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つまり、俺が彼女の夫でして  作者: 森都 めい
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28. コーリヒトの気持ちはジェットコースター

お読みいただきありがとうございます。



「リヒト~、夕ご飯までまだ時間があるから、お風呂でも行ってくる?」

「え、何か手伝うことないのか?」

「大丈夫よ、あとは焼くだけだから。」

「そうか・・・じゃあ、行ってこようかな。」



大衆浴場は結構好きだから、休みの日はもちろん、時間があれば行く。

今日も行きたいなぁとは思ったが、マーヤが夕ご飯を作ってくれているのに一人で行ってきまーす、とは言えないなと思っていたところにマーヤが気を聞かせてお風呂でも、と言ってくれたので、その言葉に甘えて一人大衆浴場へ来てしまった。


ちゃっちゃと体と髪を洗ってから、お風呂の湯につかり、あれこれと考える。

モヤモヤしているときには、湯に入って考えるのが一番だ。


目をつぶりながら湯につかって、思い悩んでいることを頭の中に思い描く。

悩んでいることは・・・今日のマーヤの態度が気になって仕方がないってこと。

考えれば考えるほど悪い方向に気持ちが沈んでいく・・・。


それから目を開く・・・。

目を開けると集中力がなくなって、今度は周りに気を取られる。


友人と一緒に来て話しながら湯につかる人たち、一人で黙々と体を洗う人、ちょろちょろと流れるお湯の音、人が湯に入るたびに押し寄せる波・・・。


そんな風景をぽけーっと見ていると、一旦頭の中が真っ白になる。



『・・・それでお前は結局どうしたいんだよ・・・』



え? 誰かの会話が耳に入ってくる。

俺に行った言葉じゃあないけれど、まるで今の俺に対しての言葉の様だ。

そうだ、俺はこれからどうしたい?


俺はこれからもマーヤと一緒にやっていきたい。


そうだ、マーヤからどんな言葉を聞かされても、俺はマーヤと一緒にいたいんだ。

俺の気持ちも伝えよう、俺に何か悪いところがあれば直そう。


そうだ、とりあえずお互いの妥協点を見つけて、ここは乗り切ろう!


「そうだ、やってやるぞ!」


ざっばーん!!

俺は、心の声がだだ洩れで思い切り声に出し、お湯から勢いよく立ち上がったのでお風呂のお湯が波立った。


「「「おお~」」」

「大将、今日はやる気だね~。」


風呂場にいた人たちの注目の的に・・・。

は、恥ずかし~、その場にいた人たちの笑いの中、俺はソッコーお風呂から出て大衆浴場を後にした。



家に戻って玄関のドアを開けると、ふわっと漂うおいしそうな香り。

台所に入ると、香ばしい香りが一層強くなった。


「戻ったよ~、うまそうな香りだなぁ!」

「あ、リヒト、おかえりなさい。

グッドタイミング! もう夕ご飯できるよ~。」


マーヤが親指を立てて出迎えてくれた。

ぐっどなんとかはよくわからないが、そろそろご飯ができるらしい。

俺は素早くお風呂道具と洗濯物を片付けて、食卓の椅子に座った。


「これはすごいな!」


大きめのお皿に5種類ぐらいのつまみが少しずつよそわれていた。

赤、黄、緑、そして白。

色鮮やかな料理に、思わず舌なめずりしてしまう。

お店に出てくるような料理・・・いや、それ以上だ!

こんな盛り付け方、初めて見たぜ。


そして大好物になったポテトサラダに、ピザ、それから鶏を焼いたものをマーヤが持ってきてくれた。

「鶏は、マスタードマヨネーズ焼きだよ。

ささ、お待たせいたしました。」


マーヤも向かいの席に着いたので、俺は冷やしてくれてある白ワインをグラスに注いだ。

お互いグラスを持ったところで、乾杯の言葉に迷ったがここは俺の期待も込めて・・・。


「これからの二人に乾杯!」

「乾杯!」


グラスを合わせるとカチンと音がした。

マーヤは笑顔でワインを飲み、美味しいと言った。

マーヤの様子からは何を思っているのかよくわからない。

俺はちょっと複雑な気持ちで食べ始めたが・・・。


今日出会った役場三人組の話から、パン屋の強烈な娘のこと、ロッテとウェインのことなど話が盛り上がり、それに加えて美味しい料理と、その料理に合うお酒・・・複雑な気持ちは吹っ飛んで思い切り楽しい時間を過ごしてしまった。


