26. 魔石のリング
いつもお読みいただきありがとうございます。
たくさん投稿されているこのサイトの中で、この作品をお読みいただき嬉しく思います。
「マーヤ、もう行ける?」
「あ、もう少し待って。 ごめんなさい・・・。」
今日は、プロセットさんのお店にお願いしていた魔石のリングを取りに行く日だ。
でも、浮かれているのは俺だけで、なぜかマーヤは朝からぼーっとしているように見える。
マーヤの部屋のドアをノックして中を覗いて声をかけると、まだだよ~、の返事。
朝ごはんの時、マーヤは何か考え事をしているように見えたが、気のせいかと思いあまり気にしないようにしていたが、やっぱりおかしい!
うぅ、もしかして、ここにきて契約の魔石のアクセサリーを受け取ったらもう後戻りはできないと、思い悩んでしまったのだろうか。
でも、ここでの生活はマーヤも楽しそうにしているように思えたんだけど・・・。
それとも、ここの生活はいいけど、俺と一緒に住むのが嫌だとか!
そんな~。
いや、そう思っている人に料理を作って一緒に食べたり、掃除洗濯なんてするだろうか。
そうだよ、俺の思い過ごしだ。
居間をぐるぐる歩き回って、あーでもない、こーでもないと思いながらマーヤを待った。
「お待たせしました。 ごめんね。」
「大丈夫だよ、今日もきれいだね。」
はっ、何言ってんだ俺。
マイナスなことばかり考えていたところにマーヤが来てくれたから、思わず本音が出てしまった。
「リヒト、からかわないでよ。
そんなこと言っても何も出ませんからね。」
「え? 何か出ることもあるのか?」
「え! そうね・・リヒトの大好きなお芋料理ぐらいなら出るかも。」
「それは、ちょっと考えさせてくれ。」
「ふふふ、もう真剣に考えないでよ。 ほら、行きましょうよ。」
マーヤはそう言って手を出した。
俺はその手を取る。
ほら、大丈夫だ、俺の思い過ごしだよ。
嫌なら、ここにマーヤの手はないから。
手をつないで、プロセットさんのお店に向かう。
最初は恥ずかしかったけれど、手をつないで歩くのは何とか慣れてきた。
手をつないでいるときに知ってる人に会うのは恥ずかしすぎて顔から火が出そうだったけど、こっちが思うほど相手は気にしていないようで、『仲がいいのね~』ぐらいにしか思われてないように感じてからは、あまり恥ずかしくなくなった。
先日は、老夫婦が手をつないで歩いているところ見て、俺もあのぐらいの歳になってもマーヤと一緒に手をつないでいたいな、と思ったほどだ。
ちらりとマーヤの顔を見ると、マーヤもこっちを見たので、
「ありがとうな、マーヤ。」
と声をかけた。
マーヤはびっくりしたようで、目をまん丸にしたけれど、
「え、私、何かしたかしら?
あーわかった! リヒトが何かやらかしたの?」
「なんでそうなるんだよ~。」
マーヤの斜め上をいく返答にも大分慣れてきた。
「こんにちは~。」
お店に着いてマーヤと店の中に入ると、プロセットさんが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、これは町長殿。
いつも仲がよろしいようで。」
やっべ、まだ手をつないだままだった。
「いやいや、失礼。
あの、先日お願いしたリングはできていますか?」
「もちろんでございます。 ささ、奥へどうぞ。」
プロセットさんは前回と同じように、店の奥の応接室に案内してくれて、ソファを勧めてくれた。
ぼふっ。
いつ来ても、このソファの座り心地は最高だ。
「奥様がお描きになられたリングの画に忠実に再現できたと、職人一同自負しております。
私が言うのもなんですが、最高の出来でございます。
それもすべては、奥様の原案が素晴らしいものだからなのですが・・・はははっ。」
なんか、べた褒めだなっ!
