27. 町で出会う人たち
前回からの続きのお話です。
「お昼は、役場の女性陣に聞いたお店に行ってみようか。
確か、この近くらしいんだ。」
「リヒト、情報収集がいいわね。
やっぱりおいしいランチのお店は女の子たちが集まるところに限るわ。
行ってみましょう。」
少し歩くと、教えてもらったお店が見つかった。
中に入ると、結構な人でにぎわっていて、そのうち七割近くが女性かな・・・入っていくのにちょっと勇気がいるけど、席は空いているようだしここまで来て帰るのは言語道断であり、店員に声をかけた。
席について、注文をして、テーブルをはさんで前に座っているマーヤの顔もあまり見れず、そわそわして、そのうち注文した冷たい紅茶が先にきて、一口飲んだら、やっと落ち着いた。
「ふぅー。」
「リヒト、大丈夫? 目が泳いで、足が地に着いていない感じだけど。」
「ああ、こういうお店はほとんど入ったことがないから、落ち着かなくて。
俺が入るような食べ物屋は、この前行った馴染のお店か、野郎しか来ないようなお店だからな。」
「ふふふ、そうね、男同士でこういう女性に人気のお店にはあまり入らないかもしれないわね。」
マーヤと話をしながら料理を待っていると、テーブルに近づいてくる影が三人。
「町長、こんにちは!
こんなところで会うとは奇遇ですね。
っていうか、先日このお店を教えたのは私でしたっけ。」
近づいてきたのは、役場に勤めている女性たちだった。
「あ、お前たちも来ていたのか。
教えてもらったから来たんだけど、女性ばかりでちょっと気後れするぞ。」
「あはは、町長には合わない場ですからね。
でも、味はおいしいですからぜひ堪能していってくださいよ。」
「それで、町長、紹介してもらえますか?」
「そうだった、妻のリルマーヤだ。
この町にはまだあまり知人がいないので、年齢も近いし仲良くしてもらえるとありがたいな。
で、こっちの三人は役場に勤めている、受付のルミナと、住民課のリエナと、魔石課のレイナだ。
魔石課は俺もかかわることが多いので、レイナとはよく顔を合わせているな。
このお店を紹介してもらったのもレイナだ。」
マーヤは席を立って挨拶をした。
「リルマーヤです。
別の街から嫁いできたので、この町には知り合いもいなくて。
よろしくお願いします。」
マーヤが立つと、三人より身長が少し高いのがわかる。
三人はポーっと見上げて、先にルミナが声をかけた。
「ええ、お友達が増えるのは嬉しいですわ。
こちらこそよろしくお願いします。」
「このお店にはよく来るんですか?」
マーヤも同じ年頃の女性と話すのは久しぶりなのか、ちょっと嬉しそうだ。
「このお店、月替わりランチがあって、毎月来てるよね。」
「そうなの、お得だし、美味しいし、食べて帰ると来月はいつにしようって話しちゃうよね。」
この三人、毎月このお店に来ているのか。
会う確率、大だったな。
「皆さん、名前が似ていますね。」
「そうなんです、それで仲良くなったともいえるんだけど、ね!」
リエナが答えた。
三人とも部署も違うし、どうやって仲良くなったのか不思議だったんだけど、名前が似ているからそれをきっかけに話が合ったのかな。
「ほら、そろそろ料理がくるみたいよ。
じゃあ、リルマーヤさん、また会いましょう。
おっと、町長もまたね。」
「「では、ごゆっくり。」」
・・・女性っていうのは怖いな。
俺が紹介したのに、最後は俺がとってつけたような存在になっている。
三人が去ると料理がちょうど来たので、俺たちはおいしいお昼を満喫した。
さすが、お勧めするだけのお店とあり、美味しかった。
「お腹もいっぱいになったし、買い物して帰ろうか。」
「おいしかったわ。
今日の夕ご飯用にお酒とか買っていく?