今は、二人でお皿を片付けて、マーヤは台所で洗い物、俺はリビングに移動してソファで赤ワインをちびちび飲んでマーヤを待っていた。


『あー、最初の気持ちはどこへやら、すげーおいしい夕ご飯だったな。』


楽しかったひと時を終え、俺はこのまま今日のマーヤの様子には何も触れずに素知らぬ顔をしておこうか、それともちゃんと聞いた方がいいか、テーブルに置いたリングの入った箱を眺めながら迷っていた。

でも、何も聞かずにまた明日からため息をつかれても嫌だし、ここはちゃんと聞いておいた方がいいと、酔いながらもそんなことを思っていた。


そこへ片づけを終えたマーヤが、冷たい紅茶・・アイスティーというらしい・・と、プリンというデザートを持ってきた。

二人でソファに座る。

俺もプリンというものを食べるか聞かれ、まだ飲むからいらないと答えておいたが、少々気になる。


「それがプリンっていうものなのか?」

「そうだよ、ちょっと甘さ控えめだけどまぁ、私が作って食べるぐらいならこれで上出来かな。

リヒト、ちょっと食べたいんでしょ、ほら、あーん」


ぐっ、食べたい気持ちを読まれていたぜ。

口を開けると、一口よそったスプーンを入れてくれた。


「!! うまっ、甘くて口の中でとろける~。

これ、まだあるの? 後で食べたい!」

「まだまだあるよ。 六個作ったから、一人三個ね。」

よっしゃ! 三個もあるぜ。


あー、美味しい食べ物につられて、現実逃避をしたくなる。

こんなに楽しいのに、マーヤは俺と一緒ではだめなのか?


マーヤがおいしそうにプリンを食べ終わるのを待って、俺は決心した。


「あのな、」「あのね、」

二人の声が重なった。


「あー、リヒトからどうぞ。」

「いや、マーヤから言ってくれ。」


マーヤは俺の顔をじっと見てから、じゃあ、と話し始めた。

「リヒト、もうわかっていると思うけど、今日は、私、様子がおかしかったよね。

楽しい一日になるはずだったのに・・・ごめんなさい。

私、これからリヒトと一緒にやっていくためには話しておいた方がいいと思うことがあるんだけど・・・でも、信じてもらえるかわからないし、なんて話そうか、やっぱり話すのをやめようかとか考えていたら、時々気持ちが沈んじゃって・・・でもやっぱり聞いて欲しいと思うの。」


え?! 『俺とこれから一緒にやっていくために』って言ったよね。

そう言ったよね!

なんだよ~、心配して損しちゃったじゃあないか。

じゃあ何のことだろう・・・病気のこと? 実はまだ治っていないとか。

それとも借金があるとか・・・子爵令嬢が借金とかないよな。

まあ、今日で終わりってこと以外なら、何でもどんと来いだ!


「マーヤが今日、何かを考えているような感じだったのは薄々感づいていたよ。

ちゃんと聞くし、信じるから話してくれ。」

俺は横並びに座っているソファで体をマーヤの方に向けて、マーヤの目を見て言った。


「うん、リヒト、本当に優しいね。ありがとう。

そんなあなただから、話しても大丈夫かなって思ったの。

えーと、なんて言っていいのかな・・・。

私はリルマーヤなんだけど、実はリルマーヤじゃあないんだよね。

わかるかな。」


「????? 全然!」

何の話だ? 全くわからないんだけど。


「ははは、そうだよね、えーとね、うーん、どう説明すればうまく伝わるんだろう。」

マーヤはそう言って、考えながらだけどぽつりぽつりと話をし始めた。



読んでくださり、ありがとうございます。

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