ものすごいものが出てくるんじゃあないかと期待しちゃうぞ。
店員の女性が箱を持ってきてくれて、テーブルの上に置いた。
プロセットさんが蓋を開けると、これまたフカフカの光沢のある白い布の上に大きさの違うリングが二つ、鎮座していた。
「おおっ!」「うわぁ!」
リングは、マーヤの描いた画がそのまま飛び出してきたかのようだったが、色が付くとまた雰囲気が変わる。
銀色の部分がキラキラと輝き、魔石は光沢のないグリーンで落ち着いた感じを出していた。
「素晴らしい出来栄えですね。 ありがとうございます。
あの拙い絵からこんなに素敵に作ってくれるなんて、感謝しかありません。」
「本当に! 俺はアクセサリーについてあまりわからないけど、これはすごくカッコいいな。」
「これならリヒトもずっと嵌めてくれるかしら。」
「そうだな、いままでリングなんて嵌めたことなかったけど、これは嵌めたいかも!」
「では、今こちらで嵌めていかれますか?」
プロセットさんがそう言ってくれた。
おお、もう嵌めちゃう?と思っていたら・・・。
「いえ、今は嵌めなくて、持ち帰らせていただきます。」
マーヤがサクサクと会話を終わらせた。
そうなんだ・・・ちょっと残念。
「では、お包み致します。」
先ほどリングを持ってきてくれた店員さんが店内の方へと箱を持って行った。
「それでですね、ご相談がありまして・・・少しお時間を頂きたいのですがよろしいですか?」
改まって、プロセットさんが言ってきた。
何の相談だろうか、見当がつかないが・・・。
「はい、急ぐ用事はないので大丈夫ですが、どうされましたか?」
「いえ、ね、もしよろしければというお願いのご相談なのですが・・・、そのリングのデザインには私も感動いたしまして、できればぜひとも、当店で扱わせていただければと思いまして・・・どうでしょうか?」
どうでしょうか、と言われても・・・どうでしょうか?マーヤ。
俺はマーヤの方を見た。
「同じようなデザインのリングをこのお店でも売りたいということでしょうか?」
マーヤが答えてくれた。
「そうです、今まで契約の魔石のアクセサリーと言えばペンダントがほとんどでしたが、このリングを勧めれば、これからリングを選ぶ方も増えてくると思いますよ。
ぜひ、当店の売りの一つに加えさせていただきたいのです。」
プロセットさん、商売上手だな。
でもそんなこと言われてもなぁ。
マーヤも俺の顔を見てくる・・・困っている感じだな。
「でも同じリングを売り出せば、俺たちと同じものを嵌めている人がたくさんいるってことになるよな。」
せっかくマーヤが考えてくれたデザインのリングだから俺たちだけのものにしたいなぁ。
「そうね、同じデザインっていうのはちょっと避けたいわね・・・では、このデザインに少し手を加えてもらって、こちらのお店のオリジナルってことで販売してもらったらどうかしら。」
「うん、そうだな・・・それなら俺たちのリングと全く同じっていう人はいないから、それならいいかな。」
「リヒトが良ければ、私もそれでいいわよ。」
「店長、じゃあ、このデザインを基に少し手を加えてもらって、こちらのお店のオリジナルデザインってことなら販売してもいいですよ。」
「なるほど。そうですか、わかりました。
そう言っていただけるとこちらとしても嬉しい限りです。
ありがとうございます。」
プロセットさんは、俺たちがその提案に賛成したのでほっとした様子だった。
「お許しが出ましたので、これから、リング販売に向けてデザインを考えなければ!
これから忙しくなりますぞ。
それとですね・・・販売時には町長のお名前を使わせていただいてもいいですか?
やはりただ販売するより、作成の過程があるとよりお客様の反応がいいので・・。
どうでしょうか?」
プロセットさん、販売上手だね~。
まぁ、そのくらいはいいかな。
「マーヤ、いいよね。」
「ちょっと恥ずかしい気もするけど、町の発展になるようならそのくらいは力になってあげましょうよ、町長、ふふふ。」
「町長の名前で発展するかどうかはわからないけど、良きように使ってくれていいですよ。」
「ありがとうございます。 寛大な奥様で、町長殿も安心ですな。
町長の名に恥じぬよう、より良いデザインを考えますぞ。」
悪用されても困るけど、プロセットさんなら信用もあるし、大丈夫だろう。
「それと、デザイン料についてですが、その辺りはいかがいたしましょうか。」
「デザイン料?」
「はい、奥様のご考案されたデザインを使用させていただきますので、その件についてなのですが。」
「あぁ、そのためにこのデザインに手を加えてこちらのお店のオリジナル作品にしてもらえばと思いましたので、デザイン料とか、結構ですよ。
私たちのリングはこうして作っていただきましたし。
ねぇ、リヒト。」
「そうだな、まぁその辺りはデザインを考えたマーヤが納得していればいいよ。」
「それは、大変ありがとうございます。
では、当店の気持ちとして、今回のリングのプラチナの材料費はサービスさせていただきます。」
「それはかえって申し訳なかったかな。
んー、店長がそう言ってくれるのなら、お言葉に甘えさせてもらうよ。」
プロセットさんも、毎回デザイン料を払うより全然お安いだろうし、かといってただでデザインを使用しているのも気持ちがよくないだろう。
お互い納得できる妥当なところかな。
おかげで二人分のリングは、技術料のみという予想もしていなかったほどの金額で購入できてしまった。
プロセットさんのお店を出ると、時間もいい頃になったので、お昼ご飯にしよう。
読んでくださり、ありがとうございます。
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