あ、パンも欲しかったわ。」
「じゃあ、寄りながら帰ろう。」
まずは、酒屋に寄った。
夕食用のワインを、マーヤが飲む白と俺が飲む赤を選んだ。
それと店長お勧めのワインを、マーヤのお許しが出たのでそれも購入。
後で家に届けてくれるというので、お願いして店を出た。
次にパン屋に向かう。
「こんにちは~。」
マーヤは、よく来るようで、先にお店に入って声をかけた。
「わー、リルマーヤ様だー、いらっしゃいませ~。
あー、今日は旦那様とご一緒なんですか~。
うー、なんかお二人、神々しいですぅ~。」
高い声に騒々しい感じの子だな。
まだ若いのかテンション高過ぎ、俺はちょっとついていけない・・・。
「いらっしゃいませ、今日はご夫婦でお買い物ですか。
いつもありがとうございます。」
奥でパンを仕込んでいるのが旦那さんで、こっちは奥さんかな。
さっきの子とは反対に、落ち着いた感じでほっとする。
「エポーネ、今日もバリバリ元気ね。
あなたを見ていると、こっちも元気になれるわ。」
「はい、元気だけが取り柄ですぅ。
リルマーヤ様にも元気をたくさん上げちゃいますぅ。
ほい、ほいっ!」
両手を動かしているけど、元気をあげようとしてくれているのだろうか・・・謎だ。
それにしてもすごいよ、マーヤ! この子と会話ができている。
俺はちょっと苦手かな、このエポーネって子は。
ここは、マーヤに任せておこう。
「えーと、お願いします、この丸パンと、ぶどうパン、それとカリカリパンと、ベーコンパンは二つで。」
「いつもありがとうございます。
ほら、新作の試食をしてもらったら?」
「そうでした~、ぜひリルマーヤ様の感想を聞きたいですぅ。」
エポーネは奥に行って新作とやらのパンを持ってきてマーヤに渡した。
「この前、リルマーヤ様がバターをちょっと多めに使ったパンが食べたいと言っていたのを聞いて、旦那が作ってみたんだけど、率直な意見をお願いしますよ。」
「うわ、新作ですか、ありがとうございます。
この前来た時にちょっとお話したパン、早速作ってみてくれたのですね。
ではいただきます。」
マーヤはもらったパンをちぎって試食した。
「あ、バターの香りがすごくいいわ。
おいしい! そうそう、こんな感じのパンを食べてみたかったです。
リヒトも食べる? はい、あーん。」
マーヤがそう言ったので、俺はつられて口を開けるとパンを放り込まれた。
「あ、おいし「きゃー、もうこんなところで見せつけないでくださいよ~リルマーヤさまぁ~!」
なんだなんだ、耳がツーンとしたぞ。
「ははは、もうお二人のいつもの様子が見えるようですね。
この子にはちょっと刺激的すぎますよ。」
「あ、ごめんなさい、こんなお店で・・・」
お、俺もいつもの調子で口を開けてしまった。
エポーネは口を手で覆って真っ赤になって、体をフリフリさせながらこっちを見ている。
なんか、恥ずかしながらも嬉しそうだ。
俺とマーヤは顔を見合わせて照れ笑い。
奥さんは、やれやれ、といった感じで俺たちを見ていた。
「失礼いたしました、パンはすごくおいしかったです。
ぜひ、商品化してください、お願いします。
ね、リヒトもおいしかったでしょ?」
「ああ、おいしかった。
今までに食べたことのないやわらかさ、そしてバターの風味がすごくいいな。」
「ご意見、ありがとうございます。
旦那に伝えて、早くに店頭に並べるよう頑張ってもらわないと。
でも、いい新作ができるようで、嬉しいよ。
リルマーヤ様もありがとうね。」
「いえいえ、私はおいしいものが食べられればうれしいので!」
包んでもらったパンを買って、俺たちはパン屋を出た。
店を出るときも、あの子はまだ顔が真っ赤だったけど、大丈夫かな。
マーヤと手をつないで家に戻った。
マーヤは、今までそんな感じはなかったのに、また何かを考えているようで、少し俯き加減。
俺が少し引いて歩く感じで家路についた。
マーヤ、大丈夫かな。
ちょっと・・・すごく心配だよ。
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