートを少しつまんでくるくると回ったり跳ねたりして、動くたびにちらりと見えるきれいな足にくぎ付けになってしまったとは言えまい!
今までのマーヤの様子を思い返してみると、マーヤの話を信じたほうが合点がいく。
だからと言って、これからの二人の生活に変化が起こるとも思えない。
今までどおり、俺はマーヤの言葉に時々 ? が浮かび、俺の斜め遥か上の発想に驚かされ、楽しくておいしい毎日を送れるだろう。
「マーヤの話を信じるよ。
誰にも言えないような話を俺にしてくれてありがとう。
でも、だからと言って何も変わらないよ。
これからもよろしくな、マーヤ。」
「リヒトぉ・・・ありが・・・うぇ~」
マーヤの目からじわじわと涙がにじんできて言葉にならなくなってしまった。
「ど、どうした、マーヤ!」
「ご、ごめ・・・ん・・・」
マーヤの涙は止まらなかったので、どうしようかと思ったが、マーヤを俺の胸に引き寄せ、背中をぽんぽんと叩きながら泣かせてあげた。
少し経ってから俺の胸に顔をうずめながらマーヤが話を始めた。
「今日は朝からこの話をしなくちゃって思っていて、でも話をしたところで・・ぐすっ・・リルマーヤ様じゃない女はいらない、とか、そんな頭がおかしい女とは一緒に住めない、とか言われたらどうしようかと・・ぐすっ・・でもリヒトの言葉を聞いたら嬉しくて気持ちが緩んじゃって・・・自分でもこんなに泣いちゃうなんて思わなくて・・ぐすっ・・」
「もう、ばかだなぁ。 そんなこと言うわけないだろ。」
「でも、私、貴族令嬢ってだけでも面倒なのに、こんな記憶も持っててもっと面倒なヤツだよ・・・。
それでもいいの?」
「俺は前のリルマーヤ様は知らないし、俺が知ってるのは今のマーヤだけだし、そんなマーヤに惹かれているよ。」
「こんな私でも一緒にいてくれるの?
・・・うぅ・・・ぞんなごど、言っでぐれるど、もっど泣いぢゃうじゃん!」
マーヤは言葉にならない言葉を言ってまた泣き始めた。
あー、泣かせるつもりはなかったんだけど!
しばらく経ってようやく泣き止んだマーヤが顔を上げて俺の顔を見た。
「ごめん、めっちゃ泣いちゃった。
でもすっきりした・・・ってなんでリヒトも泣いてるの??」
「俺、ダメなんだよ、人が泣いているところを見ちゃうともらい泣きしちゃうたちでさぁ、もう、見ないでくれよ!」
「リヒトって、ほんっと良いヤツだね~!」
さっきまで泣いていたマーヤが、俺の顔を見て笑いながら俺の胸をこぶしで軽くどんどんと叩きながらそう言った。
“良いヤツ”って・・・マーヤ、お嬢様じゃあなかったのかい!
泣いたり笑ったり忙しいマーヤだが、とりあえずマーヤの悩みがわかり、そして俺の悩みも解決したから、小さいことは気にしない!
これからもマーヤと一緒にいられるってことでよかった!
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